第七十六話 心の闇
俺とえりは団長と休憩所に行って治療してもらった。
「はぁ~、悔しいなー。よく当てれるな」
「いっぱいミラス団長と練習したからねー。これで私も役に立てるよ」
「えりは結局騎士団に入るのか?」
「うん、特別に試験受けなくても入らせてもらうことになってね」
「おぉ~、それは良かったな。これでえりも騎士団の仲間入りだな」
「うん!」
「でもいいのか?」
「何が?」
「だってえりが騎士団入るのって俺とルイナが騎士団だからだろ?自分がしたくないなら入らなくてもいいと思うけど」
「私はゆう君やルイナちゃんとかミラス団長と一緒に戦いたいし強くなりたいから騎士団に入ったんだよ。だから大丈夫」
「なんで強くなりたいんだ?」
「じゃあ逆に聞くけどゆう君はなんで強くなりたいの?」
「お、俺?俺はー、えーっと。ルイナ達を守るためなのと強さ=カッコいいと思ってるからかな?」
「なら私も同じだよ。自分を守れるようにもなりたいし」
「別に俺が守ってあげるのに」
「自分の身は自分で守れるようにはなっておきたいの!ゆう君じゃ本当に守ってくれるか心配だし」
「えぇ~。まぁ確かに守れるのは二つの手で二人だけって感じだしなー。もっと強くなりたい」
「それと、守ってあげるって自分の彼女と子供以外言わないほうがいいよ。そうゆうこと言うからみんなゆう君のことを好きになっていくんだよ?」
「そ、そんなこと言われても、思ってること言ってるだけなんだよなぁ」
「ダメだこりゃ」
「えぇ~?じゃあ守ってやらねぇよって言えばいいのか?」
「そーゆーことでもないですー。ほんっと天然だよね」
「俺だってこれ以上モテたくないんだよ」
「なんで?いいじゃん可愛い女の子にモテて」
「確かに可愛い子にモテるのは喜ばしいけど、モテ過ぎても問題が起きるんだよ。恋愛のライバルの間に生まれるのは憎しみと嫉妬。無駄な戦いはさせたくないからな。特にルイナは一年の女子を憎んでるし」
「憎んでないわよ」
いつの間にかルイナが前にいた。
「ルイナちゃんも治療?」
「えぇ」
「絶対に恨んでるだろ。いつも俺に近づいて来た一年睨んでるし」
「私が憎んでるのは一年の子の『アルトが好き』っていう感情だけ。一年の子自体はみんな好きよ」
「だから俺がいない時は普通に話してるのか。やっと謎が解けた」
「そんなに気になってたのなら聞けばいいのに」
「だってなんか言いにくかったから」
「そういうときになんで思ってること言わないかな~?」
「うるせーよ。ルイナはえりのレールガン見たのか?」
「え?なんのこと?」
「ふっふ~ん。ルイナちゃん!聞いて驚くな!私は今日、自分のレールガンを手にし、ゆう君と戦って勝ったのだ!」
「おぉ~!やるじゃないえりかちゃん!アルトも落ちたものね」
「銃だけで戦ったからだ!刀があれば余裕だったよ!」
「でも銃弾斬れも避けれもしなかったじゃん!」
「あれは気が緩んでただけだ!もう一回やれば斬れるよ!あと、銃弾もさっき避けてただろ!」
「偶々でしょ~?なんか凄い動きしてたけど、進化したゴキブリみたいだったね」
「おい!じゃあ団長はもっと進化してるだろ!」
「君達、休憩所では静かにね」
「団長。すみません」
「ごめんなさい」
団長が間に入ってえりとの言い合いは終わった。その後、エレイヤと戦った。昨日戦った時よりは衝撃波は強かったがやっぱり俺には敵わなかった。けどエレイヤの全力を知れたので良かった。騎士団訓練が終わったあとエレイヤは家に帰っていった。
翌日。ルイナとヨミとえりで学校に登校して、いつも通りヘルサ先生のいる道場に来た。
「な、治ったのか?」
「はい。とある人に魔術で治してもらいました」
俺の腕を見てヘルサ先生はビックリしている。
「良かった。これで……」
「これで?」
「これで全力でアルト君に剣が振るえる!」
ヘルサ先生は狂気じみた目で剣を抜いて近づいてくる。
「え?ちょ、あの、準備運動くらいぐあぁ!」
いつも通り唐突に始まった訓練。ここだけはもっと自分の妹がしたことに責任を持ってほしいところだ。
そしていつも通り休憩はなく昼になった。
「あ~、疲れた~」
「もう昼か。ではご飯を食べるとしよう」
少しするとルイナが弁当箱を持ってやってきて皆で食べた。
「ご馳走様。今日も美味しかったよ」
「当たり前でしょ~。じゃ、私やることあるから早めに行くわ。またね~」
「あ、私とヨミちゃん図書室に行ってくる~」
ルイナは食べ終わった弁当箱を持って教室に戻りえりとヨミは図書室に向かった。
「すまないが私は用事があるので素振りでもしておいてくれ」
「先に言ってくださいよ。えりとヨミに付いていけば良かった」
「五時間目が終わったら帰るからな」
ヘルサ先生は行ってしまった。広い道場に俺一人。えりとヨミがいる図書室にいくか、ヘルサ先生の言う通りに素振りをするか。いや、あれをしてみるか。
俺は念のため校庭の真ん中に立った。
「ちょっと怖いけど何かあったらメイ先生が気づいて何とかしてくれるだろ」
俺は闇と炎の合体魔法を出して逆流させた。
「ぐぁ」
この痛みに慣れたわけではないが声は多少抑えられるようになった。そしてこの魔力を飲み込むことをイメージして精神を集中させた。すると合体魔法が体に飲み込まれていき赤黒い煙のようなものが出てきた。赤黒い魔力が体を纏って痛みが引いていった。
「あれっ?出来ちゃったやつ?」
危機的状況じゃないと出来ないかと思っていたが出来ちゃった。
「ここからどうしよう」
やってみたはいいが力を試すことも出来ない。ここで闇と炎の合体魔法を撃ちあげようものなら授業中の生徒が何事かと外に注目してしまうだろう。
「アルト君」
「は、はい」
声がしたほうが見ると誰もいない。下を見るとメイ先生がいた。背が低いからわかりずらい。メイ先生はジッと俺を見ている。
「な、なんですか?」
メイ先生は裾を引っ張ってしゃがめと促した。その通りにしゃがむと両目にライトを当てられ舌圧子で喉見られた。
次は俺の手を持つと右手の人差し指を舐められた。5秒ほど舐められ離した。そこだけ赤黒い魔力が消えたがすぐに体から赤黒い魔力が出て纏った。
メイ先生は少し目を瞑ると真っすぐ俺を見た。
「なんですかそれは!カッコいいです!」
「今の何なんだったんですか⁉」
「こほん。取り乱してしまってすみません。で、それはなんですか⁉」
「また取り乱してますよ。これは合体魔法を纏ってるとでも言えばいいですかね」
「そんなの見たことありません!どうやってやったのですか⁉」
「え、えーっと、合体魔法を出して逆流させてその魔力を飲み込むイメージをして精神を集中すれば出来ました」
この現象はメイ先生でも知らないのか。
「わかりました」
メイ先生は手を前に出して風と炎の合体魔法を出して逆流させた。
「だ、大丈夫ですか⁉」
「ん、んんー」
メイ先生は痛みに耐えながら目を瞑って精神を集中させている。
「んー。んん~!出来ないじゃありませんか!」
メイ先生を包んでいた合体魔法が勢いよく吹き飛んで消えた。
「ええぇ⁉」
「何か練習が必要なのでしょうか⁉」
「い、いやその」
さっきの吹き飛んだ合体魔法が凄すぎて内容が頭に入ってこない。
「これには俺にもよくわからなくてですね」
「そうですか。一応ヘルサ先生からアルト君のそれには軽く聞いていたのですが、ここまでわからないとは」
「そんなに検討もつかないんですか?」
「逆流した合体魔法の魔力を纏うなんて聞いたことがありません。ましてや格闘家でもないのに魔力を纏って体を強化するなんて普通出来ません。なんなのでしょう」
「国王様や騎士団の皆さんでもなんでも知ってそうなメイ先生でも知らないとは」
自分が恐ろしくなってくる。
「まぁ、体や魔力回路も正常ですし傷ついてもいません。今のところは大丈夫でしょう」
「メイ先生、ちょっとだけ俺と戦ってくれません?」
「えぇ、いいですよ。私も力を見てみたいので」
俺とメイ先生は少し離れた。メイ先生は土から槍を作り構えて、俺も刀に闇と炎属性の魔力を付与した。
「いきますよ」
「はい」
俺は一瞬でメイ先生の目の前まで来ると刀を素早く振り下ろした。間一髪のところでメイ先生は槍でガードした。槍が押されて少し曲がっている。
すぐに刀を引いてメイ先生の左側に移動して刀を振ったがまた槍でガードされた。その瞬間にメイ先生の顔を見たが目が見開いていた。怖い。
メイ先生は刀を弾き返し、槍で突いてきた。俺はそれを避けて掴むと闇と炎の合体魔法を流した。槍は壊れていった。俺はメイ先生の後ろに回って刀を振った。
勝った。と思ったら、メイ先生が後ろに下がって背中を俺の腹に付けると刀を振っている右腕を掴んで背負い投げをされ吹っ飛ばされた。
「うぉっ!」
俺は一回転して態勢を立て直してメイ先生を見るとメイ先生の上に土で作られた槍がたくさんあった。
その土で作られた槍が違う物質に変わった。
「Strength reinforcement. Strengthen more sharply,stronger,firmer」
魔術でその槍が魔力でさらに強化されて飛んできた。
俺は一つずつ刀で斬っていく。何とか今飛んできた槍は対処したがメイ先生はまた槍を作って飛ばしてきた。
キリがなさそうだな。俺は刀を収めて両手を向けて大きな闇と炎の合体魔法を撃った。飛んでくる槍が消し飛んでいきメイ先生に向かっていく。メイ先生は右手を向け、合体魔法とぶつかると合体魔法がメイ先生の周りに散っていった。メイ先生の右腕の服が焼き焦げてなくなってしまった。
「ふぅ~、このくらいにしましょうか。私も久しぶりに本気を出してしまいました」
「メイ先生強すぎです」
「アルト君も強かったですよ。私に少し本気を出させたのですから」
「これで『少し』なんですか」
俺は力を抜くと赤黒い魔力が消えていった。
「戦っても俺の力はわかりませんでした?」
「全くです。もしかしたらこれは大発見かもしれませんよ。合体魔法を逆流させ、その魔力を飲み込み自分の力にする。素晴らしい発見です」
「で、でも危険ですよ。メイ先生はなんか弾き飛ばしてましたけど」
「私は周りの魔力を吹き飛ばす技を知っていますから。例え、毒魔法や氷魔法に包まれても大丈夫なのです」
「槍が違うものに変わってましたけどあれは?」
「錬金術です。そこまで出来ませんけどね」
「メイ先生って万能ですよね」
「エルフという種族は基本器用ですので」
「そうなんですか」
「さてと、アルト君、その力はどう使いますか?」
「どうって言われても、ちゃんと使いますよ。悪用はしません」
「力を持つものはそれなりの責任、代償を負います。人々から勝手に期待をされ、期待通りでなければ勝手に恨まれ、その力を恐れられれば裏切りや批判をされます。それが続けばいつかは孤独となり力の意味を問い、自分の生きた理由を問うでしょう」
「大丈夫ですよ、メイ先生。時には道を踏み外すかもしれませんが何のために刀を振るか、忘れたりしません。一番いいのはメイ先生が道を踏み外さないようにアドバイスしてくれることですけどね」
アニメとかで力を持って道を踏み外した人はたくさん見てきたし大丈夫だとは思う。
「ふふっ、その様子なら本当に大丈夫そうですね。私がアドバイスしてはアルト君のためにならないのでしません。最低限のアドバイスはしますがね」
「ですよねー。はぁ~、人生の答えを知りたいですよ」
「アルト君はまだ若いのでこれからどんな生き方も出来ますよ」
「やっぱり魔王を倒さない限りは騎士団にいますよ。メイ先生は強いのに騎士団には入らないんですか?」
「私は騎士団には入りません。こんな背の低いエルフなんて誰も仲間に入れたいなんて思わないでしょうし」
「背が低くても凄く強いじゃないですか」
「騎士団は一人ではなくみんなで戦ってます。背が低いと戦場でわかりずらく指揮を取りにくいのです。私個人は強いかもしれませんが周りがいることで色々と弱くなるのですよ」
「でもメイ先生の気迫と魔力ならどこにいてもわかりそうですけど」
「全員が人の気配や魔力が掴めるほど強くないと意味がありません。そしてそれほどの力を持つものはこの世にはほとんどいません。騎士団の人やアルト君も人の気配や魔力はまだ微かにしか感じていないでしょう?」
「確かにそうですね。俺も人の魔力を感じとれるようになったのも最近です」
「だから私は騎士団には入らないのです。分かりやすく言えば周りが弱いのです」
「急に酷いですね」
「でも分かりやすかったでしょう?」
「まぁそうですけど。つまりはメイ先生は力を持って孤独なったってことですか」
「そういうことです。私と同等、それ以上の力を持つものでないと一緒に組むなんてことはしません。なのでこの私を全てを知った上で誘う人など勇者くらいしか……」
「勇者?」
「いえ、なんでもありません。そろそろ私は持ち場に戻ります。最後に一つだけ」
「なんでしょう?」
「アルト君、私は君に期待をしています。君ならいつか私の背中を任せれる人になると思っています。もちろんルイナちゃんもね。私のためにも頑張ってください」
「わかりました。メイ先生を孤独から救えるように頑張ります」
「その意気です。あぁ、それともう一つ。どちらかというとこっちのほうが大事ですね」
メイ先生はまた裾を引っ張ってしゃがめと促す。普通に言えばいいのにこの萌え要素いる?
しゃがむとメイ先生は俺の耳に手を当てて小声で話し始めた。
「えりかちゃんについてなんですが、彼女は心に深い闇を持っています。それはすごく心の深いところにありすぐには解決しません。そしてそれはアルト君達に関係しています。彼女に何かあればそれは爆発し、暴走してしまうかもしれません。気を付けておいてください」
「え、えりが?」
「それでは」
メイ先生は保健室に戻っていった。
えりに深い闇。魔法の話、ではないよな、心の闇って言ってたし。俺達に関係してるってなんだろう。昨日だって楽しそうにレールガン撃ってたのに。
思いつくのはやはり元の世界に戻りたいのか、自分がまだ弱くて足手纏いだと思っているのかしかない。
直接聞いてみるか。それとこれからはこの力に慣れて限界を知ったり自分のスピードの動体視力を鍛えないとな。
アルト「メイ先生、なんで言葉じゃなく裾引っ張ってしゃがませるんですか」
メイ先生「可愛いでしょう?昔からこれをすれば子供っぽく見られて皆なんでもしてくれるのです」
アルト「意外とゲスいんですね」
メイ先生「エルフは心正しい者が多いですが背が低いと捻くれるものなのですよ」
アルト「そうなんですか。でも確かにルイナより可愛いぐはぁ!」




