第百二十八話 ルイナの変化
ルイナが泣いた夜の日から2日が経った。
俺は目覚めてベッドから起き、着替えて部屋を出た。するとルイナも部屋から出てきた。
「おはよう。ご飯作るわね」
「おはよう。手伝おうか?」
「私一人でいいわ。アルトは支度しててちょうだい」
ルイナはあれから少し大人しくなった。俺にベタベタすることもないし、俺を煽ることもない。それでも別にいいんだけど少し寂しいな。
俺は洗面台の前に立ち、顔を洗って鏡に映る自分を見る。
「あれで良かったのかな」
意味もなくただ鏡の自分に向かって呟いた。
「何が?」
「おあっ!い、いつの間に」
えりが後ろにいた。こいつ気配消すの上手いな。
「ルイナちゃんのこと?」
「え、あぁ、そうだけど」
「一昨日からずっと静かだよね~。二人で何かあったみたいだったけどまだ続いてるの?」
「いや、日曜日のことは終わったと思うんだけど。今静かになってるのは、あれで人生感が変わったのか、今は静かにしていたいのかどっちかだと思う」
「そうなんだ。やっぱりゆう君はルイナちゃんがああなっちゃって寂しいの?」
「まぁな。でもルイナが好きなことは変わんねーよ」
「ラブラブだね~。今私とゆう君がお風呂入ったら元のルイナちゃんに戻って止めに来るんじゃない~?」
「何言ってんだよ。ほら、寝癖直してやるから」
「いいの⁉なら是非やって!」
えりは椅子に座って、俺はくしを持ってえりの寝癖を直していく。
「昔を思い出すね」
「そういえば朝からえりの家に行った時にとかに寝癖を直してたな。お前がちゃんと直さないから」
「だって1日中家でゲームするからゆう君にしか見られないんだからいいでしょ」
「でも俺が気になるんだよ」
「じゃあ毎日直して」
「時間がある時だけな」
「じゃあ毎日早く起きて」
「夜更かし出来ないだろーが」
「昔は夜遅くまで起きてても朝に部活来てたのに」
「昔はな。あの時はまだ若かったんだよ」
「そんなに老けちゃったの?」
「まぁやろうと思えば昔みたいに出来ると思うけどヘルサ先生に夜更かしするなって言われてるからな。たまにしてるけど」
「ヘルサ先生はお母さんみたいだね」
「ヘルサ先生も俺のことを息子みたいって言ったからな。はっはっはっ」
「ゆう君が時々ヘルサ先生に息子がどうたらって言って茶化してたのそういうことだったんだ」
「本人はずっと言ったことを後悔してるけどな。そこをいじるのが楽しいところ」
「ほんっとゆう君性格悪いよね~」
「褒めるなよ」
「褒めてないよ」
「二人とも、もうすぐご飯出来るわよ」
えりと話しているとルイナがやってきてそう言うとすぐにキッチンに戻っていった。
「よし、ほぼ寝癖直ったかな。俺はヨミを起こしてくるよ」
「ありがとー!私もヨミちゃん起こしにいく」
俺とえりはルイナの部屋に入り、ベッドで寝ているヨミを起こす。
「うぁ~。アルトお兄ちゃん、そんなっ、激しいよ」
「なに言ってんだこいつ」
「あれ。アルトお兄ちゃん、えりかお姉ちゃん」
「おはよ。ヨミちゃん」
「おはよう。すごく良い夢見てた気がする」
「忘れてて良かったよ。ほらさっさと着替えてご飯食べるぞ。えり、ヨミの着替え手伝ってやってくれ」
「うん。はいヨミちゃんバンザイして」
俺はルイナの部屋から出た。ルイナは朝ご飯を机に並べていた。
「あのヨミの変態思考はどうにかならないのか」
「もう植えつけられちゃったから無理じゃないの?いくら他の人より頭が良いと言ってもまだ子供なんだし、アルトにそういうこと言って意地悪しながら振り向かせようとしてるのよ」
「覚えてしまったものは仕方ないけどところ構わず言うのはやめて欲しいな」
「そうね。でもアルトはキツく言えばやめるんじゃないの?」
「いや~、ヨミにはあんまりキツく言えないんだよな。命に関わることなら言うけど」
「やっぱりアルトは優しいわね」
「そりゃどうも」
や、やっぱり煽ってこない静かなルイナ気持ち悪い!好きな気持ちは変わらないが今までの性格を180度変えられると慣れないな。
ルイナの部屋からえりとヨミが出てきた。全員椅子に座って朝ご飯を食べる。前まではもっと賑やかだったが今は少し寂しい。
それから俺達はご飯を食べ終わり、支度をして学校に行った。
「じゃ、授業頑張れよ」
「えぇ、アルトも訓練頑張ってね」
ルイナは教室へ、俺とヨミとえりは道場へと向かう。道場に入るとヘルサ先生とミスリアがいた。
「あっ、おはようございます、皆さん」
「おはよう。どうしたんだ?」
「アルト先輩達も知っている通り今度海に遊びに行くのでヘルサ先生にも誘っていました」
「ヘルサ先生も行くんですか?」
「せっかくの誘いだ。もちろん行くが、ルイナ君は大丈夫なのか?」
「大丈夫ってのは?」
「最近ルイナ君の元気がないだろう。アルト君は大丈夫なはずと言っていたが本当なのか?アルト君が何かしたのではないのか?」
ヘルサ先生の目が少し怖い。
「た、確かにルイナがああなった原因は俺のせいですけどその原因が解決したのも確かです。だから今ルイナがああなってるのは俺にも分からなくて」
「みんな不思議に思っているぞ。どうにか出来ないのか?」
「そう言われましてもどうしてそうなっているのか聞く勇気がなくてですね」
「アルト君らしくないな」
「俺も動揺してるんですよ」
それにこうなった原因はあなたの妹さんにもあります、と言いたかったが色々怖いのでやめておいた。
「それで、もしかしたら海に行くのはやめた方がいいのではないかと……」
「いや、ルイナは元気がないわけじゃなくて静かなだけだから大丈夫だと思う。多分。それに副団長と遊びに行くって約束もして、海に行くってなって副団長あんなにテンション上がってたから行きたいな」
「そうですか。では海に行く方針で計画を立てますね」
「あぁ。心配掛けて悪いな。あとありがとう」
「いえ!私も皆さんと海に行くの楽しみですので!では私は教室に戻りますね」
ミスリアはお辞儀をして道場を出て行った。
「ルイナちゃんのことなんでも分かりそうなゆう君でも分からないんだね」
「俺が未熟だったってことさ」
「ではその未熟な精神を私が鍛えてやろう」
「へぇ。もうヘルサ先生には教えられることはないかもしれませんよ」
「ふっ、バカを言うな。まだまだ甘い」
「じゃあどこが甘いのか教えて貰いましょうか!」
俺は一心斬絶を抜いてヘルサ先生も剣を抜き、いつも通り訓練を始めた。
それからルイナに変化はなく4日が経った。
俺達は騎士団訓練場に着いて適当に歩いていく。ルイナは俺達とは少し後ろで一人で少し離れて歩いている。
「ふぁ~、眠たい」
「アルトお兄ちゃんずっとチョコ作ってるもんね」
「もう大分上手く作れてると思うんだけどメイ先生が中々OKくれなくてな」
「アルトお兄ちゃんばっかりチョコ食べてズルい」
「マズい失敗品だってあるんだぞ。苦かったり口の中気持ち悪かったりするチョコ食べたいか?」
「それは食べたくないけどアルトお兄ちゃんの口の中で溶けたチョコは食べたい」
「それはキモいぞヨミ」
「えへへ」
「喜ぶな」
「な、なぁアルトきゅん」
エレイヤが隣に来て小声で話しかけてきた。
「なに?」
「ルイナっち本当にずっとあんな感じなのか⁉」
「そうだよ」
エレイヤも昨日から戸惑っている。
「俺全然慣れねーぞあんなルイナっち」
「俺だって慣れてねーよ。けど仕方ないだろ」
「そうは言ってもよう」
エレイヤが困っていると前からガルアが来た。俺達は立ち止まった。
「よっ!おはようガルア」
「おう。今日もまた誰か団長来るんじゃねぇのか?」
「そうかもな。もし誰か来て訓練してくれることになったらお前も誘うよ」
「頼むぜ」
後ろからルイナが追い付いてきた。するとルイナは俺達を通り過ぎてガルアの横に立った。
「ガルア」
「んだよ」
ガルアは露骨に嫌悪感を出す。
「……先週のこと、ごめんなさい。ガルアもわざとじゃなかったのよね。私が悪かったわ」
ルイナは頭を下げた。俺は目を見開いた。
「私、人を許す力がなくて……。これから強くなるから、と言っても許されるものじゃないのは分かってる。けど先週のことは本当にごめんなさい」
ルイナは頭を下げ続ける。
あのルイナがガルアに頭を下げるなんてな。
「頭を上げろ。あれを許さないほど俺の心は狭くねぇ。それに許されねぇのは俺の方だ。アルトを危険な目に合わせちまった。悪かったな……」
そう言ってガルアも頭を下げた。
今日は珍しいことが二度もあったな。
「いえ。私はもう許してるわ。でも私はガルアが反省していることに気づかずにあんなこと言って」
「だからそれはもういい。俺はもしかしたらアルトを殺してたかもしれねぇんだぞ」
「でもそれはわざとじゃないから」
キリがなさそうだな。
「二人とも悪かったってことでいいだろ。さぁ、訓練しないとサボってると思われるぞ」
俺は二人の肩を軽く叩いた。
「アルトはそれでいいと思うの?」
「あぁ。二人とも許してるならそれでいいよ」
そう言うとルイナとガルアは安堵した顔をした。
これで二人も仲良くなったか、と俺も安堵していると誰かが空から俺の横を猛スピードで通り過ぎて地面に着地した。
「な、なに⁉」
「よう!えっと、確か名前は……アルト!」
「ゼ、ゼクア団長。びっくりしました」
後ろにいたのは第七騎士団のゼクア団長だった。
「それは悪かったな。よし戦おうぜ!」
ゼクア団長は俺の腕を掴んで歩いた。
「ちょ、い、いきなり⁉」
「前に戦うって約束しただろ⁉」
「そういえば。で、でも今は良いところでええぇぇ~!」
ゼクア団長は飛んで、俺は問答無用で連れ去られていった。
「アルトお兄ちゃんが誘拐されちゃった」
「アルトきゅんなら大丈夫だろ。俺達も訓練しようぜ」
ヨミとエレイヤはそれぞれ訓練をし始めた。そしてルイナはガルアの方を向いて微笑んだ。
「……ガルア。私と戦わない?」
「丁度俺も言おうとしてたところだ。いいぜ」
俺は周りに人がいないところまで連れてこられた。そしてゼクア団長に服を渡された。
「これは、道着?」
「あぁ!今日は!拳で!脚で!体で!戦おうぜ!」
「格闘技は習ってないんですが……」
「けどお前なら体の動かし方くらいならわかるだろ⁉」
「いやまぁなんとなくなら」
「なら大丈夫だろ!」
「えぇ~……」
俺は勢いで服を着ることになり、ゼクア団長の前に立って構えた。
「よし!行くぞ!」
「はい!お願いします!」
俺は気合いを入れるために大声で言った。
するとゼクア団長は一瞬で俺の前まで飛んできて殴りかかった。俺はギリギリのところで躱した。
あっぶねっ!
「オラァ!オラッ!」
次々と殴りかかってくるゼクア団長の拳をギリギリで躱していく。俺は隙を見て頭を狙い踵で回転蹴りをしたが腕で防御された。
「へへっ、やっぱり動けるじゃねーか。ビリビリくるぜ」
「まだまだですよ。ゼクア団長が見たいのはこれでしょう」
俺は炎と闇の合体魔法を飲み込んだ。そして消えるように俺はゼクアの後ろに回って背中を蹴り飛ばした。次に、先回りして飛んでくるゼクア団長を上に向かって蹴った。さらに俺は上空に先回りしてゼクア団長を叩きつけようとしたが、振り下ろした手を掴まれた。
「良いもん貰ったぜ!こっからはお返しだ!」
俺は逆に地面に投げつけられた。
「ぐっ!」
すぐに俺は態勢を立てなおして上を見ると目の前にゼクア団長が突進してきていた。
俺は反応出来ず突撃され、地面を抉りながら地面の中に押されていった……。
「今日はそこら中ボコボコだね……」
夕暮れ時、ミラス団長は辺りを見て苦笑している。
「おう!悪いな!けどかなり楽しめたぞ!」
「あはは、よくあんなに暴れたのに元気ですね……」
魔法剣士の服に着替えて体中ボロボロで疲れ切った俺はゼクア団長に肩を組まれていた。
「俺はまだまだ行けるぜ!」
「当分はこいつで戦いたいですね……」
俺が一心斬絶の柄を大事そうに撫でていると、ルイナとガルアがやってきた。
「お疲れ様です団長」
「お疲れ様。君達も荒らし過ぎだよ」
「わりぃな。こいつとは全力で戦いたかったからなぁ」
「ふふっ、初めて戦ったときよりお互い強くなってて楽しめて良かったわ」
二人とも戦ってたのか。本当に仲良くなったようでなによりだ。
「あれ、アルトそんなにボロボロになって大丈夫?」
ルイナは不安そうな顔で駆け足で俺の隣にやってきた。
『あらあら、面白いくらい酷い様ね。ちゃんとこまめに回復してもらいなさいよ』
前までのルイナならこれくらいの煽りをしてくるはずなんだけどな。
「ほら治してあげるから」
「あ、ありがとな」
ルイナは俺に回復魔法をかけてくれた。
「二人は仲良しだな!俺はプリーストに回復してもらってもうひと暴れしてくるぜ!またなアルト!楽しかったぜ!」
「あ、はい。俺も楽しかったです。ありがとうございました」
ゼクア団長は元気に飛んでいった。
「団長が相手だからって無理しないでね」
「分かってるよ」
優しいだけのルイナもいいけどな……。
その後、俺はルイナに回復してもらって全員家に帰った。
あけましておめでとうございます。イルです。
今年もよろしくお願いします。
今回もだいぶ前回から更新遅れちゃいましたね。けどまだまだ書きたいことはいっぱいありますので。
今年はもっと更新出来るといいな……。
今回はルイナが少し変わりましたね。もうこのままなのか、一時的なのか……。
次回はホワイトデーのお話です!ずっと練習してたアルトの手作りチョコはどんなものなのか!
ではまた次回!