【読み物】8番デッキ
スランプ中の作者です。こちらは「8番出口」というゲームのパロディになります
ルール:
・8番デッキから乗船すればゲームクリア
・異変がなければ艦長室に入る
・異変があれば引き返す
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ行って来まーす」
私は0番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。
「お帰りー、船長」
「アイリさんとカイヴァーンはどうしたの?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
私は甲板を見回す。ぶち君は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……
「じゃあ二人が戻って荷積みが終わったら出航ね、私艦長室に居るから」
私はアレクに後ろ手に手を振り、艦長室に向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。これなら船酔い知らずの服でなくても過ごせそうだ……
◇◇◇
コピペ小説です。適当に読み飛ばしてね☆
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ行って来まーす」
私は1番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。
「お帰りー、船長」
「アイリさんとカイヴァーンはどうしたの?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
私は甲板を見回す。ぶち君は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……
「じゃあ二人が戻って荷積みが終わったら出航ね、私艦長室に居るから」
私はアレクに後ろ手に手を振り、艦長室に向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。これなら船酔い知らずの服でなくても過ごせそうだ……
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ行って来まーす」
私は2番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。
「お帰りー、船長」
「アイリさんとカイヴァーンはどうしたの?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
私は甲板を見回す。ぶち君は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……
「じゃあ二人が戻って荷積みが終わったら出航ね、私艦長室に居るから」
私はアレクに後ろ手に手を振り、艦長室に向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。これなら船酔い知らずの服でなくても過ごせそうだ……
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
……
何だろう、この違和感。
アタシ、この手順を何度か繰り返してない?
デジャヴーって言うのかなあ……いや待て、デジャヴという言葉が提唱されたのは20世紀前半の事なので私がデジャヴという言葉を使うのはおかしい。
「あの……クラリスちゃん、今日は何か変わった事はなかった?」
「えっ……いいえ、特に何もなかったと思います」
私は小首を傾げながら、3番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。
「お帰りー、船長」
「アイリさんとカイヴァーンはどうしたの?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
私は甲板を見回す。ぶち君は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……これも何と言うか、既視感のある風景だ。
「じゃあ二人が戻って荷積みが終わったら出航ね、私艦長室に居るから」
私はアレクに後ろ手に手を振り、艦長室に向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ行って来まーす」
私は4番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。
「お帰りー、船長」
「アイリさんとカイヴァーンはどうしたの?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
私は甲板を見回す。オランジュ大尉は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……
「じゃあ二人が戻って荷積みが終わったら出航ね、私艦長室に居るから」
私はアレクに後ろ手に手を振り、艦長室に向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。これなら船酔い知らずの服でなくても過ごせそうだ……
「ちょっと待った! 今日の私は何かおかしいよ!? 何なのこの違和感」
私は艦長室の扉を開ける寸前で振り返る。近くにいた不精ひげが怪訝そうな顔で振り返る。
「少しおかしいくらいでいつも通りだろ、船長は」
「変人みたいに言わないでよ、私より常識的な人は居ませんよ」
ブリッジに駆け戻った私はロングストーンの保税職員の照合作業に付き合っているサウロさんに声を掛ける。そうだ、クラリスちゃんにだけ声を掛けるのはおかしいじゃないか。
「サウロさんもありがとうございます! 次回もよろしくお願いします!」
サウロさんはにっこり笑い、黙って手を振る……ああでも私はさっき、サウロさんは忙しそうだから声を掛けるのは控えたんだっけ……
腕組みをし、眉間に皺を寄せたまま私は艦長室に戻って行く。とにかくアイリとカイヴァーンが戻ったら出航だ。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ行って来まーす」
私は0番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている……待て。0番デッキですって?
「あ、あの……この船を泊めたのって、8番デッキじゃなかったっけ……」
「え? 最初からここ、0番デッキに泊まってたけど」
「一度泊めたものを動かす訳ないじゃないか、面倒くさい」
「疲れているのか、船長」
そうなのか。私は疲れているのか。
「そう……変な事言ってごめん。じゃあアイリさんとカイヴァーンが戻ったら出航で」
私は甲板を見回す。オランジュ大尉は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……
「大丈夫? 船長」
私はアレクの声に手を振り、艦長室に向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。これなら船酔い知らずの服でなくても「だから何でアンタが居るの!?」
異変に気づいた私はそのへんのモップを振りかざし艦尾楼の上で日に当たりながらバナナを貪るオランジュ大尉を追い払う、アンタ大尉になって戦列艦に乗ってるはずでしょ!?
「がうがお! うほ、うほほほ、ほほ、うほほほほ!!」
たちまちパニックに陥った体はでかいが気の弱い怪獣、オランジュ大尉は食べ掛けのバナナを投げつけて来た!
―― べしゃっ!
「ぎゃああ! 何すんのアンタいい加減にしなさいよ!」
顔面を直撃したバナナを取り除け、私は逃げるオランジュを追いマストを駆け上がる……ってあたし今船酔い知らずじゃないじゃん!?
―― ドボーン!!
波除板を踏み台にして静索に飛びつこうとした私は、バランスを崩しそのまま舷外に転落した。あれは本当にオランジュだったのか? ズボンも穿いてなかったようだが。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとオーガンさんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長。積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しましたぞ」
「何でアンタが居るの!!」
私は1番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジの前で帳簿を手に微笑んでいた真っ赤なジャケットのおじさんにそのままランニング・ネックブリーカー・ドロップを見舞い、
―― ドボボーン!!
諸共に海に落ちる。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
私はクラリスちゃんに返事もせずブリッジを昇り、慌ただしく辺りを見回す。フォルコン号が係留されているのは2番デッキ、積み荷の引き受け作業をしているのはアレク、不精ひげ、カイヴァーン、
「お帰りー、船長」
「アイリさんとウラドはどうしたの!?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな、何かあったのか?」
私は甲板を見回す。ぶち君は艦尾楼の上でひなたぼっこをしている……
「ふ……ふふふ、ふ……」
「船長?」
わからない、何が何だかわからない。
だけど理解したぞ、この場合はだめなのだ、艦長室に入ってはいけないのだ。
「わかりました。諸君は出航準備を続けて下さい。私は二人を迎えに行きますから」
背筋を伸ばし胸を張り、私は冷静にそう宣言すると、取り乱すことも慌てる事もなく、優雅にブリッジを降り、波止場に戻る。
さあ、二人を見つけに行こう。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
フォルコン号が係留されているのは……ふむ……3番デッキ……船上ではアレクと不精ひげと、そしてウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。問題ない。よし。
「ありがとう、クラリスちゃん。サウロさんもありがとう。それじゃあ、ね、出航と参りましょう、はは、はは」
私は違うキャラになったかのような仕草でぎこちなくブリッジを渡る。甲板にゴリラは居ないな? 作業をしているのはアレク、不精ひげ、ウラドで、アイリとカイヴァーンの姿は見えない。
「船長、アイリさんとカイヴァーンは」
「ええ、野菜の買い出しでしょ。もうすぐ戻るに決まってます、はは。はは」
帆は全て折り畳まれていて模様まではわからないが、色が違うなどという事はなさそうだ。てっぺんの吹き流しもいつもの物だしおかしな所は何もない。
艦尾楼の上に寝そべる猫……私はそれを両手で摘まみ上げる。問題ない。いつものぶち猫だ、模様が白黒反転したりしていない。
ぶち猫の顔をじっと見る私。迷惑そうに薄目を開け私をじっと見返すぶち猫。
「……」
私はそっと、元の場所にぶち猫を降ろす。ぶち猫は何もなかった事にして、昼寝を再開した。
ロングストーンの海は不気味に静まり返っている。これなら船酔い知らずの服でなくても過ごせるだろう……
「二人が戻って荷積みが終わったら出航だね。うん。私は艦長室に居るからね」
後ろ手に腕組みをした私は艦長室に向かう。皆は私の様子がおかしい事について何事かヒソヒソとささやき合っている。
私は、艦長室の扉の取っ手に手を掛ける。
……本当に何もなかったのか? もっと隅々まで見なくていいのか?
さっきのぶち君の反応はあれで合っているのか? 何だかまるで普通の猫みたいだったじゃないか。いや、普通の猫だけど。
どうしよう。降りた方がいいのか? 何か間違ってたらまた0番デッキに戻されてしまうのだ、きっと。
天国のばあちゃん、地獄のお父さん、マリーをお守り下さい、ええい、ままよ!
私は、扉を開ける。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に駆け戻る!
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
―― キキ、キィィー!
私は二人の前で急ブレーキを掛けて止まり、現場猫のように指差し確認をする!
「4番デッキ、ヨシッ! サウロさんとクラリスちゃん、ヨシッ! 太っちょ、不精ひげ、ウラド! そこに居るわね? アイリさんとカイヴァーンはまだね!?」
積み荷の引き上げ作業をしていた三人も顔を出す。ヨシッ! ブリッジを駆け上がった私はさらに甲板を走り回る!
「錨索の張り、ヨシッ! 帆布の収納状態、ヨシッ! 操舵輪ヨシッ! ハンモックネット、ヨシ、各種工具ヨシ、ぶち猫、ヨシッ!」
「ホッホ、精が出るのう」
「きゃあああ!?」
そこへ! 昇降口を昇ってロイ爺が現れた!?
「普段はそこまでちゃんとチェックしないんじゃが、本当はやるべきじゃの」
「待ってロイ爺、今まで何してたの、ずっと出て来なかったじゃん!?」
「はて何の事かね? わしは非番で休んでおったんじゃが。マリーちゃんの元気な声に釣られて出て来てしもうた、ホッホ」
私は蛇に睨まれたガマガエルのように脂汗を流す。どうなの!? これは異変なの、それとも普通の光景なの!?
「さ、さっきまでのロイ爺も、普通に甲板の下に居たと思う……?」
「わしなら会食室で麦湯を飲みながら昔の航海日誌を読み返しておったが」
私は一度深呼吸をする。そして考える。
ゴリラが出るとかオーガンさんが居るとか判別しやすい異変はともかく、こういうのはどう判断すればいいのか。
ウラドとカイヴァーンが入れ替わってた異変もあったよな。だけどあれは明らかにおかしな事という訳でもなかった。別に、アイリさんとウラドが二人で買い物に行ったっていいと思う。
だけど実際にはそんな事は今までなかった。アイリさんが司厨長として買い物の手伝いに連れて行くのはだいたいカイヴァーンだ。ウラドには他に仕事がある事が多いし。
腕組みをして黙考していた私は顔を上げ、目を開く。
「わかった! ロイ爺が昇降口から出て来た事は異変なんかじゃない、フォルコン号の自然な光景なんだよ!」
「だから一体、何の話なんだね……?」
私は困惑するロイ爺を置き去りに、艦長室へ向かう。
今日のロングストーンの海は穏やかだった。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
私は固く閉じていた瞼を、恐る恐る開く……フォルコン号が係留されているのは……5番デッキ! 5番デッキだぁ……良かった……私は間違っていなかった。
もうむやみに取り乱すのはやめよう。粛々とやって行こう。大騒ぎをして、会食室で昔の航海日記を読み返しながら居眠りをしてしまったロイ爺を起こしてしまう事などないように。
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ、行って来ます」
私は笑顔でクラリスちゃんに応え、ブリッジを昇りフォルコン号の甲板に向かう。船上ではアレクと不精ひげとドナルドダックがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。
「お帰りー、船長」
「アイリさんとカイヴァーンはどうしたの?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
私は甲板を見回す。ぶち君は艦尾楼の上でひなたぼっこをしているけどそれどころじゃない!
「わあああああああ!?」
私は悲鳴をあげ180度回転してブリッジを駆け下りる!
公式のキャラ設定によれば「短気で自己中心的で負けず嫌い」まるで私の事みたいじゃないか、いやもちろん向こうは船乗りの大大大大大先輩ですよ!
伏字? ディズニーが版権に酷くうるさいというのは都市伝説で、むしろ結構鷹揚な方だとも聞くし、こんなwebの片隅で細々とやっている無料の文字作品まで成敗に来る事もあるまい……生誕90周年おめでとうございます。世界の片隅でこれからも応援しています。グワッグワッ。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
クラリスちゃんの元気な笑顔に私は微笑んで頷き返し、標識を見上げる。6番デッキ……あともう少しだ。
ブリッジを昇った私は落ち着いて辺りを見回す。アレク、不精ひげ、ウラド、ぶち猫。何の問題もない景色がそこにある。
「お帰りー、船長」
「えーっと。アイリさんとカイヴァーンは、どうしたのかな?」
「野菜の買い出しに行ってるよ、もう戻るんじゃないかな」
そう。問題ないね。ロングストーンの海も穏やかだし。これは、無いパターンかな。
「それじゃ、出航しようかな……あー、ちょっと待って、ロイ爺はどこかしら?」
私はそう言って昇降口を降りて行く。やっぱり念の為確認しておこうか。何も問題がないなら、ロイ爺は会食室に居るはず。
「ねー、ロイ爺」
そう言って私は会食室を覗き込む……
しかしそこに居たのはいつも優しいフォルコン号の副船長でベテラン水夫のロイ爺ではなく、軍服を裏返しに着たマカーティだった。
「ぎゃあああ!?」
「やっと会えたなフレデリクゥ、この時を待っていたぞ……ちょっと待てお前何だその格好!?」
マカーティは椅子から立ち上がりながら私を指差す、それ? ……ぎゃあああ!? 何で私バニーコート着てるの!? こんなわかりやすい異変があるか!
「何なんだよそれは、ま、まるで……本物の女みてえじゃねえか……」
マカーティの顔が変貌して行く……左右にパックリと割れた大きな口、大きく膨らんだ鼻腔は鼻息も荒く、爛々と輝く眼は吊り上がり……これはもはや、人間の顔ではない……
私はもちろん振り向いて駆け出す、廊下を走り昇降口を駆け上がる、だけど狼は走ってついて来る!
「待てよォフレデリク、俺の天使を奪ったのはお前だろォ、俺にはお前に何でもする権利がある、なあどうなってるんだその体、もっと近くで見せろよォ」
「」
声にならない悲鳴を上げ私は昇降口を昇り艦長室の扉に取りつく、ここに入って鍵を閉めれば安全だから……待て! そんな事をしたら0番デッキに戻されてしまう!
しかし。狼は、追いついて来た。
「ふへへへ、細い腰だなあ、ちょっとだけ触らせろよ、俺達男同士だろ? どうって事ねえじゃねえか」
涎と鼻血を垂らした狼が迫る、もう駄目だッ! 私は艦長室の扉を開ける!
「減るもんじゃねえよなぁぁ!?」
狼が飛んで来たぁぁ!?
私は間一髪真上にジャンプする、狼は直前まで私が居た空間を、両手を伸ばして飛んで行く……
―― ダン! ビタァァァン!!
艦長室の中へとヘッドスライディングして行く狼、それを飛び越えた私は扉を勢いよく閉め、艦首に向かって走る!
「ぎゃあああああああ!」
「待てよォ、待て待てぇー!」
マカーティはすぐに扉を開け飛び出して来る、私はブリッジを駆け下り、ロングストーンの市街地に逃げて行く……バニーガールの扮装のままで。
◇◇◇
気が付けば私は波止場に戻っていた。どのくらいの距離を全力で走り通したのだろう、さすがに息が切れる……トライダーから逃げる時だって、こんなに必死で走った事はない。
サウロさんとクラリスちゃんが、積み荷の照合作業をしてくれている……
「マリーさん! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
私は標識を見上げる。7番……7番デッキ……そりゃそうだ、結果的に、私はきちんと引き返したのだから。
この世界は何なんだろう。きっと、私の心の中から湧きだした物なんだと思う。
一言で言えば夢だな、夢。私は今悪夢を見ているのだ。
夢というのは自分の精神と想像力が作り出したものであり、害のないものである。それがどんな悪夢であってもだ。
あのマカーティも私の想像力が作り出した幻であり、決して本物のマカーティではないのだ。ごめんねマカーティさん、あんな変態みたいな役をさせて。ハハッ。
ちょっと待て! 自分の恰好は大丈夫なの!? ああ……これは旅立ちの普段着だ、問題ない。
私は十分呼吸を整えてから、居住まいを正し、笑顔を作り直して、クラリスちゃんに向き直る。
「ありがとう、クラリスちゃん。それでは、行って参ります」
リトルマリー号の跳ね上げブリッジを登ると、船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている……アレクが作業の合間に、ちらりとこちらを見て言う。
「お帰り、マリー」
「ただいま戻りました」
うん。いつもと変わらない、普段の光景だ。甲板にゴリラが居たりはしない。
「ロイ爺は会食室で航海日誌でも読んでるのかしら?」
「うん……非番だしそんな感じじゃない?」
私はため息をつく。どうやら今度は何もなさそうだ、会食室にも、下品でうるさい女に飢えた元レイヴン海軍艦長は居ないだろう。
「アイリさんとカイヴァーンは買い出しだよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、二人が戻って荷積みが終わったら出航ね」
私はアレクに後ろ手に手を振り、船長室に向かう。
今日のロングストーンの海はとても穏やかだった。これなら旅立ちの普段着でも全く問題ない。
……
だけど何なのこの違和感は。海が、海が穏やか過ぎる。
波は全くないのにそよ風は吹いていて、空は晴れているけど日差しは柔らかい……この景色は何かがおかしい。
「おかえり、マリー。陸を十分に楽しんだかい?」
その時。私の後ろで、ありえない人物の声がした。
「え……お父さん!?」
振り返るとそこに居たのは、きちんとした商船の船長らしい服を来て帽子を被り煙草用のパイプを手にし、優等生のような顔をした……リトルマリー号船長、フォルコン・パスファインダーだった!
お父さんは硬直する私の横を通り抜けて行く……すれ違いざまに軽く頭を撫でながら。
「船長、積み込み終わりました」
「ありがとうニック君、出航まで休んでいてくれ」
再び振り向いてよくみれば、不精ひげも不精ひげを綺麗に剃ってきちんとした船員服を着て優等生のような表情できびきびと働いていた。
私は父の背中を追い掛ける。
「ちょっと待って、お父さん、どうしてここに!?」
どうしてここに? 私はそう口に出したが、何故か頭の中では父がここに居るのは当然だと解っていた。だって、父はリトルマリー号の船長なのだから。
案の定、父は何かの冗談でも聞いたかのように小首を傾げている。
「どうしてって……ハハハ、マリーは俺がレイヴン海軍の軍艦を一人でかっぱらった挙句、パンツ一丁でサメがウヨウヨいる入り江に飛び込んで逃げるような、無計画でいい加減な男だとでも言うのかい? 父さんがそんな事をする訳がないじゃないか。お前の為、仲間の為、リトルマリー号が運ぶ品物を待っている人々の為、船を走らせ続けなくちゃならないのに」
父はきりりと眉を引き締め、白い歯をちらりと見せて微笑む。こんな二枚目な父は初めて見た、私の前ではいつもデレデレフニャフニャしてるのに。
そこへ。
「船長、今戻りましたわ」
ぎゃああああ!? 私の後ろで、ありえない人物の声が、アイリさんが! アイリさんがとうとう、私の父の、結婚式の前々日に消えた憎い仇の前に……!
しかし振り返って見たアイリさんは優等生のような優しい微笑みを浮かべ、私と父を見ていた。後ろには真っ白のシャツを着た優等生風のカイヴァーンも居る。
「ありがとうアイリ君、よし、これで全員揃ったな。風は少し弱いが、おあつらえ向きの航海日和だ。ウラド君、ブリッジを外してくれ」
一体どうなっているの!? いや……知れた事じゃないか。
ここはきっと私の夢の中、悪夢もそうでない夢も、全ては私の想像力から出て来た物なのだ。
そしてこれは父が、10年前に腐れ外道のラーク船長となり結婚式の前々日にラビアンを去る事もなく、1年前のタルカシュコーンでサイモン艦長のブラックバード号を強奪する事もなかった世界線なのでは!?
ああ、ブリッジが外される、って駄目じゃん、早く降りなきゃ、次が8番デッキだよ、やっとここまで来たのに!
だけど私のコンパクトな脳味噌は、これを異変だとして処理する事を拒み続けていた。
ハンサムなお父さん、一司厨長として乗務しているアイリ、頼もしい水夫達……いやだ。私はここから降りたくない、この理想の世界を離れたくない。
桟橋にはぶち猫が一匹、ただの港の野良猫のような顔をして私を見上げ、目を細めている。お前そのままでいいのかって? 良くないよ、また0番からやり直しなんて嫌だ、だけど、だけど……!
「マリー、檣楼をお願いしてもいいか? お前も頼もしくなって来たからな」
父が再び、白い歯をチラ見せして微笑む……涙が溢れる……父が、憧れのヒーローが、やっと私を一人前の船乗りとして認めてくれた。
「アイ、キャプテン!」
私は海兵みたいな敬礼をして静索に飛びつく。船酔い知らずではない服でも、最近はこのくらいは訳なく出来るようになった。
ブリッジが外れ、帆が開くと、リトルマリー号はゆっくりと、ロングストーンの岸壁を離れて行く。
◇◇◇
ロングストーンでの仕事を終え、私は波止場に戻って来た。
サウロさんとクラリスちゃんが積み荷の照合作業をしてくれている。
「マリー商会長! 積み荷の干し鱈とオリーブオイル、鉄製品、全て積み込み完了しました!」
「ありがとう、クラリスちゃん、それじゃ行って来まーす」
私は0番デッキに係留されているフォルコン号の跳ね上げブリッジを登る。船上ではアレクと不精ひげとウラドがテークルを使い、積み荷の引き受け作業を続けている。