表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄扇使いは成り上がる  作者: マルクゥ
1章 異世界突入編
6/14

初めての鍛錬

 作品を開いてくださってありがとうございます!

 そして少し投稿が遅くなってしまって申し訳ありません(´;ω;`)

 今回は割とほのぼのとした話ですがくだらねぇとかつまらねぇとか言わずに最後まで読んで頂ければとても幸いです!


 いつの間に眠っていたのだろうか、目が覚めると朝になっていた。

 地面の上で横になっていた為服に砂が付いていていたので立ち上がり砂を払い落とす。


『目が覚めたか、アキ。君はどうやら寝坊助の様だ、今が何時だと思っている』


 寝起きで耳元に声が聞こえ、ビックリする。どうやら昨日の出来事は夢ではなかった様だ。夢ならどれだけ良かったか。

 空は雲一つない晴れ空だ。日中という事は分かるが何分時計も携帯もないので時間が分からない。


『ふむ、時の読み方を知らんか。なら私が今から教えてやろう』


 微塵も興味が無いのでお断りします。俺は何一つ現状を理解できていない状況なのに悠長にそんな物を覚えている時間は無い。


『君の現状の状況も不安や焦り、恐怖を私は理解している。アキの心が読めるからな。ふむ、それならあの娘が帰って来るまで少し時間があるから私が君の質問に答えようではないか』


 ……まずはこの2つについて教えて欲しい。ここは俺が前にいた世界とは別の世界なのか? 後は、春香と蒼汰は……無事なのか?


『まず1つ目の疑問だ、ここは君のいた世界とは全くの別世界だ。疑問はあるだろう、何故俺が? どうやれば帰れるか?これからどうすればいいのかだろうか? それについて深く聞きたいだろうがそれに関しては他の情報を整理し理解していけば自ずと分かってくる。2つ目の疑問だがその2人がアキにとっての大切な人物という事は君の心や態度を見ていれば分かる。だから無事だと言ってあげたいのだが本当にその2人が転生者なのかが情報量が足りなくて断言出来ない。』


 なんだそれ!? 昨日と言っている事が違うじゃないか!!


『そう怒るな、人の話は最後まで聞くものだぞ。情報が足りないと言っただろう? 私は優秀でな、しっかりとした情報があればアキが安心して今後行動出来る様に断言をしてあげよう。だから君がこの世界に来るまでに何をしたか、何を見たかを教えて欲しい』


 …………。そういう事なら。


 ――――――――



『成程、理解したよ。ふふっ、君のあの戦い方の理由が分かった気がするよ。型もなし、無鉄砲、挙句の果てには敵と向かい合っててよそ見をするときたからどんな人物に戦いを教わったのかと思ったが実戦で覚えたのか』


 笑いが止まらないオウセン。そんな事はどうでもいいんだ、結局2人は無事なのか!?


『すまない、君は知れば知るほど愉快だと思ってな。その2人に関しては安心していい。2人は間違いなく転生者だ、この世界のどこかで確実に生きている。私は以前に転移者と関わりを持ってな、その転移者とアキが話してくれた証言は一致している。流石に前に関わった転移者は転移時に乱闘騒ぎなどしていなかったがな』


 その言葉を信用していいか分からない。だが…………。肩の力が抜け安堵したからか、涙が出てきた。そうか、そうか。2人は生きているんだな……。


『この世界ではな。安心している今のアキに言う事ではないかもしれないが間違えた知識をアキに植え付ける訳にはいかない。君が前にいた世界での2人は確実に死んでいる。…………それだけは覚えておいたほうがいい』

『前の世界で死ななければ転生はしない。それはこの世界に今まで来た転生者、転移者の言葉から間違いはないだろう』


 それでも、この世界では今現在生きていて、今後もこの世界で生きていけるんだろう?


『ああ、転生者に関しては生きていく事に関しては何一つ心配しなくていい』


 なら、大丈夫だ。2人が生きてさえいてくれれば、2人の大切な人生があそこで終わらなくて本当に良かった。世界は違ってもきっとあの2人は上手く生きていくだろう。


『……………意外と今日は素直なのだな』


 昨日は色々とあったからな。それに今は納得しないと前へ、先に進めない気がしたからな。


『見事な胆力だ。アキ、君は強い人間なのだな』 


 昨日は俺の膂力が~ってボロクソに言わなかったか……?


『力の話ではない、心の強さの話だ。ここで少し転生者と転移者の違いを離すが転生者はこちらの世界に転生した際にこの世界に関しての常識など色々な知識を召喚時に得るんだ。前の世界で自分がどうなったのか、この世界に呼ばれた理由など全てを理解した上で召喚される。だから転生者はこの世界でも問題なく生きていく事がほとんどだが転移者はそうでもない。転移者ははっきり言ってこの世界の異物そのものだ。呼ばれもしないで無理矢理入り込んだ異物に知識は植え付けられない、誰も助けてくれない』

『そんな転移者の末路は運良くどこかの気の優しい民家に拾ってもらい独り立ち出来るまで面倒を見てもらうか奴隷として拾われて生きるか、もしくは身投げをすると聞く。その点君は1人で大事な者達を諦めずに探し続け、そんな中1人の少女を助けた。』


 偶然だよ。俺だってオウセンが言った様な末路を迎えてた可能性だって腐るほどあったさ。


『確かに少女を救えた事は偶然かもしれないな。だが君はあの時あの娘を何が何でも助けたいと思っていた。例えどんなに不利な状況だろうと諦めずに、何をしてでも助けたいとな。君は信念を貫いたんだ。そして貫いた事により事態を好転させた。右も左も言葉も分からない土地で目の前の事、2人を助けたいという事だけに捕らわれず。信念を貫く力に諦めない心、弱い自分を認め着々と一歩ずつ進もうとする姿勢。君は自分で思っている以上に心が強い人間だ、私が保証しよう。全く、私もいい担い手を見つけたものだな』


 直球で誉めすぎだろ!? めちゃめちゃ恥ずかしいんだけど!! ……俺はそんな強くはない。守りたい物を守れないんだからな……


『心が示す理想を、信念を具現化させるには力がいる。残念だがその力が君には全くない。アキは心の強さの割に身体が脆弱過ぎるんだ。良かったな、課題が見つかるという事は君は強くなる可能性を秘めているという事だ』


 脆弱と言われるほど弱くはないと思うよ!? 確かにあのマッチョ達には勝てないと思ったけどさ!?


『いや、この世界では脆弱だ。前の世界ではどうだったかは知らないがあんな連中にすら勝てないのは終わっていると言ってもいい。今のままではこの世界で、ひいてはアキの妹達が危険な目にあった際に守れないだろう。だが安心しろ、私がついている。時間はかかるかもしれないが君を鍛え上げてやろう』


 え、何この特訓フラグ。勘弁して……。

 その後オウセンにこの世界の事を聞いたり逆に向こうの世界ではどんな生活だったのかを聞かれたりとお互いに質問し合い仲を深め合った。

 それからどれくらいたったか、清流の方から少女が両手に魚を持って帰って来た。


「起きていたんだね、体調はどう?」

「ああ、おはよう。体調? 問題ないが昨日から体調ばかり心配してどうしたんだ?」

「……何でもない。後…………おはよう」


 そう恥ずかしそうに小声でおはようと言う姿はとても可愛らしかった。

 少女を見ていると自分が本当に異世界に来てしまったという実感が湧いてきた。いやまあ扇子が喋る世界の時点でがっつり異世界感満載なのだが。ピンク色で肩辺りまである髪の毛、真っ赤な血の色の様な瞳。

 こんな所で1人で生活しているからか着ているシャツとスカートは少しくたびれている。

 10歳位の女の子がこんな所で一人で生活なんて現実だと……、無くは無いかもしれないがまあ無いだろう。てかピンク髪に真っ赤な瞳ってアニメかよ。


「昨日はその、なんていうかごめんな。少し感情的になっちゃってさ。オウセンと少し話をして昨日の君の言っていた事が真実だって分かったよ。怒鳴ったりしてごめんな。」

「……気にしてないから」

「…………。本当か? 本当だよな? まあいいか。そういえばまだ君の名前を聞いてなかったな、教えてくれないか?」


 本当に怒ってないよね? 何か睨まれてる感じするんだけど……。嫌われちゃってる的な? ああ、怖い。


「名前は……。無いから私に名前付けて」


 名前が無いのか、成程な。そうだな、どんな名前がいいかな……。


「っておい! それ嘘だろ!? 昨日お父様がどうのこうの言ってたじゃん!? 名前付けて貰ってるでしょ!?」

「この世界の事知らない癖にそんな事言っていいの? まるで名前を親に付けて貰うのが当たり前みたいな事」


 あ………。確かにそうだな、もしかしたら今の発言で父親についての辛い過去をもしかしたらえぐってしまったのかもしれない。


「……そうだな。俺はこの世界について何も知らないのに当たり前の様に俺の常識を押し付けて、ごめんな」

『そうだな。そこはアキの悪い癖だ、今後ゆっくりでもいいから直していこうじゃないか。ついでに言うとこの世界では子が生まれた時に子の両親が名前を付ける事が常識の様だ』

「流石オウセン、俺の分からない事をしっかり教えてくれる、まるで教師の様だ。誉めて遣わす。君、オウセンから聞いたからな、諸々俺が悪い可能性もあるが俺は都合の悪い事には目を向けないんだ、さぁ! 名前を教えろ!」

「名前名前うるさいなあ!! そんなに名前が知りたいなら名前付けてよ!」


 えぇ!? 切れられたよ!? てか言っている事可笑しくないこの子!?


「そんなに名前を教えたくないのか?」

「…………うん」

「今うんって言ったな!? やっぱり名前があるんじゃねえか!! 墓穴を掘ったな! 観念して名前を教えやがれ!!」

「うぅ……。でも、嫌だったら絶対やだ!! 名前付けて!!」


 大人しい子だと思っていたらなんて大きな声を出すんだ、耳が……。鼓膜が破けちゃう。あ、くそっ! 今アッカンベーってしやがったなこの野郎! デコピンしてやろうかこいつめ!


『ふむ、名前くらい付けてやるといい。それくらいの甲斐性が無いと今後も苦労するぞ? 後手を出す事だけは辞めておいた方がいい、私もまた長い年月1人になるのは寂しいものでな』

「オウセンが言うならまあ……。どうしても言いたくないのか?」

「……どうしても。名前、可愛い名前がいい」

「といってもな~。俺この世界での名前とか知らないしなー……」

「お兄ちゃんの世界のよくある名前でいいよ」

「お兄ちゃん呼びは止めなさい! そうだな、少し時間くれないか? 付けるにしてもてきとうに付けるんじゃなくしっかり考えていい名前を付けたい」

「……わかった。ちゃんと後で教えてね。後絶対止めないからね!」


 なんてこった、意地になってらっしゃる。こうなると春香や蒼汰もそうだったが面倒なんだよな~。


「分かった分かった。好きに呼んでくれ」


 どうせそんなに長い付き合いにもならないだろう。それなら好きに呼ばせてやろう。


「じゃあご飯にしよ、魚取って来たから。」

「俺も貰っていいか?昨日から何も食ってなくて実は腹が減って仕方がなかったんだ」

「いいよ、その為に沢山取って来たんだから」

「にしても、結構でかいの釣って来たな、ヤマメか?」

「知らない。後取ってきたって言ったよさっき」

「んん? どういう事だ? 罠でも仕掛けたのか?」

「素手で掴んできた」

「…………誰が?」

「私が」


 …………。熊かなこの子は。


「いやいやいや!? 無理でしょ!? なに!? この世界じゃ魚は素手で捕まえるのが当たり前なの!?」

『どうだろうな、そういう民族もいると思うが基本は竿での釣り上げだろう』

「ですよね!? 素手で掴み取るのが当たり前なら俺この世界で生きていく自信ないわ」

「大丈夫、やらせるから。薪に火を付けるから少し離れてて」


 そう離れろと言いながら離れる前に少女は薪に火を付けた。


「……今なにした?」

「火を付けたよ」


 オウセンよ、この世界では手をかざすだけで薪に火が付くのか?


『火属性の魔法を使えれば出来ない事ではないな』


 なんてファンタスティックな世界だ。魔法か、魔法があるのかこの世界は。異世界の定番と言えば定番だが目の前で見せられた事で正直言って驚きすぎて顎が外れそうだ。


「…………凄いね」

「この位なら、わりと誰でも出来るよ」

「じゃあ俺も出来たり!?」

「無理かな」


 なんてこった、異世界転移って最強無敵のチートに普通はなれるもんじゃないの……?


『最強になれるかは分からないが、君でも魔法を使う事は一応出来る様になると思うぞ』


 なら何で無理って言われたんだい? 納得のいくいつもの解説を頼むよ。


『君は魔力が少なすぎるんだ。魔法にも色々あるが初級・中級・上級とあるとして初級は魔力の消費が少ないが威力は弱く中級は魔力の消費は初級より必要とし威力ももちろん初級より強いとそんな仕組みになっているんだが君の魔力では初級魔法すら使用できないだろう』


 それって永久的な感じで? 魔力を増やす方法とかないの?


『いや、魔力を増やすことは可能だ。自分の持っている魔力を限界まで使う、こちらの世界では魔力欠乏というのだがその状態を引き起こさせるのだ。魔力欠乏を引き起こすと意識が朦朧としたり気絶したりする事が特徴だな。魔力が増える仕組みについてはまあ簡単に言えば筋肉の超回復の様に次の日に魔力が回復してその際に魔力量の限界を超えると言った所だな』


 流石オウセンさん。この世界のWikipediaの様な方だ。けどその説明でいうと俺にも使える可能性があるが今後魔力を限界まで使わないとだけど俺は初級魔法すら使えないんだったらどうすれば限界まで魔力を使うんだ?


『いい質問だな、説明のし甲斐があるというもんだ。基本この世界の人間は身体が成長するにつれて魔力量が増えていくから君のような状態は起きない。だが君は成長しきっている身体で魔法を放てない。なら魔法とは別の媒体を用意してその媒体の使用を行い魔力を限界まで使っていくんだ』


 理にはかなっているがその媒体ってなんなんだ?


『私だよ。私と喋っている間は魔力を使わないが他の、例えばこの娘だ。君はこの世界の言葉を喋れないから本来ならこの娘と会話する事が出来ない。だが私が君の言葉を私が翻訳し君の口からこの世界の言葉を喋らせている。そんな事、ノーリスクで出来ると思うかい?』


 俺の魔力を使って翻訳して喋らせているっとことか!


『そういう事だ。だから君は私を持ってこの世界の人間と会話しているだけでおのずと一般人並みの魔力を得るだろう』


 分かりやすい説明と翻訳を行ってありがとうと言いたい所だが、その理屈で言うと昨日の疲れはお前のせいじゃないか!?


「魚焼けたから、食べて」

『らしいぞ。そら、餓死する前にしっかり食べるんだな』


 オウセンに謝らせたかったが空腹には勝てずに少女から魚を手渡され、食事にすることにした。

 日本の川によりも綺麗な川で捕られた魚だからか分からないが、この世界での初めての食事はとても美味しかった。






 食事を終え今後の事を話す為に少女に話しかける。

 

「魚美味しかったよ、ありがとう」

「どういたしまして」

「君は長い事ここに住んでいるのかい?」

「……そんな話よりももっと大事な事があるんじゃない?」


 バレていたのか、前置きを述べてタイミングを計ろうとしたがバレたのなら仕方がない。


「……ああ、分かった。単刀直入に言うと、俺はこの世界に転生した春香と蒼汰、俺の妹と弟分を探しに行きたいんだ。その際に申し訳ないがオウセンを貸していて欲しい。俺はオウセンがいないとこの世界の言葉が分からないから探そうにも探しようが無くなってしまう。君の様な幼い子をこんな所に1人にするのはハッキリ言って心苦しい。ちゃんとした生活が出来る様になるまでサポートしていきたいと思う気持ちはあるんだが俺にとっての優先順位は春香と蒼汰を探す事なんだ。だから、2人を見つけて無事だという事が確認出来たら必ずオウセンを返しに、そして君がちゃんとした生活を出来る様になるまでのフォローをしに戻ってくるからここで待っていて欲しい」

「…………」


 悩んでいるのか、無言で見つめてくる少女。


「そんな話じゃなくて!! もっと大事な事があるんじゃないの!?」

    

 怒られた。そんなことって……。俺にとってはめちゃめちゃ大事な事だったんだが。


「名前!! 名前は決まったの!?」

「え!? 大事な事ってそれ!?」

「他にないから!! もう待ったから早く付けて!」


 なんて我儘なやつだ。確かに君って呼んでたから俺としても呼びにくいしこの子からしてもそんな風に呼ばれたくもなかっただろう。

 名前か……。決まって無い訳ではない、実は一番最初に名前を付けろと言われた際真っ先に付けようと思った名前がある。とてもしっくりきて可愛らしい名前だが安直すぎると思い他の名前を探し検討したがやはりしっくり来なかった。そこまで名前が欲しいならぴったりなこの名前を付けてあげるか。


「分かった、変な名前だからって文句言うなよ」

「可愛くなければ文句は言うよ」

「なんて我儘な……」

「それで!! どんな名前なの!?」

「君の名前はサクラ、なんてどうだ?俺のいた世界に桜の木と言って春の時期にしか咲かないピンク色の綺麗な花びらをつける木があるんだ。初めて君を見た時その髪の色がとても綺麗で桜にそっくりだなと思ったんだ。割と俺のいた世界でもよく付けられる名前で安直かもしれないがどうかな?」

「…………サクラか~」


 空を見上げ、サクラという名前を復唱し続ける。気に入らなかったのかと不安になるがいきなり顔をこちらの方に向けばっと近づいてきた。


「とっっっっても素敵で可愛い名前!! 凄く気に入ったから今日から私の事、サクラって呼んでね!!」


 満面の笑みをこちらに向けるサクラ、そんなに喜んで貰えるとは付けた甲斐があったというもの。


「喜んで貰えて嬉しいよ、サクラ」

「っっっっ!もっとサクラって呼んで!!」

「そんなに気に入ったの!?」


 その後もサクラは年相応に新しい名前にはしゃぎ、何回も何十回も名前を呼ばされる事になった。





 サクラの興奮が落ち着き始めた頃に先程話した事についてサクラにきちんと了承を得る為、話を再度持ち掛けるが。


「その話に関してだけど、行っちゃダメだよ」

「理由を聞いてもいいか?」

「理由はたくさんあるよ。まず1つにオウセンがいてもきっとお兄ちゃんじゃ見つけられない、見つけるのに途方もない時間がかかるって事かな。転生者がどの街にいるかも分からないだろうし、居場所が分かっても転生者は使命があるから一つの街に居続けられないから、居場所の情報を聞いても向こうはもう次の街に移動しているからいたちごっこになっていつまでたってもきっと追いつけない」

「転生者の使命ってなんなんだよ」

「色んな使命はあるけど主なのは魔王討伐かな」


 この世界には魔王なんてものもいるのか……。


「魔王討伐って事は2人はもしかして転生して学生から勇者へジョブチェンジしたのか!?」

「違うよ、勇者は勇者でまた別にいるからね。どちらかというと勇者パーティーの戦士とか僧侶みたいな役目かな」

「でも魔王討伐って凄い危険なんじゃないのか……?」


 そんな事をしていたらもしかしたらこの世界でもあの2人は命を落とすんじゃ……。


「うん、力が無い人が行う場合はとても危険だね。でも転生者はそれを成し遂げられるだけの力を転生時に授けられているの。正直言ってこの世界で転生者に勝てる生物はほとんどいないよ。だから2つ目の理由がそれ。お兄ちゃんが確認しに行くまでも無く無事は確約されているの」

「そんな事は見てみないと――」

「3つ目の理由、これがハッキリ言ってこれが一番大事だからしっかり聞いてね。貴方はこの世界では弱すぎるの。この世界の一般男性以下の弱さなの。前に私を助けてくれた時もオウセンがいたから貴方は勝てただけ。身体能力が低ければ魔力も絶望的に低い。この世界の言葉もきっと読めないだろうし追剥にあったりしたらオウセンを取られ言葉も分からなくなる、最悪命を落とすかもしれない」

「そんな事は……」


 ないとも言えない。俺は確かにサクラを囲んでいた男達にオウセンがいなければ勝てなかっただろうし。


「それでも、それでも! 2人の無事を、声を聞きたいんだ……。俺の目の前で……。死んでしまった2人の声を、姿をもう一度みたいんだ……」

「……それはどうしてもなの?」

「どうしてもだ!」

「……分かった。名前付けてくれたお礼をしてあげる。ちょっと出かけてくるからここで待っていて、明日の朝には帰ってくるからこの森から出ないでね……」

「ちょっと待って! どこに行くんだ!?」


 俺の言葉も聞かずにサクラは森の中に入っていく。追いかけに行こうと思ったが待っていてと、森から出るなと言われてしまった為どうすればいいか分からない。


『大丈夫だ。サクラを信用しろ。朝に帰ってくると言っただろう? 大人しく待っていようじゃないか。』


 でも、1人でどこに行くか分からないが昨日の様な事になったら危険だろう!!


『ふふっ心配するな。心配が不要だと自ずとわかる時が来る。そら、アキも人の心配なんてする前にやる事が腐るほどあるだろう』


 ……なんだ?


『言語の勉強に、身体を強くする鍛錬、後は鉄扇での戦い方をとりあえず学んでいくか。魔力に関してはふむ、喋る相手がいないのか。よし、誰もいない時は私との会話の口に出すがよい、とりあえず翻訳を行うだけ行って魔力を消費させていこう』


 それ全部やるのか!? 多くないか!?


『これでも必要最低限だ。私と一緒にいる間は怠けることは許さないからな、覚悟しておけ。後ちゃんと口で喋ろ、魔力を消費できないぞ』


 まじかよ、鬼じゃないか……。


『よしまずは、この言語から始めるか。サクラが帰ってきた際に自己紹介や挨拶が出来る様になってもらうぞ!』


 そうしてオウセンというなの鬼教官のスパルタトレーニングが始まった。

 言語に関しては単語の発音や意味を教えて貰いながら喋っていくという事を3時間ほど繰り返していった。英語に近い言語感覚だった為想像よりも頭の中に単語や意味は定着していった。

 3時間休みなくみっちり言語のお勉強をした後は鍛錬という名のいじめが始まった。


『次は身体を鍛えていくという事でふむ、あそこに転がっている石があるだろう。あれを持て』

「この石か? よっと、結構重たいな」

『そんな小石を持ってどうするんだ。その横に転がっている石を持て』


 オウセンが指摘した所には俺が持った石の4倍位の大きさの岩が転がっていた。さっきのですら10㎏ほどはあるだろうという重さだったのにこれを持てと……?

 とりあえず指摘通りにそちらの岩を持ち直すが。


「おっも!? オウセンさん!? 持ち上がらないんですが!?」

『もっと足の力を使って持つんだ! アキの力ならギリギリ持てるはずだ! 甘えた事を抜かさずにさっさと持て!』

「くっそぉぉ!! この鬼教官がぁぁぁぁぁ!」

『そうだ! そうやって足の力を使うんだ! よし持ったな、そのまま――――』


 石なのか岩なのか分からない物を持たされたまま川の中を歩かされたり持った腕を伸ばして維持させられたりと色々させられた。

 

 

 

 

 やっと終わった。もう無理動けない。仰向けに寝転がりそう呟く。鍛錬をする前は陽が燦々と照らしていたが今はもう夕暮れ時となっていた


『よし、鍛錬はこの位にしておかないと次の事が出来なくなるな。おい、いつまで座っている! さっさと立って次に行くぞ!』

「まだやるんですか!? 今日はもうやめない!? もう動けないんですが!!」

『アキ、君はサクラに言われただろう。アキはこの世界じゃ弱すぎるんだ。そこまで言われて強くなろうと思わないのか?』

「そこまで必死になって強くなる必要はないとは思ってる」

『これでもまだ簡単な鍛錬なんだがな。まあそれはいい、君はサクラの言っていた探しに行かせない3つの理由を覚えているか?』

「追いつけない、必要が無い、何にも出来ない雑魚だからだったか?」

『まあ簡略的だが間違えてはいない。これを聞いて君は気づかなかったのか?』

「……なににだ?」

『この3つは君が強くなりこの世界で誰の力も必要とせずに生きて行ける様になれば全てが解決するんだ。強くなり魔法が使える様になれば追い付くことなど容易い事だ。勇者の共に必要とされ戦果を挙げれば2人を戦線に向かわせない様にも出来るだろう。強くなれば追剥に合っても追い返せる様にもなる。強くなればアキ、2人を救う事も助ける事も出来るんだ。これを聞いても強くなる必要はないと思うか?』

「…………」


 2人を救う為、無事に過ごして貰う為に強くなるか。確か昔もそんな理由から強くなろうとして色んな所で喧嘩ばっかりしていた気がする。


「強くなると本当に2人の為になるのか?」

『間違いなく、とは言えないがな。君の妹達は圧倒的な力を現在手にしているからそれを超える強さを手に入れるのは容易ではない。更に君が強くなっている内に妹達も強くなるだろう。だがそれよりも速くアキがどこまでも強くなればいずれは2人の強さを追い越して君の望むままの未来を手に入れられるだろう』

「お前の言葉には何故か分かんないが説得力があるんだよなぁ~……」

『当たり前だ、私はアキがそこまで強くなると信じて疑っていないからな。言葉に説得力も生まれるさ』

「くっそ、そこまで言われたら、2人の為になるなんて言われたら休んでなんていられないだろうが……!」

『ふふっ全く君は単純だな。だがそれがアキの強さだ! よし次は鉄扇での戦闘術だ! 私が言う様に構えて言う通りに鉄扇を振れ! その際に相手の動きを想像しながら、しっかり考えながら動け!』

「注文が多い奴だ! 了解! 俺はどこまででも強くなってやるからしっかり一番傍で見とけよ!!」


 その後は構え・型・敵の動きを想像しての回避、反撃方法をしっかりとレクチャーされしっかり体力も魔力もいつの間にか底をついていたのか気付けば地面に横になっていた。


『この程度で精根尽き果てるとは、今後が思いやられるな』

「うるせぇ。こちとら色々初体験で疲れたんだよ」

『冗談だよ。どこかで根を上げ止めると思っていたがよく最後までやり切ったな』

「そういう誉め言葉は憎まれ口を叩く前に言って欲しいんだがな」

『ふふっ、そういうな。アキと話していると、アキを今みたいに育てていると遠い昔の事を思い出してな。楽しくて仕方がないのだよ』

「遠い昔って元々の持ち主、サクラの父親との事か?」

『ああ、彼もそうだな、一緒にいて私を退屈させなかったな。惜しい人物を亡くしてしまったものだ』

「あんま深く聞かない方がいい話だったりするか?」

『そうだな、彼の話は時が来るまで待った方が君の為にも、サクラの為にもなる。もう少しその事は待っていてくれ』

「分かった。それにしても初日からしごいてくれたからかもう意識が朦朧としてきたんだが」

『魔力がもう底をつきかけているからな、今アキは気力で限界まで魔力を使っている所だからそういう状態になってるんだ。ふふっ、あまり無理したら昨日の様に気絶するぞ』

「笑い事じゃないだろ、全く。あー腹減ったが食うもん何にもないし、また明日でいいか。俺は眠いからもう寝るぞ」

『ああ、お疲れアキ。良い眠りを』

「ああ、お休み」


 限界まで魔力と体力を使ったからか、その一言を喋ってから俺の意識は途切れた。








「おっきろーーー!!朝だよーーー!」


 耳元で爆音がなり飛び起きる。なんだ!? 地震でも来たのか!?


「ってサクラか、おはよう。もう帰って来ていたんだな。人が折角気持ちよく寝ていたものをたたき起こしやがって、うるさい声のせいで完璧に目が覚めたじゃないか」


 目を開けると耳元にサクラがいた。出会った当初は寡黙な大人しい子だったのにたったの1日2日で何故こうなったと思うほどの豹変っぷりだ。


「おはよう! 折角このサクラちゃんが朗報を持ってきてあげたのにそんな口の利き方でいいのかな~?」

「朗報? 何の事だ?」

「転生者の情報と居場所だよ。教えてあげようと思ってたんだけどそんな態度だから教えてあげないでおこうかな~」


 転生者の情報と居場所!? 春香と蒼汰の事か!? 何でサクラがそんな事を!!


「サクラの見目麗しいお姿を見て俺はとても最高の朝を迎えた! ありがとうサクラ!!」

「よろしい! とりあえず情報と居場所について説明していこうと思うから、魚焼いたから食べながら聞いて」


 昨日と同じ魚を捕って来たのか手渡され、食べながらその情報を聞いた。

 まず転生者は2人組で黒髪の少女と茶髪の少年。少女の方は身長160cmほど少年が170cmほどで黒い瞳。一昨日までは王都に居たが魔王討伐祈願と生誕の祝福を受ける為にセフィロトの樹に現在向かっている最中で今日の夕方辺りにはセフィラ街に着く予定らしい。


「……特徴は2人と一致している。でもサクラ、どこからこんな情報を持って来たんだ?」

「今は詮索しないで。とりあえず今は12時ほどだから無事を確認したいならさっさと準備して! 多分今日セフィラ街で宿を取って明日セフィロトの樹に向かうと思うから明日はあまりチャンスは無いと思ってね。」

「聞きたい事はあるけど、とりあえず今はいい知らせをありがとう!」


 2人に会える! 今後の事は何も考えてはいないがとりあえず2人に合わない事には俺は安心が出来ないし色々と始まらない気がする。


「よし、飯も食ったし2人に会う為にも準備するか!」


 準備の為に立ち上がろうとしたその時、全身に激痛が走る。


「いってぇぇぇぇぇ!!」


 痛い、めちゃめちゃ痛い。立つこともままならない。この痛みまさか……。


「オウセン!! お前やってくれやがったな! 全身筋肉痛で動けないだろうが!!」

『ふふっ、すまないな。まさかそこまで絶叫するほど痛いとは思わなかった。どうしても動けないならサクラに治して貰う様頼んでみろ』

「サクラ! 身体が痛い! 治せるか知らんが治して!」

「もうっ、昨日何してたのよ。しょうがないなぁ」


 頬を膨らませながら面倒臭いなと呟きながら俺の身体に触れるサクラ。


「ヒーリング」


 そう呟いた瞬間、身体の周りが温かい光に包まれる。3秒ほど光に包まれているとサクラが手を離す。


「まだ痛い?」


 身体を動かす。どこも痛くない。


「全く痛くございません」

「そ、なら早く準備しないと会えなくなるよ」

「了解いたしました」


 凄くないこの世界? 今のも魔法なの? 魔法マジ万能すぎ、てかサクラ様凄すぎでしょ。火だけじゃなく回復魔法まで使えるとか。


『さっきのはヒーリング。光魔法の中級魔法だな。外傷や今の様に筋繊維の修復まで可能だ。サクラは属性の素質はほぼ全部持っている。今後ヒーリングにはお世話になり続けるはずだから関係を悪くして、ヒーリングを使って貰えないなんていう状況だけは避けておけよ』


 何を言ってるか理解できんが凄い。とにかく凄い。

 身体の痛みから解放された俺は目の前にある清流で身体を清め二人に会いに行く準備をする。

 たった2日ぶりなのに2人にこれほど会いたいと思うなんて3日前の俺には到底想像できなかっただろう。

 

「よし、準備できたぞ!」

「じゃあ街に行こうー!」


 

 2人に会いに元気よく家と呼べるか分からない場所を飛び出し、街へと向かうのだった。

  

 

 

 最後まで読んで頂きありがとうございました(*´ω`*)

 次はしっかり転生組を出して話をどんどん進めていきたいと思うので早く読みたいなど思って下されば是非ブックマークの方をよろしくお願いします!

 後は毎回うざいと思われるかもしれませんがお時間があれば感想やレビューを思ったままに書いて頂ければ作品品質向上に繋がるのでよろしくお願いします(^^)/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ