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鉄扇使いは成り上がる  作者: マルクゥ
2章 武闘会編
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後日談1


 新魔6代15年9月1日。

 

 森を抜け、ノルウェスト街へ約束を果たす為1人で向かう。

 街の中に入ると色々な人達に声を掛けられた。

 ほぼ全員が顔も見知らぬ人ばかり。

 全く、一日で有名人になったものだ。

 声を掛けてくる人達を軽くあしらい、露店の広がる通りへ向かう。

 

 それから少し歩き、雪の様に白い髪の若い男性が働くアクセサリーの露店へ顔を出した。


「ちょっと見て行っていい?」


 前髪が目元の上まで伸びており、少し幼い印象を持つ店主だが、なんと俺よりも6歳も年上だ。


「いらっしゃい。何かお探しで?」


 店主の言葉選びに少し懐かしい既視感を覚える。


「妹へのプレゼントを探していてね」

「へぇ、いいですね。若い女性向けはこちらなので好きに見ていってください」 


 前回この店で見せられた商品は大体300セント~高くても5000セント程の物だった。

 

 ――――――が、何の嫌がらせか今見せられているのは優勝賞金でも買えない様な高額の品物ばかり。


「――――頭を打たれすぎて馬鹿になったか?」

「ごめんごめん冗談だよ」


 そう言うとすっと商品を入れ替え、お目当ての物が並び始めた。


「フィルってそういう嫌がらせするタイプだったか?」


 フィルとはそこまで深い仲というわけではないが、俺の知る中でこういう事をするタイプではなかった気がする。


「う~ん、僕自身もこんな事しないと思ってたんだけどね」

「ならするんじゃない」

「アキは今思うと僕にとっての初めての友達なんだよね。――――不思議とそういう事したくなっちゃって」

「好きな女の子に嫌がらせするみたいに言うな」


 俺じゃなければ気色が悪いと思うぞ。


「――――僕ってもしかしたらアキの事が好きなのかな……?」

「勘弁してくれ! 本当に気色が悪いぞ!!」


 悪寒が…………。


「流石に冗談だよ。でも初めての友達っていうのは嘘じゃないよ」


 …………信じていいのか?

 男に好かれたいと思う気持ちは俺には一切ないから冗談でなければ怖くてたまらん。


「けど元勇者様の初めての友達っていうのはそこまで悪い気にはならないな」

「家柄的にそういう俗物な事は許してもらえなかったし、家を出てからは生きて行く事に必死だったからね。でも、初めての友達がアキで良かったよ」

「…………照れ臭い事を言うな。それよりも買い物だ買い物。商品を見せてくれ」

「ふふっ、分かったよ。どれがいい?」

 

 様々なアクセサリーを手に取り、眺める事数分。

 結局手に取って気に入った物は前回フィルに勧められた王都で人気らしいバッテンの形をしたヘアピンだった。


「それでいいのかい? 確かにサクラちゃんにも似合いそうだね」

「だろ? 俺のセンスの良さをもっと褒めていいよ」

「うんうん、凄くセンス良いと思うよ。だからサクラちゃんとアキでお揃いでつけたらいいんじゃないかな?」

「なんでそうなるんだよ!?」


 発想が飛びすぎていて訳が分からない。


「アキにも似合うと思うし、女の子はお揃いが好きなんだよ? 後は二つ違う色の物を買っておけば色の選択をさせてあげられるから一石二鳥だよ」

「一理どころか二理くらいあるが。――――俺がこの如何にも女性向けのヘアピンを付けるのか?」

「アキは髪の毛が長いし変じゃないよと思うけど。ちょっと今つけてみるかい? うん、そうしてみよう!」


 意気揚々と人の髪の毛にヘアピンを付けようとするフィルだが、勿論全力で抵抗する。


「やめっ…………やめろぉぉっー!!」





 結局右手しか使えないはずのフィルに力負けてしまいヘアピンを無理矢理つけられ、中古となったと難癖までつけられ強引に2つ購入してしまった……。

 多種多様の色があったが、無難に赤と黄の二色を1000セント払って買った。

 …………仕返しにこの店の悪評でも流してやろうかと思ったがバレた時が怖い為、やめておこう。


「アキ達はこの街にいつまでいるつもりなんだい?」

「今日の夜はサクラと街のどこかの店で食事しようと思っているから明日にはここを出てエストゥ街へ向かおうと思っているよ」


 実際この街はに寄ったのは寄り道みたいなものだ。

 本来はもうエストゥ街へ着いていて、今後の方針を立て動いている予定だった。


「そうか…………。もし嫌じゃ無ければだけどアキの旅の目的を教えてもらえないかな?」

「どうした? もしかして旅に着いて来たくなったか?」

「それはどうかな。まだ心の整理がちょっとついてなくてね。でも、整理が付いたら僕も旅に出たり王都に戻ろうと思っているよ」

「俺の言葉が心に響いたか?」

 

 冗談気味に笑いながら聞いたがフィルの表情が暗くなってしまった。


「そうだね。アキのお陰で少し考えるきっかけが出来たかな。僕の事よりも今はアキの事だよ、もしかしたら少しだけ力になれるかもしれないし」


 そういう事ならと、今までの経緯をフィルに伝えた。

 こちらの世界に転移する時の事、転移してからの出来事、今後の目標を。

 そして春香と蒼汰、サクラの事を惜しみなく伝えた。

 不安そうな表情で、時には涙し、真剣に最後までフィルは聞いてくれた。



「――――――やっぱりアキは転移者だったんだね。それにしても妹と弟分の子が転生者様っていうのは複雑だね」


 目元を少し腫れさせ、涙を少しだけ浮かべながら共感してくれるフィルに、優しさを再度感じ取ってしまう。


「それはお互い様だろ? 全く兄より強い妹を持つ同士大変だよな」

「僕達の気持ちをちょっとでいいから考えてほしいよね」


 お互いに苦笑し合う。


「次はエストゥ街に行くのなら……。ちょっと待ってて」


 そう言い残し、便箋とペンを用意し急いで何かを書いている様子。

 書き終わってからはハンコを押し、便箋を封筒に詰めこちらに手渡してきた。


「エストゥにアルカンジュの分家があるんだけどそこへアキとサクラちゃんの紹介状を書いたから、もし路頭に迷ってしまったら訪ねて見て。悪い様にはならないと思うから」


 そう手渡された封筒を見てみたが、思えば字を読む練習していなかった為何一つ読めなかった。

 …………やっと喋れるようになったのに。

 まだまだ課題だらけだ。


「――――持つべきは元勇者の友だな。すげぇ助かる!」

「…………まああれかな。アキには少し世話をかけたし色々と思う所もあるからね、これ位はさせてよ」


 大喜びの俺に対し、少し引きつった笑顔のフィル。

 今まで友達呼べる交友関係が無かったと言っていたからあまりこういう事ではしゃぐのは慣れていないのだろうな。


「エストゥの真ん中にある一番大きいお屋敷だからすぐに分かるよ。後は門番に僕の名前と手紙を渡せば中に通してくれると思うから向こうに行っても頑張ってね」

「――――色々と助かったよ。この街でフィルに出会えて良かった」 

「僕もアキに出会えて良かったよ。後、最後にだけどエストゥまでの道のりでサクラちゃんに手を出しちゃ駄目だよ」 


 俺を何だと思ってやがるこの野郎!!


「そんな事をするわけないだろう! もしそんな事をしても俺は多分サクラに殺されるだろうな」

「いくら何でもそれは嘘だよ」

「…………サクラは中々に化け物じみた強さだぞ」


 サクラとの組手を思い出し、顔が引きつってしまう。

 あれでも一応手加減してるらしく、底が見えないほど強い。


「…………アキの顔を見ていたら嘘じゃない事が分かったよ。それだけ強ければサクラちゃんも武闘会に出れば良かったのにね」

「そうなんだけどそこまで乗り気じゃなかったんだよな」

「でも、それならアキがサクラちゃんを悲しませる事をしないだろうし良かったよ」

「安心してくれ。仮にも今は妹なんだ。頼まれても手は出さないさ」


 サクラへのプレゼントを購入し、エストゥ街での紹介状をフィルから頂き、もうここに留まる理由も無くなった。


「――――じゃあそろそろ俺は行くよ」

「うん。色々とありがとう。きっと僕達はまた出会うと思うからさよならは言わないよ」 

「当てになるのかそれ?」


 科学的根拠の無い台詞についつい笑ってしまう。


「僕の勘は割と当たるんだ。じゃあ道中気を付けてね」

「ああ。フィルこそ怪我早く治して身体には気をつけろよ」


 フィルへ別れを告げ、手を振って店を後にする。

 

『良き友を持ったな。――――――彼は強くなるぞ』


 そうだろ? それにしても珍しく静かだったな。


『友との別れの時くらい静かにするさ』


 良識があって助かるよ。


 



 街から一度拠点へ戻り、サクラを街での食事に連れ出す為に、説得を試みた。


「サクラ、明日にはエストゥ街へ向かう為にここを出るんだから最後にノルウェスト街へ行かないか?」


 普段のサクラなら嬉々として向かうだろう。

 そう思って軽く誘ってみたのだが、


「今は遊ぶ暇はあんまりないから行かなくていいかな」


 …………嘘だろおい。

 今までは暇だから構ってくれとか色々と我儘を言っていた女の発言とは思えん。


「何をそんなに焦ってるんだ? どうせ明日出発するし今日くらいは街に行ってもいいじゃないか」


 そう、明日に出発するんだ。何をそこまで切羽詰まる事がある。


「――――お兄ちゃんの目的は何? 楽しく旅をする事?」


 何時もの様な不機嫌な雰囲気ではなく、俺を試す様な、俺の真意を探る様な冷たい目をするサクラ。


「…………春香や蒼汰が戦わなくていい位に強くなる事とその二人が安心して過ごせる世界を作る事だ」


 その目的に嘘偽りはないし、片時も忘れた事はない。


「そうだよね。じゃあ今は何を優先してもやらないといけない事があるでしょ?」


 確かにそう言われるとやらなければならない事はたくさんある。

 

「…………武闘会で足りないと思った所の練習とかか」


 フィルとの戦いを経て足りないと思う所は色々とあった。

 打ち合いでは力負けをし、オウセンがいなければ魔法の対処は何一つ出来ず、相手の攻撃の癖を掴む事すら自分では出来なかった。


「――――動きの事だけじゃないんだよ。お兄ちゃんは知り合いだからって圧倒的に敵に対して甘さがあった」


 …………思う所はある。


「戦いにおいて敵の理由なんて関係ないんだよ。殺せる時に殺せる様になっていないと、今後その甘さはいつか自分の命を落としかねない」

「殺せる時にって」

 

 ――――そんな場面はない事を祈るしかない。


「それだけあなたは茨の道を進もうとしているって事だよ」


 サクラの言い分は分かった。

 確かに今後の事を考えると一日でも無駄にしない方がいいのかもしれない。


「分かったよ。本当は今日一緒に街で食事してその時にでも渡そうと思っていたけど、これあげるよ」


 サクラに二つの包装されたプレゼントを渡す。

 このタイミングでと思うかもしれないが、今からまたあの地獄の様な鍛錬をするんだ。渡せるタイミングは今ぐらいしか無いだろう。


「…………なにこれ? 開けていいの?」

「開けてもらわないと困る。とりあえず二つ開けて気に入った方を貰ってくれ」

 

 自分で言っていて失敗に気付いた。

 俺が一つ付ける前提で考えていたがその話はサクラは知らない。

 ここは二つともあげるよと言えば俺はあんな女の子向けのアクセサリーなど付けずに済んだのだ。

 そんな俺のちょっとした苦悩も知らずに包装を外し中を確認するサクラ。


「――――わぁっ!! すっごく可愛い!! なにこれ!? 私に一つくれるの!?」


 さっきの雰囲気はどこに行ったと思う様な、年相応の可愛らしい笑顔をこちらに向け喜ぶサクラ。


「赤と黄色か~! う~んどっちが私に似合うと思う!?」


 …………ピンク色に髪にどちらが似合うかと言われると何とも言い難いがどちらかを選ばなければならないこの状況。

 俺ははっきり言って自分で黄色を付けたいが、どうしたものか……。


「――――どっちも似合うと思うけどどっちかっていうと赤かな……?」


 無難で安全な回答を選ばせてもらう。

 こう答えておけば大丈夫だという春香との記憶が脳裏の片隅に思い出される。


「そっかぁ。そっかそっか~。分かった! じゃあ赤の方を貰うね! ありがとう、お兄ちゃん! 今つけてもいいよね!?」


 ご満悦の様子で俺としても選んでよかったと心から思う。

  

「ああ、いいよ。じゃあ俺も黄色のヘアピンをつけるか」


 お揃いのヘアピンをつけ、大はしゃぎで何度も似合ってると聞かれ、肯定する度に輝く笑顔を見せる姿を見せるサクラ。

 まるで初めてプレゼントを貰った子供の様なはしゃぎ具合だ。


「――――そういえば街に食事に行くってさっき言ってた?」


 ふと、思い出した様な顔で聞かれ、咄嗟に肯定する。


「………………しょうがないから今日くらい行ってあげてもいいよ」


 どんな心境の変化が起きたんだ。

 先程までは一日も無駄にできないと頑なに街へ行く事を否定していたサクラだったのだが。


「確かにもうこの街へ来る事は無いだろうし。お兄ちゃんの武闘会の優勝の祝いの意味でも…………。一緒に行ってあげる」


 これがプレゼント効果というやつか。

 今後もサクラの機嫌が悪くなったら何か買ってあげよう。


「でも、食事が終わったらいつも以上にいっぱい鍛錬に励んでもらうんだから! それは忘れないでよね!」


 語気を強めていうが顔はにやけており、先程の様な冷汗が流れる雰囲気はもうない。

 それからも何か色々と言いたげなサクラだったが、このままずっと聞き続けていたら陽が落ちてしまい今後の行動に支障が出そうだ。

 喋り出す前に、小さな柔らかい手を引き駆け足で街の方へ向かい、大好きなパンでも食べさせて今後の為にも機嫌を取っておこう。

 



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