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鉄扇使いは成り上がる  作者: マルクゥ
2章 武闘会編
13/14

アルカンジュ=フィルディア


 一回戦と二回戦はあっという間に終わった。

 接近し、攻撃を回避しながら懐に入り、扇技の黄金パターンで一撃でノックアウト。

 ――――元々俺は現実世界で喧嘩三昧で最強無敵の高校生だったのだ。

 この程度の結果などあの時の様々な伝説に比べればさもしょうもない物だろう。だが、この世界に来てからの戦績を考えたらこの結果は素晴らしいと言ってもいいだろう。


 何が言いたいか、この一言に尽きる。


 ――――――よっしゃぁぁぁぁぁ!!


 勝った、勝ったんだよ、勝ったざます!!

 試合前に舐め腐った目で見やがって!!

 ざまぁみやがれカスども!!


『ふむ、今日の勝利に大分興奮しているようだな』


 当たり前だ!! 完璧の結果だっただろう!!


『勝利に飢えていたのだな……。だがそれも仕方がないものか。アキはこの世界に来る前は戦いで負けた事が無かったのがこちらに来てからは――――辛い戦いばかりだったからな。…………今は喜ぶのはいい。だが、あの程度の相手で満足するのは頼むから今回限りにしてくれ』


 あの…………。めっちゃ哀れまれてませんか…………?


『今だけしか優しくしないからあまり気にするな』


 うわー。いつも通りのオウセンさんですね。

 ノルウェスト街近辺の森の拠点で疲れを取るためストレッチをしながら今日の勝利の喜びに噛み締める俺とそんな俺を哀れむオウセン。

 現在は夕方。

 二回戦が終わった後に知った事だが、準決勝と決勝戦は次の日に行うらしい。

 考えてみれば当たり前ではあった。

 シード組ではない俺ともう一人の予選上がりの勝ち残り組は相応の疲れを溜めているのにシード組に関しては体力が有り余っている。

 そういう不公平を取り除く為のルールなのだろうが実際とても助かっている。


「フィルディアの対策は大丈夫なの?」

 

 おいおいサクラ。何も年上のお兄さんを呼び捨てにしなくても……。


「フィルディアさんだろ? 無い訳ではないが上手くいくとも思えない」 

「どんな風に攻める予定なの?」 

「オウセンで魔法を無効化しながら接近し仕留める。まあフィルが魔法主体の戦いをしてきて近接戦闘が苦手な事が条件なのだが」

「その作戦大分安易すぎると思うけど…………」


 そう、フィルが蒼汰やハンシンクの様な身体能力を持ち合わせていたら絶望的に勝ち目がなくなる。 

 魔力量=強さではないという言葉を信じるしかないのだが現段階においてフィルの身体能力が未知数過ぎる為、実質問題他の作戦の立てようがない。


『それはアキがまだ実戦において経験不足だからだ。地形・魔力量など相手の身体能力が分かってなくても作戦を立てる為の条件なら大方揃っている』


 そんな事を言うんだったらオウセンが作戦を立てて俺に教えんしゃい!!


『それは君の成長に繋がらない。この武闘会、アキが作戦を立てて自身の持てる力を全て使って実行してみろ。目を見張る成長は今はないかもしれない。だが今後の君に必ずこの経験が役に立つ』


 …………とは言われたものの情報が少なすぎるからな。

 

「ちょっと街の広場の所まで行ってくる」

「下見なら私も行こうか?」

「いや、いいよ。俺が自分で作戦立ててフィルに挑みたいんだ」

「――――ふーん。つまんないの」


 

 夜の広場へ辿り着き、戦う地形を確認する。

 縦横25mのステージ。

 ステージを作り出している約625枚のブロック。

 ステージ上には隠れる場所もなく不意打ちなどはされないだろうし出来もしない。

 フィルの魔力は2000ほどで、勇者を輩出しまくっている名家の血が流れているエリート。


 …………どうやって作戦を立てろと言うんだよ。


『ふむ、ならヒントを与えよう。作戦を立てる時はまず自分と敵の能力を、そして地形を理解しろ。そこから解を導き出してもいいがそれは確実ではない。前の条件に加え敵の心情を突き、環境に頼り、そして罠を張れ。アキはまだ地形を理解しきれていない』


 ――――俺に軍師にでもなれと?


『軍師を前線で戦わせるわけにはいかんから、君は王となるんだ』


 王も戦っちゃいかんだろ!?

 …………後、どちらもお断りさせていただきたいね。


『ふふっ、冗談だよ。とにかくよくもっと地形を見てみろ。私が気付いてアキが気付けないはずがないんだ』


 ――――――もしかして、これの事をずっと言っていたのか?


『さあ、どうだろうな? 後はアキがそれをどう使い、どう作戦を立てるかだ。そら、あまり遅くなりすぎて明日疲れが残って戦えませんなんて事にならぬ様にもう帰るぞ』


 そうだな。にしても本当にお前は人の世話を焼くのが好きだな。


『何を言っているか私には分からんな。アキ、空を見てみろ』


 …………綺麗な夜空に、流星群か。


『ああ、曇り一つなき素晴らしい夜空に流星の群れだな。これは明日は目が痛くなる程の陽射しの快晴となるだろう』


 オウセンは知ってるか?

 流れ星に願い事を言うと叶うって言う話。


『君の前にいた世界の迷信の話か? 私は聞いた事がないな』


 夢が潰えるから迷信なんて言わないでくれ……。

 もし、そんな話があるとすればオウセンは何を願うのかなって気になってさ。


『私に願いか……。少し前までは願いらしき物はあったが叶ってしまったから今はない、訳ではないな』


 教えて欲しいって言ったら教えてくれるのか?


『そうだな、アキの願いを教えてくれたら考えなくもないな』


 俺の願いなんて知ってるだろうに…………。

 春香と蒼汰の記憶を元に戻す。

 後は、そうだな。サクラが安全に幸せに過ごせる環境を整える事くらいだな。


『――――意外だな。元の世界に帰らなくてもいいのか?』


 春香と蒼汰がもう帰れない世界に未練はないさ。

 あの二人との日常が俺にとっての唯一の大切なものだったからな。


『それにしてもサクラの今後についても考えているとは。情が移ったか?』


 そりゃ情の一つや二つは移るだろう。

 本心かどうかは分からないけど兄と慕ってくれていて、色々と世話になっているしな。

 サクラの事情はあまり俺は知らないけど、何とかしてやりたいと普通は思うさ。


『大変な夢だな。私もその夢が叶う様サポートするし、共に願ってやろう』


 おまっ!? そんな事言って自分の願い言わないやつだろうどうせ!!


『ふふっ、どうだろうな。明日の作戦を練らないといけないのだろうから早く帰るぞ』


 ――――まあ今はいい。今度落ち着いたときに必ず聞き出してやるから覚悟しておけ!!

 

『覚悟しておこう。それより、作戦は考えたか? もうあまり時間はないぞ?』


 考える暇が今なかっただろうし、オウセンは考えたかどうかは知っているだろう…………。


『アキがどんな作戦を立てるか、楽しみにしているよ』


 ――――俺らしいのを考えてやるから楽しみにしておいてくれ。





 新魔6代15年8月31日


 真上に位置する太陽の陽射しが目に刺さる程の曇りなき晴天。

 準決勝は去年の武闘会準優勝の大男の戦いで武器同士を打ち合ったが、準優勝の肩書きは伊達じゃなかった様で他の参戦者と比べてかなり重い一撃だった。

 一ヶ月前の俺なら多分受けた時点で吹き飛ばされていたかもしれないが、この一ヶ月で筋力と技術が幾らか身についた俺からしたら受けれ無い程では無かった。

 3合打ち合った所で上手く相手の一撃を流し、隙が出来た所に扇撃を決め俺は決勝進出を決めた。


「やっぱりアキが上がってきたね」

「フィルとやる前に負ける訳にはいかないだろう?」

「ははっ、本当にそれだけかい?」

「いや、ずばり賞金目当てだ!」


 決勝進出で1万セントは確定だからな。

 絶望的なまでの財政難だったからこの賞金はとんでもなく俺達のお財布には嬉しい。


「ならその賞金でちゃんと負けても僕の店で買い物してくれよ?」 

「負けたらフィルへの恨みで買いに行くかは分からんな」

「そんな事言って、僕に手加減させるつもりかい?」

「手加減なんてされたら俺は勝ってもフィルの店に買い物なんて行かないからな!」

「約束だし、僕はアキに嫌われたくないからね。手加減は絶対にしないよ」

「――――じゃあ俺は妹待たせてるし行くよ。ステージでまた会おう」 

「うん。また後でね」 


 フィルと別れ、観客席のサクラの元へ戻る。


「――――――お兄ちゃん、勝てる?」

「………やるだけはやるさ」


 フィルの試合は俺の試合の前に行われた。

 武器に刃のない鉄剣を使いどんな魔法かは分からないが剣に風を纏わせ近接距離から相手を風の力で場外へ追いやりあっという間に決勝進出を決めたフィル。

 

魔法付与(エンチャント)していた事から彼が魔法戦士だと先の戦いで分かったが、問題はあの身体能力だな。距離を縮める時の速さからしてアキよりも確実に身体能力は高いな』


 魔法はオウセンで無効化出来るから特に問題はない。

 だがあの速さで距離を詰められたら作戦は成り立たなくなってしまう。

 

「それでは武闘会決勝戦を行わせていただきます! 決勝戦進出者のアルカンジュ=フィルディア選手とアキ選手はステージまで来てください!」


「よしっ! 対策はまだ完璧に出来てないけど、呼ばれてしまったから仕方ない! 行ってくるよ!」


 不安で心は埋め尽くされていたが無理に笑顔を作り出発する。


「お兄ちゃん!!」


 観客席にいるサクラに呼ばれ、振り返る。


「大丈夫、お兄ちゃんは負けないよ。その、頑張ってきてね!」

 

 全く。顔を真っ赤にさせる位なら言わなければいいものを。

 だけど、身体はビックリする位軽くなった。

 

「ありがとよ!! 大丈夫、可愛い妹に応援されたからには絶対負けないから!!」

「――――――! 大声で何言ってんのよ!? 応援なんてしてないもん! バーカ!!」


 ゆでタコの様に真っ赤になって可愛いな、全く。

 

『緊張が解けたな。今ならあの青年が相手だろうと勝負になるだろう』


 そんなに緊張してたか?


『緊張と不安により身体の状態は最悪だったよ。だが、サクラのおかげでいつも通りの君に戻ったよ』


 なら何一つ問題ないな。

 俺の考えた必勝の策もある。

 後はそれを実行までどうやって耐えるかだけどそこは任せたぞオウセン。


『任された。全てアキで頑張れと言いたい所だが流石に少し分が悪い』 


 よし、なら行くか!!



 ステージへ上がり、先に中央で待っていたフィルの所まで行く。


「よろしくなフィル。肩を借りるつもりで全力で行かせてもらうよ」

「肩を借りるなんて嘘言わなくても大丈夫だよ。この決勝まで何か秘策を隠してそうだしね」


 流石に何かあるとバレていたか。


「それは試合が始まってからのお楽しみだ」

「とんでもない事をされそうで怖いな。でも何をされようとも全力で行くよ」


 お互いにふふっと笑い握手を交わし、10mほど距離を取る。



「それでは! 決勝戦を開始します!! 両者、試合を始めてください!」



「うぉぉぉぉぉぉぉ!」 


 先手必勝。

 ダッシュで距離を詰め、フィルに魔法を使わせる前に主導権を握りに行く。


魔法付与(エンチャント)! 風よ、我が武器に力を!!」


『何!? 上級魔法を3節だと!? アキ、相手の剣が空を切る素振りしたら私を突き出し無効化(レジスト)しろ!! しなければそのまま打ち合え!!』  


 距離を半分詰めた所で予想以上に速い詠唱に驚くオウセンの言葉に従い、更に距離を詰める。

 フィルとの距離が2mまで近づき、相手は剣を振り下ろす動作を、俺は振り上げる動作をし互いに数舜後には打ち合う体勢を取る。


「残念だったねアキ!! 僕の勝ちだ!!」


 恐らく、打ち合った瞬間に突風が吹き荒れ俺を場外へ吹き飛ばす算段なのだろう。


「それはこっちの台詞だフィル!!」


 ――――キュインッ!!


 剣と扇が激しくぶつかり合い、衝撃音と魔法を無効化(レジスト)した際の耳に残る音が響き渡る。


「なっ――――! 上級魔法を魔法無効化(マジックレジスト)だと!?」


 お互いに武器を競り合いながら無効化(レジスト)に驚くフィル。


『いまだ!! 一撃入れろ!!』


 分かってる!!

 驚きにより隙が出来たフィルに蹴りを入れようと足を上げる瞬間。


「ちっ! させないよ!!」


 ――――ガキンッ!!


 フィルの力の方が勝っていた為、競り合ってた武器を押し返され後ろの方へ吹き飛ばされる。

 

「くそっ、先手は取れなかったか」

魔法無効化(マジックレジスト)には驚かされたけど、そうやすやすと主導権を渡すとは思わないで欲しいね」


 …………手を明かしたからにはせめて一撃を入れたかった。


『大丈夫、魔法剣士相手に無効化(レジスト)は絶対的な有利だ。バレたからといって簡単に対策は出来ないだろう。それよりも打ち合うぞ! 敵の癖さえ見抜けば力で負けていようがどうとでもなる!』


 距離を詰め、再度同じ様に攻める。


『軌道、スピード、力はさっきと同じだ! 斜めに構え流せ!』

 

 ――――キンッ!


 上手く鉄扇で滑らせ剣を流し、振り抜いたフィルに隙が出来る。

 

 ――――チャンスだ!!


「扇技 壱の型 扇撃!!」


 開いている顎に向けて鉄扇を振り上げる動作に入る。


『違う! 正面に構えて顎をガードしろ!』


 オウセンの言葉に反射的に身体が動き顎を守る。


 ――――ガキンッ!!


 ――――なっ!! 剣の振り下げからの振り上げ連撃だと!? これ、扇撃と似ている!?


「――――聖天剣技壱式! アキがこれと似た技を予選で使った時は驚いたけど、これが本当の技だ!」

 

 振り抜かれた一撃で身体が持ち上げられ足が地面から離れる。

 宙に浮いている為どうしようも出来なく、そのままバックスピンキックを腹に決められる。


「がは――――っ!!」

 

 蹴られた勢いにより吹き飛ばされ床を転がる。

 フィルと10m程の距離が再度開き、追撃される前に立ち上がる。


『大丈夫か!? 大丈夫だな! 遠距離からの魔法攻撃で追撃が来るぞ!』


「火の精よ! 敵を燃やし尽くせ! ファイアボール!」


 直径50cm程の火の玉が6個、正面から飛んでくる。


『上級火魔法だ! 今の君にあれを全て払い無効化(レジスト)するのは無理だ! 大扇盾を使え!』


 くそっ! 本番で使うのは初だがなんとか行けるだろうか!


「扇技 弐の型 大扇盾!」


 鉄扇を正面に開いて構え、オウセンの中に魔力を少し込める。

 すると鉄扇が直径1m程のサイズに巨大化した。

 サイズが大きくなった事により鉄扇自体の重量も多少は増えるが持てない程ではない。

 

 ――――キュインッ!!


 全てのファイアボールはオウセンに衝突し無効化された。

 それと同時にサイズを元の大きさまで戻し、再度フィルとの距離を詰める。


「くっ! なんて武器だ! 上級魔法を無効化(レジスト)に形状変化なんてっ!」

「こんな武器でもないと俺みたいなのは相手にならないからなっ!!」 

 

 ――――ガキンッ!!


 さっきと同じ様な展開で4合目の競り合い。

 吹き飛ばされない様、足を踏ん張るがやはり力で負けている為じりじりと後ろへ押される。


『よしっ! 一旦距離を取って移動するぞ!』


 試合が始まって約10分程。

 指示に従いワザと相手の力を利用し、後方へ飛び距離を取る。

 

「逃がさない! 火と風の精よ! 敵を貫き穿ちたまえ! フレイムトルネード!」


 詠唱の終わりとともに、赤々と燃える風の渦が真っすぐ身体へ向かって伸びて来た。


『合成魔法も使えるとはな! だが、所詮は上級魔法、無効化(レジスト)だ!』


 ――――キュインッ!!


 オウセンを正面に構え、伸びてくる風の渦にぶつけると耳に残る音を残し魔法が消える。


「やはり駄目か…………。君を倒すには武器での攻撃しか無いみたいだね」


 そのまま追撃をされる前に太陽に背を向ける位置まで走り出す。

 

『敵との位置関係は完璧だ! 本当は実行前に何発か与えたかったが仕方がない、始めるぞ!』


「アキッ! この位置関係なら僕が眩しくて目を瞑るとでも思ったのかい!?」 


 フィルとの距離6m。

 そして眼前にはヒビの入ったブロックが一枚。


「ははっ!! 太陽が関係あると勝手に思っていやがれ!」


 オウセンに魔力を込め薄いバールの様な形へ形状変化させ、ブロックとブロックの間に突き刺す。

 

「おおぉぉぉぉぉぉ!!」


 てこの原理を利用しオウセンに全体重を乗せヒビの入ったブロックを持ち上げ、立たせる。


「なっ!? あれじゃアキが頼りにしている魔法無効化(マジックレスジト)の武器が破損する恐れだってあるのに……」

「悪いな。そんな事恐れてたら俺はお前に勝てないんだよっ!」


 縦横1mあるブロックを立たせ、その後ろに姿を隠し突きの構え行う。


『チャンスは一度きりだ。確実に仕留めるんだ』


 ――――分かってる。ここで仕留めてみせる!


「はあぁぁぁぁぁぁ!!」


 中央の大きなヒビに突きを繰り出し、それによりブロックが瓦解し数十個の石へと変わる。

 フィルの魔法で石を消滅させられるより前に間髪入れず宙に浮いて落下する前の石達をフィルに向かい蹴り飛ばす。


 1つ・2つ・3つ・4つ!


 そしてっ!!


「ちっ、詠唱が間に合わない! こんな悪あがき、全て弾き飛ばす!」

「1つ! 2つ! 3つ! そしてこれで最後! アキ、君の作戦はこんなも――――――!」 

 

 最後と思われた石を弾いた後にもう一つ俺は飛ばしていた。


 ――――俺の生命線のオウセンをな!!

 

 直線で石を蹴り飛ばし、フィルの意識が石に向く様にしオウセンをブロックを外して出来た窪みから、顔に向けて角度を付けて投げ飛ばした。

 全て弾いたと油断したフィルは回転して顔へ飛んできたオウセンを弾き飛ばす事が出来ず、バランスを崩しながら皮一枚の距離でオウセンを避けた。


「やってくれるっ!! だけどこれで君は魔法無効化(マジックレジスト)する事は出来ない――――――! アキッ! どこにいる!?」


 四方を見渡し俺の姿を探すフィル。

 そんな所にいる訳ないだろう!!


「――――――フィル!! 俺はここだぁぁぁ!!」


 俺の声によりフィルはとっさにこちらへ振り向く。


「なっ! 陽射しが!」


 声をかけると同時にパシッと回転させブーメランの様に飛ばしたオウセンを手に取り、


「おせぇぇ!! 扇技 壱の型 扇撃!!」


 フィルの直上近辺を飛んでいた俺は身体を捻って回転させ地面へ落下する力を利用し頭部へ一撃、着地と同時に膝のバネを最大限利用し背中と腕と膝の力で伸びあがりながら顎に向けて鉄扇を振り抜いた。


 ――――グシャッ!!


「が――――ッ!!」


 フィルの顔が空を向く様に跳ね上がる。

 だがおかしい。何か、感触が変だった。


『避けろアキ! 左腹部だ! 』


「がはッ――――!」 


 決まったと油断し避ける間もなく、鈍い衝撃が左腹部に走り衝撃と逆方向へ転がる。

 

 ――――右手に持っている鉄剣で反撃されただと!?

 扇撃が直撃したのに!?


『…………初撃は確実に入った。だが、二撃目は剣でのガードが間に合わないと判断したのだろう。空いていた左手を顎の前に置き二撃目の衝撃を逃された』

 

 …………あの一瞬でそんなこと出来るのかよ。


『――――アルカンジュ青年にも負けられない理由があるのだろう。だが、敵に情けをかける事はない。扇撃により間違いなく左手は砕け、確実なダメージを与えた。一気に攻めるぞ!』


 立ち上がり、フィルの様子を確認する。

 

「くッ、見事だよアキ。石と鉄扇を投げた後、石に被る様に走り出して僕の死角の位置に飛ぶ。そして君の得意技。まんまとアキの策にやられたよ…………。だけど、まだ試合は終わってないっっ! 僕が降参するとは思わないでくれ!!」


 フィルはもう立ち上がっており、右手のみで剣を握りこちらへ構える。


「――――左手、もう動かないだろう……? 何でこんな武闘会程度、勝ちにそんなに拘るんだ……?」

 

 賞金もそこまでする程の大金じゃない…………。

 これ以上やれば、簡単に治る怪我じゃすまなくなる……。


「…………僕の名前からどんな家柄かわかるだろう? こんな弱い僕でも昔は神童と呼ばれてて聖剣に選ばれた19代目の勇者だったんだ」


 フィルが勇者だった!? そうなのかオウセン!?


『…………早く攻めろと言いたい所だが、有益な情報がありそうだ。私は初耳だ』


「5歳時点で聖剣に選ばれて、8歳で魔力量1500を保有していて剣術や身体能力は低いながらも将来魔王討伐も期待されてた。だけど8歳の時に転機が訪れた」


「妹が生まれたんだ。エメリアと言ってとても可愛いくて、幼いながらも必ず魔王を討伐して魔物のいない平和な世界を作ると心に決めた」


『…………そういう事か』 


「――――だけど僕が11歳でエメが3歳の時、僕は勇者じゃ無くなった」


「聖剣はその時代の最も勇者に適している人間を第3者の目で判別し非情に、効率よく使い手を選ぶ」


「3歳でエメは勇者になった。――――もちろん納得いかなかった。僕の方が当時は能力的にも勝っていたし何より…………エメが戦場に行く事に僕は耐えきれなかった」


 その気持ちは…………。

 今の俺には理解が出来る…………。


「聖剣に僕こそが勇者と認めて貰う為に苦手だったアルカンジュ家の剣技を死ぬ気で覚え、魔法は上級魔法も2節まで15歳で縮めた」


「だけど、15歳で気付いてしまった。――――聖剣は今の強さじゃなくて潜在的な能力を見ているんだと」


「15歳の時、7歳の妹との初の手合わせが取り行われた。チャンスと思った、ここで聖剣に力を示せばまた僕が勇者にと思えたから…………」


「――――手合わせの結果は身体能力の差でギリギリ僕の勝った。8個下の妹に負けていたら僕はアルカンジュの名を剥奪され、家を出されていた。例えそれが勇者相手でもね」


「あの時は安堵したよ、まだ勇者を目指せると。だけどその日の夜僕は見てしまった」


「屋敷の裏庭でエメも僕もまだ使えないはずの勇剣の奥義を完璧にこなす姿を……」


「あれを見た瞬間、僕の理解した。――――哀れまれ、手加減をされたと……」


「次の日僕はアルカンジュの家を出て王都を去った。きっと、僕は勇者になれもしないし妹を超える事も出来ないと分かり、目指す物も無くなってしまったから」


「そこからは8年、僕は一人で生きるすべを探して今に至るよ」


 ――――――そういう事か。


「フィル、お前の事情は分かったよ。だけど俺の質問にお前はまだ答えていない。なんでそこまで勝ちに拘るんだ?」 


「僕は負ける訳にはいかないんだ……!エメの偉業はこんな辺境の街にも聞こえてくる。だけどそんな偉業も僕という兄が、アルカンジュがこんな小さな武闘会に負けたなんて噂が広がればエメの経歴に泥を塗り、足を引っ張る事になる。それだけはするわけにはいかないんだ!!」


「――――ならなんでフィルは参加する? 参加しなければ泥を塗る事もなければ足を引っ張る事もない」

「――――ッ! それはっ――」

「勇者への捨てきれぬ思い、それかアルカンジュ家への――――いや、妹へのメッセージって所か」

「何で君にッ!!」

「分かるさ、俺にも妹がいる。お前の考えている事は少しは分かるつもりだ」


 春香と蒼汰の笑顔が、幸せだった日々が脳裏に浮かぶ。


「だがお前の気持ちは分からねぇ!! フィル!! 俺はお前が強い敵だと、お前には負けるかもと思っていた。だけど今の話を聞いて分かった。俺はお前には!! 妹を捨てたお前にだけは何があっても絶対に負ける訳にはいかねぇっ!!」


「僕が妹を捨てただと……!? 訳の分からない事をほざくなぁぁ!!」


 お互いに走り出し距離を詰め互いの武器を打ち合う。


 ――――ガキンッ!!


「なんで傍にいてあげなかった! なんで一緒に強くなってあげなかった! なんで自分の妹の気持ちに気付いてあげなかったんだ!!!」


 ――――ガキンッ!!


 互いに武器を弾き、再度互いに打ち込む


「傍に入れる訳がないだろう! 圧倒的な才能の前で、エメの前で見っともなくもがく訳にはいかなかった! 何も知らない癖にずけずけと心の中に入ってくるなぁぁ!!」


 ――――ガキンッ!


「そうだ、俺は何も知らない。そうやってお前知らない人間に対して同情して欲しいんだろう!? 甘ったれるなよフィル!! 必死に強くなろうともがく事が見っともない訳ないだろう! そんな事本当は自分でも分かっていたんだろ!? それでもお前が強くなろうともがかなかったのは全てを諦めたからだ! お前が逃げた理由に家を、妹を使うんじゃねぇ!!」


 ――――ガキンッ!


「うるさいっ! 知ったような事を抜かすな! アキに僕の事が分かるはずがないだろう!! 綺麗事を抜かすな!」

「…………お互いに凄い妹がいると苦労するよな。――――少し前までよ、てんで弱くて俺が守ってあげないとなんて思ってたのに、いつの間にかあっという間に俺を軽く抜いて強くなってんだから。ビックリだよな、本当に。知らない間に救世主なんて呼ばれてて、魔王を倒す為に頑張ってるんだぜ…………」


 互いの武器がギリギリと相手を押し返そうと力を入れているさなか、両目から数滴の雫が垂れた。


「もしかして君の妹はッ――――。アキ、君は…………」

「それでも、どれだけ強くなろうとあいつは。あいつらは俺の大切な妹と弟なんだ!! 俺は絶対あいつらを危険な魔王討伐なんて行かせない。俺があいつらが必要無くなる位に強くなって魔王を討伐して平和な世界を作って見せる!! この決意が俺とお前の違いだフィル!」


 ――――――ガッキンッ!!


 何合目か分からない程打ち合い、お互いに距離を取る。

 フィルは左手の痛みと疲労により限界が近く、次の一撃で勝負は決まるだろう。


「――――次が最後だ」


 立っている事がやっとであろうフィルに向けオウセンを構える。


「…………そうだろうね。まさかアキが、転移者がこんなに強いとは思わなかったよ」


 習う様に片手で持っている剣をこちらに向け構える。





「「はあぁぁぁぁぁぁ!!」」


 お互いの声が広場全体に響き渡る。

 どこにそんな体力を残していたと思う程のダッシュで接近するフィルに負けじと距離を詰める。


「聖天剣技壱式!」

「扇技 壱ノ型 扇撃!」


 フィルの上段からの切り下ろしに対し、こちらは下段からの振り上げ。

 技を受けて相手の体力が切れてから止めを刺すのは簡単だ。

 だがフィルにそんな勝ち方を俺はするわけにはいかない。

 完全な勝利で勝つ。俺の為にも、フィルの為にも。


 ――――――キンッ!!


 鉄剣と鉄扇が、技と技がぶつかり合い火花を散らす。

 武器同士の角度が付いた打ち合い。

 

「――――なっ!?」


 フィルの驚く声が耳の近くで響く。

 驚くのも無理はないだろう。

 鉄剣の本来は刃が付いている部分を火花を散らしながら鉄扇が鍔の部分まで滑り迫ってきたからだ。

 だが、気付くのが少し遅かった。


 ――――ガキンッ!


 鍔まで滑らし、片手で持っている剣を弾き飛ばしながら飛び上がる。


「僕の負けみたいだね」

 

 空中で身体を捻り回転させ頭部を打ち抜く為、構える。


「ああ、今回は相手が悪かったと諦めてくれ!」

 

 

 広場にズドンッと鈍い音が響き渡り、一人の青年が倒れる。

 それと同時に試合終了のコールと観客の盛大な歓声と拍手が巻き起こり、新魔15年夏の武闘会は終わった。


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