第五十四話 宴
港に戻ると船の乗客や船員がいた。
「アルト先輩!」
「ミスリア、大丈夫だったか?」
「はい。何が何だかわかりませんが他の方も無事です」
「良かった~」
ミスリアと話しているとミラス団長とヘルサ先生が近づいてきた。
「ヘルサ先生。団長も」
「おや?アルト君はヘルサさんのことを知っているのかい?」
「え、はい。ルイナの学校の剣術の先生でいつも俺に訓練をしてくれています」
「だからアルト君は強いのか。ヘルサさんはね、僕の師匠なんだ」
「えっ!そうだったんですね」
「師匠と言っても時々稽古をつけてやったくらいだがな」
「いえいえ、ヘルサさんが指導してくださるといつも勉強になりました」
「団長もこんな人に稽古つけられるなんて大変じゃありませんでしたか~?」
「それはどういう意味だ」
「大変だったけどおかげで強くなれたよ。アルト君もそうだろう?」
「いや~、強くしてくれるのはいいんですけど、戦い始めるとこっちの話を全然聞かなくて」
「休憩が欲しいなどと甘ったれたことを言うからだ。それはともかくこの乗客達をどうにはせねばな」
「そうですね」
俺達は乗客達に少し嘘をつきながらも軽く状況を説明してもう安全なことを伝えて帰ってもらった。
その夜……。
『乾杯~!』
俺達はミスリアとシアン先輩の奢りで高級の宿屋の80畳もある部屋で宴を開いていた。
「シアン先輩、乗客の誘導ありがとうございました」
「ふっ、役に立ったのなら良かったよ」
「ヘルサ先生もミスリアもありがとうございます」
「うむ」
「わ、私は何も役に立てませんでした。すみません」
「ううん、主催者の存在をわからせてくれたから助かったよ」
「そ、そうですか。お役に立てたのなら良かったです」
「ねぇ~アルト~、こっち来てお酒注いで~」
「はいはい」
「もう!団長はそう甘ったれてるから金持ちと思われなかったんです!次は怪しまれずに入ってくださいね!」
「ずっと謝ってるじゃないか。それにアルト君とルイナちゃんとえりかちゃんの協力もあって無事勝てたし結果オーライだよ」
「ふんっ!」
団長は副団長に怒られて大変そうだ。
「ねぇ~、ゆう君~」
「ちょ、お前」
えりが酔っ払って俺を押し倒して俺の上に乗った。
「私、強かったでしょ~?」
「あ、あぁ、強いからどいてくれ」
「ふっへへ~。私が最強だぁ~」
えりは俺の頬を軽く引っ張った。
「ちょっとえりかちゃん、にゃにしてるのぉ~!」
ルイナはえりの上に乗った。
「ルイナちゃん重いよ~。特に胸が。特に胸が」
「二回言わなくていい。そして一番苦しいのは俺なんだけど」
「えりかちゃん、私と酒飲み勝負をしましょう」
「いいよ~。私は最強だから負けないもん」
そう言って二人はお酒を取りにいった。俺は壁に寄りかかって酒を一口飲んだ。
「アルトきゅん~」
「なんだ?」
エレイヤが俺の隣に来た。
「今日ずっと暇だったけど我慢して宿にいたんだぞ~、褒めてくれよ~」
「よく頑張ったな。よしよし」
俺はエレイヤの頭を撫でた。心なしかアホ毛がぴょこぴょこ動いて喜んでいるように見える。
「でもガルガルと話せて面白かったぞ!」
「ガルアのことか?」
今ガルアは団長と話しながらワインを飲んでいる。
「そうだ!」
「ガ、ガルガルって呼んでんのか」
「ああ!何か問題でもあるか?」
「い、いやそうじゃないけど。なら団長のことはどう呼んでるんだ?」
「ミラミー」
「聞いただけじゃ誰かわかんないな。じゃあ副団長は?」
「クレっち。全員言ってやろうか?」
「一応聞いておくよ」
「お前はアルトきゅんだろ。ルイナはルイナっち。ヨミはヨミみん。えりかはえりっち。んでガルガルとミラミーとクレっちで、ミスリアはミスリン。先生はヘルル!」
口調は悪いがなんとなく覚えた。ミスリアとヘルサ先生まで呼び名があるのか。一人忘れているような気もするがいいや。
「なんでそんなに呼び名を付けるんだ」
「文句あるのか?」
「ないよ」
「なら俺の勝手だろ」
「わかったよ」
「ふふん」
俺達は夜遅くまで飲んだ。布団を敷いて皆、寝ていった。
眠れないなぁ~。
しばらくした後、俺は起き上がって、酒の缶を持ち窓を開けて花台窓手すりに座った。
この部屋は川の上にあるのでここからは川が真っすぐ見え、そして川の橋の隣に桜の木が見える。春に来れたら良かったのにな。今は枯れている。
今日は三日月より少し膨らんでいる月だ。俺は酒を飲んだ。
あの子に襲われてから一週間ほど経ったか。旅を始めてまだ四日しか経ってないのに二人も騎士団殺人鬼を倒した。順調に行き過ぎて罠なんじゃないかと思ってしまう。
今日、えりの雷魔法の威力を見てわかったが雷魔法は貫通力があるんだな。船の壁も綺麗になくなっていた。えりの雷魔法はルイナの氷魔法より危険かもな。
「なにしてるの?」
「うわっ、ル、ルイナか」
ルイナがいつの間にか布団から起き上がって俺の隣にいた。
「ちょっと寝付けなくてな」
「ふふっ、私もなのよ」
ルイナも俺の前に座った。
「いい眺めね」
「春に来れたらもっといい眺めになると思うけど。春にする魔法とかないの?」
「あるわけないでしょ。私にもお酒頂戴」
「お前、結構酔っ払ってないんだな」
「静かに横になってればそこまで酔っ払わないわ。ていうか私は酔っ払ったことないわよ」
「はいはい」
俺はルイナに酒缶を渡した。
「っは~、ふえ~へ~」
なんでこいつは一瞬で酔えるんだ。
「アルト~」
ルイナは缶を置いて俺の胸に飛び込んだ。
「ったく重たいな~」
そういいながらもルイナの頭を撫でた。
「はぁ~、最近エレイヤちゃんもアルトのこと好きになってるわよね~」
「あぁ、そうらしいな。一目惚れだから『なんで』って言えるもんでもないし」
「一目惚れねぇ~。そういえばなんでアルトは最近恥ずかしがったりしないの~?最初会ったときとかは結構恥ずかしがって可愛かったのに~」
「う~ん。まぁ慣れだな」
「意味わかんない。今みたいに抱き着いたときとか胸当たってるのになんの反応も示してくれないし」
そういってルイナは俺の体に胸を当てたり離したりする。
「それ気づいてたんならやめてほしいんだけど」
「気づいてるに決まってるじゃなーい。ほら顔赤くしてそっぽ向いて頬をポリポリしなさいよ」
「なんでだよ。俺がお前で恥ずかしがることはもうほとんどないよ」
「とか言って、本当はドキドキしてるのも気づいてるんだからね~」
「はぁ⁉」
「心臓の音が早くなってる。これは私の胸が当たってることにじゃなくて私という好きな人と接触してるからでしょ?」
「な、なに言ってんだ」
「ふふっ、当たりね。アルトって強がる癖があるわよね~。やっぱり可愛いわね」
ルイナは俺の頭を撫でた。
「お、お前は……。なら俺も言ってやるよ」
「え?」
「お前も心臓早くなってるぞ」
「き、気のせいよ」
「じゃあ試してみるか」
「そ、それってどういうこと?」
俺はルイナに力強く抱き着いた。
「ふぇえええええ⁉」
「ほらもっと早くなった」
「ちょ、ななななによ。なんなの、意味わかんないわよ」
「いつもよりテンパってるな。どんどん顔も赤くなって熱くなってるぞ」
「うぅ、な、なら!」
ルイナは俺に力強く抱き着いた。
「アルトだってもっと早くなって顔も赤くなってきてるわよ」
「は、はぁ?そんなわけないだろっ!」
俺は更に強く抱きしめた。
「うぐっ、す、好きな人ともっとくっ付いたらまだ早くなるのからしらねっ!」
ルイナは更に強く抱きしめた。
「ぐっ、ルイナはやっぱり面白いし可愛いな、良い彼女を持てて嬉しいよっ!」
「っ!アルトだって面白いしカッコいいわよ、いつ見ても惚れ惚れするわっ!」
「なにイチャイチャしてるの二人とも」
『うわぁ!』
お互いの体が破壊されそうなほど抱きしめ合ってキモいことを言っているとえりが隣にいた。びっくりしてルイナは俺を離した。
「し、静かに。もう、二人がイチャイチャしてるから起きちゃったよ」
「ご、ごめん」
えりはルイナの酒の缶を取ると一口飲んだ。
「っは~。二人ともイチャイチャするものいいけど明日も早いんだから。もう今日だけど」
「あ、あぁ、もう寝るよ」
「お、起こしてごめんなさいね」
「ううん、いいよ。こっちこそお邪魔してごめんね。じゃおやすみ」
「お、おやすみ」
えりは布団に入った。
「ね、寝るか」
「そ、そうね」
俺とルイナは酒を飲み干した。
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
窓を閉め、布団に入って少しして眠りについた。
アルト「えりが止めなかったら俺死んでたかもな」
ルイナ「それだったら私もよ。か弱い乙女を潰す気なの?」
アルト「か弱い乙女に殺されそうになるとは俺もまだまだだな」
ルイナ「私は殺そうとなんかしてない!」
アルト「殺そうとしてないのにあの力とは。さすがだなぐはっ!」
ルイナ「ねぇ、それ以上言ったら殺すわよ?」
アルト「す、すみません。全然痛くもなかったです」
ルイナ「はぁ⁉それは私が弱いって言いたいの⁉わかったわ、私の力を見せてあげる!」
アルト「ど、どうすりゃいいんだよ~!ぐはぁ!」




