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【資料】ラランジェ戦記(一)

 一人称にて失礼致します。私はアイビス海軍の通信任務を担うポンドスケーター号艦長、「快速の貴公子」アラン・エルゲラと申します。シリーズには第二作から出演させていただいておりますから、まあ古参の部類に入りますな。

 あの目に痛い赤いドレスを着たタヌキ顔女、マリーとやらの伝記の読者の皆さまには、オークの操舵手を強奪された気の毒な艦長とご記憶されているかもしれません。


 私が操るポンドスケーター号は甲板長22m、二本マストのカラベル船です。まあ、小舟ですな。

 ですが小舟には小舟にしか出来ない仕事もあります、喫水が浅いので小さな入り江にも入り込めますし逆風時の取り回しも悪くありません、順風の時は飛ぶように進みます。私はそんな船の特性を生かし、王国の興亡を担う大変に重要な任務、偵察と通信に携わっております……私がアイビス海軍にとって欠かす事の出来ない逸材だという事、ご理解いただけましたでしょうか。


 残念ながら、そんな私の名は海軍艦長としてはほとんど知られておりません……いいえ愚痴を言うつもりはさらさらありませんぞ、なぜなら私は世間一般には戦史研究家として知られているのです、もはやそちらが本分と言ってもいい。

 膨大な資料をに裏打ちされた緻密な描写に、見て来たようなフィクション、いや臨場感を加えた私の著作は、王都の貸本屋でも大人気なのです! ハハハ。


 そんな私が図らずも参戦する事となった、南大陸中西部、泰西洋は犀角海岸の東、クジャック砦とその周辺の海域を舞台にした海戦の話。今回はそれをお話しさせていただきたいと思います。


 これを読んでらっしゃる貴方はきっとあのタヌキ女の伝記の読者なのでしょう、ですから海戦に至った経緯については省略させていただきます。何なのでしょうなあのちんちくりんの悪役令嬢は、どうしてこんな様子のおかしいフリフリヒラヒラの小娘が私掠許可証を持っているのかと思いきや、三度遭った時にはどこかの国の元帥を名乗っていて、アイビス海軍のタイニャック提督にまで居丈高に命令しているという。

 しかしへちゃむくれでも大勢の大人を従えているのですから、一廉のやつには違いありませんし、その能力は大いに認めなくてはならない。

 なにせあの女、いえパスファインダー元帥はこの私エルゲラの能力を見抜き、一個船団の提督へと抜擢したのですから! むはははは。


挿絵(By みてみん)


 これが我が艦隊であります。旗艦のポンドスケーター号は先頭におります、付き従うのはラランジェの武装商人、3隻のダウ船と1隻のカラベル船、なんと勇壮な姿でありましょうか。

 我が艦隊はこの戦史に残る大決戦の先陣を任されたのです。我こそが! この海戦で一番最初に接敵した一番乗りの艦長でもあるのです、まずはそれをご説明致しましょう。


挿絵(By みてみん)


 始まりは当地時間で4月5日深夜23時、帆の数を絞った我が艦隊はクジャック砦の南南西から北へ進みました。その目的は敵の哨戒網にかかる事です……何とも危険な任務ですな。

 順風ですが、進行速度は極めてゆっくりです、慎重に進んでおります。


 なお図面は全て参考図となります、具体的には船と船との距離、これはかなりデフォルメして描いております、あくまで位置関係を把握する為のものとお考え下さい。また特に断りのない場合は上が北、下が南となります。


 さて、敵艦隊……いやまあ哨戒船団の指揮船はブリッグ船カスケード号、甲板30m以上の中型船ですな、2隻の小型船を連れています。


挿絵(By みてみん)


 こちらを発見したのは敵の方が先になりました。まあ我々は明々とランプを灯しておりますからな。


 そして敵船、ブリッグ船カスケード号のラルハウス船長は我が策に……いやまあタヌキ娘が指示した策にかかり、我が艦隊の総数を誤認して多く見積もり、北東に居る本隊、ヘルムセン艦隊へと伝えました。


挿絵(By みてみん)


 そしてこれがクジャック砦の南へと張り出したヘルムセン艦隊です。うんざりする程おりますな……船の数、大砲の数共にちょうどラランジェ側の倍です。


 この日の月は十七夜、満月の翌々日の、まだかなり明るい月です。夜とはいえ奇襲される事はないと踏んだヘルムセンは無理に仕事を増やさず、休息を取ります。

 事態が動いたのは日付をまたいだ4月6日、2時頃の事でした。


挿絵(By みてみん)


 御覧下さい! これがアラン・エルゲラ提督一世一代の奇策、「エルゲラ・ターン」であります。敵もさぞや面食らった事でしょう、一体何を始める気だと思った事でしょうな、はははは。これはパスファインダー元帥の案ではありません、私が自ら考案し実行したのです。


 同じ頃、クジャック沖を挟んだ向こう側、ヘルムセン艦隊の東の海を西へ進む者がありました……あの小娘がただでさえ敵方より少ない艦船を分割して派遣した、14隻の船団です。


 そちらの船団長はレイヴン海軍艦サイドキック号艦長の、トレヴィリアンとかいう奴であります。全くあのタヌキ顔、アイビスとレイヴンがどういう関係なのか解っていないのでしょうか。

 昨年末にはレイヴンの密偵とアイビスの裏切者による大事件が起きたばかりですぞ? 事もあろうにその不埒者共は、我らが国王アンブロワーズ・アルセーヌ・ド・アイビス国王陛下を誘拐しようとしたのです。陛下は風紀兵団の活躍により間一髪救出されましたが、それで良いというものではありません! ぷんすこ。

 まあ最新のニュースですし、あんな小娘は知らないのかもしれませんが。


挿絵(By みてみん)


 それはともかく、4月6日深夜2時頃のクジャック砦沖の全体図は、このような様子になっていたと想像出来ます。

 風と波、そして海流。海という決して手懐ける事の出来ない怪物を相手に、14隻の船団を時間通りに所定の位置まで連れて来るという事は、誰にでも出来る事ではありません。トレヴィリアンという男、航海者としての実力は確かなようですな。



 さて次回、いよいよヘルムセンが動き出します。聞けばこの男、それなりに優秀なレイガーラントの提督だったそうですな……一体どのような理由で海賊王国の提督、いや社長となったのやら。

 そしてあの丸顔の小娘はどこから現れるのでしょう。引き続きお付き合いいただければ幸いです。ああ勿論、私のファンになっていただいても結構ですぞ。

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