第百二十三話 感謝
夕方になりそろそろ帰る時間になった。
「もうこんな時間ね」
「もうかよ~。誰か時間早めてないか?」
「それくらい楽しかったってことですね、エレイヤちゃん。私も今日は時間の流れを早く感じました」
「さて、今日もエレイヤとミスリアを送っていくか」
俺がそう言った瞬間、町の警報が鳴り響いた。
「こ、これは」
「魔物が出たのね。行くわよ」
ルイナは勢いよく飛んでいった。決断が早いな~。前回はアルビノ逆転性質個体のオーガが出たがリーザ団長がいたから楽だったが今回はどうだろうか。
「悪い。ミスリアは家に帰っててくれ」
「わ、私も戦います!」
「なに言ってんだ。お前は刀さえ持ってないだろ」
「刀ならあります!」
そういってミスリアは右手を横にして魔法陣を出すとそこからミスリアの刀が出てきた。
「お、お前いつの間にそんな魔術を」
「私もずっと訓練してきました!ヘルサ先生にも剣術を教わってます!魔物との実戦もあります!少しは役に立てるはずです!」
ミスリアは今までにない熱心な目と言葉をぶつけてきた。
「……わかった。ただし無理すんなよ。死が怖ければ逃げろ」
「はい!ありがとうございます!」
こんな真剣なミスリアを見て断れるわけがないよな。けど今持ってる荷物はどうすれば。ここに置いて誰かに取られたりしたらいけないし。
「ミスリア!アルト君も一緒か」
「お兄様!」
「シアン先輩」
俺が困っているとシアン先輩がやってきた。ミスリアを迎えにきたのか。
「無事か。警報が鳴っている。家に帰るぞ」
シアン先輩はミスリアの手を引っ張る。しかしミスリアはそこから動こうとしなかった。
「どうした?」
「私は、戦いにいきます!」
シアン先輩は驚いた顔をしたが何かを察したようにミスリアの手を離した。
「そうか。気を付けるんだぞ」
「っ!はいっ!生きて帰ってきます!」
ミスリアはシアン先輩に手を振って飛んでいった。ヨミとエレイヤも飛んでいった。
「アルト君、ミスリアを頼んだよ」
「はい。俺の命にかえても守りますよ。あっ、これ持っててください。荷物頼みましたよ」
「えっ、ちょ、重っ!」
俺は荷物をシアン先輩に押し付けてミスリア達を追いかけた。
町に外にやってきた。既にギルドの人とルイナとガルアが戦っている。俺は魔物に闇魔法を撃ちながらルイナの近くに降りた。
「遅いわよ」
「悪い悪い」
「それより、なんでミスリアちゃんがいるのかしら」
「あいつも戦いたいって言うもんだからさ」
「アルトがそれを認めたの?」
「あぁ」
「ふ~ん、ならいいけどっ!」
ルイナは50mくらい先の魔物の足を凍らせていき、俺は一心斬絶を闇魔法の魔力を付与しながら抜いて凍らせた魔物を斬った。
「相変わらず良いコンビネーションだな」
「ようガルア。昨日ぶりだな。こいつらはまた西の森から来たのか?」
「多分な」
「魔王復活の影響らしいけど、幹部を倒すときに魔物が攻めてきたら危険だよな」
「この町のギルドのやつもそんなにやわな奴じゃねぇよ。あとあの小さいエルフの先公が本気を出せばこれくらいすぐに倒せるだろ」
「メイ先生な。まぁ確かに先生達が本気出せば俺達がいなくても大丈夫そうだな」
その先生達は今頃他の方向の魔物を倒してるんだろうな。
「あそこにいるガキは大丈夫なのか?」
ガルアはミスリアを見た。
「はぁっ!」
ミスリアは少しずつ魔物を倒している。前より構え方や動き、刀を振る速度が良くなっている。本当に努力してるんだな。
「大丈夫だ。ちゃんと見てるから何か危険そうだったら助けるさ。ルイナも援護してるしそんなに危険そうでもないけどな」
「なら良いがな」
エレイヤも声だけだが音魔法で攻撃してる。
「俺もヒュドラー討伐行きたかったぁぁぁ~!」
愚痴を魔物にぶつけてるな。けど会った頃は声だけだと全然威力なかったのに今じゃギターを使ったときと同じくらいの威力になっている。あいつも努力してるな。
えりは、ハンドガンしか持っていないが機敏に動いて味方を援護している。レールガンを持っていればもっと援護できただろうが。
ヨミは空から10個ほどの魔法陣から隕石を出して魔物に撃っている。魔物に当たると爆発して地面に穴ができる。
ヨミは俺の隣に降りてきた。
「私の星魔法だと地形変えて戦いにくいかもしれないからから私は見守ってるね」
「あぁ。誰か危険そうな人がいたら助けるんだぞ」
「うん」
ヨミはまた上空に飛んでいった。
それから少し経ち、ほとんど魔物は少なくなっていた。このままいけば勝てそうだが、またオーガみたいなやつが出る可能性も……。
そう思っていると森から何かの咆哮が聞こえた。やっぱりまだ何かいるのか。
全員がその咆哮を聞いて警戒してる中、森から出てきたのは……ドラゴンだった。
「なっ!あれドラゴンか⁉」
赤い目、長い首と尻尾、黒い鱗、ギザギザとした剣のような翼角、強靭な爪をしたドラゴンが森の上空に現れた。全員動揺している。
「ドラゴンなんて初めて見たわね」
いつの間にかルイナが隣にいた。
「つまりあの森には元々居なかったってことだな」
「えぇ。さっきまで暴れてないってことは今誰かが放ったはず。だから今あの森に行けばそいつを取っ捕まえることができるかもしれないけど今はドラゴンを倒すことが優先ね」
「そうだな」
ドラゴンがこちらに飛んでくる。町に入られると危険だな。
「ルイナ、町の周りに氷の障壁を張っておいてくれ」
「そうね。あいつがここに来るまでにはできてるはず」
ルイナは町の方に向かっていった。
絵本などでしか見たことがないドラゴンが向かってくる。
怖い、怖い、怖い……。
それでも戦わないと。憧れのアルト先輩やルイナ先輩みたいな強い人になるために。
私は震える足に力を入れた。ドラゴンはどんどん向かってきている。と、いうか私の方に向かってきている。
こ、こっちにくる⁉で、でも強くなるためにはっ!
ドラゴンは炎を吐き始めた。
「え、ええ、えええぇぇぇ~!」
目の前に炎が迫ってくる。あ、足が動かな――
その瞬間私の視界が勝手に横に動いた。アルト先輩に抱きかかえられていた。
「ア、アルト先輩!すみません、私、体が動かなくて」
「あれはイレギュラーだから怖くなっても仕方ないよ。ミスリアはよくやってるさ」
「ありがとうございます。それよりあのドラゴン倒せるんですかね」
「倒せるに決まってるだろ。ヨミ!」
「任せて!」
アルト先輩は上空のヨミちゃんに向かって叫び、ヨミちゃんは応えた。ヨミちゃんはドラゴンに向かって隕石を連続で飛ばした。図体のデカいドラゴンは次々と隕石に当たり爆発を受けて弱っていく。
「ほらな」
「さ、流石ヨミちゃんです」
ドラゴンは叫びながらついに翼を羽ばたかせるのをやめ地面に突撃し、死んだ。
『おおぉ~!』
周りから歓声が聞こえる。これで敵は全員倒したはず。
「アルトお兄ちゃん、どうだった?私の魔法」
ヨミちゃんが後ろに降りてきた。
「めっちゃ強くてカッコ良かったな。良くやったぞ」
「えへへ」
ヨミちゃんはアルト先輩に撫でられると少し照れくさそうにはにかんだ。
「無駄に障壁を私も褒めてほしいんですけど~」
ルイナ先輩がヨミの隣で不貞腐れていた。
「ルイナも頑張ったな、えらいえら――」
アルト先輩が少し煽っているような口調でルイナ先輩も撫でようとすると後ろから嫌な気配を感じた。
「嘘だろ。まさか……」
アルト先輩はドラゴンを見る。死んだドラゴンの体から紫色の魔力が出始め、ドラゴンを覆っていた。
「あのドラゴンも魔石強化されてるわね。魔物よりドラゴンの方がよっぽど知能あるってのにほんと趣味の悪いことするわね」
「あんまり知能があるように見えなかったけど」
「魔石強化で力と引き換えに知能を失ったようね」
なんて酷い。あのドラゴンにも愛する家族がいるはずなのに。
ドラゴンは起き上がり、真っ直ぐ上に飛んでいく。そして止まり口を上に向けると、ぐちゃぐちゃな魔力の巨大な魔法が出来上がってく。
「おっと、あれがここにぶつかれば町にもかなり被害が出るな」
「えぇ⁉じゃあ止めないと!」
「その通りだな。ミスリアには俺の力を見てなかったよな。よーく見てろよ」
アルト先輩は私を降ろした。
そういえばずっと抱えられたんだった。恥ずかしい……。
アルト先輩は前に出て一心斬絶を抜き、炎と闇の合体魔法を逆流させ飲み込み、一心斬絶に合体魔法の魔力を付与した。
「さぁ、ゆくぞ!ドラゴン!貴様の恐怖、痛み、苦しみを俺が斬り刻んでやろう!」
そう叫ぶとアルト先輩は一心斬絶を横にして構える。
「紅蓮の炎よ、深淵なる闇よ、我が刀を飲み込み、全てを灰に化せ、闇炎の刃!」
一心斬絶に炎が流れ、その炎は闇に飲まれて黒炎へと変わる。
ドラゴンは魔法を放ち、アルト先輩はその魔法とドラゴンに向かって飛んだ。
「黒炎闇斬絶!」
黒炎を纏った一心斬絶はドラゴンの魔法を一刀両断し、アルト先輩は一瞬でそのままドラゴンの前まで進んだ。
「眠れ、安らかに」
詠唱魔法でドラゴンを斬り刻んだ。ドラゴンは黒い炎に包まれていく。そして魔法が爆発して爆風がくる。目の前にアルト先輩がコートをはためかせながら降りてきた。
その漆黒の闇はとてもたくましく、優しい背中を見せていた。
「どうだ。ミスリア。我が力、じゃなくて俺の力は」
「……カッコいい」
私は思わず、素で答えてしまった。
「ありがとな」
アルト先輩は笑顔を返す。
「あっ、えと、今のは!」
私は素で答えたことに気づき誤魔化そうとしたが、今度こそ勝利を確信したギルドの人達の歓声に掻き消された。
エレイヤちゃんとえりか先輩も集まってきた。
「これで完全に敵は倒したな。よし帰るか」
「そうね。みんな怪我はない?」
「俺は大丈夫だぜ!ストレス発散もできたしな!それよりお腹減ったぜ~!」
「私も動き回ってお腹減った~。早くルイナちゃんのご飯食べたいよ~」
「エレイヤは家まで送らないとな。えりはそれまで待ってろよ」
それからアルト先輩とルイナ先輩はエレイヤちゃんを家まで送るために飛んでいった。私はえりか先輩とヨミちゃんに家まで送ってもらった。
「今日もありがとうございました」
「ううん、大丈夫だよ」
「全く、僕は荷物預り所ではないのだが」
お兄様はえりか先輩に荷物を渡した。
「文句はゆう君に言ってくださいね」
「お兄様も荷物を預かってくださりありがとうございました」
「ふっ、妹のためと思えばこれくらい余裕さ」
「妹には優しいんですから。じゃあ私達はこれで」
二人は飛んで家に帰っていった。
「それで、ミスリア、どうだったんだ?初めてみんなと魔物相手に戦った感想は?」
「怖かったです。でも少しだけでしたが戦えました。足が動かないときもありましたがアルト先輩のおかげで助かりました」
「そうか。それは良かったな」
「はい!」
「……ミスリア、良い笑顔をするようになったな」
「そ、そうでしょうか」
「昔は笑顔でも心の底から笑っていない暗い笑顔だった。けど今は心の底から笑い、毎日が楽しそうだ。アルト君にはお礼を言わないだな。ついでにミスリアとの婚姻も考えてもらわないと」
「も、もうっ!何を言ってるんですかお兄様!」
「シアンの言うことはごもっともです」
いつの間にかお母様がいた。
「お母様、聞いてらしたのですか?」
「はい。剣術が苦手なミスリアが戦いに行ったと聞いたときはどうなることかと思いましたが、私はミスリアを甘く見ていたようです。よく頑張りましたね」
お母様は私を抱きしめてくれた。こうしてもらったのはいつぶりだろうか。前にしてもらったときと変わらない温かさ。
「わ、私はお母様に認められる人になれたでしょうか」
「えぇ。十分認めてますよ。あなたが自分の意思で努力し、何かを成し遂げられて、私はとっても嬉しいです。今まで本当によく頑張りましたね」
その言葉を聞いて私の目からは涙が流れていた。
「私も、嬉しいです。私は今、幸せです!」
「それは良いことです。でも掴みたい幸せはまだあるのでしょう?」
「そ、それは……はい」
「私もシアンも、そして天国にいるあの人も応援してますよ」
「はい。頑張ります!」
アルト先輩のおかげでやりたいことも見つかり、家族の仲も深まっていく。感謝してもしきれないです。
叶わないかもしれないけど、この恋が実りますように。
アルト「てかまた俺厨二病発動してるじゃん」
ミスリア「とってもカッコ良かったですよ!」
えり「うんうん!やっぱゆう君は厨二病になってるときが一番ウキウキしてるよね!」
ルイナ「急に口調が変わるからびっくりするけどカッコいいわよ」
アルト「おっ、今回は褒められて終わった~!毎回これでいいのに」
えり「じゃあ毎回厨二病にならないと」
アルト「それはキツい」
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気づけば8月ですね。イルです。
今年はリアルイベント系がなくてちょっと寂しいですね。
今回はミスリアが成長しました。他のキャラの成長も少し見れましたね。
次回は多分騎士団訓練のお話だと思います。
ではまた来週~。