第六十四話 魔術
「アルトお兄ちゃん、起きて~」
「ん~、もう朝か」
俺は上半身を起こし、目をこすった。
「おはよう、アルトお兄ちゃん」
「ああ。着替えるから戻れ」
「うん」
ヨミを部屋から出し、いつものコートを着た。
「おはよぅ~」
ふらふらしながらも部屋を出た。
「おはよう、アルト。眠そうね」
「おはー、ゆう君」
リビングの机の椅子にルイナとえりとヨミが先に座っていた。
『いただきます』
昨日は騎士団訓練所に戻ったあと解散になった。エレイヤはこのまま一緒に泊まりたいと言ったが、親に早く安否を知らせたかったので帰らせた。
今日からまた平穏な日が続く。と信じたい。
「んで今日は学校行くんだっけか?」
「ええ、昨日手紙で、帰った来たのと今日行くっていうのを書いて送っておいたから」
「せっかく金曜日なんだし休んでもいいと思うけどな~」
「そんなこと言わないの」
俺達は朝ご飯を食べ終わった。久しぶりのルイナが作った料理は美味しい。その後、学校に行く支度をした。
「よし、行くか」
空を飛んで学校に向かう。
「はぁ~、ヘルサ先生になんかされそうで怖いな~」
「ヘルサ先生優しいじゃない」
「お前は魔導士でヘルサ先生と訓練したことないからそう思うだけで戦ったらマジ怖いぞ」
「ヘルサ先生にアルトが怖いって言ってましたって言っちゃおうかなぁ~?」
「おまっ!それだけはやめろ!」
「え~?どぉーしよーかな~」
「まぁ言ってもめちゃくちゃしごかれて疲れてルイナを置いて3人で先に帰るだけだけど」
「わかりました、絶対に言いません」
「よろしい」
「あははー、二人は相変わらず仲が良いね~。もうちょっとで学校だよー」
「もうここまで来たのか。ん?なんか学校が賑やかな感じだけど」
学校を見ると生徒が校庭にたくさん並んでいる。
「ホントね。なんだろう」
生徒の前に立っていた校長先生だと思う人がこっちを見て生徒が全員浮いている俺達を見ると
『おかえりぃ~!』
と学校の周りに響き渡る生徒と先生全員の声がした。
「こ、これ俺達に、だよな?」
「そ、それしかないわよね」
俺達は校庭に降り立った。
「旅を終えたようだな」
ヘルサ先生が近づきてきた。
「は、はい。皆さん、ありがとうございます!」
「無事に旅を終えた4人に拍手を!」
校長先生が言うと生徒全員が拍手をした。960人もの拍手は凄いものだ。
「せーの!」
「ルイナちゃん!ヨミちゃん!えりちゃーん!」
「せーの!」
「アルト~!」
女子はルイナ達の名前を呼び、男子は俺の名前を叫んだ。なんだこの文化祭ノリ。め、めっちゃ恥ずかしいしちょっと怖いくらいだ。
「今日は4人が無事に帰ってきたこと祝う会をしようと思うのだが」
「えっ、マジですか?」
「あぁ、もちろんだ」
「ならお言葉に甘えて」
「ただヘルサ先生から訓練されたくないだけでしょ?」
「そんことないヨー」
「アルト君は途中で私と戦うぞ」
「み、右足を刺されてまだ痛むので無理です」
「じゃあ私も片足で戦おう。よしパーティーを始めよう」
「結局そうなるなら両足でいいですよ。はぁー」
「それでは、今日は皆さんで」
『パーティー!』
校長先生の掛け声で生徒はまた声を響かせると歓声や奇声をあげる。みんなテンションが高いな。授業がなくなってパーティーになるとこうも変わるのか。
生徒はそれぞれ散らばっていった。
「みんなお帰りなさい~」
フィアーナ先生がやってきた。
「ただいまです、フィアーナ先生」
「ルイナちゃんは何か得られた?」
「う~ん。私はあんまり~。アルトが一番色々得たと思うけど」
「そんなことないだろ?ルイナだって小さくなれたし」
「何も得られてないじゃない!」
「それでも色々な町に行けたのなら良かったでしょう」
後ろからメイ先生が歩いてきた。
「メイ先生。確かに収穫はありました」
「なら良かったです」
その収穫って絶対俺の早とちりのやつだろ。
「アルト先輩!」
ミスリアが後ろにいた。
「ただいま、ミスリア」
「お帰りなさいです。ご無事で良かったです」
「客船の時はありがとうな」
「いえ、私は何も。こちらをどうぞ」
「これはピザか」
「はい」
ピザもピザと言うらしい。そういえば日本食だけ名前が違う気がする。
「ん~、美味しい」
「これヘルサ先生が作ったんですよ」
「ええっ⁉あの脳筋のヘルサ先生がっ⁉このピザをっ⁉」
「それはどういうことだ?」
いつの間にか横にヘルサ先生がいた。
「へ、ヘルサ先生、さっき生徒会長に呼ばれてたのでは……」
「もう話は終わった。それで、なぜ私が作ったピザを食べて私が作ったと知ってそんなにビックリしているのだ?」
「い、いや~、ヘルサ先生って料理がとっても上手いことを知らなかったのでビックリしただけです」
「ほう、では私のことを脳筋と言ったことについて話してもらおうか」
「えっ?それはそのままの意味ですけど」
剣が俺の頬をかすめて少しだけ血が出る。
「い、痛いです」
「次私のことを脳筋と言ったら痛いでは済まないぞ」
そ、そんなに脳筋と言われたくないのか。
「もう戦うのかしら?」
「余興としてはいいのではないでしょうか?」
「じゃあ私はあっちでケーキ食べてる」
「あ、私も~」
「食い過ぎんなよ。それでルイナは?」
「私も戦おうかしら」
「マジかよ。ならまた一対一対一ということになるのか」
「あら私も戦うわよ?」
「フィアーナ先生もか。あ、じゃあ俺とルイナでペア組んでヘルサ先生とフィアーナ先生もペアで二対二ってことで」
「え~、私も文化祭のときにみたいにバトルロイヤル形式でやってみたい」
「ちっ、ならそれでいいよ」
「メイちゃんもしない~?」
「皆さんがいいのなら私も戦いますよ」
「メイ先生もですか。メイ先生は強いんですか?」
「それは戦ってからのお楽しみ。さぁ始めるわよ~」
俺達は校庭の一定の距離を離れたところに立った。ルールは文化祭の時と同じで攻撃を受けたら脱落。
生徒は色んな食べ物や飲み物を飲んで騒いでいる。俺も生徒側にいきたい。今回は人が多いので結界を張って結界内で戦うことになった。
あとさっきのヘルサ先生に斬られた頬を治してほしかった。じんじんと痛む。
メイ先生は白衣から白いフードに着替えた。なんのジョブだろう。
『アルト先輩!頑張ってくださ~い!』
「あははー、頑張るよー」
俺は一年の女子に手を振る。一年の女子が騒ぐとルイナから殺気を感じた。
「皆さん、準備はいいですかな?」
校長先生が全員に確認を取る。俺とルイナとヘルサ先生とフィアーナ先生とメイ先生は手をあげる。
「それでは、スタート!」
始まった瞬間ルイナが俺に向かってきた。さっきの一年のせいか。あれ別に俺悪くなくね?
とか思ってる場合じゃない。ルイナが接近戦を持ちかけてくるとは何をするつもりだ?
「はぁっ!」
ルイナは俺を氷の中に閉じ込めた。すると中から炎が出てきた。ルイナにしては珍しい拷問みたいな攻撃方法だな。
「ふっ!」
俺は薄い闇魔法を全方向に出して氷を吹き飛ばして上に飛んだ。ルイナを警戒しているとヘルサ先生が右から突進してきて蹴飛ばされ結界にぶつかった。
「ぐっ!二人とも俺に集中攻撃しようとしてないか⁉」
ヘルサ先生はすぐにルイナに剣を振ったがルイナは氷魔法でガードした。ヘルサ先生は攻撃をし続けてルイナは氷魔法でガードし続けた。ルイナが踵で地面を踏むと地面から氷魔法が出ていき、ヘルサ先生は後ろに下がって避けようとしたが右足が氷に飲まれた。
「くっ」
フィアーナ先生が風魔法を撃ちヘルサ先生とルイナに向かっていく。ルイナは氷魔法でガードしてヘルサ先生は凍っている足の氷を斬って離れようとしたが間に合わず風魔法をくらった。ヘルサ先生は体に細かい傷を負った。
あれっ?ヘルサ先生もう脱落?案外早いな、ラッキー。
メイ先生はさっきから動いていない。狙ってみるか。
俺はメイ先生の背後に回り刀を振ろうとしたが地面が少し揺らいだ。咄嗟に後ろに下がると土が針のように出てきた。
あっぶね。俺が体鍛えずに当たってたら心臓貫かれてたぞ。
「アルト君は反射神経が良いようですね」
メイ先生はその場から動かない。俺は闇魔法を撃った。メイ先生はこちらを向き手を前に出すと手をくるっと下にしたと思うと闇魔法がメイ先生に当たる瞬間に俺に跳ね返ってきた。
「なっ!」
俺は風魔法で闇魔法を上に上げた。あんなことも出来るのか。俺はメイ先生に向かって走ってメイ先生の目の前に来ると踏んだ地面から魔法陣が出てきたと思うと急激に重力が変わったかのように体が右に吹っ飛んだ。
「うぐっ!」
体はルイナと戦っていたフィアーナ先生にぶつかり一緒に結界にぶつかった。
「痛った~い」
「お、おっと。でもこれで」
俺はすぐにフィアーナ先生の腕を刀でかすめて傷を負わせた。これでフィアーナ先生も脱落と。
ルイナがすぐに俺の後ろに来た。氷魔法で飲まれる前に飛んで後ろに下がった。ルイナは氷魔法を撃ちながら近づいてくる。俺はルイナに刀を振るが氷魔法でガードされるとすぐさま撃ってきた氷魔法を避けた。
くっ、こんな近くで氷魔法を撃つとか大胆過ぎるだろ。マズいな、ルイナの魔力より俺のスタミナのほうが早くなくなりそうだ。副団長と戦ってるみたいだな。
「お、おいルイナ」
「何よ!」
「一緒にメイ先生倒さねーか?結構厄介な人だと思うから」
「へぇ~、アルトにしては弱気じゃない。私に勝てなくてメイ先生にも勝てないからって私と手を組むっての?」
「いや?俺だけでもメイ先生は倒せるけど一緒にやったほうが楽だろ?」
「ま、いいわ。乗ってあげる」
「さすが世界一可愛い俺の彼女だ」
「なっ、何よ急に。これくらい、別に――」
「よしじゃあ行ってこい!」
俺はルイナの手を掴んでメイ先生に向かってルイナを投げつけた。
「えぇ~⁉」
「彼女を投げつけるとは、面白いですね」
メイ先生は向かってくるルイナに手を向けると手の前に魔法陣が出た。それにルイナが当たったと思うとメイ先生の後ろに魔法陣が出てそこからルイナが出てきた。
「いたたたー、って今の何⁉」
「あれは、テレポートと同じ転移魔術。ということはメイ先生は魔術師?」
「正解です。正確にはルイナちゃんと同じような白魔術師です」
ハイプリーストでもあって白魔術師でもあるとは凄い人だな。
「さぁ?どうしますか?」
「どうするもこうするも真正面から攻撃するだけですよっ!」
俺はメイ先生に向かって走る。
「なら私も正面からそれに答えましょう」
メイ先生は手を横にすると土が手に集まって一つの槍となった。2メートルくらいもある槍を小さい体で操って構えた。色々と器用な人だ。
「はぁ!」
刀を振るが槍でガードされ刀を横に押し返し槍を一回転させ突いてきたが体を横にしてかわした。メイ先生は次々と突こうとしてくる。
槍を使う騎士団の人はいなかったので槍を相手にするのは初めてだ。体を少し動かすだけで避けれるがこの勝負は少しでも攻撃が当たったら負け。そしてメイ先生の体は小さい。中々刀を振るタイミングが見つからない。
「どうしましたか?避けてばかりではギャラリーを沸かせませんよ?」
「くっ」
俺は突いてきた槍が引く前に左手で掴んだ。俺は動きが止まっているメイ先生に向かって刀を振った。するとメイ先生は素手で刀を止めた。
なんでだ⁉
と思った瞬間刀から電撃が走ってような感覚がして刀を放り放った。
「ぐぁ、なんだ今の」
右手に力が入らない。左からルイナが来てメイ先生と俺が掴んでいる槍を掴むとメイ先生のほうに流れるように槍を凍らせた。しかしメイ先生は槍を離した。
「今のは少し危なかったですね」
そういうとメイ先生は転移魔術で俺達から瞬時に離れた。
「アルト、大丈夫?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
「先ほどのはいわゆるカウンター魔術です。攻撃を一度だけ受け止め相手を数秒だけしびらせる魔術です。失敗しやすい魔術なので実戦では使いませんがね」
「メイ先生凄い人だったんですね」
「そんなことありませんよ」
メイ先生は生徒達のほうをチラッと見た。
「そろそろフィナーレと行きましょうか」
メイ先生はポケットから小さく黄色く透明な魔石を取り出して上に投げた。
「この魔石を触媒とし、魔術を展開せよ」
魔石は空中で止まると巨大な魔法陣を出した。
「な、なにが始まるんだ」
「わからないけどヤバそうね」
ルイナは上に氷魔法で分厚い氷を作った。
「It is a primitive lightning stroke, as it pours down like rain」
メイ先生は何かを唱えた。すると単純な構造だった魔法陣が複雑に変化して光始めたと思うと無数の雷が降り注いだ。生徒達は歓声を上げた。
「ぐぁっ!」
「ぐうっ!」
ルイナの氷魔法はすぐに砕け散り何十発の雷を受けた。
「こんなものでしょうか」
魔法陣が消えメイ先生に魔石が落ちてきた。
「この勝負、メイ先生の勝利!」
校長先生が大声でそういうと生徒はまた歓声を上げてメイ先生は一礼した。
「大丈夫か?ルイナ」
「えぇ、大丈夫よ」
俺は座り込んだルイナに手を差し伸べて立たせた。するとメイ先生が近づいてきた。
「どうでしたか?私の魔術は」
「凄いしカッコよかったです!」
「負けたのに嬉しそうですね」
「カッコよかったですからね!」
「それは良かったです」
あれが魔術か~。俺もいつか習いたいな~。
「アルトお兄ちゃん~。はいお疲れ様」
「おぉヨミ。なにこれんんっ!」
ヨミに無理やり何かを口に詰め込まれた。
「ロールケーキ、美味しいよ?」
「お、おいひぃけどびっくりひただろ」
「私も美味しい物食べたいわー」
「じゃあ一緒に食べよう」
俺はルイナとヨミとテーブルに置いてある食べ物を食べに行った。
〔テレポートと転移魔術〕
・テレポートは決められた場所に瞬間移動する。魔力使用量も少ない。
・転移魔術は好きな場所に瞬間移動する。魔力使用量は多い。
・テレポートする魔石を使えば地面に魔法陣が出来てテレポートできる。役所や騎士団訓練場にあるのもこれを使っている。
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アルト「負けたのはやっぱり右足が痛いからだな~。決してルイナの氷魔法が弱いってわけじゃないからな。元気だせルイナ」
ルイナ「絶対フォローするように見せかけて煽ってるでしょ!ほんっとうざ!」
アルト「そんなことね~よ。なぁヨミ」
ヨミ「うん、ルイナお姉ちゃんは弱くない。アルトお兄ちゃんのほうが強いけどね」
アルト「いやいや。まぁ否定はしないけどな~」
ルイナ「(この二人が組むとホントうざいわね。アルトだけ凍らせよう)」




