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第九十三話 予兆

「皆さんのおかげで町は守られました。ありがとうございました!そして今回の指揮を執ってくれた第八騎士団団長、リーザ・エルメルト・ナイルさんにグリア町ギルドを代表して健闘を称えます。あなたがいなければを重症を負った人や死人が出たかもしれません」


 ギルドの受付の人が拍手をするとギルドの人達もリーザさんに拍手をした。


「ありがとうございます。ですが今回被害を最小に出来たのはこの5人のおかげでもあります。この町の英雄を称えるならこの5人を称えてください」


 なんでこの人はみんなの前だと良い人なんだろう。リーザさんの言葉で拍手が俺達に向けられた。


「あの魔法剣士の子凄かったぜ!一番最初に乗り込んで魔物を一気に斬りまくってよ!」


「氷魔法使いの子も物凄く強かったわ!広範囲に氷魔法を出して凍らせてあのアルビノ逆転性質個体のオーガも一瞬で凍らせちゃったのよ!」


「俺初めて音魔法使うやつ見たけどすげーな~!声だけで魔物を傷だらけにしちまうんだからよぉ!」


「星魔法を使うあの女の子も凄かったです。何度か助けられましたし、まだ小さいのにオーガの顔と手を一発で消し飛ばす力を持っていてカッコよかったです!」


「雷魔法を使う銃士の子のレールガンにも何度か助けられたぜ。かなりの腕持ってるな。こりゃ騎士団もいい人材を見つけたもんだ!」


 こうも褒められるとどう反応したらいいかわからないな。けど町を守った英雄って言われるのはいい気分だ。


「いや~、それほどでもありますけど~」


「何デレデレしてんだよ、えり」


「そりゃ初めて町を守る戦いに勝って褒められたら嬉しいでしょ。ねぇルイナちゃん?」


「そうね。ちょっと恥ずかしいけど町を守れて良かったわ」


「にひひ、俺もこの町の英雄になれて嬉しいぜ!」


「私、早く帰りたい」


「ヨミはこういうところ苦手だもんな。もうちょっとしたら帰るよ」


 俺達は少しほとぼりが冷めたころにギルドを出ようとするとギルドの受付の人に止められた。


「なんですか?」


「今回のアルトさん達の功績を称えて賞金を受け取って貰えないでしょうか」


 お金が入っているであろう封筒を渡された。八岐大蛇の討伐金よりは少なそうに見える。


「いや、俺はこの町の人間として当然のことをしたまでですのでいりません。では」


「あっ!ちょっと!」


 俺達はとやかく言われる前にギルドを出た。


「いいのか?せっかく大金が貰えたのに」


「いいんだよ。お金ならルイナがたくさん持ってるし」


「私のお金当てにしすぎよ。まぁ私も町を守ったお金なんていらなかったからいいけど」


 家に向かって飛ぼうとすると上から誰かが降りてきた。


「こんばんは皆さん。森から来た魔物は無事に撃破出来たようですね」


「メイ先生。ヘルサ先生とフィアーナ先生、それにガルアも。どうしたんです?」


「アルト君達が戦った西の森以外に実は他の洞窟などから少数ながらも魔物は攻めて来ていてな」


「私達が他の魔物を撃退していたのよ~。このガルアさんも一緒に来てくれてねぇ~。いい筋肉を見させてもらったわ~」


「ちっ、雑魚ばっかりで働き損したな。せっかく酒飲んでいい気分だったのによ。元旦くらい一日中酒飲ませろよ」


「そうだったんですね。知らないところで町を守ってくれてありがとうございました」


「いえいえ。生徒が戦っているのに先生が戦わなくてどうするのですか」


「ガルアも協力してくれてありがとな」


「ふんっ。お前に礼を言われる筋合いはねぇよ」


 ガルアはそう言って歩いて帰っていった。


「お姉ちゃ、姉さん!」


 リーザさんがギルドから走って出てヘルサ先生の前に来た。


「リーザ!なぜここに?」


「そ、それは新しい剣が出来たから試し斬りしようと思って、だな」


「それでアルト君の元に来て丁度魔物が襲撃してきたということか」


「リーザさんが今回の指揮を執ってくれたんですけど、助かりましたよ」


「そうか。さすが私の妹だ。よくやったな」


 ヘルサ先生はリーザさんの頭を撫でた。


「お、お姉ちゃん。みんなの前で恥ずかしいよぅ」


 俺にもずっとそんな笑顔でいて欲しいものだな。


「では先生方とリーザさん、お疲れ様でした」


「あっ、アルト君、聞きたいことがあるのですが」


「えぇ~?長くなります?」


「多少は長くなるかもしれませんね」


「じゃあお前らは先に帰ってろ。晩御飯を作って待ってて」


「わかったわ。行きましょう、みんな」


 ルイナ達は先に飛んで家に帰った。


「で、聞きたいことってなんですか?」


「アルト君。今回の戦いで何かおかしなことはありませんでしたか?」


「おかしなこと?う~ん。戦いが上手くいき過ぎた、とかですかね」


「魔物自体におかしかことがなかったかということです」


「魔物自体?普通の魔物でしたけど。あ、でも頭領のオーガがアルビノ逆転性質個体でしたね」


 俺がそういうと先生方が顔をしかめた。


「アルビノ逆転性質個体のオーガ、ねぇ」


「どうしたんです?」


「あの森でオーガが発見されたことは一度もなかったんだ。なのに急にアルビノ逆転性質個体のオーガが現れるはずがない。誰かがあの森に放ったのだろう」


「えっ。そんなことあるんですか?」


「ないと思いたいがそれ以外考えられない」


「マジか。一体なんのために」


「さぁな」


 少しだけ沈黙が流れた。


「最近、魔物が活発になっていると私の知り合いから聞きました。私もこの冬休みに入ってから調査したのですが本当みたいです」


「理由はわかっているんですか?」


「……多分、魔王の復活が近づいているのでしょう」


 メイ先生がそういうと先生方とリーザさんも顔をさらにしかめた。


「魔王の復活って、魔王は今どうなってるんですか?俺あんまり魔王のこと知らなくて。魔王について知りたいんですけど」


「……魔王とは悪魔の力を持った何かよ。その何かは魔物か、ドラゴンか、吸血鬼か、動物か、昆虫か、機械か、天使か、神か。あるいは、私達と同じ、ヒトか。それはまだわからないの」


「魔王は110年前に現れた。魔王は世界を支配し世界は混沌の魔力に包まれた。その時代は皆が魔王に怯え、毎日どこかの町が魔物に襲われていたという。しかしそんな中、勇者と9人仲間が魔王に立ち向かって魔王を、弱らせたんだ。なぜ倒せなかったかはわからない。だが何かが足りなかったんだ」


「……そして6年前、魔王が復活する予兆があり、復活もしたという噂もありました。ですがある日から魔王の気配は消えました。それから今まで魔物は活発に動いてはいませんでした。が、今、活発に動き始めている」


「だから魔王の復活が近づいているかもということなんですね」


「そういことです」


 魔王が復活する。それをさせないことが一番良いだろう。けどどうすればいいんだ。俺が今知りうる唯一の手掛かりは騎士団殺人鬼だ。ミカヅキとDr.ロストと言われる年寄りの人。今度いつミカヅキと会えるかわからないし、話を聞いてくれるかもわからないし、生きて帰れるかもわからない。


 あぁもうマジでこの世界はわからないことだらけだな。いや、人生はわからないことだらけなのが普通なんだろうな。

 人生、つまり現実はゲームみたいにセーブもロードもなければ正解へのヒントも、正解の目的地への看板や矢印も、次することの答えも、攻略本もないし、好きな子の好感度もわからなければ、決められた少ない選択肢を選ぶわけでもない。そして現実では人は死ぬ。自分も家族も友達も愛人も他人も全て殺される可能性がある。現実、つまり人生は何もわからなくても出来るだけ情報を一つでも手に入れて一つ一つ無限の選択肢から最善の道を選ばないといけない。無限の選択肢で毎回最善の道を選ぶなんて出来るはずない。けど大丈夫、俺はわかっている。俺は一人じゃない。一人で道を選ばなくていい。みんなで悩んで失敗して成功するのが人生だろう。


「皆さんはこれからどうするつもりですか?」


「私はこの町周辺の魔物の動きを調べていきます。知り合いとも今度話し合って見ます」


「私もまだ調べるくらいにしておこう」


「私もヘルサちゃんと調査するわ」


「私は団長として国王様に今日のことを報告して兵士に魔物の動きを監視するようにお願いしてみよう」


「わかりました。教えてくれてありがとうございました」


「もうここからは今までのような平穏な日々は続かないだろうな」


「騎士団もそろそろ動くはずだ。気を付けろよ、アルト」


「はい」


 リーザさんが俺の心配をするなんてなー。それほど危険が迫っているということだろう。にしてもしっかりしてるリーザさんとヘルサ先生は似てるな。さすが姉妹。


「……アルト君はいつ見ても強くて賢くて良い人ですね」


「そ、そうですかね。良い選択を選べてるといいですけど」


「今のところまだ選べてる方だと思いますよ。そういえば引き留めてましたね。最後に一つだけいいですか?」


「なんです?」


「ちょっとした健康診断ですよ」


 メイ先生は裾を引っ張ってしゃがめと促した。またか。俺がしゃがむとメイ先生は自分の右人差し指を舐めた。


「なんか嫌な予感がするんですけど」


「あっ、あとでルイナちゃんには謝っておいてください」


 メイ先生は舐めて魔力が付いた人差し指を俺の口の中に入れた。


「んんっ⁉」


 メイ先生の人差し指は俺の舌を少し撫でると出してメイ先生と俺の魔力が付いた人差し指をまた舐めた。


「おえっ。関節キスってレベルじゃないですよ」


「うん、魔力回路に異常はありませんね。はいどうぞ帰ってもいいですよ」


「急に俺の指舐めたり自分の指舐めさせたりしないでください」


「エルフの唾液は清潔ですので気にしないでください」


「清潔かどうかという問題じゃないですよ。これでルイナに文句言われるの俺なんですから」


「ルイナちゃんに怒られた時は私が庇いますから」


「そこは本当に頼みますよ。じゃあさようなら~」


 俺は飛んでルイナ達が待ってる家に帰った。もう平穏の日々は続かない、か。


アルト「ルイナの前でやるのだけはやめてくださいね」

メイ「わざと目の前でやって反応を見るのも面白そうですね。やりましょうか」

アルト「いやマジやめてください。俺が死にます。もうなんで指を舐めないといけないんだ」

メイ「嫌でしたら口を合わせるか下の口を合わせるかですけど、どうします?」

アルト「指で結構です!」

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