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鉄扇使いは成り上がる  作者: マルクゥ
2章 武闘会編
12/14

アルカンジュ家 ☆ステータス更新☆


「もぉー!! もうちょっと早く帰ってきてよ! てか何なのあの試合、めちゃくちゃギリギリだったじゃん!? 今の鍛錬の量じゃ足りないんじゃないの!!」


 これはご立腹の様だ…………。


「いやーごめんごめん、本当にごめんな。仕方なかったんだよ。あの風魔法をオウセンで無効化さえ出来れば簡単に倒せたと思うんだけど何故かオウセンが無効化するなって言うもんだから苦戦しちまった」


 うん。本当に苦戦した理由はこれかな。

 徒党組んでいた敵も他の敵も接近戦全然動きが遅く、俺に分があった。

 魔法を無効化さえ出来ればすぐ接近戦に持ち込んで一撃入れてさえいれば苦戦なんてしなかっただろう。


「うるさーーい! 言い訳禁止!! それにあの場で王扇で無効化なんてしたら対策されて優勝できなくなっちゃうじゃん!! 優勝する気ないの!?」

「いや、ざっと他の試合見た感じ優勝出来そうじゃないか?」


 思った以上にこの一ヶ月の成果が出てるのか簡単に倒せるし。

 …………てか対策って誰から?


「――――私が言っているのは予選上がりの相手じゃないよ」

「……あー前回の優勝者と準優勝者の事かー。それでも案外こいつら位の強さじゃないのか?」


 そう思うと笑いがこみ上がってきた。

 これほど簡単にお金を稼げて経験を積めるなんていいものなんだ武闘会!!


「――――お兄ちゃんはこの武闘会が終わった後、王扇から魔力探知のやり方教わっておいて。これ、お願いじゃなくて命令だから」

 

 ……怖いから失言の度に睨まないでくれ。


『寝る間を惜しんで覚えるとするか。いつか命に関わる気がしてきたのでな』


 くそぅ。皆して言いたい放題いいやがって。


「そんな強いのがこの大会にいるってのか?」

「うん。どの位強いかっていうと――――お兄ちゃん、来客が来たよ」


 来客? 辺りを見渡し、見覚えのある顔がこちらに歩いてくるのが見えた。


「予選突破おめでとう。あんな状況で勝てるなんてアキは強いんだね」 

「ありがとう、フィル。いや、もう苦戦も苦戦、大苦戦だったよ。まあ何回やっても苦戦はしても勝つけどな」

「流石だよ。でも決勝トーナメントでもしアキに当たっても勝つのは僕だからね」

「あれ、もうフィルは予選すましたのか? いつの間にだな」


 確かにもうEブロックまで終えているので俺の気付かぬうちにさっと出場して勝ってしまったのだろうか?


「違うかな。僕は去年の功績で決勝トーナメントからの出場だから予選は免除なんだよ」

「――――えっ。じゃあフィルは去年優勝か準優勝したってことか?」

「まあそういう事だね」

 

 …………こんなに遅くてイケメンで如何にも戦いが苦手ですって男が?

 

 人は見かけによらぬって事か……。


「――――じゃあ、もしかしたら決勝トーナメントで当たるかもしれないけどその時はお互い手加減なしで全力で頑張ろう」 

「うん! アキとは必ず当たると思ってるから僕もそう言って貰えると凄く嬉しいし、頑張ろうと思えるよ」


 本当にいい奴だ。ここまでいい奴すぎると裏があるような気もしてこなくもないが、まあ流石に無いだろう。

 …………フラグじゃないからな。


『何を訳の分からない事を考えてるんだ。大丈夫だ、このアルカンジュ青年に裏はない。最もこの青年にはな』


 前もそうだったが、なーんか含みがある言い方をするんだよなー。

 ――――アルカンジュって何かいわくのある名前なの?


『――――青年がいなくなった後でもそれはいいだろう。どうやら青年は持ってないらしいし、もしかしたら誰かしらの噂話がアキの耳に入りでもして変に間違った事を覚えられてもお互いに不利益を与えるだろうからな』


 …………良く分からんがこの世界事態、分からん事だらけでもう慣れたからもう後でいいや。


「横にいる可愛らしい女の子がアキの妹さんなのか?」


 ん? なんで知っているんだろうか? と思ったら俺があの店に行った時に色々と喋ったからか。


「ああ。サクラっていうんだ。あんまり似てないだろう?」

「ははっ。確かに顔立ちはあまり似てはいないね」


 自分から言っておけばこれだけ似てなくても怪しさは減るだろう。 

 …………多分。


「サクラ、挨拶しておけ。フィルはアクセサリーのお店を持っているから仲良くなると、可愛い物を安く売ってくれるかもしれないぞ?」

「友達を人に紹介するのにその台詞は色々と間違っているんじゃないかな? 打算的な妹さんに成長するよ?」


 大丈夫。すでに手遅れだ。


「…………サクラ、です。兄がお世話になってます」

「僕はアルカンジュ=フィルディアです。こちらこそお世話になってます、サクラちゃん」


 椅子に座って挨拶をするサクラをつねってやろうかと思ったがフィルがしゃがみ込み、サクラに目線を合わせる。

 ――――年下の扱いに慣れているのだろう。そう思えるほど自然な動作だった。


「――――サクラちゃんはお兄ちゃんの事は好きかい? アキはサクラちゃんの事が好きで仕方がないみたいだけど」

「おいっ! 何てきとうな事を言いやがる!? 何を見て判断した!?」

「君を見ていると分かるよ。僕にも年の離れた妹が1人いるから」

 

 答えになっている様ななっていない様な事を言いやがって……。


「まぁ、嫌いではないかな……?」


 そして律義に答えなくてもいいじゃないかサクラさん……。

 答え微妙だし。


「そっか。良かったねアキ。嫌われていなくて」

「そうかぁ? 何とも言えない気持ちだよ、今の俺は」

「そうだよ。――――嫌われていないだけ全然よかったと僕は思うよ」


 何かを思い出している様な、懐かしむような顔を浮かべるフィルにかける言葉が何故か俺は思い浮かばなかった。





「それじゃあ僕はもう行くよ。丁度予選も終わったみたいだし、トーナメントの準備もあるからね」

「そうか。突然の来客のせいで全然他のブロックの戦いを見ていなかったな。これじゃ出場者への対策も取れないし、すぐ負けてしまったらその来客に責任を取ってもらおうかな」

「…………僕と結婚するって事かい?」

「ふざけるな! 何が嬉しくて男と結婚せにゃならん!? 売り物を安くして貰いたかっただけだよ!!」


 天然なのかこいつ!?


「そうならそうと言って貰わないと分からないよ。大丈夫だよ、アキは間違いなく勝ち上がるから」

「どうだかな。でも、フィルと戦う為にも対策がなくても頑張るさ」

「僕もアキと戦うのが楽しみだからお互いに頑張ろう」 

「そうだな、とりあえずもう行け。準備がしないとなんだろ?」

「うん。アキ、準決勝か決勝でまた会おう」


 フィルの背が遠くなるのを見ながら、サクラに一つの疑問を投げかける。


「…………警戒してたのフィルだろう? どれ位強いんだ?」

「――――魔力探知出来ない癖に良く分かったね」

「勘だけどな。――――あれだけ動きに無駄が無い奴が弱い訳ないしな」 


 フィルの一つ一つの動作はとても自然で流麗だった。

 日常生活から軸がブレ無いよう、無駄が出ない様気を付けているのだろう。

 …………一ヶ月間でオウセンに色々しごかれていたおかげで分かりたくもないのに分かってしまった。


「魔力量は大体2000ほどかな。流石はアルカンジュの名を持つだけはあるね」


 2000!? あのハンシンクでさえ1500だったのにか!?

 これは勝ち目があるのか……?


『勝ち目があるかは分からんがそのクラスの相手と戦うのはいい経験になるだろう。後前にも言ったが、魔力量=強さと言う訳ではない。付け入る隙は何かしらあるはずだ』


 兎にも角にも諦めるなという事か……。


「そういや、サクラもアルカンジュについて知っているんだ。なんなんだその名前?」

「う~ん。ちょっと説明するのが面倒なんだよね。王扇に聞いたら分かりやすいと思うしそうしといて。というか傷治してなかった!! ちょっと人のいない場所に行こ。傷治さないと」

「ここじゃダメなのか?」 

「――――光魔法使える人ってあまりいないから、ちょっとした騒ぎになるかもだからあまり人がたくさんいる所はやだ」


 …………面倒だが移動するか。




『アルカンジュ家とは簡単に言えば神器の一つ、聖剣ティルフィングの使い手を過去に何人も輩出している名家だ』


 広場から人の少ない路地の方へと歩いて向かっている最中に俺の疑問をオウセンが解説してくれた。

 

『聖剣の使い手に選ばれるのは簡単な事ではない。基準は分からないが、聖剣自体が使い手を選び、選ばれた一人の者だけが聖剣の能力を展開出来る』 


 オウセンみたいだな、なんか。


『ふふっ、確かにそうだが私と聖剣を比べるのは聖剣に失礼かもしれんぞ。――――聖剣に選ばれた者は勇者と呼ばれ様々な供を連れ魔王討伐に出向くのだがこれは今は関係のない話だな』

『今の勇者は19代目だが1代目から19代目まで全てアルカンジュ家、もしくはその分家から全て輩出されており、アルカンジュの血を持つ者はほぼ歴史に名を残す程の力を持っている』


 超エリート一家じゃん!?


『そのエリートがなぜこんな辺境の街でアクセサリー屋を行っているかは分からないが彼もアルカンジュだ。生半可な相手では無いだろうな』


 まさかだけどフィルは聖剣を持ってたりするか……?


『まさか。持っていたらこんな所で遊んでいる暇はないだろう。更に武闘会のルール的に使用出来ないだろうから持っていたとしても問題はないさ』


 あー…………。

 俺はそんなのとあんな恐ろしい約束を交わしてしまったのか……。 


『普通の戦いだと殺されてしまう様な相手と不殺生で本気で戦えるんだ。これは君の成長に間違いなく繋がるからそうへこむな。さらに言えば私もサクラも負けるつもりはない。アキがそんなでは勝ち戦も負けてしまう、気を張って勝つつもりで君も挑め』


 …………頑張ります。



 人のいない路地まで歩みを進め、サクラに傷を治してもらう。


「――――ヒーリング」


 毎日の様にかけてもらっている中級光魔法だ。

 これのおかげで筋肉痛だろうが、ボコボコにされて出来た青アザだろうが何でも治ってしまう凄い魔法だ。


「…………ん? 今更ながら思ったがサクラって魔法使う時いつも詠唱してなくないか?」


 詠唱って必須っていう事を聞いてた気が……。

 いや魔法使った事がないからよく知らないんだけどね。


「すっごく今更だよそれ……。私は優秀だから詠唱なんて必要ないの! まぁ、大抵の凡人は詠唱しないと魔法使えないらしいけどね!!」


 とても嫌味な言い方だ……。


「サクラに出来るって事は俺にも出来る可能性が出てきたな。魔法を覚えるのが楽しみになってきたぜ!!」

「――――いや、お兄ちゃんの場合どうせ初級魔法何発か打つだけで魔力欠乏起こしていつも通り気絶だよ」


 先は長そうだ……。


「身体は何ともない?」

「絶好調!」

 

 先の戦いで負った傷も全て治り、いつでも戦える状態だ。

 あまりこんな場所で長居していたら試合に遅刻してしまいそうだった為、傷だけ治しすぐに広場に戻った。

 広場の方では決勝トーナメントの組合わせがもう決まったらしく賑わいを起こしていた。

 

 俺は準決勝でシードの去年の準優勝者と当たり、決勝でフィルが勝ち上がってくればフィルと当たる。

 早い話3回勝てばフィルまで辿り着く。

 相手がどの位強いかははっきり分からないが、あれだけフィルにも期待させてしまったんだ。

 負ける訳にはいかないな。


『いい心掛けだ。大丈夫、多対一が一対一になっただけ予選よりやりやすいさ』


 ははっ、それは楽勝だな。

 

「大分落ち着いてるね」

「んっ? まずいか?」

「ん~、その位の方が丁度いいんじゃないかな。油断しているわけでも硬くなっている訳でもなさそうだし」

「まあここまで来てしまったらなる様にしかならないからな」


 …………今回は命の危険もないしな。


「決勝トーナメント1回戦を行います!! 1回戦出場者はリングまで来て下さい!!」


「じゃあ呼ばれたから行ってくるよ。――――予選の時、応援してくれてありがとうな。サクラの声であの時は何とかなった」 

「…………聞こえてたんだ、あれ。――――あんな恥ずかしいのもう二度と言わないからね!!」

「ははっ、分かった分かった。じゃあさくっと勝って来るわ!」


 顔を真っ赤にする位なら言わなければいいのにと言いかけたが、流石に言って欲しいと言った張本人がそんな事を口にしたら決勝トーナメントに参加出来なくなってしまいそうな気がしたから止めた。


『日に日に聡くなって私は嬉しいよ』 


 俺もバカじゃないからな。それじゃあ決勝トーナメント。とりあえず決勝までサクッと勝ってやりますか!



 ☆登場キャラステータス☆


 名前 アルカンジュ=フィルディア


 種族 人


 性別 男


 出身 王都ニヴルヘイム 


 筋力 D+


 敏捷 D+


 耐久 D


 魔力 2000 


 属性適正 水・風・光


 武器 特定武器無し




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