第四十八話 ビアンカ
ほぼ同時刻、俺の入った店の前の茂みには。
「団長、本当にアルトは大丈夫なんですか⁉」
私はこの作戦には反対だった。でもそうするしかなかった。
「アルト君なら大丈夫だよ。多分」
「多分⁉だってこの店は大人的なあれやこれやの店ですよ⁉アルトにもし、あんなことやこんなことがあったら私!」
「興奮する?」
「しないわよヨミちゃん!」
「まぁまぁゆう君ならなんとかなるでしょ」
「えりかちゃんまで~」
「静かに。あれは……」
「アルト⁉と、あの踊り子!」
店から出てきたのは気を失っているアルトと肩を組んでいるあの踊り子。
「ビアンカちゃん、その方」
「お酒で酔いつぶれちゃったみたいなの。家は知ってるから運んでいくわ」
「そう、大変ね。ビアンカちゃんは踊り子の仕事もあったから今日はもう上がっていいわよ」
「わかりました。お先に失礼します」
「お気をつけて。最近物騒だから」
「はい」
踊り子はどこかへ歩いていく。
「追いかけるよ」
「あの変態女、アルトに何したのよ!」
「ルイナちゃん静かに!いくよ」
「これが最初の実験、あなたは幸せものね~……」
あのビアンカさんの声が聞こえる。声が少し響いている。
「私の長年掛けた研究がやっと進む……」
薬品の匂いがする。
「騎士団殺人鬼なんかよりこっちのほうがよっぽど楽しいわ……」
俺は、寝かされているのか。
「こんな得意属性も役に立つのね……」
確か俺は、あの店で……。
「さぁ、実験の始まり」
目を開けると、腹に何か液体を垂れされようとしていた。俺はすぐさま横に避け、寝ていたところから転がり落ちた。そしてすぐさま立ち上がった。
「あら、まだ麻痺は続いているはずなのだけど、魔力の量を間違えたかしら」
俺はコートを脱がされ、黒いズボンだけ着ていて半裸になっていた。
「あんた、俺をどうするつもりだ?」
「体だけでなく声も出せるの?あなた、最初から麻痺にされるとわかっていたのね」
「質問に答えろ」
「あらあら、いきなり言葉使いが悪くなったわね。私はあなたを実験台にしようとしただけよ」
「なんの実験だ?」
「質問ばかりではつまらないわ」
「俺は楽しくもつまらなくもない。なんのだ?」
「せっかちね~。でもそれは教えられないわ」
「わかった。じゃあ、お前は騎士団殺人鬼か?」
「やっぱりあなた、騎士団なのね……そう、私は騎士団殺人鬼よ」
「やっぱりって最初から気づいていたのか?」
「最初から気づいてたら関わってないわ。あなたの服を脱がしたときに気づいたわ。鍛え方が一般じゃない。騎士団に入ってないとあんな体作れないわ」
「なるほどな」
俺は質問をしながらもこの部屋について観察していた。
まずここはどこかの地下の部屋。上への階段は一つ。そしてこの部屋は実験室だろう。棚に色んな薬品がある。さらになぜか壁には色んな男の子の写真がある。
そしてビアンカとの距離はさっき俺が寝ていた寝心地の悪いベットを挟んで一メートルほど。
ビアンカの手には俺にさっき垂らそうとしていた大きな瓶に入った謎の透き通った赤色の液体。
刀は宿屋にあるので持ってない。ここを出るには階段に行くしかない。だが階段はビアンカの向かう側。
どうするか。
「目をきょろきょろさせてるけど、ここから逃げるつもり?」
「えぇ、それ以外ないだろっ!」
俺はベットを蹴り上げた。しかしガードされ大きなダメージは入らない。俺は棚にある瓶を投げた。
「これでもくらえ!」
「大事な薬品を……」
するとビアンカはナイフを出し逆手に持って向かってくる瓶を割った。
「いいわ、これさえあればいいものっ!」
ビアンカは大きな瓶をテーブルに置いた。そして俺にナイフで次々と攻撃してきた。俺はそれをかわす。騎士団殺人鬼のあの子よりはスピードは遅い。しかし階段まで逃げれる自信はない。
「あははっ、よくかわすわね!いいこと教えてあげるわ。このナイフには毒があるの」
「なにっ⁉」
「大丈夫、死にはしないわ。あなたは大事な唯一の実験台だから!」
「ちっ、あんたも騎士団殺人鬼なんだろ」
「それがなに?」
「騎士団殺人鬼の目的はなんだ!」
「それは言えないわ。それより、あなたさすが騎士団ね。ここまでよく当てられずに避けきれたわね。褒めてあげるわ。でもこれで詰みよ」
ビアンカは動きを止め、指を鳴らすと何か空気の出る音がそこら中から聞こえた。
「もう一ついいことを教えてあげるわ。私の得意属性は、毒と麻痺、よ」
「なっ!」
珍しい得意属性を二つも持ってるいるのかこいつ。てか麻痺も毒の一種じゃないのか。何が違うんだ。今はそんなことはどうでもいい。
「この空気の漏れるような音はなんだ?」
「これは私の毒のガス。どんどんこの部屋の空気が毒になっていくわ。つまり、私のナイフをくらうか、このまま毒で倒れるかよ。もちろん私に毒は効かないわ」
「なんていい得意属性をお持ちで」
毒と麻痺なんてデスコンボだろ。
「お話はここまでよっ!」
再びナイフで攻撃をしてくる。俺は炎魔法を出した。しかしそれは避けられ、さきほど俺が投げて割られた薬品が燃え始めた。
「バカねぇ、炎を使うと酸素がなくなって毒が回りやすくなるだけよ」
「あ、あぁそうですか」
早く倒してこの部屋出ないと。刀がなくても攻撃は体で出来る。
「はぁ!」
俺がビアンカを殴ろとしたとき、急に吐き気と目眩がした。俺はその場にうずくまって嘔吐した。
「時間切れね」
「く、そ」
「あなたのせいでいずれここは燃える。そのまえにまた麻痺させて他のところで実験させてもらうわ」
さっき麻痺したときは、副団長から麻痺を薄める魔法をかけてもらっていたが、あれは一度きりだ。今度麻痺させられたらいつ起きるかわからない。二度と起きないかもしれない。
「じゃあ、おやすみ」
俺はもう終わるのか?
ビアンカの手が俺の首に伸びる。
「アルトから離れろぉ~!」
「なにっ⁉ぐあっ!」
そのとき、ルイナが階段から降りてきてビアンカを氷魔法で思いっきり吹き飛ばした。
「ル、イナ」
「大丈夫⁉早く出ましょう!」
ルイナは俺をおんぶして階段を上がった。階段にはみんないた。
「クレス、今すぐアルト君の毒の魔力を抜いてくれ」
「はい!」
副団長は階段を上がりながら俺に背中に手を当てた。
「アルト、死なないでよね!」
「はは、死ぬわけ、ねーだろ……」
長い階段を上がり終わると俺の毒も抜けていた。そしてここはビアンカの家の寝室だろうか。ベットがずらされたようになっている。隠し通路だったのか。
「副団長ありがとうございました」
「いえいえ、アルト君が無事で良かったわ」
俺はルイナから降りた。
「ルイナもありがとうな」
「もう!本当に心配したんだから!」
ルイナは俺に抱き着いた。
「ごめんごめん」
ヨミとエレイヤも俺にしがみついてきた。
「みんな心配させたな」
「アルトお兄ちゃんがいなくなったら私死ぬから」
「俺も、アルトきゅんがいなくなったら生きる意味なくなるからな!」
「わかったよ。お前らを死なせないためにも俺は意地でも生きるさ」
ガルアは呆れたように部屋を出て行った。
「もう離れろ」
三人とも引きはがした。
「それで団長、どうします?」
「とりあえずこの家を調べてみよう」
俺達は寝室を出てリビングに出た。
「結構広いな」
「アルト君達は休んでていいよ。ガルア君とクレスはそれぞれ調べてみれくれ」
『はい』
団長達はキッチンや他の部屋を調べ始めた。するとまたヨミとエレイヤは俺にしがみついた。ルイナはきょろきょろと部屋を見渡している。
「そういえば、アルト君。何があったか聞いてなかったよね。まず聞かせてもらいたいんだけど」
団長がキッチンを調べながら言った。
「えっとですね――」
「最後に一目でもっ!」
俺が話そうとすると、後ろの寝室から大声が聞こえた。
振り向くと血だらけで火傷をしたビアンカがおり、あの大きな瓶が俺に向かって投げられていた。マズい、ヨミとエレイヤがいるのもあるが反応が遅れた。
このままだと――。
「危ない!」
するとルイナが前に出てきた。瓶が当たり割れて、ルイナは中の透き通った赤い液体をもろに被った。
「ぐあっ!」
「そ、そんなまさか……」
そういうとビアンカはその場に倒れ、ルイナも倒れた。
「ルイナ!」
「どうしたんだ⁉」
団長が駆けつけてくる。
「団長はまずあそこにいるあいつを捕らえてください!」
「わかった」
「ルイナちゃん!どうしたの!」
副団長も駆けつけてきた。
「ルイナが変な液体を被ったんです。大丈夫か?」
「ぐ、うぅ、あ、熱い」
液体が赤く光り始めた。
体が焼けるように熱い。筋肉が震えてる気がする。目眩のように視界がグルグルとしてずっと目を開けていると気を失いそうだ。
しばらくすると熱さも目眩もなくなった。体が軽いように感じる。
「な、なんだったのかしら」
みんなのほうを見ると私のほうをびっくりした顔で見ている。
「な、なに?」
私はアルトに手を伸ばすと手が見えなかった。服に隠されていたからだ。
あれ?私の服こんなに大きかったかしら。今ので服が伸びちゃったの?
とりあえず立ち上がってみた。服がぶかぶかに感じる。そしてなぜか座っているアルトより少し高いくらいの目線だ。
あれれ?私、今立ってるわよね?
下を見ると床との距離が近い。そして下を見るといつも見える自分の胸がない。
「ま、まさか、私……」
服に隠されて見えない手で自分の体を触る。
「小っちゃくなっちゃった~⁉」
ルイナ「アルトは無事だったけど私が無事じゃな~い!」
アルト「嫌な予感的中だな」
えり「自分が小さくなったのを胸で確認するとかナンナノ~?」
ルイナ「そんなこと別にいいでしょ~!それより私どうなっちゃうの~⁉」




