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第百二十ニ話 努力次第

 俺は服を着て温泉を出た。するとルイナが腕を組んで待っていた。


「やっと出てきたわね」


「おはようルイナ。二日酔いは大丈夫か?」


「それよりアルト、出てくるの遅かったわね。聞いた話が正しければアルトが温泉に行った時間から約30分経ってるわよ。アルトそんなに長湯するタイプじゃなかったわよね。誰か一緒に入ってたの?」


「別に」


「そう」


 ルイナは俺の匂いを嗅いできた。


「な、なに」


「女の匂いがする」


「気のせいじゃない?シャンプーのせいだろ」


「ほんとに?」


 ルイナは俺の目を見てくる。


「本当だよ」


「……嘘ね」


「嘘ですごめんなさい」


「はぁ~。また何かされたの?」


「寂しがりな人の話し相手になってあげただけだ。だから怒らないでくれ」


「怒ってないわよ」


「ほんとに?」


 俺はルイナの目を見る。


「本当よ」


「……嘘だな」


「嘘よ!怒るわよ!私とは一緒にお風呂入ってくれないのに他の女とは入るのね!」


「俺だって拒否したけど弱みの握られてたというかなんというか」


「もういいわよ。怒鳴って悪かったわね」


「あれ?ルイナにしては怒りが収まるのが早いな」


「昨日あんなことあったのにアルトを粗末にできないわよ」


「だからか。あと普段から粗末にするな」


「だから悪かったわよ。ほら朝ご飯食べるわよ。ヨミちゃんとえりかちゃん待ってるから」


「はいはい。腹減ったな~」


 俺とルイナは手を繋いで食堂に来た。トレイに皿を置いて持ってどれを食べようと悩んでいるとガルアがいた。


「ようガルア。よく寝れたか?」


「アルト。あぁ、よく寝れた。お前はどうだ」


「ぐっすりだよ。暑かったけど」


「相変わらずだな。食べたら一戦しないか?」


「おぉいいぜ。ルイナもどうだ?」


「二人とも戦うの好きね。いいわよ」


「ほう、では私も戦おう」


 リーザさんがやってきた。


「い、いいですけど俺を集中狙いしないでくださいね」


「それはお前の態度次第だ」


「よしルイナ、リーザさんの相手は任せた!俺は煽っとくから」


「それはアルトが対処して」


 それから俺とルイナとガルアとリーザさんは戦い、そのあと竜車に乗って訓練場に帰った。


 訓練場に着くと団長と副団長が待っていた。二人は俺達を見つけると不安そうな顔が笑顔になり走って生きて帰ったこと、ヒュドラーを倒したことを称えてくれた。それから二人と軽い宴をしながらヒュドラー討伐のことを話したのだった。





「只今帰りました、お母様」


 僕は義母の前に跪く。


「今回はちゃんと接触せずに帰ってきたようね。それでヒュドラー様は勝ったのかしら?」


「残念ながらヒュドラー様は倒されました」


「そう。騎士団の死者は何人?」


「0人です」


「……聞き間違いじゃないわよね。0人?0人って言ったの?」


「はい。間違いではございません」


「何故、何故なのよ!」


 義母は机を叩く。


「ヒュドラー様はこの世で一番強い毒を吐くのよ⁉魔石強化もしたのに!どうして!」


「騎士団はヒュドラー様の対策をしていました。首を斬り、切口を焼いてほとんど毒を吐かせてませんでした」


「そんな手段誰が思い浮かぶのよ!あなたが何かヒントを与えたんじゃないでしょうね!」


「いえ!使命に反することは絶対にしてません!」


「絶対でしょうね!」


「はい」


「じゃあ魔石強化状態のヒュドラー様はどうやって倒されたの。首を斬られても猛毒の煙を吐くはずでしょ⁉」


「アルトという騎士が詠唱魔法を使い、倒しました」


「アルト、あなたが気に入ってる子供ね」


「ヒュドラー様の対策を考えたのも、ケルベロス様の弱点を知っていたのもアルトかもしれません」


「そう……じゃあミカヅキ、あなたの戯れは多少許していたけどこれで終わり。必ずアルトを殺してきなさい」


「こ、殺すのですか。再起不能状態にするのはダメでしょうか」


「ダメよ。再起不能にしても何年か経てば回復されるでしょう。絶対に息の根を止めるの」


「アルトの、命を……」


「なに?私の絶対命令に逆らうの?」


「そ、そういうわけでは……」


 僕が自分の気持ちに戸惑っていると平手打ちをされた。


「あなたは人を殺す道具なの!ごちゃごちゃ言わずにさっさと殺しなさい!」


 何度も平手打ちをされる。別に体に傷が付くわけじゃない。痛いわけじゃない。けど心には深く傷が刻まれていく。


「おいおい、もうやめてやれよ。俺が殺ってやるからよ」


 義母の手が止まる。外から黒い服を着て銀髪でくせ毛の黄緑色の目をした男が現れる。


「ナヴァルお兄様」


 彼は僕の実の兄。僕より力は弱く、義母からは不良品と言われており、ここ数年一人でどこかへ旅立っていた。


「帰ってきたのね、ナヴァル。けど魔石強化されたヒュドラー様を倒すほど強いやつをあなたに殺せるかしら」


「俺は昔の俺とは違う。ミカヅキの代わりになれるように今まで努力したんだ」


「なら殺して見せなさい。そうしたらあなたの評価を改めるわ」


「あぁ。ミカヅキが気に入ってるだがどうだか知らねーがぶち殺させてもらうぜ。とりあえずは情報収集だな」


 そう言ってナヴァルお兄様は飛んでいった。


「ミカヅキ、あなたはどっちの味方なのかしら」


「僕は、もちろんナヴァルお兄様の、味方です」


「ふん、だといいけど。あなたはその時代遅れの刀でも磨いてなさい」


「わかりました……」


 ナヴァルお兄様とアルト、どっちが勝つのか。いや、それよりどっちが生き残ってくれるか。そう思う気持ちで胸がいっぱいになった。


 お兄様は昔はとても優しくしてくれた。この義母に拾われるまでは。いつからかお兄様は変わってしまった。力を求め、義母に認められることに必死になっている。


 僕は、どっちも死んで欲しくないんだ。





「アルトきゅん!」


 町に帰った次の日、月曜日の午前9時、エレイヤがいきなり家に入ってきた。エレイヤは椅子に座っていた俺を見ると抱き着いてきた。


「ちゃんと生きてて良かった!」


「お前はいきなり過ぎるんだよ。あとちゃんと生きて帰ってきたよ。ちょっと危ないときもあったけどな」


「アルトきゅん達が生きてるか不安で学校の授業なんてずっと集中できなかっただぞ!」


「そりゃ悪かったな」


 エレイヤは俺を離した。


「誰かと思ったらエレイヤちゃんじゃない」


「エレイヤちゃんは相変わらず元気だね~」


「不法侵入だよ、エレイヤお姉ちゃん」


「ルイナっち!えりっち!ヨミみん!」


 ルイナの部屋から出てきたルイナとえりとヨミにエレイヤは抱き着いた。


「みんな生きてて良かった~!ヒュドラーを倒したんだろ⁉すっげーな!」


「エレイヤちゃんも3日間よく不安に耐えたわね」


「みんなの努力に比べれば小さいもんだぜ!」


「エレイヤお姉ちゃん、苦しい」


「おぉ悪い悪い!」


 エレイヤは二人を離した。


「それよりお前、学校はどうした」


「休んできたぜ!」


「いや行けよ」


「ルイナっちだって行ってねーじゃねーかよー。さっき高校行ってきて今日は休んでるって聞いて急いで来たんだぞ!」


「私はヒュドラーの疲れを取るために休んだのよ。まぁそんなに疲れてもないけど副団長に休んだ方がいいって言われたから」


「あの人はちょっと過保護だからな~。まぁヘルサ先生にしごかれるよりはいいけど」


「じゃあ今日はずっといられるわけだな!」


「まぁそうなるな。昼からは買い出しに行くつもりだけど」


「もちろん一緒に行くぜ!それで、アルトきゅんは何書いてるんだ?」


「ヒュドラー討伐の報告書だよ。俺だけ色々あって別行動してたんでな」


「じゃあ今は遊べないのか?」


「もうちょっとしたら書き終わるから三人と遊んでろ」


「よし!アルトきゅんの部屋で遊ぼうぜ~」


 俺の部屋が広いからっていつも使うんだよな~。まぁいいけど。四人は俺の部屋に入っていった。


 そして俺は報告書を書き進めていった。すると玄関がノックされた。俺は立って玄関を開けるとミスリアがいた。


「アルト先輩!」


「うおっと」


 ミスリアは泣きそうな顔をしながら凄い力で俺に抱き着いてきた。嬉しいけど痛い。


「生きてて、生きてて良かったです!」


「ちゃんと生きてるよ。みんなもな。お前は騎士団なんだから死者0人って情報は知ってるだろ?」


「それでも私の目で見ないと不安だったんです!」


 背中を握られた。というか摘ままれてる。


「見れて安心しただろ?ちょっと痛いから力だけでいいから緩めてくれない?」


「あぁああ!申し訳ありません!」


 ミスリアはすぐに俺から離れた。


「気持ちが高ぶってしまいました。ご無礼をお許しください」


「俺達は友達だろ?そんな堅苦しい言い方するなよ」


「でもアルト先輩はヒュドラー討伐に多大な貢献をした英雄と聞きましたのでそんな英雄様と友達なんて私には差し出がましいです」


 まーた謙虚になりやがって。


「俺と友達なのは嫌か?」


「いっいえ!嫌だなんて微塵も思ってません!むしろとっても嬉しいです」


「なら友達でいいだろ。俺もミスリアとは友達でいたいんだからな」


「で、では今後とも友達でよろしくお願いいたします」


 ミスリアは頭を下げる。良い子過ぎだな~。


「あぁ、よろしく」


「できれば友達以上の関係に、なれたらいいな、なんて……」


 ミスリアは顔を赤くして口を手で押さえながら言った。可愛いな。


「お前の謙虚さを少しは無くしたら付き合ってあげてもいいぞ」


「えっ、ほっ、ほんとですか⁉」


「ミスリアの努力次第だ」


「わかりました!私、謙虚を抑えます!待っててくださいアルト先輩!」


 ミスリアと付き合うことになっても、ドロシー団長が他の付き合ってる人と同意があれば大丈夫と言っていたらからルイナなら多分問題ない、はず。ミスリアの謙虚さが少しなくなってさらに俺と付き合うことで喜ぶ、一石二鳥だよな。うんうん。


「何か嫌な空気がしたと思ったらミスリアちゃんだったのね」


「ルイナ先輩!」


 ミスリアは心なしかイラついてるように見えるルイナに抱き着いた。


「ご無事で良かったです!」


「えぇ、無事よ。それよりさっきアルトとなに話してたのかしら」


「え、えっとそれは……」


「ミ、ミスリア!今日は家で遊んでいかないか?昼からは買い物も一緒にいこう!」


「ぜ、ぜひご一緒させていただきます!」


「よしじゃあ俺はちょっとやることあるからルイナとミスリアは俺の部屋にいるヨミとエレイヤとえりと遊んでおいてくれ!」


 俺はルイナとミスリアの背中を押して俺の部屋に入れた。相変わらずルイナは怖いな。


 それから俺は報告書を書いて騎士団に手紙として送って、五人と遊び、ご飯を食べて、買い物をするため家を出た。


 しばらく買い物をして五人は服屋に行くことになり俺は服屋の前で待ってることにした。


「はぁ~あ、女子は買い物長いな~。買うものも多いし、別に服買うってわけじゃないのに服屋に行くなんて意味わからん」


「大変そうですね。アルトさん」


 荷物を持って愚痴を言ってると前にルエニさんがいた。前に会ったのはケルベロス討伐したあとのときか。


「お久しぶりです、ルエニさん。魔王の幹部を倒すよりは楽ですよ」


「また元気な姿を見れて嬉しいです。今日は彼女さんやお友達とお買い物ですか?」


 ルエニさんは俺の隣に立った。


「はい。ルエニさんは?」


「僕は散歩ですよ。騎士団はヒュドラー討伐を成功したようですね」


「はい。実は俺達も行ったんですよ」


「そうだったんですね。どうでしたかヒュドラーは」


「正直言うと余裕でしたよ」


 俺は自慢げに言った。


「おぉ、流石ですね」


「まぁ俺が戦ったのは最後だけですけどね。死者0人にできたのはドロシー団長のおかげですよ」


「水の占い術師、ですか。彼女はかなり特別な力を持っていますからね」


「ルエニさんは会ったことあるんですか?」


「はい、一度だけ。おしとやかで指揮力が高くとても不思議な人でした」


「あはは、おしとやか、ですか」


「どうかしましたか?」


「い、いえ。ドロシー団長みたいに特殊な能力を持った人って他にいるんですかね」


「私が知る限りはいませんね」


「そうなんですね。俺も何かあればいいのに」


 一応あの魔法を飲み込む能力は特別だろうがもっと汎用性のある能力が欲しい。


「そういえば天使と悪魔に認められた者は願いを叶えて貰えるそうですよ」


「えっ、魔王を倒してくださいって願いでもですかね」


「流石に魔王ほどの強さを持ってると無理でしょうね」


「そうですか。俺には悪魔の加護付いてるらしいですから認められる可能性あるんですかね」


「悪魔の加護が付いているのですか。それは凄い。ならばいつか認められるかもしれませんね」


「でも悪魔って怖いんですよね~。運が悪くなったりはしてなさそうですけど」


「アルトさんは悪魔のことどう思ってますか?」


「どうって、人間に憑りついて、惑わせたり何かと代償に力をくれたりする奴って感じですかね」


「やっぱりそうですよね。ですがもし、悪魔がそのようなことをしてなかったらどう思います?」


「してなかったらですか。う~ん。悪魔の加護も良いものなのかもと思います。でも例えばの話ですよね」


「はい。ですがポジティブに考えないと運も下がりますよ」


「そうですね。俺に加護をくれるくらいのやつなら悪魔も良い奴なんだろうと思うことにします」


「それが良いです」


 ルエニさんニコッと笑った。イケメンだな~この人は。


「このあと何かスイーツを食べようと思ってるんですけどルエニさんもどうです?」


「いえ、仲間の皆さんとゆっくりお過ごしください。僕はまだ行くところがありますので」


「そうですか。じゃあまたいつか一緒に食べましょう」


「是非是非。では僕はこれで」


 ルエニさんはどこかへ飛んでいった。ルエニさんの声聞いてると何か記憶がぼんやりする。何か忘れてるのか?まぁいいか。


 それから少ししてルイナ達が店から出てきた。


「はぁ~、楽しかった。待たせて悪かったわねアルト」


「大丈夫だよ」


「アルトお兄ちゃんも一緒に私達の色んな可愛い服を着た姿見れば良かったのに」


「可愛い服なんか着なくてもみんな可愛いからな」


「アルトきゅんはすぐそういうこと言うよな!」


「事実を述べてるだけだ。で、次はどこに行くんだ?」


「お腹減ったから何か食べに行こ~」


「あっ、それならここの近くに隠れた名店カフェがあるらしいので行ってみませんか?」


「じゃあそこに行ってみるか」

アルト「やっぱりなんでもない日常が楽でいいな~」

ルイナ「そうね。で、ミスリアちゃんとなに話してたの?」

アルト「そ、それはまたいつか話すよ」

ルイナ「なーんか嫌な感じするのよね」

アルト「大丈夫!ルイナとの関係はなんにも変わらないから!」

ルイナ「いやもっと上の関係になりましょうよ!」


=======

3週間休んですみません。イルです。

こんなに休むとは自分でも思ってませんでした。今回キリのいいところがなかったので長くなってしまいました。


今回はアルト視点とミカヅキ視点がありましたね。これから騎士団陣営と騎士団殺人鬼陣営と魔王陣営について注目ですね。


ではまた来週~。

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