第百二十七話 ごめんなさい
えりとヨミは家に帰り、俺はエレイヤを家に送った。
ずっとルイナのことを考えながら帰っているとすぐに家の前まで来ていた。
「すぅ~、はぁ~」
俺は深呼吸をして玄関を開けた。
「ただいま」
すぐにキッチンにいるルイナと目が合った。ルイナはすぐに目を逸らした。
「おかえり」
ルイナはいつもより小さな声で言った。
「おかえり、アルトお兄ちゃん。誰にも襲われなかった?」
「あぁ、何もなかったよ」
俺は手を洗って戻ってくるとルイナが料理を皿に乗せて机に置いていた。
いつも通りタイミングいいな。
俺達は椅子に座ってご飯を食べ始めた。俺とルイナとえりがいつもと違って静かに食べる中、ヨミだけはいつも通り話している。ヨミも頑張って空気を重くしないようにしてくれてるのだろうか。
俺は勇気を出してルイナに話しかけてみる。
「なぁ、ルイナ。副団長とみんなでミスリアのプライベートビーチに行こうって話しになったんだけどルイナも行くか?」
「へぇ~、楽しそうね。もちろん行かせてもらうわ」
ルイナは目を合わせないが普通に承諾してくれた。
「そ、そうか。なら良かった」
それからルイナと言葉を交わすこともなくご飯を食べ終わった。ルイナとヨミとえりは風呂に入っていく。
「はぁ~、どうすればいいんだ」
俺はソファーに座って頭を抱える。ルイナは思ったより普通そうにしているが本当はどうなんだろう。
ずっと何もなかったようにされたら本当に何もなかったんじゃないかと思いそうだな。
それからしばらくして3人が風呂から出てきた。俺はルイナの顔を見ることをせずにすぐに入れ替わるように風呂に入った。
頑張ってルイナと二人きりで話さないとな。
悩みながら俺はしばらくして風呂を出た。するとルイナの姿がない。
「ルイナは?」
「部屋にいる。1人になりたくなったって」
「そうか」
やっぱりルイナもずっとあのままでいるのはキツいんだな。でも今は1人させた方がいいのかもしれない。
俺はヨミとえりと遊ぶことにした。
「もうこんな時間か。そろそろ寝ないとな」
「そうだね……ヨミちゃん、今日は私の布団で寝ようか」
「うん」
えりは気を使っていつもルイナと寝てるヨミを自分の布団に誘った。気を使わせてしまって申し訳ないな。
「おやすみ、アルトお兄ちゃん」
「あぁおやすみ」
えりとヨミは屋根裏部屋に行った。俺は部屋の電気を消した。
「行くか……」
俺はルイナの部屋の扉をノックする。
「ルイナ、入っていいか?」
返事はない。もう寝てるのか、無視しているのか。
扉に鍵をしていないな。あんまり女の子の部屋に勝手に入りたくないが……。
俺は勇気を出して開けて中に入り扉を閉めた。部屋は暗く、ルイナはベットに横になっていた。俺からルイナの顔は見えない。
「起きてるか?」
寝ている可能性を考えて小声で聞いてみる。
「……えぇ」
起きてたか。
「ガルアのこと、話していいか?」
ルイナは何も言わない。
「嫌なら今日はもう寝るけど……」
まだルイナは何も言わない。
やっぱり嫌か。
俺は部屋から出ようとした。するといきなりルイナは起き上がって俺の背中に頭を当てて、背中の服を握りしめた。
「ごめんなさい……」
「ルイナ……」
「私、いつも自分のことばっかりで誰かに迷惑掛けて最悪よね」
声で泣いているのがわかる。
「ずっと怒って誰かを嫌って……。アルトにもみんなにも迷惑掛けて、私は誰かに愛される資格なんてない!」
「そんなことない。俺は今でもルイナを愛してるしこれからも愛し続ける」
「だとしても!私のせいでアルトの人生を滅茶苦茶にしちゃうかもしれない!」
「だからルイナと別れろってか?」
「えぇそうよ……。もう魔王を倒す夢を手伝うのもしなくていいし、この家に来なくてもいい。今のアルトなら住むところくらい見つけられるはず」
「そしたら誰が俺に料理作ってくれるってんだよ」
「ミスリアちゃんのところ行けばなんでもしてくれるわよ」
「ミスリアからすれば良いかもな。けどお前がいない生活なんて辛すぎて死ぬぞ」
「ッ!どうしてっ!どうしてアルトは私の味方でいてくれるの⁉」
「どうしてって、お前が好きだからなのと、お前をほっとけないのと、お前には借りがあるのと、お前の味方でいたいからかな?」
「私がアルトの人生をおかしくしてもそう言える?」
「そりゃそんなことされたら言えるわけないだろ。けどまだおかしくしてないからな。むしろお前と別れた方がおかしくなる」
「これからそうなるかもしれないのよ!」
俺は振り向いてルイナを抱きしめた。
「差し伸べる手も突っぱねて敵を増やそうとするなよ。お前が俺の傍にいてくれるだけで俺は世界一幸せなんだ。俺はずっとルイナの傍にいる」
そう言うとルイナは声を出して泣いて抱きしめ返した。
「ごめんなさいぃ~。ごめんなさいぃ~」
「あぁ。好きなだけ謝れ。俺が全部受け止めてやるから」
「ごめんなさいぃ~……」
それから俺は泣いて謝るルイナを優しく抱きしめて謝罪一つ一つを許した。
少し経ってルイナは泣き止んだ。
「もう謝んなくて大丈夫か?」
「えぇ……許してくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃあルイナもガルアを許してくれるか?」
「……まだ完全には許せないけど許せるように努力するわ」
「それでいい。俺だってリーザさんは完全に許してないし。けどいつかは自分と他人を許す強さと自分の弱さを受け入れる強さを手に入れような」
「そうね」
「ちなみに俺はルイナを許すし、ルイナの弱さもよく分かってるからな」
「それなら私だってアルトを許すし、アルトの弱さも分かってるわよ」
「じゃあ俺が辛いときは頼むな」
「えぇ。思いっきり甘えて頂戴」
ルイナは笑顔を見せる。
少し心を掴まれる……。
「やっぱりお前は笑顔が一番可愛いな」
俺はルイナにキスをした。
「んっ。アルトもキスはしてくれるようになったわね」
「キスすると俺の物なんだなって思えるからな」
「アルトってやっぱり性格悪いわよね」
「俺にとっては褒め言葉だ」
「ふふっ。そろそろ寝ましょうか」
「一緒に寝てやろうか?」
「普段なら大歓迎だけど今夜は1人で寝させて」
「まさか断られるとは……」
「悲しんでくれて嬉しいわ。これでいつもの私の気持ちも分かったかしら」
「痛いほど分かった」
「ふふっ。でも今夜だけは1人で反省したいの」
「そうか。じゃあ俺も1人で反省するよ。おやすみ」
「おやすみなさい。また明日会いましょう」
「あぁ」
俺はルイナの部屋を出て、自分の部屋のベットに横になった。
ルイナが元に戻って良かった。
「ルイナもちょっとずつ成長してるなー。俺は成長してるんだろうか。肉体と魔力は訓練して成長してるけど精神面ではあれ以来変わってないよう、な……」
『逃げるの?そうやって無意味無意味って!』
「あークソ」
あの日の言葉だけは今も心に刺さっている。
「いつかあの日を乗り越えないとな」
俺は独り言を残して眠りについた。
「ッ!どうしてっ!どうしてアルトは私の味方でいてくれるの⁉」
下からルイナちゃんの叫び声が聞こえる。ヨミちゃんが強く手を握ってきた。
「怖い?」
「うん。あんなルイナお姉ちゃんの声聞きたくないし二人とも仲良くして欲しい」
「そうだよね。大丈夫、ゆう君とルイナちゃんならすぐ仲直りするよ」
「うん。今夜は一緒にいてねえりかお姉ちゃん」
「今夜もこれからも一緒にいるよ」
「うん。みんな、ずっと、一緒」
ヨミちゃんは安心したのか眠りについた。
「ずっと一緒、か」
一緒にいられることは嬉しい。
けど、やっぱり――
「えり。今回のテストも全科目100点だったねぇ。流石私の娘!今度何か買ってあげようか?あっ、お父さんには内緒でねっ」
「えり。久しぶりに俺とゲームするか。父さん、このゲーム昔はよくゲーセンに行って勝ちまくってたからな。例え娘だとはいえ容赦しないからな」
「えり。これ、お小遣い。有意義に使うんだよ。友達とも仲良くするんだよ。あんたは私の大事な、大事な孫なんだから」
「えり。えりは体力がないから儂と一緒に走るか。ゲームばっかりしちゃいかんぞ。えりには元気でいて欲しいからのう」
お母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃん。また会いたいよ……。
下からルイナちゃんの泣き声が聞こえる。
ゆう君と仲直りしたのかな。もし、仲直りしてなかったらどうなるんだろう。
――また私を見てくれるかな。
何言ってんの。私はもう……もう。
「えり。なにぼーっとしてんだ。さっさと帰ってゲームするぞ」
「ねぇ、ゆう君」
「なに?」
「私のこと好き?」
「は、はぁ⁉な、なんでそんなこと」
「いや、ふと気になって」
「そ、そりゃ好きだけど。前にも言っただろ」
「えへへ。私も好き」
「し、知ってるよ!」
またあの日に戻れたら……。
南本えりかの頬に、とある感情を孕んだ涙が流れていく。
それはルイナ・エイス・セレーネと同じ1人の少年を想う涙でありながらも感情は大きく違う。
そしてその涙に気づく者は誰一人いない。ただ1人の傍観者除いて。
「最悪の事態にならなければいいのですが……」
ずっと更新しようとおもってたのに一ヶ月経ってました。イルです。
今週がかなり冷え込んできましたね。自分は体調崩しちゃいました。冷えるなら冷えるって言ってよね地球さん。
今回はルイナが反省しましたね。これでルイナのお嬢様気質が直るんですかね~?
次回もまた更新日は不明ですが見てくれると嬉しいです!
ではまた次の更新まで!