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【資料】ラランジェ戦記(二)

 ヘルムセンがトレヴィリアン艦隊に気づいたのは午前2時でした、しかしトレヴィリアンはそこから接近して来ません。

 一方私エルゲラの率いる艦隊も、大きなターンをした後はカスケード号に睨みを利かせつつそれ以上進んで参りません。

 まあ常識的に考えれば、夜は海戦に向きません。軍艦が多数の大砲を撃てば、砲煙は辺りを完全な闇に変えてしまいます……ふむ? あのタヌキ娘は何度も夜戦を経験していると? 船の拿捕と積み荷の強奪を狙う海賊などの中には、好んで夜襲を行う者も居るようですな。

 ともかく、ヘルムセンは艦隊の隊列を整えると共に、別動隊のダウ船5隻を西に5kmだけ進ませ、それぞれ待機させます。


 そして5時過ぎ、東の空が赤らむと、トレヴィリアン艦隊の全容がヘルムセンにも見えるようになります。


挿絵(By みてみん)


 一言で言うと取り回しの良い快速船のみで編成された艦隊ですな。砲撃力も前衛の5隻まではいいですが残りは武装商船といったところ。まともに撃ち合えばヘルムセンの重ガレオン2隻にも敵いません。

 この時点でヘルムセンの風上を取っていたトレヴィリアンは、アウトレンジ戦法を仕掛けます。


挿絵(By みてみん)


 ちなみに、帆船はなぜ敵の風上を取りたがるのか? その為にわざわざ速度を落としタッキングを繰り返してまで、どうして? 風下に向けて走った方が速いのに?


挿絵(By みてみん)


 上の図は非常に単純な状況を示した図です、実際にはここまでひどい事になる事はありませんが。緑の矢印は風向きです。完全に風上を取った船と取られた船が、互いに船首を向け合っている場合、


挿絵(By みてみん)


 下手な図で申し訳ないですが、この2隻がn秒後に存在し得る場所はこんな感じになります。風上の青の船は大きく動く事が出来ますが、風下の赤の船が同じ時間で動ける範囲は小さくなります。


挿絵(By みてみん)


 この状況で互いに舷側を向けて砲撃をしようとするとこうなります、青は赤の船の出先を押さえ舷側の大砲で一方的に砲撃を加えられます。赤と青の戦力が同じだった場合、この戦いは青の圧勝に終わります。


挿絵(By みてみん)


 もちろん実際の状況では赤も負けたくないですから、風下に流れながら舷側を青の船に向け応戦します。ただしこの場合戦闘海域は風下の方にどんどん移動して行きます、それが青の思惑通りだった場合でも、赤は我慢するしかありません。

 そして青はいつまでも風上で主導権を取り続けられます……まあ実際の戦史はもう少し複雑で風下に積極的に走る海軍もあったりしますが、基本的にガレオン船のような櫂走能力を持たない船同士の戦いでは、開戦前に風上に立っていた船の方が断然有利であると言えます。


挿絵(By みてみん)


 トレヴィリアンとヘルムセンの戦いに戻りましょう、アウトレンジ戦法とは敵の射程外から、もしくは敵が反撃し辛い状況を作って、一方的に砲撃を加える戦術です。トレヴィリアンは優勢な機動力を生かし砲撃しては折り返して風上を取り続ける、アウトレンジ戦法を狙います。


 ヘルムセンには二つの選択肢がありました。一つはセオリー通り、艦隊を風下に落としつつ応射させる反応戦術、もう一つは撃たれる事を承知で距離を詰める格闘戦術です。


 前者の反応戦術、クジャック砦の方に向かいながら応射すれば艦隊の被害は少ないですし、クジャック砦の射程距離に入れば陸の大砲で敵を叩く事が出来ます。

 しかしヘルムセンはそれを選びませんでした。敵も砦の射程圏内まで追って来るほどバカではないでしょうし、もし湾内まで押し詰められてしまうと、どんな強力な艦隊も動けなくなってしまう、港湾封鎖状態に陥ってしまう可能性もあります。

 後者を選んだヘルムセンの考えはあながち間違いでもありませんでした。戦力差の大きいうちに敵を叩く、これは戦の常道です。


 しかしその頃、西に展開していたヘルムセンの哨戒船団は信じられない物を見ていました。そう、あの名将エルゲラの謎の行動に隠されていた理由を。


挿絵(By みてみん)


 少数の艦船で果敢に接近したエルゲラ艦隊は、西から来るラランジェ連合艦隊の本隊を目隠しする役割を持っていたのです! ……まあたまたまそんな恰好になったのかもしれませんが。

 実際、哨戒船団が本隊を発見するのは少し遅れました。それでも哨戒船団は新たな敵が現れた事をヘルムセンの旗艦に伝えようとしますが、この情報も伝わるのが遅れました。


挿絵(By みてみん)


 新たに現れた本隊はこの通り。目立つのはキャラック船です、特に重武装のものが7隻居ます。

 キャラック船と言えば、なりは大きいが鈍重で、そのくせ武装は大した事がない、この物語では他の船に翻弄されたり打ちのめされたりする役で出る事が多かった船ですな。縦横比が3:1くらいの、見た目にも丸々と太った船です。

 こんな船の何がいいのかと言うと、積載能力が高く大量の物資や商品を運ぶ事が出来て、頑強で嵐に強く生存能力が高い、そして比較的耐用年数が長くおんぼろになってもそれなりに使えるという、それはもう、大航海時代の申し子のような船なのであります。


 先頭にフォルコン号が居りますな。大型船はその後ろに、ほぼ一列縦隊になって付き従っています。これは機動力重視の構えであると共に、正面の敵に対してこちらの全容が見えにくくなる構えです。その事も、この後の奇襲を成功させる一因となりました。

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