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ゲームに飽きたから異世界に行ってみた。  作者: イル
第四章 騎士団殺人鬼
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第五十九話 赤黒い魔力


「アルト君が3人を落ち着かせてくれたみたいだね」

「そのようですね。ですが団長。これはもう最終手段を使うしか手はないのでは……」

「いや、それは絶対使わせない!クレス、僕がやつを倒して見せる!」

「団長……」





 闇属性の魔力を刀に付与して魔物を斬ってみるが全く効いていない。


「このままだとこっちの体力が減っていくだけか」


 どうすればいいんだ。いい考えが浮かばない。俺は刀の魔力を増やして一回本気で斬ってみた。すると魔物の体は斬れて血が出てくる。そして塞がっていく。


 やっぱり一発でこいつを再生出来ないくらいに切り刻むしかないのか?


 みんなで同時に攻撃すれば出来るかもしれないが出来なかったら終わりだ。ヨミが起きていて魔力量がもっと大きければ出来たかもしれない。


「皆さん離れてください!」


 副団長が叫んでいる。俺達は命令通り魔物から離れると魔物は魔力の結界に閉じ込められた。魔物は結界に向かって突進しているが跳ね返されている。


「一度集まりましょう!」



 俺達は団長の元に集まった。


「あの結界は一時的なのであと3分ほどしたら壊れます」

「その間に状況を整理しよう。あの魔物は周りにある紫色の魔力は魔石の魔力だろう。そしてあの魔物は再生能力と体をどんどん硬化させていく能力を持っている。倒すには一発で仕留めなければいけない」

「やっぱりそうなりますか」

「僕が詠唱魔法でやつを倒す」

「一発で倒せるんです?」

「上手くいけばね。僕の詠唱魔法はチャージ型だから結界が壊れた瞬間に詠唱魔法を放つ。それで完全に倒せなかった場合のときにみんなはやつの周りにいて体が再生される前に全力で攻撃してくれ」

『わかりました』


 団長は魔物の横側に立った。そして俺達は結界の近くまでよって囲んだ。


 魔物の顔が俺のほうに向かってくるが結界で跳ね返された。結界もそこまで大きくないので魔物と俺の距離は10メートルくらいしかない。


「怖いなー」


 団長は剣を鞘に納めて剣を握り何かぶつぶつと唱えている。


「なに怖がってるのよ今更」


 ルイナが隣にやってきた。


「お前ちゃんと位置に着いとけよ」

「まだ結界が壊れるまで時間があるしいいでしょ」

「んで何しに来た」

「アルトが不安そうな顔してたから来たの」

「それはお前もだろ」

「ふふっ、でもさっきはありがとう。落ち着かせてくれて」


 ルイナは笑顔を見せる。


「感謝するなんてルイナにしては珍しいな」

「珍しいなんてことないわよ。いつもアルトには感謝してるし」

「の割には今日川に投げ捨てられたな~」

「あ、あれはちょっと魔が差した的なやつよ」

「はいはい。俺もルイナには感謝してるよ。ほらそろそろ戻れ」

「は~い」


 呑気なやつだな。


 ルイナは元の位置に戻った。もうちょっとしたら結界が壊れる。結界にはひびが入っている。団長のほうを見るとただならぬ殺気と魔力を感じる。これで倒せればいいんだが。


 緊張が走る中ついに結界に大きなひびが入った。


 今だ!団長――。


 結界が壊れるのが先か否か、魔物は叫び声をあげた。


「ぐぁ!」


 頭が割れそうなほど痛い。またみんな耳を塞いでいる。さっきより近いせいか耳を塞いでも全然和らがない。団長は剣を抜こうとしているが足ががくがくして今にも倒れそうだ。


 ま、また意識が……。


 もうダメかと思ったとき、3本の魔物の顔が叫ぶの止め、ルイナのほうを向いた。ルイナはそれに気づいていない。


 まさか!


 魔物の口の中が赤く光りルイナに向かって光線が放たれようとしていた。


 俺は必死に足を動かしルイナの元へ走った。そのままルイナを突き飛ばそうとしたが横から魔物の顔が俺に向かってきていた。


 しかしルイナを守ることに必死だった俺はガードしようとせずルイナに向かって手を伸ばしていたがその思いも空しく俺は魔物の顔に突き飛ばされて6メートルほど飛ばされた。


「ルイナ……」


 俺は顔をあげて手をルイナに伸ばす。その瞬間ルイナの姿は魔物の光線に消えていった。


 血の気が引いていくのがわかった。光線の魔力は俺達が受けた魔王の幹部の魔法よりも多い。


 すると団長は足を震わせながらも剣を抜いて魔物に向かっていった。


交差破裂(クロスバースト)!」


 団長は二つの剣を振りかざそうとしたとき、足が少しふらついた。


「くっ!」


 二つの剣は交差して魔物を斬ると斬った場所の周りが破裂するように爆破し、大量の血がそこら中に巻き散った。根元がなくなり首も4本落ちて尻尾も3本落ちていく。


 だが足がふらついたせいでしっかりと決まらず体も結構残ってしまった。


「く、そ。ここまでか……」


 団長は魔物の前で倒れた。


 しかし俺はそんなことを気にしてる余裕はなかった。


 団長のおかげで光線は消えたが見えるのは倒れてびくともしない血だらけのルイナの姿。


「ルイナ!」


 声を荒げて俺は叫んだ。ガードもせず受け身も取らなかったせいで全身が痛い。けど俺は這い蹲りながらルイナに元へ向かう。


「おい!ルイナ!ルイナ!」


 俺はルイナの頬に手を当てる。


「起きろよルイナ!」


 ルイナは変わらず動かない。


「ルイナ!ルイナ!ルイナ!」


 何度名前を呼んでもルイナは目を開けない。俺はルイナの胸に耳を近づけて心臓の音を確かめるが何も聞こえない。


「ふざけんなよマジで。目覚ませよルイナ!」


 声もだんだんガラガラになっていく。


「くそが!」


 俺は地面を殴った。手の周りの土がへこむ。


 さっきまでのルイナの笑顔を思い出す。取り返しのつかないことをしてしまった。


 俺の目からは涙が出てきていた。



『私の惚れたところまだ言ってくれないの~?』



「ルイナ、俺は……」



『あんたが嘘ついてるように見えないから』



「お前の笑顔に惚れたんだよ!」


 俺は空を見上げた。聞こえるのは魔物の再生する気持ち悪い音だけ。


「だからもう一度笑ってくれよ……」


 俺の目から涙が落ちる。



「――へぇ、そうだったのね」

「……え?」


 見るとルイナが目を開けて俺を見ていた。


「ルイナ?ルイナ!」

「何よ、さっきからうるさいわね」

「い、生きてるのか?」

「当たり前でしょ。意識が朦朧としたのとちょっと呼吸困難になっただけよ」

「で、でも心臓の音が……」

「ちゃんと胸に耳当てなさいよ。ったくもう」

「生き、てるのか。良かった。本当に良かった」


 俺は再び涙を流した。


「何めそめそ泣いてるのよ。アルトらしくない」

「う、うるせーな。こっちはめちゃくちゃ心配だったんだぞ」

「けどやっと言ってくれたわね。なるほどね~、私の笑顔で惚れたのか~」

「うるさいって言ってんだろ!」

「わかったわよ。それよりもちょっと休ませてほしいんだけど」

「あ、あぁ」


 魔物のほうを見るとどんどん再生していっている。えりとエレイヤは俺と同じ気持ちだったようで涙を流してがらもほっとしている。副団長は再生を少しでも遅らさせようと矢を撃って爆破させている。


 俺は涙を拭いてルイナの抱えた。


「痛ったいわよ!」

「怒られてもしらねぇよ。我慢しろ」


 ルイナを数十メートルほど離れたところに置いた。本当ならヨミと同じところに置いておきたいがそこまで遠くまで行けるようなときじゃない。


「中途半端なところでごめんな」

「いいわよ。また光線が来たら今度はなんとか避けるから」

「絶対だぞ」


 俺はまた魔物の近くまで行った。


「アルト君!ルイナちゃんは無事ですか⁉」

「はい、重症ですが大丈夫そうです」

「なら良かった。しかしこのままだと、うぅ~」


 副団長は悩んでいたが一旦団長をルイナほどではないが魔物から離れたところに置いた。


「とりあえず今は再生するのを防ぎましょう!」

「はい!」


 俺達は再生する魔物に攻撃をする。


 ガルアは殴ったり蹴り続けているがもう体力の限界そうだ。


 エレイヤのギターは弾いている間ずっと衝撃波が出て攻撃しているが威力があまり高くない。もう魔力が尽きそうなのか。


 えりも雷魔法を撃ち続けている。威力は高いがえりも魔力が尽きそうだ。


 副団長は変わらず矢を撃ち続ける。魔力が尽きそうな気配もない。


 俺も闇属性の魔力を刀に付与して本気で攻撃している。けど再生するほうが早い。というか斬れば斬るほど再生するのが早くなっている気がする。


 戦えるのはこの5人だけ。そしてエレイヤとえりは魔力が尽きそうでガルアももう倒れそうだし俺ももう腕が死にそうだ。さらに魔物が再生すればほとんど攻撃は効かないだろう。


 もしかすると町の人を見捨てて逃げることになるかもしれない。俺はアニメや漫画の主人公のように自分達の命より他人の命とかいう思考ではないのだ。けど出来るだけ他人の命は守って見せる。


 また一か八かでやってみるしかないか。


 俺にはまだ奥の手がある。失敗したらもう終わりだから使わなかったが俺にはフィアーナ先生から教えてもらった合体魔法がある。


 耐えてくれ、俺の精神力。


 俺は刀を鞘に入れ、魔物に手を向けて炎魔法と闇魔法を合わせて出した。手の前に炎と闇の合体魔法が出来る。


「はぁっ!」


 それを魔物に向かって撃った。魔物に当たると肉が飛び散って燃えていく。少なくとも今一番攻撃力の高い攻撃だろう。


 俺は何度も合体魔法を撃つが結局はプラマイゼロだ。魔物の肉だけが飛び散っていく。


 このままじゃダメだ。もっと、もっと魔力を使って撃つんだ。


 俺は次々と魔力量をあげて撃つ。


 もっとだ、もっと魔力を――。


「あ、がっ!」

「アルト君⁉」


 かなりの魔力を使って合体魔法を出そうとしたとき、その合体魔法は俺の身を覆った。


「うぁぁぁぁぁぁぁ!」


 全身が壊れそうなほど痛い。生きたまま地獄にいるようだ。そして魔力が暴走して体中を駆け巡っている。俺から闇魔法が勝手に出てそこら中に飛んでいく。


「ぐぁぁ~!」


 叫ばずにはいられない。体の外側も内側も痛い。


 俺はその場に倒れこんだ。


「アルト君!しっかりしてください。くっ、ここは引くしか」


 副団長はえりとエレイヤを掴んで俺とガルアを風魔法で浮かすと団長のほうに向かった。


 俺は合体魔法に覆われたまま意識が朦朧としていた。


 みんな頑張ってきたのに逃げるしかないのか?


 えりとエレイヤが心配そうに俺のほうを見ている。えりに『俺がなんとかする』ってカッコつけといて逃げるのか?


 副団長は団長の近くに来ると俺とガルアと同じように風魔法で浮かせる。次はルイナのほうへ行く。


 ルイナはこのまま逃げて町の人が死んでしまったらどう思うだろう。ルイナの笑顔は消えてしまうかもしれない。


 俺はルイナの笑顔が好きだ。それが失われるなんてこの命は捨ててでも嫌だ。


 ルイナに俺が負けたところを見せたくない。ルイナは俺のこと信じてくれている。ならその信頼に答えるのが男ってもんだろうが。



『でも魔力に飲み込まれないほどの精神力を持っていれば大丈夫って聞いたことあるからアルト君なら逆流してもなんとかなるかも~』



 俺の精神力が低いってことかよ。ふざけんじゃねー。俺は魔力に飲まれて終わるなんてダサいのは嫌だ。


 魔力が俺を飲み込もうとするなら俺が逆に飲み込んやるよ!


 俺は魔力を無理やり出して副団長の風魔法を吹き飛ばした。体が地面を転がる。


「アルト君⁉何を」


 俺の体を覆っていた合体魔法は俺の中に飲み込まれた。その代わりに俺の体からは赤黒い煙のようなものが出ていた。


「俺は、負けるわけにはいかねぇんだよぉ!」


 俺は立ち上がった。すると赤黒い魔力が俺を纏った。


「これは……」


 体中の痛みが力に変わっていってるのがわかる。力はどんどん上がっていく。


 ヨミのように俺は気迫に満ちていった。髪が少し浮いている。赤黒い煙はそのままだ。


 俺は刀を抜き炎と闇属性の魔力を刀に付与した。刀は黒い煙に包まれて中からは炎が見える。魔物はもうほぼ完全回復しようとしていた。


「絶対に、倒す!」


 俺は魔物に向かって走った。今までよりも遥かに早いスピードで魔物の目の前まで来た。魔物の2本の顔が俺に向かってくる。


「はぁ~!」


 俺は刀を振った。2本の首は綺麗に斬れるとそこから炎が燃え広がっていって全身を包んだ。魔物は暴れて炎を消そうとしながらも再生していく。


「これで終わりにしてやる」


 俺は魔物から少し離れた。目をつぶり神経を研ぎ澄ませた。



 今だ――。



 魔物向かって走り魔物を切り刻んだ。気づいたときには魔物の後ろ側にいた。


 振り向くと魔物は再生が出来ないくらいにバラバラと崩れていった。血が大量に飛び散った。


「倒した、か……」


 俺は気を失った。


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