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第四十三話 三日月

 約二週間後の水曜日。


「アルト~!私を忘れないで~」

「三日ちょっと離れるだけだろうが」


 今日からルイナ達2年生の二泊三日の修学旅行がある。ルイナからついてきてと言われたが、さすがに生徒じゃないので無理だった。


「三日間でもルイナちゃんがいなくなるなんて寂しいよ~」

「ありがとうえりかちゃん~」

「ルイナお姉ちゃんがいない間、私がアルトお兄ちゃんの彼女になるから」

「ヨミちゃん怒るよ?」

「アルトお兄ちゃん助けて~」

「はいはい、二人ともふざけるのもそこまでにしろ」


 ルイナ達は隣の国まで行くらしい。そこまで空を飛べる機械で行くのだが、完全に空飛ぶ新幹線だ。少し近未来的な見た目で車輪も線路もない。


「ルイナちゃんもう乗るよ~!」

「わかったー!じゃあまた三日後に」

「おう。楽しんでこいよ」

「ええ」


 ルイナは手を振って荷物を持ち空飛ぶ新幹線に乗っていった。少し経つと猛スピードで発進していった。


「おぉ、早いな。でも団長のスピードよりは遅いかな?」

「彼女が離れて寂しいかもしれんが訓練をするぞ」

「ヘルサ先生。別にまだ寂しいとは思ってませんよ」

「そうか。ではいくぞ!」

「は、早いですね、まぁいいですけど!」


 ヘルサ先生と俺はいつもどうり訓練を始めた。


 その日の夜。


「あ~、ルイナがいないと静かだな~」

「じゃあ私が騒がせてあげる!」

「お前が騒ぐとマジうるさいからやめろ」

「え~」


 認めるのも癪だが、やはり寂しい。


「まぁいいや、今日は早く寝るか」

「景気づけにお酒でも飲もうよ~」

「言っただろ、月曜から木曜はできるだけ酒を飲むな」

「でもさ~」

「俺は今、酒を飲む気分じゃないの」

「わかったわかった~。んじゃヨミちゃん私の布団に行こ~」

「アルトお兄ちゃんのベットがいい」

「お前はえりと寝ろって」

「今日のアルトお兄ちゃん機嫌悪い」

「機嫌が悪くてごめんな」

「ううん。じゃあまた明日ね」

「ああ」


 えりとヨミは屋根裏部屋に行った。


 こんなにルイナと長い時間離れたのは初めてだろうか。


 俺は自分の部屋に行ってベットに入った。


「明日もこれが続くのか。キツイな~」


 今はルイナもこんなこと思ってんのかな。どっちかと言うとそう思ってくれていてほしい。ってルイナもまた考えてんのかな。そう思うとキリがない。


 離れてみてわかったが俺、こんなにルイナのこと好きなんだな。ルイナには気づいてほしくないが気づきさせたほうが本人は喜ぶだろうな。


 ホント俺もバカなこと考えるようになったな~。これもルイナのせいだし帰ったら八つ当たりしてやろう。ルイナが帰ってくるのが楽しみだな。


 ルイナのことを考えてるといつの間にか眠りについていった。




 次の日。ヘルサ先生と訓練中。


「アルト君、集中出来ていないように見えるが」

「自分でもそう思います」

「どうにもできないな」

「そうですね。どうぞ集中出来ていない俺の弱々しい刀を受け流してください」

「では仕方ない。殺す気でいくぞ!」

「え?」


 ヘルサ先生は俺に見せたことのない速さで剣を振ってきた。


「うぉっ!」

「すまないな。だがこれなら集中できるだろう」

「ちょ、マジで、速すぎますよっ!」


 俺は無理やり集中せざるを得ない状況にされ、集中してヘルサ先生の剣を捌いていった。




「はぁ、はぁ、死ぬかと、思った……」


 俺とヘルサ先生は床に座った。俺はかなり息が切れている。


「それにしてもちゃんと私の剣を防げるとは、本当に強くなったな」

「よく、ミラス団長や、副団長に、鍛えられてる、ので」

「あの二人に鍛えられているのなら納得だ。特にクレスは強いだろう」

「はい、手加減してもらっても、勝てないので。あの二人、どっちが、強いんでしょう?二人が戦っているところは、見たことないし」

「クレスだろうな。理由はあまり言わないが、あいつは生まれつき高い能力を持っている」

「そうなんですか。いいな~、生まれつきって」

「あいつは生まれつきの能力を嫌っているがな。しかし、アルト君の剣術の才能も生まれつきだろう。私は羨ましい」

「先生も十分才能あると思いますけど?」

「私のこの力は才能ではなく努力だ。アルト君のようにそうそう早く強くなったわけではない」

「でもそんなに剣術に対する努力が続けられてここまで来たのなら、その努力を続けてできるのが才能だと思いますよ」

「アルト君……」

「俺なんか昔は続けようと決めたことでもすぐ諦めて逃げてばっかりでしたよ。努力を続けられる人が羨ましかったです」

「でも私は元々剣が好きだったから努力出来た。アルト君も好きなことに対しては努力出来ていたのではないか?」

「確かに好きな物には努力出来ていましたよ。でもそれ以外は全部全くダメでした。結局、俺は『才能』って、何が得意かもありますが、何を好きになるか、何を努力し続けれるか、どういう選択して生きていくのか、全部『才能』だと思っています。だから才能のない人間はいない。そう思います」


 今気づいたけど俺、何言ってんだろう。


「す、すみません。なんか意味不明なこと言っちゃって」

「いやいい」


 するとヘルサ先生は俺に近づき、軽く抱き着いた。


「へ、ヘルサ先生⁉」

「すまない、少しの間こうさせてくれ」


 ヘルサ先生の胸が顔の前にあるのが少し気になるが、ヘルサ先生は俺の頭を撫でた。


「アルト君と一緒にいるとまるで息子ができたかのように思える」

「先生は息子に剣を殺す気で振るんですか」

「さっきのはそうするしかなかったのだ。君が強くなるためにな」

「それはありがたいですけど……この光景、ルイナが見たら怒りますよ」

「今はいないだろう。今だけだ」

「わかりましたよ、気が済むまでどうぞ」


 数秒するとヘルサ先生は俺から離れた。


「お恥ずかしいことをしたな、もう大丈夫だ」

「結局何がしたかったんですか」

「なんでもない、忘れてくれ」

「多分一生忘れません」

「冗談ではなく本当に忘れてくれ」

「忘れません」

「忘れろぉぉ~!」

「嫌で~す!」


 そんな感じで俺とヘルサ先生の訓練は再開した。これでまた一つ、人の弱みを握れた。




 そしてまた夜が来た。


「あ~~~」

「ゆう君うるさい」

「ごめん」


 夕方まではヘルサ先生がいじり相手になってくれたから気を紛らわせたが、夜になるとまた寂しい。


「なんかあってルイナが帰ってこないかな~」

「ホントにゆう君はルイナちゃんのこと好きだな~」

「お前は団長のことが好きそうだけど」

「えへへ、だってミラス団長イケメンだもん」

「まぁそうだな。今日も風呂入って寝るか~」

「うん」


 えりがヨミと風呂場に行こうとすると玄関からノックが聞こえた。


「こんな時間に誰だろ」


 玄関を開けるとそこにはエレイヤがいた。


「よっ!」

「エレイヤちゃん!」

「エレイヤお姉ちゃん」

「なんでお前が」

「そろそろルイナっちが修学旅行だと思ってな。見た感じ案の定アルトきゅんは行けなかったんだな。だから俺が寂しがってるアルトきゅんを慰めにきた!」

「別に慰めてほしいなんて言ってないんだけど」

「とりあえず泊まらせてもらうぞ!」


 エレイヤは気にせずずかずかと家に入った。


「ちょうどお風呂入るところだからエレイヤちゃんも一緒に入ろ~」

「おぉ!いいな!」

「んじゃ、俺がお湯入れてくるよ。ちょっと待ってろ」

『は~い』




 皆、風呂から上がりソファーでくつろいでいる。


「いや~、アルトきゅんはホント、ルイナっちのこと好きだな~」

「よく言われるよ」

「眠くなるまでトランプでもしようぜ」

「いいね~」

「トランプでなにすんだ」

「やっぱりババ抜きだろ」

「ババ抜きは弱いんだよな~、俺」

「私、ババ抜きやったことない」

「へ~、ルールはわかる?」

「うん、他の子がやってるのを見てた」

「じゃあ俺が配るよ、えっと、4人か」


 そしてババ抜きをやった結果、負けたのは、えり。


「も~!なんでゆう君そっち引くの~!チートじゃん!」

「お前、勝てないとすぐチートって言うよな」

「だっておかしいじゃん。この私がゲームで勝てない?意味わかんないんだけど⁉」

「意味わかんないのはお前だ。いいから落ち着けって」

「もう一回するよ!」


 そしてもう一回戦やった結果、負けたのは、俺。


「やっぱり私は最強!最後またゆう君と一騎打ちになったときはどうしようと思ったけど、この私が負けるなんて世界が滅んでもありえない!」

「じゃあさっきは世界が滅ぶ以上のことが起こったんだな」

「うるさい!結局負けたのはゆう君だから」

「はいはい、にしてもヨミは初めてなのに一番最初に上がるよな~」

「適当にやったら出来た」

「ヨミは運が強いんだな」

「そろそろ眠くなってきたぜ~」

「んじゃ寝るか。エレイヤはルイナのベット使え」

「ん~、でもせっかくだしアルトきゅんと一緒に寝たいな~」

「私もアルトお兄ちゃんと一緒に寝たい」


 こいつらはルイナがいないことをいいことに。


「じゃ、じゃあ、私も」

「この二人はまだしも、なんでえりまで」

「ノリでなんとなく」

「ほら、三人の女の子と一緒に寝れるなんて夢のようだろ?だから一緒に寝ようぜ」

「別に夢のようでもないんだが」


 エレイヤとヨミは目を輝かせて俺を見ている。


「はぁ~、わかったよ」

『やった!』

「えりは本当にいいのか?無理してノリに乗らなくてもいいぞ」

「三人とも一緒なのに私だけ一人悲しく寝るなんてできない」

「そーですか」


 エレイヤとヨミは年下だからまだいいけど、彼女でもない同年代の人と寝るとなると恥ずかしい。でも元彼女だから少しはいいほうかな。


 俺はリビングの電気を切って、皆で俺のベットに入って寝た。




 数分後。


 あ、暑い。


 左からえり、ヨミ、俺、エレイヤで寝ている。今日は暑い日なのかベットの中が暑い。さらにエレイヤとヨミは俺に軽く抱き着いているせいでまた暑い。


 こんな状況でよくこいつら寝れんな。ずっとこのままだと眠れない気がする。少しお茶でも飲むか。


 俺はなんとかベットを抜け出しリビングに出て炎魔法で小さい火を出して周りを照らした。そして冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで飲んだ。


「っはぁ~」


 時計を見ると0時30分と書いてある。


 ったく、変に優しくして一緒に寝なければよかった。窓を見ると月明りがカーテンの隙間から見える。

 俺はルイナとキスをしたときのことを思い出した。


「あの日に戻りたいような、戻りたくないような」


 また星でも見ようかな。俺はそう思い玄関から家を出て今度は屋根ではなく少し道を歩いた。


 今日も変わらず綺麗だな。そして夜の街も綺麗だ。少しだけ風が強いときがあるが。


「今日は三日月か。って」


 ふと三日月の下の家の屋根に誰かが座っているのが見えた。その人は俺に気づいた。


「やぁ、こんばんは」


 声からして女だ。


「こんばんは。こんな時間に女が一人屋根の上って危なくないですか?」

「そんなことはないよ。それと、僕は君を待っていたんだ」

「お、俺を?」


 その女は立ち上がった。


「僕ね、騎士団殺人鬼って言うんだ」

「なっ!」


 少し暗く遠くて見えにくく、立ち上がったからわかったがその女は背はそれほど高くなく小柄な子で黒いローブでフードを被っていた。

 ま、まさか会うとは思わなかった。なんて呑気に思ってる暇はない。どうするか。


「聞いた通りだな。なるほど、それで次の目標は俺、と」

「物分かりが早いね」

「けど会ってみて、君が殺人鬼なんて思えないなぁ」

「そうかい」


 その子は一瞬で俺の前まで来た。


「これも聞いた通り、速いね」

「……」

「どうしたんだ?」

「君、よくそんなに落ち着いてられるね。君の団長を倒した人が目の前にいるんだよ?それともなにか策があるっていうの?」

「策なんてないよ。それに俺は平和的解決が出来ないかと思ってるんだけど」

「そんなの無理だよ。僕は――」


 その子のフードが風で脱げる。


「君を殺す。それが使命だ」


 フードを脱いだその子を顔は、銀色で外ハネしたくせ毛のショートの髪と赤い目をしていて俺を睨んでいる。


「へ~、結構顔は可愛いんだな」

「嬉しいこと言ってくれるね。けど――」


 その子はまた一瞬で俺の目の前に来た。手にはナイフがある。


「その瞳はいつまで正常でいられるかな」

「くっ!」


 俺は間一髪で頭を低くしてナイフを避けた。髪の毛が少し斬れる。すぐさま後ろに飛び、距離を取った。


「すごいね、あの団長より反射神経いいんじゃないかい?」

「反射神経には少し自信があってな」


 えりのほうが反射神経はいいが、今はそれどころではないか。


「使命ってなんなの?」

「君たち騎士団を皆殺しにすることさっ!」


 その子は俺に連続で攻撃を仕掛けてくる。魔法を使いたいが至近距離では狙えないし、刀を持ってないのでガードが出来ず、頑張って避けるが何度が当たってしまった。


「中々しぶといけどこれで」


 俺は攻撃を避けると同時に態勢を崩し、そこに蹴りが入り俺は地面に体をぶつけ、無防備な状態で仰向けになった。


 気づくとその子は俺の上にまたいで、目の前にはナイフがあった。


「くっそ」

「ごめんね、そろそろ殺らせてもらうよ」


 ちっ、この状況を打開する方法は、なにか、なにかないのか……一か八かやってみるか。


 ナイフが俺の体を切り刻もうとしたとき、俺はナイフを歯で掴んだ。


「なにっ!」


 そして腕を掴んで歯で掴んだままナイフを奪いとり、頭と頭をぶつけた。


「っ!」


 この子が額を押さえてよろけている間に立ち上がり、腹に蹴りをくらわせた。その子は約5メートル先まで飛んで行った。


「ぐっ!」

「よし」


 なんとか考え出した作戦だったが上手くいった。


「これでどうだ!」

「ふふ、びっくりしたけど君の実力じゃあこんなもんだよね」


 この子はピンピンしている。全くダメージが入っていない。


「ど、どんな訓練したらそんなに強くなるんだ?」

「さぁね。さっきは油断したけど今度は少し本気でいくよ」

「武器は取られているのに勝てると思うの?」

「ずいぶんとなめられたもんだね。武器がなくても――」


 その子の姿が消えたと思うと後ろから腰を物凄い強さで蹴られた。


「僕は強いんだよ」

「ぐあっ!」


 俺はなんとか態勢を立て直して後ろを見るが、次は左太もも、次は右肩、次は背中。次々と体中を物凄い強さで蹴られていく。


 これも団長の言ってた通り、姿はギリギリ見えるがとても対応できる速さじゃない。


 ついには俺は痣だらけで膝をついてナイフも取られていた。


「こんなものかな」

「はぁ、はぁ、次は、どうする気だ」

「もちろん、このナイフであの団長みたいになってもらうよ」

「ははっ、変な趣味持ってんな~」

「別に僕は趣味でやってるわけじゃないよ。とりあえず今度こそ殺らせてもらうよ」


 その子はじりじりと近づき、ナイフを構えた。


 もう終わりかな。


 そう思ったとき少し遠くのほうが明るくなっていた。その子も気づいたらしく後ろをみる。その明かりの元は、大きく燃え上がる炎。火事だった。そこから人の声ががやがやと聞こえる。


「ちっ、こんなときに」


 その子はナイフを収めた。


「命拾いしたね。けど次は必ず殺る」


 屋根の上に飛ぶと


「そうそう、運が良かった君に一つだけ教えてあげよう。僕は、君より年下だ」

「年下、か。もう少し名前とか教えてほしいんだけど」

「それは無理だね。じゃ、また会おう」


 その子は家の屋根を飛び移りながらどこかへ行ってしまった。さっきの火事は水魔法に包まれて消化されていた。


 俺は少しして立ち上がり、家に戻っていった。


 多分今日はもうこないだろう。今は早く休みたい。


 あんなことがあったにも関わらず、なぜか俺は落ち着いていた。

 俺は家に入ると自分の部屋にいって、皆が起きないようにベットに入ってすぐに眠りについた。


〔修学旅行〕


・隣の国に行くまでの時間は32分だそう

・ルイナは別名『夢の町』と言われるネズミのキャラクターがいる場所に行くのが楽しみらしい

・夜、お酒を飲んでもいい高校もあるがここの高校はダメだった


=======

ヨミ「アルトお兄ちゃん、ルイナお姉ちゃんがいなくてお楽しみが出来なくても私で我慢して」

アルト「まるでいつもルイナとお楽しみとやらをしてるみたいな言い方だな」

ヨミ「え?だってそうでしょ?いつも部屋から色んな声聞こえてるからね」

アルト「おいマジでやめろ。本気でしてるみたいに思われるから」

ヨミ「いつもアルトお兄ちゃんはルイナお姉ちゃんと――」

アルト「そこから先のこと言ったら生き埋めにするぞコラ」

ヨミ「ル、ルイナお姉ちゃんと何もしてません」

アルト「よろしい」

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