第五十五話 覚えてる
中々寝付けないなぁ。お酒たくさん飲んだからすぐ眠れると思ったんだけど。
やっぱり今日のこと考えちゃうな~。初めてあんなところに行って命の危機にあって、そして私は人を殺してしまったということになるのかな。捕まったりしないよね。団長も大丈夫って言ってたし。
誰か立ち上がった。ゆう君かな?
ちょっとしてまた誰かが立ち上がった。ゆう君とルイナちゃんの声がする。
またイチャイチャしてるのか。相変わらずラブラブだな。本当にラブラブだな~。
「なにイチャイチャしてるの二人とも」
『うわっ!』
気づいたら立ち上がって二人の間に入ったいた。
なんで、こんなことしてるんだろう。二人っきりのほうがいいはずなのになんで私は邪魔したのだろう。
「ううん、いいよ。こっちこそお邪魔してごめんね。じゃおやすみ」
私は……何がしたいんだろう。
「おはよぉ~!」
うるさい声とエレキギターの音で目が覚めた。
「うぁ~。頭痛て」
「朝だぞ!起きろ!」
エレイヤは笑顔で俺の顔を覗き込んだ。
「昨日今日と起きるのが早いな、エレイヤ」
「そ、それは、襲われると思うと目が覚めて……とりあえず起きろ!」
「わかったから大きい声を出すのはやめてくれ」
俺は上半身を起こしてあくびをした。隣にいるルイナも座って眠そうに俯いている。
「う~ん……」
ルイナは俺に寄りかかって手を俺の額に当てて二日酔いを軽くしてくれた。
「ありがとうルイナ」
「どーいたしまして~……」
「ほらしっかりしろ」
俺はルイナの背中を軽く叩いた。
部屋には団長と副団長とガルアの姿がない。窓が開いており、日差しが差し込んでいる。
「おはよ~」
「おはようえり。ヨミはまだ寝てんのか」
あんなうるさい音を聞いてよくまだ寝られるもんだ。
「起きろー、朝だぞ~」
ヨミを揺すってみるが起きない。ここはエレイヤと同じ方法でいくか。
俺はヨミの耳元で
「ずっと寝てると、襲うぞ――」
俺がそう言った瞬間にヨミに首を掴まれ布団の中に入れられた。
「うわっ」
「アルト⁉」
暖かく薄暗くてヨミの匂いがする布団の中で目の前にヨミの顔が見える。
「いつでも襲っていいよ」
「じょ、冗談だっつーの」
「なら私とこのまま二度寝しよう?」
ヨミは俺を抱きしめた。少々息苦しい。
「こらヨミちゃん!アルトを返しなさい!」
ルイナが布団を引っ張り、俺をヨミから引きはがした。
「むぅ~、アルトお兄ちゃんから言ってきたんだからいいじゃん」
「アルトはなんて言ったの?」
「い、いやそれは、言えない」
「『襲うぞ』って言った」
「おいこらアルトさん私を襲わずに、あなたこんな小さい子を襲うなんてどういうおつもりなのでしょうかこの野郎」
ルイナは俺をよくわからない口調と怖い笑顔で壁に追いやった。
「え、えーっと、それは冗談であり、ヨミを襲う気はなく、ルイナさんを怒らすつもりもありません。許してください」
「俺も襲うって言われたぞ!」
「これはどういうことなの?さすがに私もキレるわよ?」
もうキレてるじゃねーか。
「エレイヤのも冗談で本気で襲う気は微塵もなくてですね」
「へぇ~?」
「も、元々は起こすために言っただけだからさ、信じてくれよ」
「ふ~ん?」
「エレイヤもあのときすぐ起きれたし昨日も今日も早く起きれたから良かっただろ?」
「俺はもっと寝たいんだ!」
「なっ!早く起きたら良いことあるかもしれねーだろ」
「言い訳はもう終わりよっ!」
俺はルイナに襟元を掴まれてそのまま窓の外に放り投げられた。
「うわぁ~⁉」
俺は詠唱魔法を唱える暇もなく川に落ちた。
「ふん!次私以外に変なこと言ったら許さないんだからね」
今回も許してないだろうが。
俺は川から上がった。
「はぁ~、まぁ詠唱魔法を撃たれるよりはましか」
なんでこの世界は唱えないと浮けねーんだ。
そう思う日曜の朝だった。
「災難だったね、アルト君」
「いえ、俺が悪いので大丈夫です」
「最初見たときビックリしちゃった」
「すみません。俺が悪いので」
「なーに軽くヘラってるのよ。もう気にしてないからもっと楽しそうに食べなさいよ」
俺達は朝ご飯を食べている。
「もう俺はルイナの彼氏に合わない男だな。別れようか」
「ねぇ~ごめんなさい~!誰でも襲っていいし食べていいから別れるのだけはやめて~!」
ルイナは俺に縋りついた。
これで許せざるを得ないであろう。
「別れないからご飯食べろ」
「良かった~」
早く食べ終わったヨミが俺の前に来た。
「卵焼き頂戴」
「ほらよ」
俺は箸で卵焼きを摘みヨミの口に持っていった。
「ねぇアルト、いつも思うけどヨミちゃんだけ関節キス多くない?」
「まだ子供だしいいだろ。たくさん食べるのは良いことだ」
「ふふっ、アルトお兄ちゃんがくれる食べ物は普通よりとっても美味しいんだよ。特にアルトお兄ちゃんの唾液が付いた箸でくれた食べ物はね」
「アルト!私にもその卵焼きをその箸で頂戴!」
「自分で取って食べてくださーい。あとそれは気のせいだ」
「えぇ~」
「クレスお姉ちゃんのも頂戴」
「あまり名前で呼ばないでほしいのだけれど、いいわよ。はいどうぞ」
ヨミは副団長にもお願いして食べさせてもらった。
「美味しい。けどアルトお兄ちゃんのほうが美味しい」
「それは卵の問題だろ」
「アルト君はヨミちゃんにすごく好かれているんですね」
「どうしてなんでしょうねー」
「アルトお兄ちゃんは優しいから」
「お前は人前でそういうこと言うんじゃねーよ」
「照れてるの?」
「照れてるんじゃなくて恥ずかしいんだよ」
俺はヨミの頭を軽くチョップした。
「でもアルト先輩は本当に優しいですよ」
「ミスリアまでそういうこと言うな」
「私もアルト君は優しいと思いますよ」
「ふ、副団長まで」
「私もアルトは優しいと思うわよ」
「あっそ」
「なんで私にだけ冷たいのよ~」
「それで、団長、次はどこの町に行くんです?」
「次は第一騎士団の団長が襲われたネイノス町だよ」
「ビアンカから何か情報は?」
「『あなたたちなら大丈夫』とだけ」
「他人事か。まぁいいか」
俺達は朝ご飯を食べ終わって竜車預かり所に来た。
「んじゃ三人ともお元気で」
「はい、アルト先輩もお元気で」
「頑張りたまえ」
「良い結果を期待しているぞ」
俺達はミスリアとミラス先輩とヘルサ先生に別れを言って竜車に乗った。
「ネイノス町までどれくらいかかるんですか?」
「1時間20分くらいかな?」
「結構ありますね」
「山をいくつか越えるからね」
竜車はリードルード町を出て野原の道を進んで行く。
「そういえば忘れてたけどゆう君!」
「なに?」
「山手線ゲームのなんでも言うこと聞くっていうの覚えてるよね?」
「ちっ、そのままずっと忘れてたら良かったのに。覚えてるよ」
「まだ何にするか決めてないけど覚えててよね」
「わかってるよ」
「あ、私も覚えてるか聞きたいことがあるんだけど」
ルイナは耳元で言ってきた。
「なんだよ」
「私の惚れたところまだ言ってくれないの~?」
「い、言えるときにちゃんと言うから」
「絶対よ。絶対だからね」
「あぁ」
しばらく暇つぶしにルイナ達と話していると山の中に入った。
「みんな気を付けてね。ここは山賊が出るらしいから」
そういうこと言うと
「げへへ、止まれ!金と女を出しな!」
やっぱり出てきたよ。
数十人の小汚い山賊が出てきて竜車を囲んだ。手にはよくありそうな剣、ロングソードがある。
「団長、どうしますか。私の弓だと深手を負わせるかもしれません」
「う~ん」
「なら俺が素手で倒しますよ」
「いやここは俺が行く」
俺が刀を置いて竜車を出ようとするとガルアが俺を止め竜車から降りた。
最近戦えてなかったから気晴らしにはなるだろう。
「なんだおめぇ!この人数差で勝てると思ってんのか!」
「ぎゃあぎゃあうるせーな。さっさとかかってこい」
「こいつっ!やれ!野郎ども!」
五人ほどの山賊がガルアに向かっていった。
しかしガルアはあっさり倒した。
「ひぃ!ぜ、全員かかれ!」
『おぉ~!』
一斉に山賊がガルアに向かって剣を振るが魔力で硬化させた体は一切の刃を通さなさい。
ただただガルアが一方的に殴り掛かるだけの山賊が可哀そうな時間が続いた。
「もう全員いなくなったのかよ」
山賊はガルアに殴られ蹴られ、地面や木に吹き飛ばされ叩きつけられてうずくまっている。
「どうだガルア。ストレス解消になったか?」
「……少しはな」
そのとき、後ろから気配がした。振り向くと竜車の後ろから一人の山賊がヨミを襲おうとしていた。
「ヨミ!」
俺はすぐに体が動き、山賊の顔を蹴り飛ばして遠くに飛ぶ前に俺は山賊の後ろに回り背中を蹴って地面に叩きつけた。
「ぐえっ!」
「お、おっと、ちょっと本気になっちゃた。死んでねぇよな」
俺は地面に叩きつけられて動かない山賊の首を掴んだ。鼻から血が出ているが気絶しているだけのようだ。
「生きてるか」
俺は山賊を投げ捨てた。
「アルト、やりすぎよ」
「ヨミに手を出すやつには容赦しねーよ」
と言ってもそこまで本気を出してなかったんだが。
俺は竜車に乗って座った。
「やっぱりアルトお兄ちゃんは優しいね」
ヨミは俺の太ももに乗った。
「まぁヨミの力なら一人でもなんとかなりそうだったけど」
「全員無事だし先に進もうか」
「はい」
山賊は多分大丈夫だろう。これに懲りてもう山賊なんてやめてくれればいいいけど。
またしばらくすると町が見えてきた。さっきまで晴れていたのだが曇ってきた。
「不気味な感じですね」
町は霧で覆われていて町全体が把握できない。町と言っても小さい集落みたいとなところだ。
「なんであんなに霧が……」
「あれは、結界かしら」
「わかるのか?ルイナ」
「ええ、どんな結界かはわからないけどね」
「とりあえず近づいてみよう」
そのまま竜車は進み、結界の前まで来た。
「俺が先に入ってやる」
「大丈夫か?入った瞬間体が消し飛ぶかもしれねーぞ」
「そんな結界が張れるほどの化け物がいるなら見てみてぇな」
ガルアはみんなの心配をよそに躊躇なく足を踏み入れた。
「……なんもなんねぇぞ」
数秒待っても何も起こらない。警報とかが鳴ると思ったが音沙汰もない。
「じゃあ何なんだこの結界は」
「僕も入ってみるよ」
「いや待て」
団長が結界に入ろうとするとガルアが何かに気づいた。ガルアは手を上に上げた。
「やっぱりか。この結界は魔力封じだ」
「魔力封じ⁉」
「なんでそんなものが。けど一応安全はわかったわね」
「この町に何かあるのは間違いないね」
団長は結界の中に入った。ルイナ達も続いて入り俺も中に入った。
「わ、私はここで留守番してるわ」
「どうしたんです?副団長」
「地竜はここにいたほうがいいからお世話する人が必要でしょ?だから私はここにいるわ」
「みんな行こう。クレス、地竜は任せたよ」
「は、はい!みんな気を付けて行ってください」
俺達は副団長を置いて団長に付いていった。
「うぅ~」
「怖いか?ヨミ」
ヨミは俺の腕を掴んでいる。
「急に何か出てきそうで怖い」
「こういう霧のところは足元にトラップとかあるから気を付けろよ」
「アルト詳しいわね」
「多分落とし穴とか、地面からツタが出てきて捕まるとかだな。てか魔力を出すことが出来ないってことは今戦えるのは俺と団長だけ?」
「そういうことになるね。ガルア君も一応戦えそうだけど」
「ならお前ら邪魔なだけじゃん」
俺はルイナとヨミとエレイヤとえりのほうを見た。エレイヤなんか、ただデカいエレキギターを持ってるだけのバカみたいだし。
「もう来ちゃったんだしいいでしょ。私達を守ってよ」
「魔力を付与してない状態でどれくらい戦えるかわかんないけど出来るだけ守るよ」
「それにしても何もないな」
「もっと魔物とかお化けとか出ると思ったけど結局何もないんじゃねーか?」
エレイヤは団長の前に出た。
「お、おいあんまり先に行くと」
「大丈夫だって!何もねーよ」
と、エレイヤが呑気に一回転していると
「あぁーーー!」
「うわぁ~!」
霧の中から何か叫びながら出てきてエレイヤはすぐの俺の後ろに行ってしがみついた。
「だ、誰だ!」
「おぉ、これはこれは驚かせてすみません。そ、それより旅のお方!」
エレイヤを驚かせたのは、やつれた一人の男で目を見開いて俺の手を握ってきた。
「な、なんでしょう?」
「悪魔を、悪魔を倒してください!」
「あ、悪魔?」
〔高級宿屋〕
・宿屋というより旅館
・80畳ある大広間の下には川がある
・春には大広間から桜が見れる
・食事は朝晩出る
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ルイナ「なんかまた嫌な予感感がすごい」
アルト「お前は気にし過ぎだって。大丈夫大丈夫」
ルイナ「なんでアルトはそんなに気軽なのかしら」
アルト「主人公は死なないって決まってるからだよ」
ルイナ「ちょっと⁉」




