第八十話 圧倒
俺は大広間の前から城の門から外に出た。庭園で誰かが戦っている。マギナ団長とミカヅキであった。近くに傷を負って血を流しているメーラさんが倒れていてマギナ団長の後ろに軽傷を負ったミラス団長が立っていた。
ミカヅキはマギナ団長の魔法陣から出る光線を難無く斬っている。そしてミカヅキの持っていた武器はバリス刀であった。
「ミカヅキのやつ、何しにきやがった」
俺は飛んでマギナ団長の前に着地した。
「アルト殿。下がっておるのじゃ!」
「いえ、ここは俺に」
マギナ団長は光線を止めた。
「やぁ、ちゃんと旅をやめてくれたんだね。頭の良い人達で良かったよ」
「今日は三日月じゃないに襲って来たんだな」
「なんとなくでやってから三日月じゃなくてもいつでも襲うことは出来るからね」
「メーラさんをどうしたんだ?」
「安心しな。ちょっと傷を入れて気絶させただけだから命に別状はないよ」
「なら良かったけど何しに来たんだ?」
「いつも通り襲いに来たんだよ。いつもの武器じゃないけどね。強い武器ならなんでもよかったんだけど君が使ってたバリス刀を使わせてもらったよ」
「バリス刀を使う人がいるのは嬉しいけどここには騎士団のほとんどの人いるんだぞ?それで太刀打ち出来ると思っているのか?」
「もちろん。だから来たんだからね。さぁ、いつものお話も終わりだ」
ミカヅキは刀に水魔法の魔力を付与した。そして姿が消えたと思うとマギナ団長の後ろにおり、ミカヅキは刀を振りマギナ団長はすぐに振り返り防御魔法で一瞬防いだように見えたが砕け散って斬られた。
「ぬおぉ」
「マギナ団長!」
俺は倒れるマギナ団長を支えた。
ミカヅキの後ろからミラス団長が横に斬りかかったがしゃがんで避け、足を払ってバランスを崩したところを刀で突いた。団長は剣でガードしようとしたがバランスを崩しており位置を見誤って左腕と左肩を斬られさらに腹を蹴られて吹っ飛んでいった。
「ミラス団長!」
ミラス団長はピクリとも動かない。たった今の一撃だけでもかなりの威力だったのだろう。
ちっ、他の団員もいるが二人の団長があっさりと倒されて怯えている。何人か戦おうとしている者もいるが、複数人対一人は一見複数人の方が強く見えるが一人が強いと複数人は連携が出来ずお互いの攻撃が当たり自滅する可能性があるので不利になる。だから今ここにいる人達は負けるビジョンしか見えていない絶望的な状態だ。
さらに他の団長もいるがミカヅキに隙がなく立ち止まっている。リーザさんはまだ違うところにいる。いてもまだ新しい剣を持っていないので本領が発揮できないだろう。
そして決定的な不利なところは服である。俺達舞踏会にいる人は皆スーツやドレスだ。戦闘服ではないため剣、魔法、体がいつもより使えない状況なのだ。
と言ってもミカヅキも魔法剣士の服ではなくいつもの黒いローブを着てフードを被っている。よくそんな服で強い魔力を付与して刀を振れるものだ。
「はぁっ」
俺は刀を抜刀しながら闇魔法の魔力を付与してミカヅキの背中に向けて斬り上げた。しかしミカヅキは手を後ろに回して刀でガードすると瞬時に左足の踵で蹴ろうとしてきた。俺はそれを腕でガードしたが凄く痛い。
「ぐっ!」
「君は反射神経だけはいいね。けど僕にはその刃は届かないよ」
ミカヅキは俺に刀を振った。マズい、このままだとガードしても押し負けるかもしれないし避ける時間もない。
そう思っていると氷が左から飛んできて俺の体が右へ吹っ飛んでいった。
「い、今のは」
「アルト!大丈夫?」
ルイナが俺の前に立ってミカヅキに手を向けた。
「ルイナ、下がってろ!」
「何言ってるのよ!早く立ちなさい!」
バカか俺は。そりゃそうだよな。
俺は立ち上がって構えた。
「君はルイナ、か。確かアルトの彼女だったかな」
「それがなによ。あんたがアルトを襲った騎士団殺人鬼ね」
「ご名答。そして君も襲う騎士団殺人鬼だ!」
ミカヅキはルイナの目の前に来て刀を振った。しかし誰かの防御魔法で守られた。騎士団の皆の魔法だった。
「お前の相手はわしらじゃ!」
マギナ団長と盾を持った団員が集まった。
「まだ立てたのか。流石第一騎士団の団長さんだ。でも僕が今戦いたいのはこの二人なんだ。邪魔しないでくれ」
ミカヅキは刀の水魔法の魔力の量を増やして横に振ると鋭い水の斬撃が飛んで盾をも斬り、皆を一掃していった。
『ぐあぁ~!』
「手前で威力を弱めたから死ぬほどではないと思うけど」
圧倒的過ぎる。まさかここまでとは思ってはいなかった。今まで相当手加減していたのだろう。
ミカヅキは俺達に向き直ると防御魔法をあっさり斬った。すると今度は横から物凄い炎がミカヅキに向かって飛んできた。しかしそれも水魔法を出して難無くガードした。
「やはり好きにはやらせてくれないか」
「はああぁ!」
リーザさんがミカヅキの前で大剣を振りかぶっていた。
ミカヅキはリーザさんが大剣を振る速度より速く刀を振って大剣を斬って折ると手を向け、炎魔法を出してリーザさんを吹き飛ばした。
「ぐあぁ!」
「お返しだよ」
「リーザさん!」
リーザさんに続き剣や斧を持った団員がミカヅキに向かっていくがミカヅキはどんな重い一撃も速い攻撃も受け止め、するりと避けては団員達を斬って吹き飛ばしていく。皆、地面に蹲ってしまった。
「ほら、君達から先に倒してあげることにしたからかかってきなよ」
次は魔法を使う団員が同時に詠唱魔法で一斉攻撃を仕掛けた。辺りに突風と砂ぼこりと爆発が起こった。が、砂ぼこりの中からは無傷のミカヅキと風魔法の魔力が付与された刀があった。
「ちょっと手加減が難しいけど死んだらごめんね」
そう言い、ミカヅキが刀を上に向けるとそこから竜巻が出て風で団員を吹き飛ばした。
風が止むと城の門近くは少し壊れ、庭園の花や草は散って川の水はなくなっていた。そして俺とルイナの場所だけは風がほとんど来なかった。
「脆いねぇ。服が戦闘服ではないとはいえ、このくらいか」
ミカヅキが呆れていると全方位から何かの魔力を纏った矢が飛んでミカヅキに当たると爆発した。
「ご無事ですか、二人とも!」
弓を持った副団長が俺とルイナの前に来た。
「は、はい。俺達は無事ですけどみんなが……」
「今はやつを倒すのに集中してください。逃げるという選択肢はありません」
「わかりました」
ミカヅキの上に魔法陣が出来てそこから小さな隕石が大量に出て爆発した。空にヨミが浮いていた。そしてエレイヤがミカヅキの近くに立って叫んで口から音魔法を出した。衝撃波で砂ぼこりが飛んでミカヅキの姿が見えたがローブが少し破れていただけだった。エレイヤはすぐに離れて俺達の近くに来た。
「ふっ!」
いつの間にかミカヅキの後ろに腕に闇魔法の魔力を集中させたガルアがミカヅキに殴りかかっていた。ミカヅキは後ろを見ることもなく片手で受けてめてガルアの腕を持って飛ばすと土魔法で物凄い勢いで尖った土を飛ばしてぶつけた。ガルアは城にぶつかっていった。
次にミカヅキに雷が降ってきたが全く効いていない。えりも俺達の近くに立った。
「残るは君達と中にいる研究部員の人くらいかな。国王もどこかにいるみたいだけど僕は国王には手を出さないからそれは安心してよ」
「ほんっとお前達騎士団殺人鬼は何がしたいのかわからないな」
「理解などしなくていい。君達はここで終わるのだから」
ミカヅキは刀に炎魔法の魔力を付与するとまた刀を上に向けた。すると俺達の立っていた場所が一瞬で炎に包まれた。
『ぐあああああ!』
俺達は守ろうとなんとか防御魔法を展開するが燃え尽きていった。
副団長は上に飛び炎を出ると弓で矢を撃ちまくりヨミも星魔法で隕石を撃ちまくった。その攻撃も無に等しくミカヅキには傷一つ与えられなかった。
ミカヅキは一瞬で空中にいる副団長の後ろに回っていた。
「君となら少しは楽しめると思ったけど今の君は力を使う気はないようだね」
ミカヅキは何かを言うと副団長の背中を蹴って地面に叩きつけた。すぐにミカヅキはヨミの前に行った。
「っ!」
「君も子供の割には強いし騎士団じゃないから傷つけたくはないんだけど」
ミカヅキはヨミの腹を殴った。
「うっ」
ヨミは気絶し、ミカヅキはヨミを担ぐと地面に着地してヨミを放り投げた。
「そろそろか」
俺達を包んでいた炎が消えた。俺とルイナとえりとエレイヤは倒れていた。
「やっと君を倒せて良かったよ。じゃ、もう少し傷つけさせてもらうよ」
ミカヅキは歩いて一番前にいたルイナに刀を向け、上にあげて振りかざそうとした。
くそっ、やらせるかよ。絶対にルイナを斬らせねぇ。えりもエレイヤもこれ以上傷つけはしない!中にいるミスリアだって!動け俺の体!例え俺の身が終わろうとも守ってみせる!
『もう一人で突っ込もうとしない?』
ごめんルイナ。けど今は俺一人しかいないだ!
俺は炎と闇の合体魔法を逆流させて飲み込んだ。そしてすぐに刀に合体魔法の魔力を付与してミカヅキが振り下ろした刀をガードして押し返した。
「なにっ」
「お前は、ここで倒す!」
俺は後退しているミカヅキの前まで行き、刀を振ったが刀でガードされた。
「この力は一体?」
「さぁなぁ!」
ミカヅキの刀を弾き後ろに回って刀を振った。それもガードされたが俺は次々と連撃を仕掛ける。ミカヅキはそれを全部ガードしていく。だが押しているように見える。
「これは、あの副団長よりも楽しめそうだ」
俺の刀とミカヅキの刀がぶつかり合い、衝撃で周りの土が飛んでいく。
俺とミスリアは互いに刀を押し合い、周りに衝撃波が起き、どんどん強くなる。
「絶対に負けるものかぁ!」
「良い目だ。大切な人を守りたいという気持ちが目とこの刀から伝わってくるよ」
俺も伝わってくる。刀を通してミカヅキの気持ちが。楽しいという気持ち。
そしてもう一つ......辛いという気持ち?
俺は刀を思いっきり押しているが中々押し込めない。
この力を使っても力不足だってのか?俺は押しながら刀に付与している魔力を増やした。
魔法よ、もっと俺に、刀に、力をくれ!
そう願っていると、俺の刀に亀裂が入って砕け散っていった。
ミカヅキの刀が俺に向かってくる。俺はもうダメだと思った。しかしミカヅキの刀はギリギリで止まった。
「刀の限界で終わるなんて、君に勝ったなんて言えないな。今日はここまでしておこう」
ミカヅキは刀を鞘に納めて歩き始めた。
「君は凄いね。僕から3度も逃れるなんて。次は倒して見せるよ」
そう言い残してミカヅキは一瞬でどこかへ行ってしまった。
俺は体に纏っていた赤黒い魔力を消すとまずヨミの元に行ってただ気絶していることを確認して意識があやふやのルイナ達の元に向かいミカヅキはもういないことを伝えた。副団長も歩けるようにはなっていた。
この日は城に泊まることになった。
アルト「ほーらめんどくさいことになったし危なかった」
ルイナ「私死にそうだったんだけど⁉」
アルト「生きてたし良かったじゃん。誰も死んでないし結果オーライみたいな」
ヨミ「私のセリフ『うっ』だけなんだけど⁉」
アルト「流石に今回は話すような回じゃなかったからだよ」
エレイヤ「俺一回も喋ってないぞ⁉」
アルト「音魔法で叫んでたから一応喋ってたよ。うん」




