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鉄扇使いは成り上がる  作者: マルクゥ
1章 異世界突入編
5/14

転移と転生

 閲覧ありがとうございます!

 やはり我ながらいいものが出来たと思うので閲覧ついでに最後まで読んで頂けると幸いです。




 吹き飛ばされながらそこに誰かいると思ったが俺の後ろには少女しかいなかった。


「謎すぎるだろ……」


 仰向けになりながらそう呟く。自滅不意打ちとはこの事だろう、殴ってくる男を無視してよそ見をするのだから。でもしょうがないじゃん? このやばい状態での第4者が介入してきて正義の味方の如く助けてくれるかも的な事を思ってしまったのよ。まあ結局誰もいなかったが。しかもそんなのがいても仲間な訳が普通に考えたらないじゃん。

 不意打ち気味の一発のお陰でとても効いた。独りならもう立ち上げることも諦めちゃう位効いた。考えてみろ、10分ほど前にもぶっ飛ばされてその後の少女を抱えての全力疾走からの今だ。それよりも前にもてんやわんやでスタミナなんて全然残ってない状態でのあの一撃。舐め腐りやがってこの野郎馬鹿野郎。まともな思考回路じゃいられねえよこの野郎。

 だがそんな思考回路でも分かる事がある。後ろの少女は何があっても守らなければならない。お情けでも義理でも何でもない俺個人の感情だ。この位の年齢の女の子が男相手に手を出されかけ怯えてる状況にはトラウマがあるもんだからおちおち寝ている訳にはいかない。根性を入れて立ち上がる。


「変な所に仲間を隠してやがるな……。そいつに俺へ声をかけさせその内に不意打ちとはやってくれやがったな、正々堂々と来やがれよ卑怯者が!」

「何言ってるんだよ兄ちゃん、頭打ち過ぎておかしくなったのか? 俺と兄ちゃん以外誰も喋ってないのに兄ちゃんがいきなりよそ見しだしたんだろ…………」


 可哀想な目で見られた。全くその通りだが、相手のせいにしてないと色々と納得がいかない。


『そうだぞ少年。立ち合いの戦いの最中に他所を向くなど愚かの極み。少年の状態からして次に一撃貰うともう立てないぞ。勝機を勝ち取りたいのなら集中しろ、手助けをしてやる。』


 へぇー!? さっきの幻聴じゃないのぉ!?


「どこのどいつだぁ!? 耳元でさっきから声かけて来てる奴は!? 出て来やがれ!!」


 パニック。ただただパニックに陥る。

 いや本当に誰なの? ぐるぐると四方八方を見るが誰もいない。誰も喋っていない。男が言う様に殴られ過ぎておかしくなったのか怖くなった。


『落ち着け、あまり時間が無いんだ。少年の手元を一度見ろ。それが私だ。疑問はあるとは思うが今はそれで納得しない。守りたい彼女を守れなくなるぞ』


 また聞こえた。怖い怖い怖い、なにこれ。誰お前、てか手元見ろって? 手元になんかなんもないわ。と思いきや先ほど少女に手渡された鉄扇を右手でしっかり握っていた。


『そう、それが私だ。聞きたいことは後で答えてやるから今は敵を見ろ。私が敵の攻撃の軌道、タイミング、反撃方法を全て合図するから今は私に従え。必ず少年を勝利へと導いてやろう。どうせ少年だけだと勝てない相手だ、それなら謎の第4者に戦いを任せても興と言うもんだろう?』

「くそ! 訳が分からんが約束は守れよ! 何が何でも今はここを凌いであの子を守る! それが最優先事項だ!」

『心得た! 約束は必ず守ろう! 少年、男のパンチが来るぞ! 左に避けながら腕が伸びきった所で腕を引っ張れ。そうすればバランスを崩すから顔面めがけて膝を入れろ。その後私で右耳付近を思い切り叩け!』


 そう言われると同時に男が走ってくる。この男には2度も吹き飛ばされてる。こんな訳の分からない鉄扇の言う事なんか聞きたくはないが言う事を聞くしか悲しい事に道が無い。物は試し、言う事を聞いてやる!


「なにをごちゃごちゃ1人で喚いているんだこらぁ!」


 左ストレート、言われた通り身体を左に入れ躱す。避けられたと分かった相手は腕を戻そうとするが戻すよりも早く思い切り腕を引っ張る。思い切り前のめりにバランスを崩した所に顔面へ膝蹴りし耳横を鉄扇で振りぬく。

 そのまま男は横にうつ伏せに倒れそれを見ていた男達が叫びながら襲ってくる。


「武器を使うなんて卑怯な真似しやがって! ただじゃおかねえぞ!」

「全くの正論だ! その点に関しては反論は出来ないな!」

『そんな事を言っている場合は無いぞ! 少年の動きは軽く俊敏だ。後ろの壁まで走り思い切り壁へジャンプし壁を蹴飛ばせ! その勢いのままバク宙の様に宙返りしろ! その後着地さえしっかりできれば少年は敵の後ろに回っているはずだから後はわかるな?』

「何にもわからないよ!? てかそんなこと出来る訳ないじゃん! 俺はピエロか!? 別の作戦寄越せ!」

『そんなものはない! さっさとやれ! 先程は私を信用し少年はその策通り上手く立ち回り一人を倒した。何、同じ要領だ。私をもう一度信用しろ!』

「くっそぉぉぉ! 死なばもろとも毒を食らわば皿までだぁぁ!!」


 意味不明な単語を叫び後ろへ振り向き全力疾走。てかあの子がいるから出来なくね?と思ったが都合よくしゃがんでいた為そのまま頭を飛び越し、壁を蹴った。

 蹴った瞬間に分かった。

 あ、これ無理じゃね?無謀すぎるだろと


『大丈夫だ少年! 自分を信じて全力で、壁を破壊するつもりの勢いで踏み抜き飛べ!!』


 言われるがままに全力で踏み抜き飛んだ。視界が壁を見ていたはずがいつの間にか夕暮れになりかけている空を見ていた。


『そのまま男の頭を両手で持って足を上げ、男達の後ろへ回るんだ!』


 男のハゲ頭に手を乗せ身体のバラン スを整え男達の後ろへと飛ぶ。これじゃバク宙じゃなくバク転だ。

 そのまま足も重力により下へ向き視界も元に戻り男達の後頭部が目に入る。


『着地をミスれば少年の今の挑戦が全て無駄になる。細心の注意を払いしっかり着地しろ。しゃがむな、こけるな、立って着地しろ。』


 なんと無茶な、初挑戦の初心者に言う言葉ではない。だが、この言葉通りにやってみて分かった。失敗する気が欠片もしないって事に!

 そのまま足が地面に辿り着き、鉄扇の懸念を打ち消すかの様な見事な着地をしハゲ頭めがけて鉄扇を振りぬく。

 ハリセンで叩いた様な高い音は出ず、鈍い音だけを響かせて男は倒れていく。


『よし、あと1人だ。殴り掛かってこずに一撃貰う覚悟で少年を捕まえに来るからその一撃に全身全霊をかけ顎を私で打ち砕け! それでお終いだ!』


 予知能力が如し男は走って特攻をかけてきた。不思議な気分だ。訳も分からない鉄扇を渡され、何故かその鉄扇と会話して、言う通りに動いたらものの見事にゴリゴリマッチョを2人も倒したんだからな。予知能力チックな能力も会話機能付き扇子という事も凄い。だがなによりもっと凄いと思えることがある。少ししか会話をしていないのに何故だか分からないが、無二の親友の様な心地良さを話していて感じる。訳の分からない場所でまともに会話が出来る数少ない、ほぼ唯一といっていい相手だからか、はたまた途轍もなく気が合うのかは分からないがとても心地がいい。ああ不思議な気分だ! 無機物相手にこんな事を思うなんて!


「これでお終いだぁぁぁぁ!!」


 右手を思い切り振り上げ、男の顎を打ち抜く。そのまま突進が止まり倒れるかと思いきや目がまだこちらを見ていた。この目に見覚えがあった。先程俺を吹き飛ばした男も俺に殴られた時にこんな目をしていた。

 とっさに下がろうとしたが下がってさっきは殴られてしまった。だから今回は。


「この嘘つき野郎が! 恥をかかせやがって! 死ねぇぇぇ!」


 と鉄扇と男に向けて叫び顔面へハイキック。男も俺を殴り飛ばそうとしていたが、顎に食らった一撃のせいかふらつきながら動きが遅い。

 俺のハイキックの方が早く相手に届きそのまま壁へと吹き飛ばす。


『嘘つきとは心外だな。君の膂力が思いのほか弱すぎたのだ。だが、その後の対応は見事だった。少年は力はとても弱いが戦いの場に慣れている様だ。それは少年の強みだ。覚えておくといい』

「何様だよ。とりあえず何とかなったからいいものの」


 作戦自体は俺の能力を考えて全て作られていた。相手の動きを読み、俺でも出来るギリギリの範囲で作戦を立て無傷で勝利。この鉄扇、化け物である。




 ひとまず男達相手に勝ったはいいがいつ起き上がってくるか分からないのでこの場を去る事にした。


「怖い思いさせたね、立てる?」

「……………………」


 左手を差し伸べる、今度はちゃんと手を取ってくれた。そのまま立ち上がり手を繋いだまま路地を少し彷徨ったが何とか抜け大通りまで出た。


「よし、家の近くまで送るよ。親御さんも心配しているだろうしね。あ、そうだこれも返さないとね」


 そういい右手に持っていた鉄扇を返す為少女の方へ鉄扇を向けるが、


『何だ、返すのか? 聞きたいことがあるんではなかったのか?』

「それはあるけど……。まあ俺の所有物じゃないしな。助かったよ。それにしても喋る鉄扇何か持ってるなんて先に言ってくれないとお兄さんビックリしちゃったじゃないか」


 聞きたいさそりゃあ! だけどこの少女はきっとあの場を乗り切る為に武器を、天才的に賢い武器を貸してくれたに違いない。自分ではきっとどんな作戦でも勝てないからと。なら返さないといけない。きっととても貴重で大事な武器なのだろう。喋る鉄扇とかなんだったらルーヴル美術館に置いてても何ら不思議でもないほどやばそうな物だし。


「……私はそれあげるって言ったんだけど」

「……貸してあげる的なやつじゃなくて?」

「譲渡する意味のあげる」

『良かったな。この天才的に賢く化け物で貴重な大事な武器を譲渡してもらえて。少年、君はとても幸運だ。』

「何言ってんだよお前、誰もそんな事一言も言ってないだろうが。勘違いも甚だしいぞ、恥ずかしい鉄扇め」

『口に出さずともそう思っていたではないか。そういう賛辞は口に出したほうが良いぞ。きっと今までそういう言葉を口に出さずに沢山の誤解を受けたのだろう』


 なにこの武器!? くっそ怖いんだけど! 人の考え読むの!? 呪われた武器じゃん!!


「俺こんなの要らないから返すよ!! この鉄扇呪われてて俺の手に負えない! 会話するわ人の心読むわお兄さんじゃ持て余すから返します!!」

「……やっぱり声が聞こえるんだね、お兄ちゃんは」


 ちょっと待って、お兄ちゃん呼びは恥ずかしいんですけど。春香以外にそんな風に呼ばれた事ないからこんな可愛らしい少女に呼ばれたらなんか背徳感もありとっても恥ずかしいんですけど。


「ってそうだ! ごめん。すぐに君を家に送らないと行けないんだった。お兄ちゃんはちょっと大事な用があってあまり時間が無いんだ」


 この子を助ける為に色々あった為忘れていたが春香と蒼汰の二人を探さないといけない。きっとこんな訳の分からない所に飛ばされて不安な思いをしているに違いない。


「……私、多分力になれると思うからとりあえず着いてきて」

「いや、君に迷惑かける訳にもいかないしとりあえず家に送るよ。その時にこの呪われた武器も出来ればお引き取り頂ければ」

『呪われたなんて心外だな。だが少年、ここは言う通りに着いていったほうが得策だと一応言っておこう。少年もこの世界に来たばかりでまだ不慣れの様だしな』


 この世界? この国じゃなくて? どういう事だ? それってまさか本当にここは……。


「おいこの世界ってどういう――」

「いいから着いてきて」


 鉄扇に話しかけ聞きたい事があったが少女に手を引っ張られ無理矢理歩かされた。この少女、めちゃめちゃ力が強いのである。少し抵抗して自分で歩こうとしたのだが抵抗空しく引きずられる形でそのままこの街の出口の所まで引っ張られる。


「ちょっちょっちょっ!! ちょっと待って! こっちはお外だよ! 大草原だよ! どこ向かってんの!?」

「……家まで送ってくれないの?」

「家どこにあるんだよ!?」

「こっち」


 引きずられながら外まで連れて来られた。片手にはパンを抱えていた為家の方を指さした時にやっと握っていた手を離してくれた。肩肘の関節が外れるかと思った……。こんなに力強いのなら……。え? さっきなんでこの子は男達に怯えていたの?

 指の方向を見るに指しているのは俺が目覚めた森の方角。そこを歩いて来た俺は知っている。あっちには村など無く森と草原しかない事に。


「……冗談?」

「本当だよ」

「マジのマジなやつ?」


 そう聞くと顔を頷かせ、また手を取り引っ張られた。


「分かった! 分かったから! きちんと、きちんと家まで送るから! もう引っ張らないで! 取れる、関節が取れる!」

「……………………」


 目をじっと見られその言葉を信用してくれたのか手を離してくれた。やっばい、変な子に関わってしまった。確かに男達に襲われている時は助ける以外の選択肢は俺にはなかった。だが男達を倒した後家に送ってくなんて言わなければ良かったと少し後悔しながら少女の横を歩き森の方角にある家へと目指す。




 それからどれ位たっただろうか。陽はまだ完全には落ちてはいないが辺りは暗くなり始めていた。草原を歩きながら少女と会話をしようと思って何度か話しかけてはみたものの返事はない。鉄扇も電池が切れたかの

様に一切話さなくなり静かな一時が続いた。

 だが、森の入り口が近くなった所で漸く少女が喋り出す。


「こっち」


 森の中を指差す少女。だが少女よ、その指の先には道は無いぞ。正確には整備された綺麗な道は無いというだけで獣道の様に何かが通った後のある道ならある。

 そっちに家があるという事はこの獣道は少女によって作られたものだろう。だが不安だ、俺はこのままどこに連れて行かれるのだ。鬼婆のいる屋敷に連れて行かれて食べられるなんてことは無いよな。


『大丈夫だ少年。この子は信用するに値する娘だ。言われるがままについて行けばよい』

「起きてたのか。俺はお前に一言だけ言っておきたい。人の心を読むな、いきなり話しかけるな、俺をびっくりさせるんじゃねえ」

『一言どころか3つほど小言を言うのか。贅沢だな少年。それはそうと身体の調子はどうだ?怠さや眠気を感じるか?』

「怠さと眠たさ? 言われて意識してみると確かにどっちも酷いな。色々あって疲れてるからかな?」

『心得た』


 そう一言だけ言うとまた喋らなくなった。

 少女はそのまま獣道の方へ入りどんどん進んで行く。

 道無き道を行くもんだと思っていたがこれが案外歩きやすい。所々に雑草が生えていて歩きづらそうに見えるが少女が通っている道だけ雑草が折れていて道が出来ている為少女と通っている所ををならって歩くという行為だけを繰り返していたらすらすらとストレス無く歩けた。

 それを20分ほど繰り返していると清流が見えた。森の中を歩いてた時に橋の上で見た清流だろう。

清流の傍まで行き止まる少女。見渡す限りには清流以外は何もない。家も小屋もそういうものは何もない。


「ここが私の家」

「どこのことかな?」


 うん。何を言っているのかな? 清流、もとい川しかないよここ。


「ほら、あれ」


 と指を指す少女。そこには焚火の跡があった。


「あれは焚火の跡だね。家ではないね」

「あそこが私の家」

「…………親御さんはどこかな?」

「いない」


 あー。これはあれか。俺は騙されたやつか、きっとここで何かが今から起こる。昼間のマッチョのお兄さん達よりも怖いお兄さんが出て来て頭に拳銃突きつけられて地下帝国で働かされるとか。


『大丈夫だ。そんなことは非現実的なことは起こらない。この娘を信用しろと言っているだろう。』

「ねぇさっきの聞いてたぁ~? 人の心を読むな! いきなり話しかけるな! びっくりするだろうが!!」

「…………お兄ちゃん、楽しそうだね。とりあえず火の準備するからお兄ちゃんが聞きたい話はその後でもいい?」


 えっー!? 笑ったよ今!? めっちゃ可愛いじゃん!? てかこの子こんなに長く喋れるんだ!? 何でさっきあんなに無視してたの!? お兄ちゃん悲しいよ……。


『君は情緒が不安定なのだな。私を手に取ってからその心を見させてもらってはいるが感情が豊かでとても愉快な時が続いている。ふふっ。笑ったのは何時ぶりだろうか』

「貶しているようでそれ誉めてんのそれ?言い回しが遠まわしすぎるような……」

『誉めているのだよ。君の様な人間が選ばれるのなんてどういう事なのだとは思っていたが……。少しの間君と触れ合って君という人間の人柄が分かった。そしてその素質に納得をしている私がいる。きっとそれが君が選ばれた理由なのだろう』

「何を言っているのかさっぱりだよ。詳しく説明求む」

『その必要はない。おのずと分かる時が来るさ。それはそうと少年、私と話す時は言葉を口にする必要はない。私は心を読むのだから』


 そういうのは先に言って欲しいな!!


『そうだ、それでいい。なに、言う暇もなかったという事もあるが律儀に喋っている君を見ていると心が和んでな。申し訳がない』


 いや謝られるとは思ってなかったから反応に困るな……。けど恥ずかしいようで便利だなこれ。


『そうだろう?こんな事出来るのは世の中広しといえど私以外には後1つの武器しかない』


 世界広しと言えどそんなのが1つ以上あることが俺には驚きだよ……。てかまだあるのか。


『それについてはまた今度にしよう。終わったようだ』


 少女が火をつけ終わったようでこちらを火の傍まで手招きをしていた。あれっ? どうやって火をつけたの? てか火をつけるのはやくなぁい?


「色々と聞きたい事がお互いにあると思うけどまずは体調大丈夫?」

「体調?鉄扇といい君といいそんなに俺はやわに見えるのかな?少し疲れと眠気はあるけど大丈夫だよ」


 実際は結構限界は近いが聞かなければならないといけないことが沢山あった。


「……そう。まずは名前を聞いていい?」

「自己紹介か。俺は常葉亜紀、年齢は17歳だ。出身は○○県の○○市で今日の昼くらいかな? ここの近くのでかい樹の根元で目が覚めたんだ。何言っているか訳が分からんだろうがこれが本当の事で俺自身訳が分からん。まず一つどうしても聞いておきたいことがあったんだけどここはどこなんだい?」

「…………」


 いっぺんに喋ったからか訳の分からん事を言ったからか黙る少女。


『ツネハアキか、不思議な名前だ。どこが性でどこからが名かも分からない。だが少年呼びは君も嫌だろう。今後少年の事はそうだな、アキと呼ばせてもらおう。 私の事も鉄扇と呼ばずにオウセンと呼ぶが言い』


 オウセン? なんだそれ? 人の名前を変とかどうとか言う前に自分も大概に変な名前だぞ。そして俺はお前に自己紹介をしたんじゃない。


「ここは神人大陸。さっきお兄ちゃんがいた街はセラフィ街。セフィロトの樹の傍にあるからそう名付けられたんだって」

「……………………………………は? 神人大陸? セラフィ街? セフィロト? 何を言ってるんだ。俺も流石にそこまで馬鹿じゃないぞ。そんな大陸俺の知っている地球にはない。もしかしてふざけている?」

「何もふざけてはいないよ。後さっきの話は訳分かんなくなかったよ、ちゃんと理解できた。貴方は転移者。きっと転生される人間に関わったんだね。」

「転移? 転生? 何が違うんだよ……。そうだ!? 今は西暦何年だ!? 2018年7月7日で合ってるよな!?」

「……。新魔6代15年7月7日、それが今のこの世界の年号だよ。後、転移と転生の違い? 転生は前の世界で死亡した際に……。よくは分からないけどこちらの世界に飛ばされるのが転生者。転移者は不運な事にも転生者の周りにいたことが原因により呼ばれてもいないのにこの世界に来る人。それが違いだよ」


 何だそれは? 何を言ってるんだ? 新魔6代15年7月7日? おちょくってるのかこいつは? それに、それに、それに! ……転生者は死亡した? 転移者はその周りにいた? 春香と蒼汰は死んだって言っているのかこいつは? 死んだ後にこの世界に転生してその周りにいた俺は偶然この変な世界に来たってことか? なるほど理解……。


「理解できる訳がないだろうが!! 2人は!! 春香と蒼汰は死んだってお前は言ってんのか!?」

「前の世界でその2人は死んでいると思う。そしてこちらの世界で転生している今もどこかで生きているはずだよ」

「それならなんであの2人は俺と同じ場所にいなかったんだよ!? 俺はでかい樹の所で目を覚ましている。2人は俺を置いて俺が寝ている間にどこかに行ったって言ってるのか!?」

「落ち着いて。転生者は使命があるの。そして使命を果たす為に特殊な方法で特殊な場所で召喚される。だから貴方と同じ場所で召喚されていないの」


 落ち着けってか? 落ち着ける訳が無いだろう。信じろってか? 信じられる訳が無いだろそんなトンデモ話!!


『一旦落ち着くんだアキ。この娘の言っていることは全て本当だ』

「本当なはずがないだろう!! 分かった、お前等2人して俺を嵌めるつもりなんだろう!?」


 怒りからか疲れからか吐き気と眠気が襲う。だが今寝る訳にはいかない。話をつけるまでは起きてなければ。


「…………ごめんなさい。私には聞こえないの」

「はっ?」

「オウセンの声は私には聞こえないから貴方がオウセンに何を言われて何を相談しているのかは私には分からないの」

「いや、でも。これ君の持ち物なんじゃ……」

「オウセンの声が聞こえる人はこの世では数が少ない。ほぼいないと言ってもいい。だけど私はその声を聞こえる人を探していたの。だから貴方をここまで連れてきた」

「え。じゃあ、何で、オウセンって名前知っているんだよ」

「お父様の形見だから。お父様から聞いていたから」


 形見って……。それじゃあこの子の父親は……。


「じゃあそんな形見を俺なんかに何であげるんだよ……」

「貴方は声が聞こえるんでしょ?なら私が私が探し求めていた人は貴方なの。後、それを持っていないと私達言葉を理解し合えないみたいだから、ないと不便でしょ?」


 いや、じゃあ。俺が言葉を分かる理由って……。


『そうだ。私がアキの心を読んでだな。簡単に言えば翻訳をしていたんだよ。だから私を握ってから君と戦った男達の言葉もこの娘の言葉も分かっただろう? 途中から意識していなかったみたいだがあれは全て私の力だ』


 なんなんだよそれ。そんな大事な事は最初に言えよ。なんか、話している内にすげぇ眠くなってきたし。

 くそ、もっと…………。話さないといけない事が…………。沢山……。あるんだけどなぁ――――。

 昨日からの疲れなのか、今日の出来事が忙しかったからなのか。陽はまだ完全に落ちていない状態で睡魔に襲われてしまい、俺はここで意識を手放してしまった。






 焚火の前で石に座っていたのにいきなり糸が切れたように私の方に倒れてきた。

 少し距離を開け横に座っていたのが功を制したのか私には当たらずにそのまま床へ倒れた。

 言語翻訳で魔力を使い切ったのだろう。魔力欠乏によるセイフティーが働いて睡眠状態になった彼を見る。

 サラサラな黒い髪が目元の辺りまで伸びていて癖はあまりない。髪の頂点辺りは少し跳ねているけどこれはわざとなのかな?

 起きていた時に見た目はパッチリしていてちょっとだけ幼さが残る顔だったな。

 黒髪は珍しい為少しだけ髪の毛を撫でてみるも起きる気配はない。

 よほど疲れたのかな? とは思ったが目の前であんな大立ち回りを見せられてはそれは疲れるな、と納得する。

 起きている時に質問されてばっかりで聞けなかったが本当は私も聞きたい事があった。


「なんで助けてくれたのかな?」


 1人で呟く。王扇を持つ素質をある人間を見つけた事により王扇からの返事があると少しだけ期待はしたもののやはり返事は無い。

 可哀想に思えたのか。お情けなのか。はたまた助けたお礼に私に何かをしたかったのか。

 前半2つは本人の口から聞いてみないと分からない。だが後者に対しては違うと断言出来る。


「優しい目をしてたな~。まるで幼子をあやす様な。私ってそんなに幼く見えるのかな?」


 少しばかり論点がずれてそれについて深く考えたくなるが今は置いておこう。前者2つに対しても実際は何とも言えず違う様な気がする。

 頭を撫でながらそう思う。何故ならこの人は弱すぎるのだ。戦いの経験は少しはあるようだがあの3人に比べてとても弱い。そしてそれを自覚している点があった。

 前者2つならそう思うだけで普通は行動に起こさない。きっと普通ではないのかな。


「不思議な人」


 転移者で、弱くて、普通ではなくて、王扇の声が聞こえて。本当に普通じゃない。

 きっと明日も目覚めてから色々と質問攻めにされて納得させるのが大変なんだろうなー、と思いながらパン屋の店主から盗んだパンを食べる。

 あのパンは盗んだ物でそれがバレて追い詰められていたって知ったらどんな顔するんだろう。

 ふふっと笑いが出てしまう。

 悲しむのかな? 怒るのかな? 軽蔑するのかな? 反応が楽しみだ。

 それを聞いたらもしかしたら私の元を去るかもしれない。


「でもそれは許さないから。貴方は王扇の使い手。それはもう逃れない運命なの。ていうかそれ以前に私が貴方の事気に入ったから絶対に逃がさないんだからね」


 そう呟き明日からの出来事に心を躍らせ、私は眠りにつく。


 最後まで読んで頂きありがとうございます!

 いい感じに話が進んできましたがまだまだ序盤、これからどんどん盛り上げていきたいと思うので続きが気になる方はブックマークの方よろしくお願いします!

 お時間があれば誤字見つけたり面白かった、つまらなくて訳が分からないよって方がいれば感想やレビューの方を思うままに書いて頂けると作品品質向上に繋がるので是非よろしくお願いします。 

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