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第九十四話 必ず生きて


「魔王の幹部の倒しに行くことに決まりました」


 元旦から5日後、日曜日に俺とルイナとヨミとエレイヤとえりは騎士団訓練場で副団長からそう告げられた。


「そう、ですか」


「はい。日時は4日後の1月10日です。ここに集合で集合時間は7時です」


「わかりました」


 ついに騎士団としての役目をするのか。不安だがこのために今まで騎士団で訓練してきたんだ。やるしかない。


「今日からは本気で魔王の幹部を討伐しに行きます。厳しいことを言いますが死ぬのが怖くて戦えないのなら足手纏いなので来ないでください」


 いつになく副団長の目と声が真剣だ。そりゃそうか。


「俺は大丈夫です。魔王の幹部を死ぬ気で倒しにいきます」


「私も騎士団に入る前から決心はついてます」


「私も騎士団に入ったからには命を賭けて倒します」


「俺は騎士団じゃないけど行くぜ!八岐大蛇の時は足が竦んじまったが今度は大丈夫だ!」


「私も星魔法でみんなを守れる。詠唱魔法で広範囲の魔物も倒せる。だから私も行く」


「……わかりました。皆さんありがとうございます。正直皆さんの力は大きな戦力になります。私も副団長として出来る限り皆さんを守ります」


 真剣だった副団長の顔が緩んだ。戦いで副団長が隠してるあの力を使ってくれればいいんだけどな~。


「4日後に倒す幹部はケルベロスと言われる三つ首の犬のような見た目をしています」


「なるほど、ケルベロスか」


「アルト何か知ってるの?」


「俺の知ってるケルベロスがこの世界と同じなら少しは知ってるよ」


「本当ですか⁉弱点とかは⁉」


 副団長が俺の前に乗り出した。顔が近い。


「え、えーっと、多分ですけど、竪琴を弾いて三つの顔を同時に眠らすことが出来れば倒すことが出来ます」


「はぁ⁉そりゃどんな魔物だって眠らせられたら倒せるわよ!」


 ルイナが副団長の隣に乗り出して怒鳴ってきた。


「そんな怒られても。あと甘い物に目がないとか」


「甘い物、ですか。う~ん、役に立つでしょうか」


「アルトの情報も確かじゃないですしやめておいたほうがいいと思いますけど」


「でも少しでも戦いを有利に進めたいですよね」


「う~ん」


 俺達は唸りながら考え始めた。


「あ、あの、俺の音魔法で眠らすこと出来る、ぜ?」


「え?マジ?」


「あぁ、高級な竪琴があればしっかり眠らすことは出来るはずだ」


「お、お前有能かよ」


「今すぐ最高級の竪琴を用意します!」


 副団長は飛び出していった。


「そんなこと出来るんなら早く言えよ」


「結構早めに言ったはずなんだけどな」


「けど良かったわ。エレイヤちゃんいてくれたおかげで楽に倒せそうね」


「でもエレイヤ、お前本当に大丈夫か?無理してこなくていいんだぞ。お前は本来なら普通の中学生なんだから」


「心配してくれてありがとな。でも俺は大丈夫だ。アルトきゅんとルイナっちを町で見たあの日から俺は騎士団にも憧れを持ったんだ。町のために、世界のために戦ってる騎士団を見て俺もそうなりたいって思ったんだ。そして今、みんなと一緒に戦える。俺も、みんなと一緒に世界を守るぜ」


「そうか。お前の学校生活邪魔して悪いな」


「全然いいぜ!むしろ騎士団にいた方が楽しいし!」


 エレイヤも出会った頃より断然強くなっている。中学生だけど仲間として信じれるほどの実力はある。みんなで魔王の幹部と戦おう。



 こうして騎士団は策を練ったり、武器、防具、アクセサリーや竜車の準備を整える日々を過ごし、あっという間に3日が経った。



 俺達は出発前日に学校の体育館で壮行会を受けていた。そして俺は壇上の演台に立っている。


 あ~あ。俺が代表で何か言わなくちゃいけないなんてめんどくさいな~。手短に済ますか。


「必ず俺達は魔王の幹部を倒して帰ってきます!」


 俺は拳を突き上げた。生徒は歓声を上げた。


「絶対生きて帰ってこいよ!」


「帰ってきたらまた魔法教えてね!」


「女の子にモテる方法教える約束忘れんなよ!」


 そんな約束した覚えねーよ。そう心の中でツッコんで壇上を降りてルイナ達の隣に立った。


「どんな約束してんのよ」


「いやしてねーよ」


 壮行会が終わって俺達は校庭に出てきた。するとメイ先生とヘルサ先生とフィアーナ先生がやってきた。


「皆さん、お気をつけて行ってくださいね」


「はい。メイ先生も来てくれれば助かるんですけどね」


「私はこの町を守らないといけないので」


「そうですよねー」


「魔物と戦う時はいつでも死と隣合わせだ。油断をするなよ」


「わかってます。ヘルサ先生も来てくれればいいですけど」


「私はもう騎士団ではなく教師だ。この学校にいないといけない」


「ですよねー」


「心を強く持って挑むのよ。無事に帰ってきたらまたアルト君の筋肉見せてねぇ」


「ヘルサ先生で我慢してください。で、もちろんフィアーナ先生は来てくれますよね」


「私も教師だから行けないわ~。ごめんなさいね」


「っすよねー」


「どんだけ先生に来て欲しいのよ」


「一人でも戦力になる人がいて欲しいだろ」


「アルト先輩!」


 ミスリアが走って俺の前にやってきて抱き着いてきた。


「うおっと」


「必ず、必ず生きて帰って来てくださいね!」


 ルイナを見ると珍しく顔が優しかった。こればっかりは許してくれるんだな。


「あぁ、帰ってきたらまた剣術教えてあげるよ」


「約束ですよ」


 ミスリアの目には涙が浮かんでいた。


「うん、約束だ。そんな泣かなくてもすぐ行ってすぐ戻ってくるよ」


 俺はミスリアを抱き返した。少しして離れるとミスリアはルイナにも抱き着いた。


「ルイナ先生も生きて帰って来てください!」


 ルイナは一瞬ビックリしていたがすぐ優しく微笑んで抱き返した。


「えぇ、帰ったら一緒に買い物したりまた勉強も教えてあげるわ」


「はい!私はずっと、ずっとルイナ先輩を尊敬しています」


「ありがとう。ミスリアちゃん」


 ミスリアはルイナから離れるとえりとヨミにも抱き着いた。やっぱりミスリアはみんなのことを想ってくれる良い子だな。


 涙を流し始めたミスリアはヘルサ先生の元に行くとヘルサ先生はミスリアの頭を優しく撫でた。


「じゃあ」


『いってきます』


『いってらっしゃい』


「いってらっしゃいませ」


 先生とミスリアは笑顔で送ってくれた。俺達は家に向かって飛んだ。


『いってらっしゃい!』


 校庭を見ると生徒が校庭に出て手を振っていた。俺達は手を振り返した。


「ゆう君泣きそうになってない?」


「それはお前だろ」


 えりは今にも泣きそうになっていた。


「普通泣きそうになるでしょ、こんな風にされたらぁ」


 えりは目に溜まった涙を拭き始めた。


「みんな大げさだな。明日行って明後日に魔王の幹部一体倒して明々後日には帰ってくるのに。でもみんなのためにも生きて帰ってこないとな」


「そうね。みんな生きてここに帰ってきましょう」



 俺達は家に帰ってきた。しばらくすると荷物を持ったエレイヤが家にやってきた。エレイヤも中学校で壮行会を受けて親御さんにも笑顔で手を振ってきたらしい。みんな晩御飯を食べて風呂に入って俺はソファーに座った。


「はぁ。明日かー」


「緊張する?」


 ルイナが隣に座った。


「まぁな。でもルイナがいると少しは落ち着くよ」


「私もアルトといると落ち着けるわ」


「なに二人でイチャついてるんだよ。俺だってアルトきゅんとルイナっちがいると落ち着くし」


 エレイヤが俺とルイナの間に座った。


「私もアルトお兄ちゃんとルイナお姉ちゃんがいるととっても落ち着く」


 ヨミはエレイヤの上に座った。


「……4人とも、こう見ると家族みたいだね」


 えりが椅子に座ってこちらを見ていた。


「私とアルトは家族みたなものだからね」


「お、俺とアルトきゅんだっていずれ家族になるんだからな!」


「私はずっとアルトお兄ちゃんとルイナお姉ちゃんはお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ」


「勝手に家族って言われて困る俺の気持ちも考えてくれない?」


 俺とルイナとヨミとエレイヤは笑い合った。


「……私、明日のためにももう寝るね。おやすみ~。明日頑張ろうね」


「そうだな。俺達も早めに寝るか。おやすみ、えり」


「俺も一緒にいくぜー、えりっち」


 えりとエレイヤは屋根裏部屋に行った。


「また明日な。おやすみ」


 俺も自分の部屋のベットに横になり、ルイナとヨミもルイナの部屋のベットで一緒に寝た。


 明日から過酷な戦いが始まるとしても絶対に勝つんだ、俺達は。


 そう思いながら俺は眠りについた。



 このとき俺はまだ色々と理解出来ていると思っていた。元の世界でゲームやアニメ、小説の物語を理解して、比較してキャラクターが間違った選択を自分はしてないつもりだった。


 俺は勝つこと、全員生きて魔王の幹部を倒すことで頭がいっぱいだった。


 もしこのとき、俺がメイ先生の言っていたえりの『心の深い闇』についてもっと考えていれば、



 俺がえりの異変に気づいていたら、



 あんなことにはならなかったのだろうか――。


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