負け犬ヒロインの応援妖精 メガネ地味子
私の恋は終わった。
彼はあの子を選んだのだ。明るくて前向きで誰からも愛される人気者。ひたむきで、努力家で、けして弱音は吐かない。
周りには理解ある友人たちがいて、ほうっておけない魅力の持ち主。
私が勝てるはずない。
でも、私にとってはせいいっぱいの勇気で、彼にこの想いを伝えた。
だから、悔いはない。
「悔いあるやろがーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
ええっ!?
「悔いありまくりやないかい! お前のそのスマホに入ってる画像なんやねん! あの男の写真ばっかりやん! しかも隠し撮り!」
おじさんがいた。小太りでやたら目のくりくりした。真っ白いトーガ?のような服を着ていて、冬なのにサンダルだった。
「だ、誰ですか」
「妖精じゃ! 負け犬の妖精じゃ! メインヒロインに主人公を盗られたお前みたいな噛ませ犬を応援する妖精じゃ!」
「噛ませ犬って……ひどい」
「まず妖精に驚かんかい! 自分が自分がか!」
私はおかしくなったのかな。
おじさんは宙に浮いていて、少し透けていた。
「お前みたいなんがクヨクヨウジウジあと引く限り、俺の仕事が終わらんのじゃ!」
「だから……! だからこうやってケジメをつけたんじゃないですかっ!」
「自分、フラれるの薄々わかってたやん。そんなんバンザイ突撃やん。しょうもない」
「これでも頑張って……ほんとに悩んでやっと伝えたんですよ。そんな言い方……しなくても……」
「泣くな泣くな! 俺が悪かったから、ほらこれで拭け」
おじさんは懐から「有馬温泉」と印刷されたタオルを私に差し出した。
「ほんとに……好きだったんです……」
「いや、タオル受け取れよ。センチメンタルになに拒否しとんねん」
「だって……生理的に受け付けないから」
「そういうとこやで! メインヒロインやったらギャグの一つもかましながら、えへ、ありがとね!って受け取るねん! たはー、好感度だだ下がるわー」
「……いきなり出てきて、言いたいこと言って、ひどいよ」
「おまえなー、この寒い中出てくる俺の身にもなれよ! どいつもこいつもクリスマスになったとたんアタフタ告白してはドカンドカン玉砕しよってからに、お前らはレミングスか! もうちょっと過ごしやすい時期にフラれんかい。なんぼ妖精やいうても寒いもんは寒いんやぞ!」
「……」
「あっ、わかる。いま、じゃあ帰ればいいのにって思ったやろ。あっ、今うざいって思った。妖精にはなんでもお見通しやぞ!」
「妖精さんって、普通かわいくて優しいものですよね? 私を慰めてくれるんじゃないんですかっ!?」
「おっと、貪欲に来るね~。嫌いじゃない、そういうの」
「……ムカつく」
「ムカつくのはこっちじゃ。お前フラれてからどんだけここで突っ立っとるねん。出るタイミング難しいわ!」
「3年間ずっと片思いだったんですよ! 好きで好きで大好きで! 考えるだけで胸が苦しくて、いつも見ていたのは私なんです! ちょっと出てきてすぐ仲良くなったあの子になんて、彼の良さが分かるはずがない……!」
「……そうやな、おまえはずっとそばであいつのこと見てたもんな。あいつの良いところを一番初めに見つけたんはおまえや。あいつかってお前のことを大事に思ってたはずやで」
「おじさん……!」
「まあ、お前をフッたあと、ニッコニコでメインヒロインとイチャラブしてるけどな。夜空を見上げて、ホワイトクリスマスだねつってー」
「ひぐっ……大嫌い!!!!!」
私はおじさんを突き飛ばした。
おじさんはコロンと転がって、頭をぶつけた。すごい音がした。
「あっ……ごめ……」
「……ええもん、持ってるやんけ」
起き上がったおじさんの頭から緑色の血がドクドクと流れ出していた。
「いやああああぁああ!」
怖くなって私は逃げ出した。
「お前、ほんまにそれでええんか?」
「もういや! なんでついてくるのっ!!」
「嫌われるのがイヤやからって、いい思い出で済まされてそれでええんか? あの男の中ではただのアルバム1ページやぞ!」
「だって! だって!」
「諦めたお前に相手がほっとしたのわかったやろ? 何も行動せんかった自分を棚に上げて、愛がほしいだの恋がしたいだの夢見る夢子ちゃんで自分を慰めつづけるんか」
「関係ないでしょ! 私は一生懸命やった! でも選ばれなかったんだから!」
「相手のせいか? 他人任せで自分の運命決めてさぞかし楽やろうな。一生それで脇役やってたらええわ」
「私は脇役じゃないっ!!!」
私は立ち止まって、叫んだ。
涙が止まらなかった。
「ほうかほうか、じゃあどないすんねん」
「私は……あきらめない! 好きだから奪い取る!」
「よう言うた。それでこそメインヒロインや」
「えっ。でもあの子は……」
「ええか、まず美容室で髪切って化粧して、清楚やけど胸が強調される服買って来い。あとはロクシタンのフレグランスつけて、コンタクトにしたらフラグが立つ。押し倒せ」
「あの、よくわからないんだけど」
「今のトレンドはマルチエンディングぞ。お前がトゥルーエンドかましたらんかい!」
「……! わかった。私、行ってくる!」
「それでええねん」
「ありがとう、おじさん!」
「妖精な」
おじさんは緑色の血で染まった歯を見せて、にたりと笑った。
やはり生理的に無理だ。