第七十三話 刑務所
俺は家の隣の道場に来た。そして俺は服を着替えさせられた。
「あ、あのー、これって」
「風呂上りの運動だ。私達と戦おうぜ!」
だと思ったよ。
「ただし勝ったらエレイヤと付き合ってもらうぞ!」
「ず、随分と強引ですね。いいですよ。その代わり俺が勝ったら諦めてもらいますよ」
多分負けることはない、と思う。骨折しているというのにまた面倒なことだがエレイヤのためだ、頑張るしかない。
エレイヤ達は端っこに座っている。みんなにはこのことは聞こえていない。
バリス刀をルイナに預けて二人に向かい合った。ガルアと戦うときのように俺も体だけで勝負しよう。あまり傷つけたくはないし。
腕は使いずらいので危ないときは右腕を使って基本脚で戦おう。
「私は一回騎士団のやつと戦ってみたかったんだ。だから一つ夢が叶ったぜぇ!」
ラスクさんがさっそく向かってきて拳を振り構える。一般人にしてはスピードは中々だな。
俺はラスクさんの拳を体を横にして避けるとすぐさま蹴りを入れてきた。それを後ろに下がってかわすと次はサウドさんが向かって来て蹴りを入れてこようとする。
やっぱり長引かせるのも時間の無駄だしちゃちゃっと終わらすか。
俺は向かってくるサウドさんの足を右手で掴むとそのままラスクさんに向かって投げた。
「おわぁ!」
「ちょ、あんた!」
ラスクさんはなんとか避けるとサウドさんは壁にぶつかった。すぐに俺はラスクさんの目の前にいって肩を右足で蹴ろうとする。
「ぐっ!」
ラスクさんは左腕でガードして耐えた。
「お返しだぁ!」
右足を掴まれると振り回されて壁に投げられた。骨折してるのに容赦ない人だな。娘が心配で目の前が見えていない。こんな人にはなりたくはないな。親バカって怖い。
俺は一回転して壁に足を付けてラスクさんに向かって飛んだ。
「なにっ!」
「はぁっ!」
ラスクさんの頬を右足で蹴った。
「ぐぁ!」
ラスクさんはサウドさんにぶつかった。
「おい、ラスク!まだやれるだろ?」
「……いや、もうやめだ。私達はあいつに勝てねぇ」
「そうか。お前が言うならそうするか」
「んじゃ俺の勝ちですね」
「あぁ、諦めるさ。騎士団ってのはつえーんだなやっぱり」
「お二人も鍛えれば強くなれそうですけど」
「俺達は騎士団には入らねぇよ。俺達が守るものは家族だけだ」
「そうですか」
エレイヤを見るともう終わったの?という顔している。さすがに勝負をつけるのが早すぎたか。俺は早く終わって良かったが。
「にしてもあんた、つえーな!エレイヤが惚れたことのだけあるぜ!」
ラスクさんは立ち上がって俺の肩を掴む。
「あ、ありがとうございます」
「気に入ったぜ!やっぱり諦めはしねぇー。いつか娘婿にしてやるぞ!」
「え、えぇー」
「アルトは私の彼氏であって将来の夫なんです!絶対に渡しません!」
ルイナが腕を掴んで引っ張ってきた。
「そういうことなので何度説得しても無駄ですよ」
「いやいや絶対にうちの物にしてやる。どれだけ時間が掛かってもな!」
ダメだこりゃ。
「まぁいいですよ。でもエレイヤの婚約者相手探しは続けてくださいね。あと無理やりはダメですよ。ちゃんとエレイヤが良いと言った人にしてくださいね」
「それがお前しかいないだよ!」
ホントにダメそうだ。エレイヤも心配だがこの一家も心配だ。
俺達は家に戻った。ルイナとラスクさんは酒飲み勝負で勝ったほうが俺を貰うという勝負を勝手にしてたがルイナが命がけで勝ったのであった。
それから一夜明けた。
「う、うぇ。これが二日酔いなのね」
珍しくルイナが二日酔いになっていた。昨日ラスクさんとめちゃくちゃ飲んだからなー。ルイナも二日酔いするんだな。
「ははっ、やっぱりお子様にはアルトを貰う権利はないな。ぐっ、うぇ」
ラスクさんも一緒だ。
「二人とも俺のために争うのはもうやめてください」
「アルト、よく聞きなさい。女には、絶対に負けてはいけない戦いってのが、あるのよ。うぇっ」
「だからって体調を崩すのも良くないぞ。今日は安静にしてろ。ラスクさんと一緒に」
「ど、どこ行くの?」
「今日はビアンカのところに行ってくる。許可が下りたからな」
「なっ!また他の女のところに⁉」
「ちゃんと言ったからいいだろ」
「そういう問題じゃ、うぇぇ」
「じゃ、大人しくしてろよー」
俺は付いて来ようとするヨミとエレイヤを説得して一人でこの町の役所からテレポートでビアンカがいる刑務所に来た。
「すみません。ビアンカさんと面会がしたいのですが」
「第二騎士団のアルト様ですね。こちらにどうぞ」
すんなりと入らせてもらって面会室に入った。
「少々お待ちください」
椅子に座って待っているとアクリル板の向こう側のドアからビアンカが出てきて椅子に座った。少しやつれているな。
「お久しぶりねぇ」
「最後に一目見れなくて残念だったな」
「お恥ずかしいところを見せてしまったわね」
「ドラクの情報が難しすぎだ。パーティーの主催者って普通に言え」
「でも分かったのでしょう?ならいいじゃない」
「そういう問題じゃねーよ。にしても騎士団殺人鬼って悪趣味のやつが多いんだな。極度のショタコン女と盗撮変態男と魔物魔石強化ギャル女、ロクなやつばっかりだ」
「確かに私達は少し尖っているわね」
「それで、ミカヅキとあともう一人の騎士団殺人鬼についてなんだが。知ってること全部言ってくれ」
「知っていることねぇ。どこにいるかは検討もつかないわ」
「場所じゃなくても性別と名前はわかるだろ」
「そうねぇ。あなたのことを教えてくれたら教えてあげるわ」
「俺?」
「えぇ、シアンという名前も本名ではないのでしょう?」
そういえばシアン先輩の名前を使ってたっけ。
「そうだけど、なんで俺のことを知りたいんだ?」
「あなたが可愛いからよ」
「はぁ。言ったら本当に教えてくれるんだな?」
「もちろん」
「名前はアルト・アギル・リーヴェ。年齢は17。得意属性は炎と闇。好きな武器はバリス刀。これでいいか」
「アルト、ね。心に刻み込んだわ」
そのまま心が壊れてしまえ。
「年齢も嘘だったのね。しにしても17歳なんて惜しいわね」
何が惜しいのだろうか。
「言ったんだからお前も早く言え」
「せっかちねぇ。アルト君達が知っているのは私とドラクとジェリカとミカヅキなのよね?」
「あぁそうだけど」
「あともう一人の殺人鬼の本名は私も知らないわ。私達の間ではDr.ロストと呼んでいたわ」
「Dr.ロスト、か」
「歳も詳しくは知らないけど60はあると思うわ。見た目は白い髪と髭、身長は150cm~160cm。小柄なおじいちゃんよ」
「他には?」
「ジェリカと戦った時、魔石で強化された魔物がいなかったかしら?」
「いたけど?」
「その魔石強化を施したのはDr.ロストよ。もしそのDr.ロストと戦うことがあればもっと強い強化をされた魔物と戦うことになるわ」
「アスノ町で魔石屋と装備アクセサリー屋に時々来ては一度にたくさん買う人がいるっていう情報があったんだが、それはDr.ロストなのか?」
「可能性はあり得るわ。その町にミカヅキはいなかった?」
「あぁいたぞ。こちらが押してたけどお前の麻痺魔法の注射を打たれて逃げられたよ」
「ならさっきの情報はDr.ロストで間違いないわね」
ジェリカが『知り合いが魔石で肉体強化してくれた』と言って、ミカヅキも『店を見張ってる人やつがいるってとある人から情報があってね』と言っていたがそれはDr.ロストのことか。とりあえずビアンカが言っていることは本当そうだな。
「他に知りたいことはあるかしら?」
「知りたいことか。う~ん。騎士団殺人鬼の目的は?」
「それは教えることが出来ないわ」
「言いたくないだけじゃないのか?」
「出来ないのよ。けど、その日が来たら言うわ。ミカヅキがいつか勝手に言うかもしれないけど」
「ふ~ん。じゃあミカヅキと仲良くなる方法は?」
「あら、アルト君はミカヅキに気があるの?物好きね」
「あながち間違いじゃねーけど、悪い子には見えないしどうせなら平和的解決できないかなーと」
「無理だと思うわよ。あの子も言わなかった?それが使命だと」
「言ってたな。どういう意味なんだ?」
「それもその日が来たら言うわ」
「その日っていつだよ」
「いつでしょうねぇ」
はぁ~、うぜーな~。
「ミカヅキの趣味とか好きな物とか知らないのか」
「私が知るわけないじゃない。話したことも少ないしね」
「騎士団殺人鬼って仲悪いのか?」
「悪いこともないけど良いこともないわ。ただの仕事仲間ってだけ」
「金貰って仕事としてやってるのか?」
「お金は貰えないわ。私達はあの方の忠誠心でやってるだけ。うふふ、ちょっと言い過ぎたかしら」
「……わかった。今日はそれだけだ。んじゃ」
俺が椅子から立ち上がると
「待って」
「なに?」
「あなたのその左腕、骨折してるの?」
「そうだけど」
「私なら完全に治してあげれるわよ?」
「どうやって?」
「魔術を使って。でも今私の脚についているこのリングのせいで魔力を出せないの」
ビアンカは色気を出すように足を上げた。足首に緑色の光が回っているリングが付けられている。魔力封じか。
「だから俺にそれを解除するように言ってそれで俺の腕を治すってことか?」
「えぇそうよ」
どうしようか。本当に腕が治るならいいが何かされても困る。こいつの得意属性が毒と麻痺というのも怖い。
「ちょっと聞いてくる」
俺は刑務所管理人の人と話して、完全閉鎖される特別の部屋に入るならいいと言われた。その場合俺が危険になるがまぁ大丈夫だろう。ルイナに何言われるかわからないが。
俺とビアンカはその部屋にやってきた。小学校の体育館くらい広い。
「ではお気をつけて」
「はい」
扉がだんだんと壁となっていった。するとビアンカのリングの光がなくなった。
「密室で二人きりなんて興奮するわねぇ」
「お前だけだよ。で、治してくれるんだよな」
「そうだったわね」
「忘れるなよ」
ビアンカは俺の左腕に軽く触れる。
「魔石がないから二人ともかなり魔力を使うけどいいわよね」
「いいよ」
「Return the bones. Connect now, connect the future」
ビアンカがそういうとビアンカの手から光が出て左腕を包んでいった。
「I want you to love me」
どさくさに紛れてなんか言われたような気がするが無視しよう。光がビアンカの手に向かって引いていった。
「終わったわ」
俺は軽く手を動かしてみる。痛みや違和感がない。
「本当に治ったのか」
「あら、信用してなかったの?」
「そりゃ完全には信じてなかったけど、ありがとな」
「どういたしまして」
俺は闇魔法でギプスを強制的に取って腕を回す。
「お前の懲役はどれくらいなんだ?」
「まだ判決は決まってないわ」
「そうか。まぁ人も殺してないしそこまで長くはならないだろうけど、騎士団側からしたら解放はしたくないだろうな」
「そうでしょうねぇ。私はもう男の子以外襲う気はないのに」
ビアンカは俺を舐めるように見る。
こいつは一生刑務所でいいな。
「終わりました!」
俺がそういうとビアンカのリングが再び光って壁が扉に変わった。刑務所の方がすぐにビアンカの腕を後ろに回した。
部屋を出るとビアンカは刑務所の方の誘導で牢獄に戻されていく。
「ちょっといいかしら」
ビアンカは止まって俺を見た。
「言い忘れてたけどアルト君、あなたは過酷な道を歩んでいるわ。騎士団を抜けるなら今の内よ」
そういうと行ってしまった。
俺はとりあえずビアンカから出した情報を紙に書いて第二騎士団宛てに送っておいた。
俺は刑務所から町に戻ってきた。
「騎士団を抜ける、ねぇ」
まぁ騎士団を抜ければミカヅキに襲われることも危険な目に遭うことなくなるだろうが、それでは騎士団の皆さんと同じだ。俺は騎士団でいたいし騎士団のみんなが好きだから抜けるなんてことない。ルイナもいるしな。
「う、うぐっ、アルト、やっと帰ってきた、な」
「ど、どうしたの、その腕」
「治してもらったんだよ。完全回復だ」
ふらふらしながら家の前で待っていたルイナとラスクさんに腕を回して治ったことを見せる。
「良かった、わね。じゃあ、もう家に、帰りましょうか」
「もう一日泊まらせてもらうんじゃなかったのかよ」
「この人と、いたら、死ぬわよ」
「へっ、お前だけ、帰ってろ。私は、アルトと、話つける、から、よ」
「な、なんですって」
「二人ともとにかく家に入って落ち着きましょうか」
俺は二人を担いで家に入ったのであった。
アルト「今回は楽に済んで良かった」
ルイナ「アルト、勝手に、変な条件で、戦っちゃ、ダメよ」
アルト「お前はいつまで二日酔いなんだ」
ルイナ「今度また変な、条件で、戦ったら、うっ、ぐぇえぇ」
アルト「わかったから落ち着け」




