【読み物】マリー・パスファインダーの言い訳 半角英数の話
「船長、ヤシュム産のスイカが1玉無くなってるんだけど……」
アレクが艦長室に来てそう言った時、私は既にその証拠を隠滅した所だった。
「1玉? 一箱とか一樽とかじゃなく?」
「1玉だけどちゃんと数えてるの! まさか……船長が黙って食べたんじゃ」
「だっ、黙って食べたりしないよ! だいたい商売物をつまみ食いするなんて、商人の名折れもいい所だよ……樽からはみ出して、転がって行っちゃったんじゃない?」
「今回積んでるのは一箱4個詰めのスイカだから、転がって落ちたりしないよ」
アレクがそこまで言ったところで。ふと私の胸に何かが引っ掛かる。
「一箱……4個詰め?」
「うん? そう一箱4個詰め、それが何か? あれ? なんだろう」
私が問い直すと、アレクも何か違和感に気付いたのか、首をひねりだす。
「なんかヘンだよね? 私達」
「そうだね? この違和感はなんだろう……あ。もしかしてこうかな。スイカが、一箱、四個詰め」
「ああっ!? 何か今スッキリした!」
「ほんとだ、何かスッキリするね、あはは」
私とアレクは声を合わせて笑う。なあんだ。よく解らないけど良かった。
「ロングストーンはまだかしら、出来れば今日の市場に間に合わせたいよね」
「大丈夫だよ、スイカはまだ熟してないから」
「そんな事無いですよ、食べ頃だよもう」
「……食べ頃?」
「ああーっと、食べ頃なんじゃないかなーと私は思うけど切ってみた訳じゃないから知らないよ! それでロングストーンまで! あと何キロメートルなの??」
「ここまで四百七十五キロメートル進んで来てるかな、だいぶ西に膨らんだけど多分残りは四十五キロメートルくらい、今の風なら四時間もあれば」
「待って、ちょっと、待って」
私は眉間を抑えながら頭の中で数字を数字に変換するのをやめる。
「やっぱり私達は私達で良くない!? どうせ横書きなんだし半角混じっても良くない!? パッと見の解りやすさ重視でいいと思うんですけど!?」
「ちょ……船長一体何の話」
「ヤシュムから475km進んで来てロングストーンまであと45km、それでいいじゃん! 私は15歳でスイカは一箱4個入り、ファウストの賞金は金貨25,000枚、それでいいでしょ!?」
「そこは別に金貨二万五千枚でもいいと思うけど……」
「賞金が金貨12345枚の海賊とか出たらどうするの!? 金貨一万二千三百四十五枚って書くのも読むのも大変なんですけど!?」
「し、知らないよそんなの」
「パッと見易いほうでいいじゃん! 仮に、仮にですよ? 私が船のスイカを勝手に一玉、いや1個切って食べて皮は海に捨てたとしますよ! 太っちょはそれを知ったらどうするの?」
「スイカの代金が銀貨二枚銅貨二枚、封印切りの罰金が銀貨四枚と銅貨五枚、併せて銀貨六枚銅貨七枚を船長の一か月の給料金貨二十六枚と銀貨八枚銅貨五枚から差し引かせてもらうよ」
「どう? 面倒臭いでしょ? そうでしょ!?」
アレクは溜息をつき、ポケットから取り出したメモに鉛筆で何かを書き込む。
「どんなに面倒臭くても、仕事だからやるの! 次の給料から引いておくね。あと船長、スイカの種が貼りついてるのみっともないよ」
アレクは最後にそう言って踵を返しさっさと艦長室を出て行く。




