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平成が終わる前に幼馴染みのことが好きな委員長に好きだと伝えようと思う。

作者: 日暮キルハ

 平成が終わる。

 そうは言ってもそれが大きな意味を持つかと問われると答えに詰まる人は多いのではないだろうか。

 特に俺のような学生にとってはなおさらに。


「……屋上は立ち入り禁止なんだけど?」


 空を眺めてそんな微塵の関心もないどうでもいいことを両手を枕に仰向けに寝ながら考えていると上空に影がかかる。

 

「……そう言う委員長こそ入ってるじゃん」


 影の正体。

 このご時世で馬鹿正直に校則を守ってきちんと制服を着た少女。

 明らかにクラス委員長としての仕事を越えた仕事である『素行不良生徒の更正』を担任教師に押し付けられた憐れな少女。


 見慣れたその姿に軽口をもって応じる。

 すると、彼女はそんな答えは想定済みだと言わんばかりに勝ち誇ったように微笑んだ。


 こういう時の彼女は俺を言いくるめる何かを持っている。

 これはこれまでの経験に基づいた確かなこと。


「私はいいの。授業サボってこんなところで寝てる不良を引きずり回しに来ただけだから」


「俺引きずり回されるの!?」


 俺を言いくるめる何か(物理)だった。


「嫌なら授業に出なさい。ほら」


 スッと差し出された小さな手。

 それを眺めながら考える。


「……? どうかした?」


「いや、何でもないよ」


 平成が終わる。

 それは俺にとっては一つの元号の終わりに過ぎない。

 少なくとも重要な何かって訳ではない。


 けど……全くの無関係で無理矢理意味を持たせただけなのかもしれないけど。

 

 平成が終わる前に幼馴染みのことが好きな委員長に好きだと伝える。


 そういうのはありかもしれない。


★★★★★


「……わ、分からん」


 机の上で頭を抱える。

 原因はさっきの授業、もう少し詳しく言うとつい五分前に終わったばかりの古文の授業。

 もう笑っちゃうくらいにさっぱり分からなかった。

 授業サボりまくってるんだから当たり前と言ってしまえばそれまでだけどまさかここまで分からないとは……


「だからちゃんと授業出なさいっていつも言ってるでしょ。ほら、どこが分からないの?」


「分からないところが分からない……」


「……重症ね」


「けど、自分が何も分からないことは分かる」


「そんなことを自慢げに言わないで」


「記憶喪失ってこんな感じなのかな?」


「記憶喪失の人に謝りなさい。大体元から何も入ってない頭から何を失うのよ」


「酷い……」


 酷いのはお前の頭だ。

 そんなことを言いたげな委員長の顔から目を背ける。

 ただでさえメンタルズタズタにされてるんだから少し位優しくしてほしい。


「まーた委員長に怒られてるのか? 懲りないなぁ、お前も」


 背後からかけられた声。

 それに振り返ってみると一人の男子生徒が立っていた。


「……うるせぇやい。俺だって怒られたくて怒られてるんじゃないし」


「そう思うんだったら尚更ちゃんと授業出ろよな。これでも幼馴染みとしてはかなり心配してるんだぜ? お前がちゃんと進級できるのか」


「待って。今の俺ってそこまでヤバイ状況なの?」


「これまでやって来たことを胸に手を当ててよく考えてみなさい」


 文武両道。

 俺の幼馴染みはそれを体言したような存在だ。

 運動面ではバドミントンで全国大会出場。

 勉強面では委員長に続いて学年二位。


 かつてはライバルとして運動も勉強も競いあった仲とはとても思えないくらいに優れた奴。


 そんな優秀で幼馴染みとして接することすら気が咎める彼からぶつけられたとんでもない言葉に反応を示すと委員長から冷ややかにそんなことを言い渡された。


「………………今日までお世話になりました」


「勝手に諦めないで。私が留年なんてさせないわ」


「委員長……いや、姐御!」


「やめて」


 心底嫌そうな顔で委員長は俺の姉御呼びを拒否する。


「あ、そーいや。委員長」


「……なに?」


「なんか先生が呼んでたぞ」


「……はぁ。どうせどこぞの不良の件でぐちぐち言われるんでしょうね。……はぁ」


 委員長はかけられた声にあからさまに顔をそらした。

 しかし、それを意に介す様子もなく声の主は用件を伝える。

 それを受けた委員長はどこか芝居がかった仕草でどこぞの不良の不満を吐露した。


 一方俺はこんなにもあからさまな好き避けを見せている委員長の好意に気付かないイケメンへの不満でいっぱいだった。

 いや、気付いていい感じになったらそれはそれで不満なんだけどさ。


 ……やめだやめ。こんなこと考えたところで何にもならん。

 それよか委員長を慰めた方が何倍も有意義な時間になるや。


「まぁ、生きてたらそういうこともあるよ委員長。ドンマイ!」


「……もう勝手に留年してろ」


「ごめんなさい。ほんとに勘弁してください」


 口は災いの元ってことわざほど身に染みて理解することわざはないと思う。


「そういやお前知ってるか?」


 委員長が機嫌悪そうにカツカツと足音を立てて教室から出て行った後、前置き無しにそんなことを言われる。

 その説明で「知ってる!」ってなる奴いないだろ。


「何が?」


「この学校、『魔女』がいるらしいぞ」


「……魔女?」


 からかうとか冗談とか、そういう意図は一切無さそうな、まるで本当にそれを信じているかのような真っすぐな言葉に思わず聞き返す。

 もしかしたら俺の聞き間違いだったのかもしれない。


「そう、魔女だ」


 聞き間違いではなかった。

 聞き返す俺に大真面目に頷きながら肯定を示すその様子に冗談の可能性も消える。


「……お前ってそういうオカルトとかに興味あったっけ?」


 そういう趣味を否定する意図は微塵もない。

 ないけど、正直幼馴染が知らない間にそういうのにのめり込んでるのはちょっと怖い。


「何だよその顔は。俺はお前の為に言ってるんだぞ?」


「……は? 俺の為?」


「なんでもこの学校の魔女は未来を見ることができるんだとさ。実際それで好きな奴との間に起こる出来事を教えて貰ってうまく立ち回って告白に成功した奴もいるって噂だ」


「なんだそれ胡散臭いな。というかそれと俺にどういう関係があるんだよ」


 未来の出来事を教えてくれる魔女。

 胡散臭いにもほどがある。

 生憎そういうものを信じるほどに俺は純粋ではない。


 ……そもそも未来なんてそんな分かりやすいものじゃない。


「いや、だからさ。教えて貰えばいいだろ?」


「……? 何を?」


「学期末テストの問題だよ」


「…………いやいや、そんなの無理だろ」


「でも、普通に勉強するよりは進級できる確率高いぞ?」


「おい、なんてこと言いやがる」


 とんでもない言われようだ。

 さすがにそんな神頼み的なジンクスに望みを賭けるよりはちゃんと勉強した方が可能性あるよ。

 ……あるよね?


「……というかさ、未来を教えてくれるって言ってもそれってどういう教え方なんだよ?」


「どういう……ってどういうことだ?」


「いや例えばさ、その魔女は未来を知ってるわけだろ?」


「うん」


「でも、その未来っていうのはそいつ自身が何度も同じ時間を繰り返して手に入れたものなのか、それとも予知みたいな感じで頭にビビッと来るものなのか、もしくは未来から来てて何が起こるのかを知っているのか、みたいな」


「あー、んー、どうだろ。というかそれって大事な事か? 未来さえ教えて貰えれば大した問題でもないだろ?」


「んなことないって。その魔女の教える未来は行動次第で変化するものなんだろ? だったら時間を繰り返してたり未来から来てるって場合は行動一つでそいつの知ってる未来とは違う未来になるかもしれないじゃん。予知ならまた別の未来が見えるかもしれないけどさ」


「……たしかに」


「ま、どのみち未来なんて分かったところで何の役にも立たないって。ほとんど未確定なものなんだしさ」


「……うーん。でもなぁ……このままじゃお前留年するしなぁ……」


 失礼な。


「ちゃんと勉強するっての!」


「いや、そうは言っても試験まであと土日挟んで今日入れても三日だぞ? 何とかなるか? もう魔女頼みしかないだろ」


「うぐっ……その……何とか……その……委員長に勉強教えて貰って」


「誰に何を勝手に教えて貰うつもりでいるの?」


「うおっ! 委員長居たの!?」


「それは私に影が薄いって言いたいのかしら。物理的に薄くしてあげましょうか?」


「何をっ!?」


 背後からかけられた声に椅子に座ったまま跳ね上がりそうになった。

 というかちょいちょい言うことが怖い。

 あと被害妄想が激しい。


「それで? 何の話?」


「ん、あー、いや、こいつがこのままじゃ進級危ういから未来のことを教えてくれる『魔女』にテストの問題教えて貰えとか言っててさ」


「…………」


「委員長?」


 聞かれたから答えたけど返る答えがない。

 それを不審に思い振り向くと――


「そんなくだらないことを話している暇があるなら単語の一つでも覚えなさい」


 腕組んで怒っていらした。

 そして、ド正論過ぎてぐうの音も出ない。


「はぁ。……とりあえず、今日の放課後この教室でみっちり叩き込んであげるから覚悟しなさい」


「うへぇ……」


「は?」


「誠心誠意頑張らせていただきます」


「よろしい」


 帰れる気がしないのだけど気のせいだろうか?


★★★★★


「こ、これ以上はもう……」


「何言ってるの? まだ半分も終わってないわ」


「ほんと勘弁してください」


「そう。じゃあ来年は後輩ね」


「うっ……頑張る……」


 折れそうな心に活を入れカリカリとシャーペンをプリントの上で走らせていく。

 正直半分くらい分かんない。


 暗記系は回数こなしたからなんとかなるけど、もう公式や文法の応用はそういうわけにもいかない。

 どのタイミングでどの公式を使うのか。それが分からないんだから解ける問題も必然的に解けなくなってしまう。


「……ほら、そこ時制間違ってる」


「……ん、あ、ほんとだ」


「しっかりして。そのミスがあるかないかで結果は変わるんだから」


「……はーい」


 指摘された間違いを正して、他にケアレスミスがないかを捜して、それからまたカリカリと問題を解き進めていく。


「委員長、ここ分からない」


「どれ? あぁ、ここはこの公式を使って解くの」


「ふむふむ。なるほど」


 時には分からない問題を尋ね。


「……委員長」


「どうかした?」


「俺は燃料が切れました。甘い物が食べたいです。具体的にはそこのカフェのケーキが食べたいです。というわけで食べに行きましょう」


「甘い物ならいっぱいあるじゃない」


「……?」


「見通しとか、詰めとか、自分への評価とか」


「そんな辛口のセリフは求めてないっす」


 時には冷たい視線をぶつけられ。


「……そろそろ帰りましょうか」


 ともあれ俺は頑張った。

 平均的な学生がこなす一週間分くらいの量の問題はこなしたんじゃないかと思う。


 でも、悲しいかな。

 これまでのサボりはしっかりとその爪痕を残していてとてもこの放課後だけできちんと全教科カバーできた気は全くしない。


「……うん」


 これ以上学校には居られない。

 それに委員長には何の見返りもないのに手伝ってもらっている状態だ。

 頼めばこの後もファミレスとかで勉強を見て貰えるかもしれないけれど、さすがにそんなに遅くまで連れまわすのは気が引ける。


「……あのさ、委員長」


 これは褒められた行いじゃないのだと思う。


「その……明日一日、勉強に付き合ってくれないかな?」


 勉強にかこつけて一緒にいるための時間が欲しいだけだ。


「明日……」


「あ、もちろんただでとは言わないよ。委員長のお願い何でも聞くからさ」


 平成が終わってしまう前に好きだと伝えるための時間が欲しいだけだ。


「…………はぁ。分かった。そんな顔されたら断れないじゃない」


「ほんと!?」


「ほんと。でも、その代わり明日は私の奴隷よ。せいぜい後悔しないことね」


「すでにちょっとしてる」


 我ながら卑怯なことをしてるとは思う。

 ともあれ、約束は取り付けた。

 丸一日一緒に過ごせる約束を。 


 だから、明日こそは。


「じゃあ、明日の9時に駅前集合ね」


「オッケー!」


 平成が終わるので好きな人に好きだと伝えようと思う。


★★★★★


「……呼び出してごめんなさい」


「いや、良いけどどうかした? 委員長から俺を呼び出すなんて珍しいじゃん」


 彼と別れてすぐ、私はこの人を呼び出した。

 急な呼び出しに嫌な顔一つせず応じるその姿を見ると申し訳なく感じる。


 ずっと、これ以外の結果を模索し続けていた。

 でも、ダメだった。

 どれだけ手を尽くしても未来は変わらなかった。

 彼を救うにはもはやこれしか残されてはいなかった。


「私は、これでも頑張ってきたの」


「……?」


「そうなるって知ってしまってからずっと頑張ってきた」


「……なにを」


「未来は枝分かれしているから。他に上手くやるための選択肢がないのか捜し続けてたの」


「……?」


 目の前の男子生徒に言ったところですぐに理解できるとは思っていない。

 それでも話さないといけない。

 悩んで出した結果だから、ちゃんと理解してもらえるように話さなければならない。


「見つからなかったから、作れないかなって考えた。普通の行動じゃ未来が新しく分岐したりしないから、未来の選択肢の一つを未来を知りたがっている子に教えて未来の分岐を増やしたりしてみた。『魔女』なんて噂になってるのは知らなかったけど」


「……ごめん。何言ってるのか……委員長でも冗談って言うんだな」


「…………でも、ダメだった。教えた子の未来に分岐が増えて、それが連鎖的に他の子の未来の分岐に影響して、それでもその未来だけはどうしても変わらなかった。……変えられなかった」


「委員長は、冗談向いてないな。……あいつにも聞かせてやりたいよ」


「…………変えられなかったの」


「…………」


 この人は頭が良いから、私の雑な説明でも何を言っているのか大まかに理解できているのだと思う。

 まだ確信には触れていない。

 それでも不安なのだと思う。

 自分が呼び出されたという事実を考慮に入れればまるで無関係なんてことはありえないから。

 だからこそ、茶化してなかったことにしたがる。


「……あなたは、彼が大事なのね。他の何よりも。壊してしまうくらいに」


「――ッ!? ……なにを」


「自分以外の誰かのものになるくらいならいっそ殺してしまうほどに大事な親友」


「………………そんなこと」


「分かるの。だってあなたの未来でいつも彼はあなたに殺されるから」


「…………」


「これまでだって彼に近づこうとする人を遠ざけて、彼に怪我をさせて、全て奪って、そうやって彼があなた以外の誰とも関われないようにしてたでしょ?」


「……っ。…………黙れ」


「それでも手元には置いておけなくなるから、あなたはいずれ彼を殺す」


「……黙れ……」


「私が私の未来を始めてみたのは小学三年生の時だったんだけどね。その時は彼の事を何とも思わなかったの。私が将来好きになって付き合う人。そのくらいの認識でしかなかった。死んじゃうなんてかわいそうくらいにしか思わなかった」


「…………黙れ…………」


「でも、何度も自分の未来を見て少しずつ変わっていったの。彼の優しいところを見て、かっこいいところを見て、可愛いところを見て、笑顔を見て、情けないところを見て、私の事が本当に好きで好きでたまらないんだってところを見て……気がついたら愛おしくて仕方なくなってた」


「…………黙れ……黙れ……」


「助けたいと思った。生きて居てほしいと思った。幸せで居てほしいと思った。そのためならどんなことでもしようって思えた」


「……黙れ……黙れ……黙れよ……」


「だから、彼が生きるためにはあなたを殺すしかなかった」


「…………あ?」


「簡単でしょ? あなたがいない未来であなたは彼を殺せない」


「…………ふざ、けんなよ……! そんなこと」


「今日以外は失敗する。でも、今日だけは成功する。そういう未来になってる」


 身勝手なことをしているとは思う。

 許されないことだとは思う。

 未来がどうであれ、少なくとも今のこの人は彼を孤独に追い込んだだけで誰も殺していない。


 たとえ誰かを殺していたとしても私がこの人を殺していい理由にはならない。

 でも……それでも……


「ごめんね。でも、あなたと彼では私の中では命の価値が全然違うの」


 愛しているから。

 彼が私と会う前から、私が彼と会う前から。

 ずっと会いたくてずっと恋焦がれてずっと愛していた。


「…………してやる。……あいつのことを分かってるのは俺だけなんだ。……あいつは俺とだけいればいい。……それが分からない奴は……その邪魔をする奴は……ぶっ殺してやる……!!」


「……私、やっぱりあなたが嫌い」


 ポケットから取り出した拳銃。

 それを手に入れるための未来を通った結果得た最強の武器。

 今日以外は当たらない。

 でも、今日は当たる。

 今日だけは当たる。

 だから焦らずゆっくり標準を合わせて――引き金を引いた。


「…………」


「…………」


 真っ赤な花が咲いた。

 綺麗だなと思った。


「……これで、終わりか……」


 未来には続きがある。

 今日以外はどんな手段を用いても殺せない。

 事故に見せかけて殺そうとしたら悪運の強さで躱される。

 今日以外に真っ向から殺そうとしたらどう転んでも返り討ちにあって殺される。


 今日という日、拳銃で殺すという手段によってはじめてうまくいく。


 そしてその後の未来。


「……約束、守れなくてごめん」


 廃ビルから落ちてきた瓦礫に押しつぶされて私は死ぬ。

 それを躱せば足元が抜けて落下死する。

 その他諸々、とにかく私は死ぬ。


 明日の約束は守れそうにない。


「デート、したかったな」


 そんな言葉を最後に何かが私を押しつぶし意識はそのまま暗転した。


★★★★★


 平成が終わる。

 そうは言ってもそれが大きな意味を持つかと問われると答えに詰まる人は多いのではないだろうか。

 特に俺のような学生にとってはなおさらに。


「……屋上は立ち入り禁止なんだけど?」


 空を眺めてそんな微塵の関心もないどうでもいいことを両手を枕に仰向けに寝ながら考えていると上空に影がかかる。

 

「……そう言う委員長こそ入ってるじゃん」


 影の正体。

 このご時世で馬鹿正直に校則を守ってきちんと制服を着た少女。

 明らかにクラス委員長としての仕事を越えた仕事である『素行不良生徒の更正』を担任教師に押し付けられた憐れな少女。


 見慣れたその姿に軽口をもって応じる。

 すると、彼女はそんな答えは想定済みだと言わんばかりに勝ち誇ったように微笑んだ。


 こういう時の彼女は俺を言いくるめる何かを持っている。

 これはこれまでの経験に基づいた確かなこと。


「私はいいの。授業サボってこんなところで寝てる不良を引きずり回しに来ただけだから」


「俺引きずり回されるの!?」


 俺を言いくるめる何か(物理)だった。


「嫌なら授業に出なさい。ほら」


 スッと差し出された小さな手。

 それを眺めながら考える。


「……? どうかした?」


「…………」


 平成は終わらない。

 

 平成は終われない。


 何度も何度も繰り返し、それでもなお終われない。


 どうしてこんなことになってしまうのか。

 どうして助けられないのか。

 自分が情けなくて仕方がない。


 でも、それでも、チャンスはまだ無限にあり続けるから。


 変わらない年号の中で繰り返される二人の死はいつか必ず変えて見せるから。


「絶対、今度こそは守ってみせる」


「……? 何か言った?」


「……いや、何でもないよ」


 何十回と繰り返してもうまくいかない。


 何百回と繰り返してもうまくいかない。


 何千回と繰り返してもまだうまくいかない。


 それでもやり直して、繰り返して、巻き戻しの時間を生き続ける。


 そして、今度こそはきっと……




 平成が終わる前に幼馴染みのことが好きな委員長に好きだと伝えようと思う。

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