第百二十六話 嫌気
「ふあぁ~、眠たい」
「アルトお兄ちゃん、ずっとチョコ作ってるもんね」
メイ先生に手作りチョコの作り方を教えて貰ってから4日後、俺は騎士団訓練場をヨミと歩きながらあくびをした。
「チョコが上手く固まらなかったり、逆に途中で固まったり、ちゃんと出来たと思ったら崩れたりしてほんっと大変なんだよ。ヨミもよくチョコ作れたな」
「私は一部の工程しかしてないから。ほとんどルイナお姉ちゃんが作ってくれたの」
「流石ルイナだなー。あいつはどこまでも天才だな」
「そんなことないよ。ルイナお姉ちゃんもずっと努力してたもん」
「そうなのか。全然気づかなかった」
「ふふっ、頑張ってるのを隠すのにも努力してたから」
「ルイナの隠し事に気づかなかったとは、一生の不覚」
「大好きな彼女の隠していたことに気づけなかったことが彼氏として不満?」
「いや、ルイナの隠し事に気づいていじりネタに出来なかったことが悔しい」
「やっぱりアルトお兄ちゃんは性格悪いね」
「良い褒め言葉だ。お前も俺のことがよく分かってきたな」
「君はそうやって悪ぶるのだな」
「うわっ!レオ団長!」
いつの間にか上からレオ団長が目の前に降りてきた。
「ごきげんよう。黒炎刀の使い手と星の力を宿す麗しき少女」
「こ、こんにちはレオ団長。いらっしゃってたのですね。ここにはどういう要件で来られたのでしょうか?」
「先日、ロビン団長が君に魔術を教えたと聞いて私も何か君に教えられたらと思って来たのだ」
「それはありがたい限りです!」
「それは良かった。しかし、これといって教えられるものはないのだが……そうだ、手合わせしよう」
「おぉ!レオ団長と戦えるなんて光栄です!」
「はっはっはっ。君は素直な子だな。今の私は気分が良い。3人掛りで来てもらっても構わないぞ」
「3人、ですか」
「なんで俺を呼んだんだ?」
俺はガルアとルイナを呼んだ。
「だってお前、俺が色んな団長に訓練されてるの羨ましがってたから」
「羨ましがってたわけじゃねぇよ。けど、団長と戦えるのは珍しいからな」
ガルアはワクワクした顔をしている。やっぱり羨ましがってたんだな。
「アルトと一緒に戦うのはいいけど、ガルアと一緒だなんて息が合うと思えないわね」
「ガルアに合わせればいいだろ。そう嫌がるなって」
「ふんっ、アルトが言うならやってみるけど」
相変わらずルイナはヒュドラー討伐のときからガルアのこと嫌いだな~。リーザさんともだが仲直りして欲しいところだ。
「さて、三人とも準備はいいかね?」
「はい!よろしくお願いします!」
レオ団長と俺とルイナとガルアは構えた。俺は闇と炎の合体魔法を飲み込んでその魔力を一心斬絶に抜きながら付与する。
そして俺とガルアは同時に飛び出した。俺は真っ直ぐレオ団長に向かい、ガルアはレオ団長の後ろに回る。俺は一心斬絶を横に振り、ガルアは殴り掛かった。レオ団長は横に逃げると下からルイナの氷魔法が出てきて足を止めようとするがレオ団長は上に飛んだ。
ルイナはすぐに刀型の氷を二本飛ばしたがそれも避けられている。
俺は空中にいるレオ団長に向かって勢い良く飛び、一心斬絶で突こうとする。切っ先がレオ団長の腹に刺さると思った途端、レオ団長はすらりと避け、一心斬絶を伸ばしてる右手を掴んで投げ飛ばされた。
「ぐっ!」
ガルアは俺が投げ飛ばされてすぐにレオ団長の真上に来て蹴り落とそうとした。しかしレオ団長はそれに気づいて避けてから足を掴むと俺に向かって投げ飛ばしてきた。ガルアが俺にぶつかる。
「ぐあっ!痛ってぇな!」
「好きでこうなってるわけじゃねぇよ!」
「それは分かってるよ!重いから早くどけ」
「なにイチャつきながらしながら喧嘩してるのよ!」
「んなことしてねーよ!イチャつきながら喧嘩するのはルイナだけで十分だよ!」
「じゃあ私に向かって飛んできなさいよ!」
「そんなことしたらお前が怪我するだろうが!」
「うるせぇお前ら黙ってろ!」
「はぁ⁉なによ!私とアルトの会話を邪魔しないで!」
「おいアルト!あいつどうにかしろ!」
「ルイナ!とりあえず落ち着け!」
「アルトは私とガルアどっちが大事なのよ!」
「そりゃどう考えてもルイナだよ!」
「なら私の味方になってよ!」
「なるからとりあえず落ち着け!」
俺達が言い争ってると突然目の前から水が押し寄せてきた。
『あっ』
俺達はその水に流されていった。
「はぁ~、君達はやる気があるのか?」
「すみません……」
俺達はレオ団長の前に正座していた。
「私にため息をつかせた人は珍しいぞ」
「恐縮です……」
「君達個人の強さは流石だが、君達は相性が悪いようだな」
「そのようですね。俺の選出が悪かったです」
「実戦ではこうならないように頼むぞ」
「はい。実戦は流石に大丈夫です。いえ、大丈夫であって欲しいです」
俺はルイナをチラッと見た。
「大丈夫ですはい。今回は失礼を致しました」
「先ほどのは水流そう。私も興が乗って2人選ばせたのも原因だ」
「すみません……」
「ここからは1人ずつ戦うとしよう」
レオ団長を呆れさせてしまったがそれからもレオ団長は訓練をしてくれたのだった。
私はレオ団長の後ろを取り、氷魔法を撃ったがレオ団長はレイピアから鋭い水を出して氷を突き抜けて私に向かってきた。それをガードしようとするその水が止まった。
「今日はこれくらいにしよう」
「ありがとうございました!動き方など勉強になりました」
「最初の失態が嘘のように君達は強くて私も楽しめたぞ」
「名誉挽回出来て良かったです」
「私はまだ熱が冷めないので他の騎士と戦うとしよう。また会おう。そしてテュポーン討伐が上手くいくことを願っているぞ」
レオ団長はそう言って戦いを求めて飛んで行った。
「疲れた~。レオ団長速すぎる」
「ミラス団長より速かったわね」
「けど隙はいくつかあった。そこに全力で攻撃すればまだ勝機はあったな」
「あんたに言われなくても分かってるわよ」
私はガルアを睨みながら言った。
「チッ。じゃあなアルト」
「お、おう。またな」
ガルアは私に嫌気を差してどこかへ行った。
「さぁ!帰りましょうアルト」
私は勢い良くアルトの腕に抱き着いた。
「あのさ、ルイナ」
「なに?」
「ガルアと仲良くしてくれないか?」
「どうして?」
「ヒュドラー討伐のときに俺がガルアのせいで危険な目にあったのは確かだけど、それのおかげでガルアと仲良くなれたし、騎士団のピンチを助けられたんだ。許してやってくれないか?」
「それは結果論でしょ。あの時は一瞬本当にアルトが死んだんじゃないかって思ったんだから」
「そうだよな。でもガルアも謝ってるんだ」
「例えアルトの頼みでも無理よ」
「……そうか」
私はその声を聴いてアルトの顔を見た。
アルトは、とても悲しそうな顔で私を見つめていた。アルトの目が私の心に刺さる。
私はアルトを悲しませることをしたんだ……。
自分の都合をアルトに押し付けていたんだ……。
「……ごめんなさい。そうよね。ガルアもああなるとは思ってなかったのよね……」
「ルイナ、俺は――」
私は泣きそうになりその場から逃げ出した。
「ルイナ!」
あぁ、私はダメな人間だ……。
俺は泣きそうな顔して飛んでいったルイナを追えなかった。追って止めてもどう声を掛ければいいか分からなかったからだ。
「あぁクソ。言い過ぎたのかもしれねーな。そりゃ簡単に許せるものじゃないよな」
ルイナにあんな顔させるなんて……。
俺は自分の未熟さを嘆いた。
重い足を引きずりながらテレポートする場所に向かった。ヨミとエレイヤとえりが見える。ヨミが気づいて走って俺の元にやってきた。
「さっきルイナお姉ちゃんが急いで帰っていったけど何かあったの?」
「ちょっとな」
俺はヨミに出来るだけ心配を掛けないように笑顔を作った。
エレイヤとえりの元まで行くと二人とも心配そうな顔をしていた。
「心配掛けて悪い。俺とルイナの問題だから気にしないでくれ」
「そんなこと言っても気になっちゃうよ……」
みんな沈黙していると副団長がやってきた。
「良かった!みんなまだ帰ってなくて」
「副団長、どうしたんですか?」
「前にアルト君とみんなでどこかへ行こうって話ししてたじゃないですか!」
「あぁ、先週話しましたね」
「そうです!それをミスリアちゃんに話したらプライベートビーチがあるからそこに来ませんかと言われたのですが行きませんか⁉」
「めっちゃ元気ですね。てかいつの間にミスリアと話したんですか。それにプライベートビーチって凄いですね。あとこの時期に海ですか」
ツッコミどころが多い。
「温暖の結界があるのでこの時期でも夏のような暑さらしいです!どうですか?」
「なら是非行かせてもらいます。みんなもいいよな?」
「うん。私も海行ってみたい」
「お、俺もいいぜ」
「私も良いけど、ルイナちゃんは……」
「あれっ?ルイナちゃんはどこですか?」
「……色々あって先に帰りました」
「そうですか。ではルイナちゃんにも聞いておいてください~!2週間後に行く予定ですので!私はこれから団長も誘ってみます!ではさよなら!」
副団長は元気に飛んで行った。
「……よし、帰るか。俺はエレイヤを家まで送るよ」
「あ、あぁ、行くか」
5週間ぶりですね。イルです。
気づいたら11月ですね~。もうすぐに今年が終わりそうです。心はまだ夏を満喫したいって気持ちです。けど綺麗な紅葉を見るたびにもう夏は終わったんだなって思います。
今回はレオ団長と手合わせしてもらい、アルトとルイナに少し溝が出来てしまいましたね……。果たしてどうなるのやら。