第八十四話 じゃんけん
と、いうことでじゃんけんに負けて寒い中俺一人で行くことになりましたとさ。
俺は歩いて雪の降る町を歩いている。飛んだほうが速いが炎魔法の効果が消えるし昨日ヘルサ先生と戦って体が痛く、飛んでいると筋肉を使うので歩いて向かっている。
俺は15分ほどかけてお菓子屋に来てヨミの好きなお菓子と美味しそうなお菓子をルイナから貰ったお金で買って店を出た。
「寒いな~。やっぱり飛ぼうかな~。でも飛んだら体痛くなるし」
ぶつぶつと呟いて角を曲がっていると人の気配がした。このままだとぶつかると思って体をすぐに動かそうと思ったが体を痛めていて急に動こうとしたのが悪かったのか動かずそのままぶつかってしまった。俺は尻もちをついた。
「うおっと。す、すみません」
「大丈夫ですか?」
そう言って手を差し伸べてくれたのは一人の青年だった。俺はその手を取って立ち上がった。
「ありがとうございます」
「こちらこそすみません。もっと早く気づいて足を止めれば良かったですね」
「い、いえいえ」
「お詫びに温かい飲み物でもいかがでもどうぞ」
「お詫びなんてそんな」
「そうおっしゃらずに」
その青年は握っていた俺の手を少し強く握ると視界が変わった。
「えっ⁉今のは転移魔術⁉」
「よくご存じですね」
周りを見てどこかを確認すると公園だった。
「こちらに腰かけてください」
俺と青年はベンチに座った。
「どうぞ」
缶コーヒーを渡された。
「ど、どうも」
俺は渡された缶コーヒーを開けて飲んだ。至って普通の珈琲だ。
青年はニコッと笑った。黄緑色の不思議な目だ。緑色の髪が髪先にかけて黄色いグラデーションがかかっている少しだけ長い髪を首の後ろで結んでいる。パッと見、女だが顔つきが男だし中々のイケメンだな。この人、どこかで見たことあるような。
「アルトさん、僕と一度会ったことがあるのですが覚えてますか?」
「ど、どうして俺の名前を?」
「あなたはこの町でも有名人ですからね」
いつの間にそんなに有名になっていたんだろう。あとやっぱり会ったことがあるのか。
「すみませんが覚えてないです」
「今から五ヵ月ほど前に服屋で目が合ったのを覚えてませんか?」
そういえば初めてルイナと服屋に行って下着を選んでる時に目が合った人がいたな。
「あぁ、あの人ですか」
「思い出して頂けたなら光栄です。騎士団はどんな感じですか?」
「色んな人と戦えて楽しいです。えっと、お名前は?」
「おぉ、そうでした。では僕のことはルエ二とお呼びください」
「ルエ二さん、ですか。ルエ二さんは強いんですか?」
「全くです。剣術や魔法なんてほとんど出来たものではありませんよ」
「そうなんですか。強かったら騎士団に勧誘しようかと思ったんですが」
「僕が騎士団に入ったら崩壊してしまいますよ」
ルエ二さんは苦笑いをする。
こんなこと言っているが俺にはわかる。体の筋肉や微かに伝わる魔力量の大きさ。この人只者ではないな。具体的な強さはわからないが絶対に剣術や魔法が出来ない人ではないと思う。それが決定的なのは、
「そうですか。なのに転移魔術は使えるんですね」
「転移魔術は普通の魔法と違って場所のイメージだけで出来ますからね。普通の魔法よりかはイメージがしやすいので魔力量さえあればそれくらい出来ますよ」
「そういうもんなんですか」
残念ながら決定的ではなかった。
「で、でもその筋肉、剣術出来ない人がそんな風に筋肉が付くわけがないと思いますが」
「剣術が出来なくてもずっと努力していればこうなります。ここまでしても剣術が出来ないなんて才能がないんでしょうね」
「な、なるほど」
シアン先輩が剣術を続けた末路みたいな人だな。やっぱり普通の人なのか?
「僕も出来るなら愛する国民のために戦いたいのですがね」
「ルエ二さんは王様なんですか?」
「いえ、僕は王様ではないです。けど僕は人間が大好きなんですよ」
「へぇ~、不思議な方なんですね」
「よく言われます。そろそろ時間なので僕はこれで」
ルニエさんは立ち上がった。
「有名人のアルトさんと話せて楽しかったです。また会える日を楽しみにしていますね」
「あ、はい、俺も楽しかったです」
「それは良かったです。では良いクリスマスを」
そう言って転移魔術で一瞬で消えてしまった。
「はぁ~、変な人もいるもんなんだな~」
俺は缶コーヒーを飲み干してゴミ箱に捨てて家に向かって歩き始めた。
そういえばルエニさんと会った時くらいのルイナは俺をなんとかいじろうと必死に頑張ってたな~。あの頃のルイナも可愛かったな。
てかこの世界に来てまだ5ヶ月しか経ってないのか。剣術も魔法も結構鍛えられたと思う。そもそも異世界転生って普通俺TUEEEEEみたいなチート能力持ってるものなんじゃないのか?なんで俺は一日中ヘルサ先生と休みなしで戦いまくってるんだ。
チートで手に入れた力なんて最初のほうは面白いがだんだん面白くなくなるのがチートだ。でもその最初の面白さをこの世界で感じたい。けど努力せずに手に入れた力なんて結局嫌だから努力し続けるしかないんだが。
いつかはミカヅキや魔王なんて一撃倒せるような魔法剣士になりたいな~。そして平和な世界でルイナ達と穏やかな時を過ごしたい。
俺は自分の願いが実現した時の妄想をしながら家に帰った。
夜になり晩御飯を食べる時間になった。
「今日は私が腕を振るって作ったご馳走よ!」
「おぉ~、凄い。さっすがルイナ」
机にはローストチキンやローストビーフ、唐揚げ、エビフライなど美味しそうな物ばかり並んでいる。
「これ全部食べていいの⁉」
ヨミの目が輝いている。
「えぇ、もちろん。沢山食べなさい!」
「いつの間にこんな食べ物買って来たんだ?」
「アルトがお菓子買ってきてる間に速攻で買って来たのよ。ビックリしたでしょ?」
「ビックリしたけどどうせなら一緒に買いにいけば良かったのに」
「アルトは私と一緒に買いに行きたかったのかしらぁ~?」
ルイナはニヤニヤとしながら顔を覗き込んできた。うぜぇ~。
「よし食べるか!」
「無視しないでぇ~」
俺達は椅子に座ってご飯を食べた。
「ご馳走様~。美味しかったよ」
「ふふっ、それなら良かったわ」
「もうお腹いっぱい」
ヨミが俺の太ももに乗って寄りかかった。
「ルイナちゃんの料理ってホント美味しいよね~。教えて貰おうかな~」
「人に教えられるものじゃないけどいいわよ。今度一緒に作りましょう」
「いいの⁉ありがと~、ルイナちゃん大好き」
えりがルイナに抱き着いた。こいつら仲良いよな~。
「アルトお兄ちゃん一緒にお風呂入ろうよ~」
「なんでだよ」
「クリスマスイブくらいいいじゃん」
「クリスマスイブだろうがなんだろうがお前はいつも俺と風呂に入ろうとするだろ」
「お願いアルトお兄ちゃん」
「またお願いかよ。じゃあルイナとえりとじゃんけんで勝ったら二人で入ってやるよ」
「わかった。じゃあ最初はグー、じゃんけん――」
アルト「やっぱり俺負けたしまたヨミが勝つかどうかわかるんだけど」
ヨミ「私が勝つからね」
アルト「言っちゃったし」
えり「だからまだ希望を捨てちゃダメだよ。私結構じゃんけん強いから」
ルイナ「そうよ。絶対にヨミちゃんは負けるわ。うんうん」




