第三十五話 部活体験
「そろそろ一時間半経つんだけど」
「あ、来たぞ」
1階と2階の階段の踊り場で待っているとルイナが小走りで2階に降りてきた。
「お~っす、お疲れ様――」
「ふんぬっ!」
「おわっ!」
ルイナはいきなり7段ほどある階段をジャンプしてそのまま俺の顔に殴りかかってきたが横に避けた。
「ど、どうしたんだよ」
「なんでもない!」
「なんでもないなら殴るな!」
「もういいでしょ!お腹減ったからなにか食べましょう」
「久しぶり~、ルイナっち」
「なんでエレイヤちゃんがいるのよ」
「文化祭があるって聞いて来たんだ!そしたらちょうどアルトきゅん達に会ってな!」
「なにその呼び方⁉」
「いや~、アルトきゅんどうしても呼び名が欲しいって言ってよ~」
「断じて言ってないんだが」
「呼び名くらいいいわ。ほら行きましょう」
俺たちは校庭に出てクレープ屋に来た。
「クレープ、美味しそう」
ヨミの目が輝いている。
「ヨミはどれがいい?」
「あのバナナとチョコがあるやつ!」
「わかった。えりとエレイヤは?」
「私はヨミちゃんと一緒のでいいよ~」
「俺は苺とチョコのやつ」
「了解。じゃあ先に席を確保してきて」
『ラジャ~!』
えりとヨミとエレイヤは走って食事スペースに向かった。
「ア、アルトってみんなの扱い慣れてるわよね」
「あいつらが扱いやすいだけだ。で、ルイナは何にするんだ?」
「私は、ちょっと高いけどあの苺とバナナとチョコのにするわ」
「なら俺もそれでいいか」
俺たちの順番が来て注文をし、俺が三人分、ルイナが二人分持って食事スペースに行った。
「こっちこっち!」
「あ、いた」
3人を見つけると俺とルイナは座ってそれぞれ渡した。
『いただきま~す』
「ん~、美味しいわね」
「まぁ、不味いわけないよな」
「うるさいわね!別にいいじゃない」
「はいはい、ごめんなさ~い」
「ったく。そういえば、同じもの買ったから食べ合いっこできないじゃないの!」
「なんですることになってんだ」
「でもいいわ。同じ味だろうが食べ合いっこはできる!」
「俺以外にしてくれ」
「ルイナっちいらないのか?じゃあ俺が――」
「エレイヤちゃんにはあげない!」
「ちぇっ、まだ食いたいな~」
「なら俺のやるよ」
「え⁉」
「いいのか⁉ありがとう!」
「ちょ、ちょっと!私にも頂戴よ!」
「お前はまだあるだろ」
「ならエレイヤちゃん、私の食べていいわ!」
「でも、さっきあげないって言われたからな」
「ぐっ……」
「私も、食べていい?」
「ああ、いいぞ」
エレイヤとヨミは残り3分の2ほどあるクレープをなんとか二つに分けて食べた。
「あ~、美味しかった」
「アルトお兄ちゃんありがとう」
「いえいえ」
「わ、私より早く関節キスするなんて……」
ルイナがなぜかガチへこみしている。
なんでそんなに落ち込むんだか。
「はぁ~、じゃあルイナの食べるよ」
「え、ホント⁉」
「ほら、早く」
俺はルイナの少しだけ残ってるクレープを受け取って食べた。
「やった~!」
「どんだけ嬉しいだよ。で、次はどこ行くんだ」
「じゃあ部活体験でもする?」
「部活体験?」
「運動部の部活を少しだけ体験できるのよ。誰でも先輩達が優しく教えてくれるからやってみるといいわ」
「ならやってみるか」
俺たちは校舎の一階の奥の教室に来た。そこの床には魔法陣が書いてある。
「これはテレポートか?」
「そうよ。ここからそれぞれの部活の場所に行けるわ」
「なるほど、どこで部活やってるのかと思ったら他の場所にあったのか」
「じゃあまずは野球部から」
野球はこの世界にもあるのか。
『野球練習場』
ルイナがそういうと光に包まれて気づくとよくみる野球グラウンドがあった。ただ物凄く広い。
「これ、どうやるんだ」
「体験ですか~?」
ユニフォームを着てごつい体をした一人の3年生が来た。周りでは他の3年生がキャッチボールをしている。
「はい。でもルールは知ってますけどやったことないです」
「君はアルト君、だよね」
「はい、そうです」
やっぱり俺はこの学校の生徒で知らない人はいないくらいなのか?
「なら多分出来るよ。あ、僕は野球部のキャプテンです。で、えっと、一回打ってみる?」
「やってみます」
俺はバットを持ってホームベースに立った。
「この世界はヘルメットなしなのか」
「アルト頑張って~!」
ベンチでルイナたちが応援している。ここは何としても打たないと絶対ルイナにいじられそうだな。
「じゃあ行くよ」
「はい!」
俺は構えて、キャプテンは綺麗なフォームでボールを投げた。そのボールは一瞬で俺の横を通った。
はっや!なに今の⁉
「アルト~、しっかりしろ~!」
「うざいなあいつ」
「もう一回行くよ」
「はい!」
キャプテンはピッチャーからボールを取った。
「今度は打ってやる」
再び俺は構えてキャプテンはボールを投げた。
「ふっ!」
俺の振ったバットは見事に空ぶった。
「アルト下手くそ~!」
「うるせぇ!初めてなんだからしかたねーだろ!」
「ゆ、ゆう君落ち着いて~」
「アルトお兄ちゃんがんば~」
「もっとボールをよく見ろ!」
「んなこと言っても」
「もっと脇を締めてもう少しバットを上に持ってみたほうがいいかな」
「こうですか?」
「うん。じゃあもう一回投げてみるね」
キャプテンは再びキャッチャーからボールを取って俺は構えた。
「しっかりとボールを見て……」
キャプテンからボールが投げられる。
こんなもの団長の剣の速さに比べたらほんのちょっとだけ余裕だぜ!
……今だ!
「ふっ!」
俺のバットは芯でボールを捉えた。が、ボールの威力があまりにも強すぎてバットは俺の手から吹っ飛んでいった。
「ええ⁉」
バットに当たって軌道が変わったボールの勢いはまだ止まらず、ベンチにいるルイナの顔に向かっていった。
「あぶな――」
心配する俺の声をよそに、ルイナは向かってくるボールを素手で止め、ボールは氷で包まれていた。
「危ないわね~、打つんならちゃんと打ちなさいよ~!」
「心配した俺がバカだった」
「ごめん!大丈夫だった?」
キャプテンがすぐにルイナの元にやってきて謝る。
「あ、全然大丈夫です。悪いのは全部アルトなので」
「あ~はいはい。ごめんなさいね~」
「ったくもう」
「なぁ!俺もやっていいか?」
「いいですよ」
「よっしゃ!」
俺は後ろに転がってるバットを拾ってエレイヤに渡してベンチに座った。
「ゆう君、お疲れ様~」
「あんなに強いとは思わなかった」
「ほんっと下手くそなんだから」
「ならお前がやれよ」
「私はか弱い女だから」
「はいはい」
「アルトお兄ちゃんかっこよかったよ」
「うぅ~、ヨミは優しいし可愛いな~」
俺は右隣にいるヨミを優しく抱いた。
「なっ!」
「ふふっ、このまま私の物になって私なしじゃ生きられないようにしてあげるよ」
「あ、やっぱりなんでもない」
俺はすっとヨミから手を引いた。
「ねぇアルト、すっごいかっこよかったわよ!」
「あぁ~そ~」
「ほら!」
ルイナは両手を広げるが俺は無視してエレイヤのほうを見た。
「かかってこい!」
「いくよ」
キャプテンは俺のときと同じ速さで投げる。
「はっ!」
エレイヤがバットを振るとカキンッといい音とともにボールは空に打ちあがった。
「おぉ~!」
元の世界ではありえないほどの距離を飛び、遥か遠くに落ちていった。
「君すごいね!ホームランだよ!」
「へへっ、野球は得意だからな!」
「いや~中学生の女子に打たれるなんて僕もまだまだだな~」
そのあと他のお客さんが来たので俺たちはキャプテンに礼を言って野球練習所を出た。
「エレイヤお前よく打てたな」
「昔からギターで野球やってたりしてたからな」
「ギターで野球って」
「次はどこに行く?」
「じゃあサッカー」
「わかったわ」
『サッカー練習所』
ルイナがそういうと光に包まれた。
〔野球〕
・ルールは元の世界と同じ
・ホームからセカンドまでの距離は約75m
・審判にはかなりの動体視力が必要となる
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アルト「ルイナが野球やったら絶対勝てそうな気がするな」
ルイナ「そんな訳ないでしょ~?私はか弱い乙女なんだから!」
アルト「の割にはボールを素手で止めてたけど」
ルイナ「あれは氷魔法を使って威力を弱めたからよ!」
アルト「あ、危ないまたボールが!」
ルイナ「おっと」
アルト「い、今魔法使ってないくないか?」
ルイナ「き、気のせいよ。ほらボール凍ってるし」
アルト「(絶対使ってなかった)」




