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鉄扇使いは成り上がる  作者: マルクゥ
1章 異世界突入編
9/14

決意


 家と言っていいのか分からない、川の所へ帰って来て随分時間がたった。

 地面に横になり空に浮かぶ星を眺める。

 例え世界が違っても星は同じように光るのか……。

 ――――傷の痛みとかはハッキリ言って今はどうでもよかった。

 何故、蒼汰と春香が俺を覚えていなかったんだ……。


『――記憶を操作されている恐れがある。それも君に都合が悪い様にな』


 確かに蒼汰の言っていた事は俺が記憶している事とは色々とおかしかった。

 蒼汰と春香を攫い、殺したのが俺になっている事。

 俺が春香の兄では無くなっている事。

 この二つしかあの時、分からなかったがそれだけで2人の記憶が操作されているといってもいいだろう。

 ……記憶を戻す方法はあるのか?


『操作した方法による。例えば闇系統の魔法に記憶操作の魔法があるんだが、召喚後にその魔法により記憶を操作されていれば魔法をかけた術者を倒せば解けるだろう。――――だが、転生者を召喚時に記憶を操作されている場合、すまないが私には対処方法が分からない……』

「召喚時に記憶操作が可能なのか……?」

『……理論上可能だ。君は転移時の身体の状態を覚えているか?』

「確か、乱闘騒ぎの後だったから身体中が痛かったと思う」

『そうだ、転移者は身体をそのままこちらの世界に転移させているから前の世界の身体のままこちらに来るんだ。だが、転生者の場合なんだが……』

「今更気を使わなくても大丈夫だ。ちゃんとするから」

『そうか。――――転生者の場合、前の世界での身体はもう死んでいる為こちらの世界に持ってこられない。だからこの世界には魂のみを運び、魂内の情報を元に身体を一から作り直しその偽りの身体の中に魂を入れ込む。それが転生者の秘密で身体能力と魔力量の高さの理由だ。』

「…………身体を作る際に記憶を操作出来るってことか?」

『――ああ。この事実は君には辛いかもしれない。だが、いつかは分かる事だ。今のうちに知っておいた方が今後辛くないだろう……』 

「対処方法がないなら記憶は戻らないかもしれないけどオウセンは分からないって言ったよな? ……それなら戻せる可能性もあるかもしれないんだろう?」

『……そういう事だな』

「なら、何も辛くないよ。いや、辛くないわけではないけど……。まだ行き止まりじゃないから、やる事があるなら辛がって泣いている暇なんかないさ」

『やはり君は、心が強い。アキの言う通りだ、君にはやるべき事が腐る程ある。泣いている暇はないぞ』

「何回目だよそれは。全く」

 

 恥ずかしい事を平然と何度もいいやがってこの野郎。


「色々まだ分からない事はたくさんある。聖騎士だの、神器だの、魔王だの、勇者だの、この異世界はなんなのかとか分からない事だらけだ。でも今回ボコボコにされて、死にかけて、俺は決めたよ。心の底からこう思えるようになった」

『…………………………』


 


「オウセンさ、俺約束するよ」

『ふむ、なにをだ?』

「――――俺、強くなる。勇者だの魔王だのどうだっていいけど、蒼汰を倒せる位に、記憶を戻してやれる位にさ。それで言ってやるんだよ、お前と春香は俺の弟と妹だって。……渡したいプレゼントも無理矢理渡してさ、何が何でも俺の事を思い出させてやる。……どうかな? 俺なんかに出来ると思うか?」

『……今の気持ちを忘れなければ出来るさ。――――何て言ったって君は私の、王扇の使い手だ。強くならなければそれは嘘というものだ』

「そうさ、俺はお前の使い手だからな!――――二人で頑張っていこう、相棒」

『二人で、か。――――ああ、私は君を強くする、そしてアキは私の期待に応え強くなる、二人で頑張ろう、我が友よ』


 ――――そう、ここから俺達の戦いは始まっていく。今は何にも勝てない最底辺かもしれない。だけど必ず、誰にも負けない位に強くなって二人に俺を思い出させてみせる。

 ここからが俺の、俺達の成り上がりだ――――。





 川でサクラが捕って来た魚を焼いて食べている所でサクラに聞きたかった事を思い出す。


「あの時助けに来てくれたのサクラだよな? 蒼汰とあのハンシンクとかいう奴等から俺を連れてどうやって逃げたんだ?」

「全力で走って……かな」


 言いたくなかった事なのか、目を合わせず口ごもりながら答えるサクラ。


「……………………あの連中からか?」

「うん、そうだよ」

「いやいや無理でしょ!? いや仮にそんな事出来たとしたら君は何者なわけさ!?」

「今更隠す事も無いんだけど――――私って結構強いんだよ?」

「いやでもあの連中ってこの世界じゃ結構強い方じゃないの!? それから逃げるってめちゃめちゃ凄い事なんじゃないの!?」

「ハンシンク=テレシア――――今この世界の人間で一番勇者の供に近い人間だね。転生者のあの2人に関しては多分、勇者よりも強いんじゃないかな?」

「――――――」

『全く、君は分かりやすいリアクションを取る。だが気持ちは分からなくもないぞ。なんせ、初めて会った日に助けたつもりの少女が本当は君よりも断然強いのだからな』


 いや、まったくその通りだ。

 ……えっ? あの日あの時なんであんな人達に囲まれていたの? 3分だけ強くなれるとかそういうウルトラ的なやつなの?


「お兄ちゃんって顔にすぐ考えていることが出るよね…………。疑問に答えてあげる。あの時は探し物があって、わざとああいう状況を作ってあんな感じで演技をしていただけなの」

「……探し物ってなんだ?」 

「王扇の使い手」

「……それって、俺か?」

「そういう事。それが私の第一の使命だから」

「おいおいおいおい……。なんか、嵌められた感が残るがまあいいか。第一って事は他にも?」

「んー、簡単に言うとお兄ちゃんを死なせず、強くする事かな?」

「分かりやすくて助かるし、俺の今の目的にも合致するな」

「へー! 目的出来たんだ!! どんなのか教えてよ!!」

「いいけど笑うなよ――――転生者よりも強くなって俺を思い出させる事だ」

「――――――」


 確かに笑っていない。だが無言でこっちを見つめるとかそういう反応は困る。せめて何か言ってくれよ……。


「あ、ごめんごめん。そこまで強くなろうと思ってくれているとは思ってなかったから……。ビックリしちゃった」

「……どうせ無理だと思ってるんだろ。それでも俺は必ずその位強くなって見せる」

「――――無理だなんて思ってないよ。必ず貴方なら強くなれると私は思ってるよ。もちろん私も協力するからね」

「ありがとう。オウセンとサクラの期待を裏切らない様に頑張らないとな」

「そうだよ、かっこいい所見せてよね!」


 こんな笑顔で言われてしまったからには保護者として、仮の兄として期待に応えないとな。


「――って話がそれてた。何でサクラはそんなに強いんだよ」

「あーもう、話しそらして忘れさせようと思ったのにー。……まだお父様が生きていた頃に結構本格的に教育されていたからかな」 

「あ…………。ごめんな、その、辛いこと思い出させちまって……」 

「ううん、もう随分と前の事だから気にしないで。その頃に魔法や戦闘術、学問とか色々学ばされていたから多分そんじゃそこらの相手には負けないよ」 


 ふふっと微笑を向けてくれるサクラだがどこかその顔には影がある様に見える。やはり、前の事だからといってもまだ割り切れてはいないのだろうか……。


「へぇー! なら前はいい所のお嬢様だったのか?」

「そうだよ! お屋敷も広くて召使いもいたんだよ! 凄いでしょ!?」


 そりゃ凄いけどそんなお嬢様が何故こんな生活に。


『まだその辺りは深く聞かない方がいい。アキとサクラの距離は少しずつだが縮まってきてはいるがその話が出来るほど近くは無い』


 その辺りは何となくだが把握してるさ。


「そりゃ凄いな! それよりも色々知っているならちょっと教えて欲しい事があるんだが神器って何なんだ? 蒼汰が持っていた槍を神器ってオウセンが言っていたんだが……?」

「――――神器っていうのは古の時代に存在した神々が造った武器の事を言っているの。7つの神器が世界で確認されているから7大神器とも言われててソウタが持っていた槍も7大神器のうちの一つ、神槍グングニル。絶対必中の力を持つ呪いの槍だよ」

「…………絶対必中って事は何をしても避けられないのか?」

「何をしても絶対に避けられない。抜け道はあるけど効果自体を無効化する事は出来ない」


 いやそんな槍存在しちゃいかんでしょ。


「それでもグングニルはまだ神器の中でも普通の部類に入る武器なんだよ。勇者が持つ聖剣ティルフィング、これも神器の一つなんだけどこれが一番最強かな……」

「聖剣っていう位だから魔を絶つ剣! みたいな魔族特攻の武器なんじゃないのか?」

「勇者自体の役目は魔を絶つことなんだけど聖剣自体は魔族とは関係は無いかな。聖剣ティルフィング、能力は剣神開放と魔力供給」

「それはどんな能力なんだ?」

「剣神開放は1~5段階で剣を解放して段階が大きくなる程に持ち主の身体能力を向上させる能力なんだけどこれが中々ぶっ壊れ性能で自分の目で見て肌で感じないとどれだけ凄いかは言葉で表現できないかな。魔力供給はその名の通りに永続的に魔力を供給し続ける」

「――――――――反則だろ」

「そう、反則だから勇者が持つにふさわしい剣として存在しているの」 


 この世界の勇者とか転生者はやはりチートになる様に世界は成り立っているのか。

 ……そういえばオウセンの使い手は全然この世にいないとか言ってたしもしかしてオウセンは神器でとんでもない能力を持っていたりするんじゃないのか?


「オウセンって使い手が全然いないんだろう? もしかしたら神器だったり」

「残念だけど違うかな」

「違うのか……。でも何かしらの凄い能力を持っていたりするんじゃないのか?」


 人の心に話しかけたり出来る位だしなんかもっと他にとんでもない能力を持っていたり……。


「他にも能力はあるにはあるけど神器の性能には敵わない。まあ強くなって王扇を使いこなせる様になってくればその辺りは分かってくるよ」

「やっぱり強くなることが大前提なんだな」

 

 話が単純明快で分かりやすいからいいんだけどな。


「よし、話は変わっちゃうんだけどこれからの話をしよっか」

「これからの話?」

「明日の朝には転生者と聖騎士隊がこの森に来てセフィロトの樹に向かうけどその際に、もしかしたら私達の居場所がバレるかもしれない。バレたらどうなるか分かる?」

「まあまた襲われるだろうな」 

 

 記憶を改竄されているせいで俺への殺意が半端ではなかったからな。


「そうだね。次襲われたら多分逃げられないと思うの」

「こんな事を言ってとんでもなく情けないんだがサクラがいれば何とかならないのか?」


 10歳位の兄と慕ってくれる女の子に任せるというのは本当に情けない。


「私だけならいくらでもなんとかなるんだけど足手纏いが一人いるのと次はもう一人の転生者が間違いなく動くと思うの」

「………………春香か」

「もしそのハルカがソウタ同様に神器を持っていたらお兄ちゃんの命は絶望的なんだよね」

「…………」


 あんな恐ろしい槍以外にももう一本似た様な武器があれば確かに絶望的だな。


「だから話は簡単! 見つかる前に全然別の場所に逃げちゃえばいいんだよ!」

「――――――もしかして、今から?」


 お空は星が綺麗に見える位真っ暗だ。


「時間が無いんだから今からに決まってるじゃん!」

「夜の移動はよく危ないっていうじゃん!?」

「このままここに残ってた方が危ないんだよ? 主にお兄ちゃんが」

「……分かったよ! こんな所でまだ死ぬわけにはいかないんだよ! でもどこに逃げるんだよ!」

「今私達がいる場所は神人大陸の北側なんだけど最東の方にセフィラの街とは比べられない位大きな街があるんだけどそこへ向かおうと思ってる」

「理由は?」

「大きな街の方が楽しそうだし魔大陸と隣接しているから色々 とお兄ちゃんには勉強になるかなって」


 まて、今また新しい単語が出て来たぞ!? 魔大陸とはなんだオウセン!


『魔大陸はその名の通り魔物や魔人などの人ならざる者たちが生息している大陸の事だ』

「そんな所に行く必要あるの!?」

「絶対にある! 後お兄ちゃんの魔法の適正属性も調べるっていう目的もあるんだけど、大きな街でしか調べる所が無いから結局はいかないと行けないんだよね」

「でも魔大陸が隣接してるって事はかなり危険なんじゃないのか……?」

「――――危険から逃げてたら何時まで経っても強くはならないよ?」

 

 ……その通りだ。危険だからこそ色々と経験を積めるかもしれない。


「分かったよ、そこへ向かおう。」

「よし! じゃあ善は急げって事で今から最東の街へいこー!!」

「いや、準備があるだろ――って何にもないんだったな」


 俺の荷物はオウセンのみ。サクラに至っては手ぶらの様だった。


「その街はここからどれくらいかかるんだ?」

「んー。大体歩いて一か月くらいかな」

「――――」


 ……本気で言ってらっしゃるの?


「心配しなくて大丈夫! 大体はそこの川に沿って下流の方まで歩いて向かえば街の近くまで行けるから食料と飲み物には困らないしお兄ちゃんはその一ヶ月間は色々とやる事あるからあっという間だと思うし!」

『そうだぞアキ。君はその期間で魔力量の底上げに言語の勉強、鍛錬などやる事は腐る程あるから一月なんてあっという間さ』

「二人して俺をしごく気満々かよ……。全く期待に応える側の身にもなってくれよな!」


 きっと今までに体験した事のない地獄の様な日々が今から来るはずなのに心はそこまで憂鬱ではなかった。どちらかと言うと高揚していた。

 こんな訳の分からない世界で意味の分からない事になっている二人を助ける為に知らずに強がっているのか、それともこの二人と一緒にいるのが楽しいからなのかは分からない。

 ――――だけど二人の期待に応えたいと思う気持ちは間違いなく本物で今の俺の原動力の一つだ。


「よし、そうとなったらあいつらがここに来る前に最東の街へ向かおう!!」 

「なんか楽しくなってきたね! よし、しゅっぱーつ!!」


 傷はまだ痛むし血が足りないのかクラクラする。――――だが元気良く、足取り軽く俺の体力が尽き果てるまで川を沿って歩いて行く。

 

「またな蒼汰、春香。強くなってまた会いに行くから、それまで元気でな」


 最後にセフィラの街の方角を向き聞こえるはずもないのに二人への別れを告げる。

 次は二人といつ会えるかは分からない。

 だが次に会う時は助けて見せる、助け出す手がかりを掴んで見せる

 そう心に思いを秘め俺は、俺達は目的地、神人大陸最東の街へ歩いて行く。



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