第九十七話 進展する恋 Ⅱ
私はゆう君を家に入れて二階の私の部屋に入った。
「お邪魔します」
「ここ座ってて。ジュース持ってくる」
「お構いなくー」
テレビの前にゆう君を座らせた。私はテレビとゲーム機の電源を付け、格闘ゲームを開いてコントローラーをゆう君に渡した。
「設定とかしてていいよ」
「うん」
私は一階に降りてジュースとコップを出した。
「お帰り~。今来てるのもしかしてゆう君?」
「うん。そうだけど?」
洗濯物を畳んでいるお母さんが気づいて話しかけてきた。
「ゆう君が家に遊びに来るの久しぶりじゃない?」
「パソコン買って貰ってから通話で話してたからねー」
「あんまりゆう君に迷惑かけちゃダメだからね」
「わかってるよ」
お盆にジュースとコップを乗せて部屋に戻った。
「はい、お菓子なくてごめんね」
「ジュースだけでもありがたいよ」
私はベッドの上に座ってゆう君と格闘ゲームで一試合した。いつも通り勝ったのはゆう君。
「くっそー!悔しい!あともうちょっとだったのに!」
「はっはっは。貴様もまだまだよな」
「もう一回!」
私とゆう君はキャラクターを選んで準備完了になった。
「……始めないの?」
「ゆう君、ここ座っていいよ」
私は右手でベッドをぽんぽんと叩いた。ゆう君が家に遊びに来た時はベッドの上に座らすことはなくいつも床に座ってもらっていた。
「え?床でいいよ」
「いいから!」
私はゆう君の襟を掴んで隣に座らせた。
「ほら、こっちのほうが座り心地いいでしょ?」
「そ、そうだけど。まぁお前がいいならいいか」
「うんうん。よしスタート!」
それから2時間半ほど私とゆう君は遊び続けた。
「くぅ~。あと!あとちょっと!あとちょっとなのに~!」
「経験と努力の差だな。もうこんな時間か。そろそろ帰るよ」
「待ってよ~。あと一回!」
「仕方ないなー」
帰ろうとするゆう君を引き留めて一試合したがやはりゆう君が勝った。
「はいー。じゃ、そゆことで」
「ねぇ~、待って待って~。あと一回!あと一回だけだから」
「えー?あと一回だけだぞ」
「うん!」
また帰ろうとするゆう君を引き留めて一試合したがゆう君が勝った。私はゆう君がベッドから立つより先にゆう君の肩を持って揺らした。
「なーんーだーよー」
「今のなしだから~!今のは自滅だったから~!」
「自滅するのが悪いんだろー。じゃあこれで本当に最後だからな」
「よっし!さすが心の広いゆう君!最後で勝つのが私だからね!」
そして一試合したが勝ったのはゆう君。何度戦ってもゆう君には勝てない。
もう一度私はゆう君の肩を持って揺らした。
「うぅ~。お願いします~。次でもう諦めるから~」
「無理。最後って言っただろ?あと帰ってネットで出来るだろーが」
「お願い~。ゆう君~」
私は横からゆう君に抱き着いて揺らした。
「はぁ~。マジで最後だぞ」
「ありがと~!」
時々甘えちゃうのも私の悪い癖だなー。この時私は自分の部屋、自分の空間で少しでもゆう君と一緒にいたかったのかもしれない。
でもこれ以上はさすがに迷惑になりそうなので本当に最後の試合。
「あっぶな!」
「しぶといなー。けどこれでっ!」
「ここだぁ!」
「あっ」
「やった~!」
初めてゲームでゆう君にちゃんと勝った。ゆう君に勝った、というよりもゆう君に追いつけた、という事が嬉しかった。
「よし帰ろう。はい帰ろう」
「勝ち逃げかよ」
「帰ったらネットで出来るんだからそう怒らないでよ~。はい鞄!」
私はゆう君の背中を押して玄関まで来た。ゆう君が靴を履いているとお母さんが部屋から顔だけ出した。
「ゆう君、久しぶりー」
「えりのお母さん、お久しぶりです」
「大きくなったねぇ~。今身長どれくらい?」
「えーっと、155とか156cmくらいだったと思います」
「へぇ~。昔はえりかとあんまり変わらなかったのに今は全然違うね~」
「うるさいー。お母さんも背小さいくせに」
「はいはいそうだねー。あっ、ゆう君これからもえりかと仲良くしてね~」
「はい!」
「も、もう。ほらゆう君」
「お邪魔しました」
「は~い。いつもで来ていいからね」
私はゆう君を押して外に出て玄関を閉めた。
「さっむ~」
「今、手温かいからちょっと温めてあげる」
私はゆう君の手を両手で挟んで擦り合わせたり息をはぁ~っと吐いて温めてあげた。
「そ、そんなのしなくても大丈夫だって」
ゆう君は手をふり払った。
「ご、ごめん。気持ち悪いよね」
「そういうわけじゃなくてこれくらい我慢出来るからしなくてもいいってこと」
「でも私が引き留めちゃったからこれくらいさせてよ」
私はゆう君を見つめた。
「っ。気にしてないから大丈夫だって。じゃあな」
ゆう君は自転車のかごに鞄を入れて乗ると自転車のスタンドを蹴ってあげた。
「今日はありがと。帰ったらまたゲームしようね。気をつけて帰ってね」
「あぁ、うん」
「ん?どうしたの?」
ゆう君は少し下を向くと私を見た。
「一緒にいると楽しくて可愛いえりと付き合えて良かったよ。じゃ!」
そういうとゆう君は顔を赤くして勢いよく自転車を走らせて帰っていった。
一緒にいると?楽しい?一緒にいると楽しい⁉私が⁉
可愛い。可愛い?可愛い⁉可愛いえり⁉えりって私⁉
付き合えて?良かった?付き合えて良かった⁉私と⁉
その一言を理解するのに時間が掛かった。
つ、つまりゆう君は、私に『一緒にいると楽しくて可愛いえりと付き合えて良かった』って言ったの⁉
ふぁあぁぁぁ~!
私は心の中で悶絶し座り込んで赤い顔を押さえた。
「勝ち逃げなんてズルいよ……」
少しずつゆう君との恋も進展していった。このまま幸せに中学校生活が送れると思っていた。
「はぁ~、もう二年生かー」
「早いね~。でもまた同じクラスで良かったね!」
「うん。来年も同じクラスだといいな」
「大丈夫だ。私とゆう君は運命を共にしている者。なれば来年だろうが再来年だろうが私達は同じクラスになるだろう!」
「は、はいはい。俺以外の人がいるときはその口調で話すなよ」
「ん?なぜだ?」
「いいから。みんな見てるからやめて。マジで」
中学二年生になってもなにも変わらない。いや私は少しゆう君に感化されていっていた。
こんな春の風が拭く日も。
「うぅ~、体育祭などやる意図が理解出来ない。しかもよりにもよってこんな雲一つない日に。天照大御神の攻撃?いやアポロンか?もしや、イフリートがこの身に宿っているのか⁉」
「氷の精霊の加護を受けた水筒上げるから静かにしろ」
「おぉ!さすが我盟友、我戦友、我愛人よ!」
「元気出たなら障壁や結界を張って熱から防御するようにな。俺は部活対抗リレー出てくるから」
「うん!頑張ってね!」
「おう」
こんな夏の熱気に満ちた日も。
「緊張する~。足が震える~。ゆう君~、足が呪われたよ~」
「いつも通り歌ったらいいんだよ。これまで練習した成果を見せる時だぞ。まぁ、その呪いを解きたければ今すぐ体育館を塵も残さず破壊することだな」
「なるほど。私の最終奥義、黒滅炎撃破を使えばいけるかも!」
「ソウダネ。じゃあ大丈夫だな。ほら体育館行くぞ」
「うぁ~、待ってよぉ~」
こんな秋の黄葉したイチョウが落ちる日も。
「はぁ、はぁ。世界は、私を、嫌って、いる、のか?」
「お疲れ様。遅かったな」
「ゆう君~、回復魔法~」
「ちょ!」
「こんな寒いのにマラソン大会とかもう二度としたくない~」
「あ、あの~、えりかさん?急に押し倒して抱き着かれると周りの目が痛いんですけど」
「何を言う!私とゆう君は一蓮托生!世界中の人が敵になろうとも私はゆう君の味方だ!」
「それは同じ意見だけどここで言うのはやめて欲しいかな~?」
「仕方ないなー」
「ほら、立て。怪我はないよな。よく頑張ったな、えり。帰ったらえりの家で遊ぶんだろ。三年生の番が終わったらとっとと帰るぞ」
「うん!」
こんな冬の粉雪が降る日も。
二年生もずっとずっとゆう君と一緒だった。三年生もそうだと思っていた。




