第百十三話 仲良く
バレンタインから二日後。今日はヒュドラー討伐に行く日だ。
「あ~、緊張するな~」
「今日はまだ近くの町に泊まるだけよ」
朝7時、俺達は役所に向かって飛んでいる。
「でもリーザさん以外は知らない人だし、リーザさんは危ない人だし」
「なら行かなければいいのに」
「行くよ。強くなるためにも」
「相変わらずカッコいいわね。でもあの人には気を付けてよね」
「リーザさんは一応大丈夫だよ。ミカヅキもな」
「なんでアルトは怪我させてきた人を信じられるのよ」
「きっと俺はドSでもありドMでもあるんじゃない?」
「ならアルトお兄ちゃんはどっちのプレイも可能だね。良かったねルイナお姉ちゃん」
「わ、私はどっちでもいいというか、アルトがしたいようにしてくれればいいというか……」
「お前はヨミの話に答えるんじゃねーよ」
俺達は役所からテレポートで第十騎士団の騎士団訓練場に行った。
「やぁ、来たね、みんな」
「団長。どうしてここに?」
そこにはミラス団長が待っていた。
「みんなを見送りに来たんだ。ここにいる人はリーザさん以外面識がないだろうから僕も不安でね。あと、君達以外にヒュドラー討伐に行きたいって言う人がいてね」
「俺だ。俺も行く」
「ガルア。お前も行くのか」
ガルアはミラス団長の隣に来た。
「文句あるのか?」
「いや、ないけど。なんで行くんだ?」
「お前と同じだ」
「あっそ」
「さぁ、みんなこっちに」
俺達はミラス団長に連れられ、ケルベロス討伐の時と同じように国王様の演説を聞いて見送られた。そして俺達は竜車に乗った。今回はガルアも同じ竜車に乗っている。
「全員来ているのか?」
リーザさんが歩いて竜車の後ろにいたミラス団長の隣に来た。
「はい、これで全員です。よろしくお願いします、リーザ団長」
「ああ。私が責任を持って生きて帰らせてみせる」
リーザさんって団長としてはしっかりしてるよな~。
「お前達、今は私の第八騎士団の団員だ。勝手な行動は許さんぞ」
「わかってますよ」
リーザさんは自分の竜車に乗っていき、先導して走っていった。それに続いて他の竜車も走り出し俺達の竜車も走りだした。
「みんな、気を付けてね」
「はい!必ず生きて帰ってきます!」
ミラス団長に手を振り、俺達は訓練場を出ていった。ガルアはすぐに目を瞑って寝始めた。
「さてと、今回は町に着くまで5時間だったよな」
「えぇ。ケルベロスの時より短いから肩が凝らなくて済むわね。まぁ私は常日頃から肩が凝ってるけど」
「な、なんで?」
「このいらない胸のせいよ」
ルイナは胸を張り、強調して胸を見せてきた。そういえば胸が大きい人って肩が凝りやすいんだっけか。
「でも色仕掛けに使えるだろ」
「アルトに効かないなら意味ないわよ!」
「う~、私にもあんな胸があればもっとモテたかもしれないのに~」
えりは相変わらずルイナの胸を睨んでいる。
「別にあっても良い目では見られないわよ」
「それに、えりの胸が大きくなったらそれはもうえりじゃねーよ」
「は?どういうこと?殺すよ?」
えりはルイナが怒った時と同じくらい怖い目で睨んできた。えりの体から静電気のようなものがビリビリと出ている。怖い。
「じょ、冗談だって」
「ったくもう。ほんっとゆう君って煽るの好きだよね」
「それが俺の性だからな。考えなくても咄嗟に脳裏に浮かぶんだよ。だから許してくれ」
「どういう言い訳の仕方?」
「でもお前もルイナも俺を煽るの好きだろ?」
『もちろん』
「ハモって言わなくていい!」
「三人とも仲が良いね」
俺の太ももに乗っていたヨミが羨ましそうに俺とルイナとえりを見た。
「お前はこういう女になるんじゃないぞ」
ルイナとえりに睨まれた。怖いの二乗。
ミカヅキは煽っても怒らず呆れるからそこだけ見ればミカヅキの方がマシだな。
「私はルイナお姉ちゃんみたいになりたいから」
「前もそんなこと言ってたな」
「わ、私みたいに?」
「うん。私がルイナお姉ちゃんみたいになればアルトお兄ちゃんが私のこと好きになってくれるかもしれないから」
「別にそうはならないって言ってるんだけどな」
「好きにならなくても私はルイナお姉ちゃんみたいになりたい」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいわ」
「私みたいにもならない?ヨミちゃん」
「えりかお姉ちゃんは、胸が……」
「ぐはっ!」
えりに会心の一撃!
「あ、でもえりかお姉ちゃんの元気でテンションの高いところは見習いたいな。私にはないから」
「そ、そう?いや~それほどでも~」
ちょっろ。
「話戻すけどルイナ肩凝ってるんだろ。揉んでやるよ」
「本当⁉やった~」
俺は喜んで背中を向けるルイナの肩を揉んであげた。それからいつも通り話しながら移動時間を過ごした。
5時間が経ち、目的地の町についた。
「う~、っはぁ~。アルトのおかげで少し楽になったわ。ありがとね」
ルイナは竜車から降りると背伸びをして俺に礼を言った。
「これくらい全然いいよ。よいっしょっと」
俺も竜車を降りた。町の時計塔を見ると時間は12時半だった。今回はまだまだゆっくり出来るな。
竜車から降りた人はホテルに向かって歩いている。
「チッ」
ガルアは竜車から降りると何故か舌打ちをして早歩きで先にホテルへ向かっていった。あいつ機嫌が悪いのか?
「さぁ、アルト。さっさとホテルに行ってお昼ご飯食べて自由時間にデートしましょう!」
ガルアとは対照的に機嫌の良いルイナは俺の左腕に抱き着いてきて歩いた。すぐにヨミは俺の右手と手を繋いできた。
「あんまりはしゃぐなよ」
ゆう君とルイナちゃんとヨミちゃんは三人仲良く歩いている。本当に家族みたい。ちょっと羨ましいな。
もし、私があの時、ゆう君と別れなければ、今ルイナちゃんと私の位置は逆だったのかな。
――ルイナを殺せばゆう君は私のモノ。
私の脳内に言葉が浮かんだ。
まただ。ルイナちゃんを殺す?そんなことしたいわけがない。そもそも私じゃルイナちゃんを殺す力もない。
この言葉はなんなの?私の言葉じゃない。私はただみんなでこの世界で仲良くしてたいだけ。
ゆう君……。
「えりかお姉ちゃん」
ヨミちゃんが右手を出して私を呼んだ。
「早くこないと置いてくぞ~」
「そうそう。時は金なりよ」
「お前金はたくさんあるだろ」
「うるさいわよ。ほら、えりかちゃん早く~」
そうだ。私達は仲良しだ。みんな優しいから何の不満もない。
「うん、ごめんね。早くホテル行ってご飯食べたいな~。どんなのが出るんだろうね」
私はヨミちゃんの右手を握ってみんなでホテルに向かった。
俺達はホテルに着くと食堂で昼食を食べた。
「あ~、美味しかった」
「そうね。まぁ私の料理には負けるけど」
「はいはいそうだな」
俺達がまだ食器を残して座って話しているとリーザさんが来た。
「ちゃんと全員いるな」
「はい。途中魔物に襲われたらしいですけど大丈夫でしたか?」
「あぁ、私が一掃した。それより、これから自由時間だが問題は起こすなよ」
「わかってますよ。リーザさんはこれからどうするんですか?」
「私はこれから他の騎士団が来るまで体を鍛えておく」
「そうですか。俺達は町を回ってきますので」
リーザさん以外の団長だったら一緒に鍛えたかったが今回は遠慮しよう。
「そうか……相手になって欲しかったのに」
「何か言いました?」
「何でもない!早く行け」
「は、はい」
俺達はトレイを持ち、食器を返してホテルを出た。
「急に怒ってどうしたんだろ」
「やっぱりあの人好きになれないわね。もしかしたら敵だったりするんじゃないの?」
「難癖つけるな。確かにありそうな展開だけどあの人は敵ではないだろ」
「わかってるわよ。でもアルトは訓練した方が良かったんじゃないの?」
「あれのことか?大丈夫だよ。フィアーナ先生との訓練でバッチリ使えるようになったから」
「そう。なら町を堪能するわよ!」
俺達は町を歩き始めた。
少し食べ歩きをした後、店でエレイヤのお土産を買おうとしていると頬から汗が流れた。
この町温度が高いな。これはヒュドラーと戦うときに体力を奪われそうだな。
「暑いな。ルイナは大丈夫か?」
「これくらい大丈夫よ。それより、この入浴剤とか良くない?」
「ん~?まぁ良いんじゃねーの」
「適当ね。アルトってショッピングあんまり乗り気がないわよね」
「女子は好きだよなー。俺も好きな物を見る時は楽しいけど、この世界で好きな物は武器くらいだからな。だからすれ違う人の武器見たりするのは楽しいよ」
「じゃあ私が武器持てば私だけ見てくれる?」
「メンヘラかお前。確かにルイナを見てなかったのは悪かったけど見てるは人じゃなく武器だから許してくれ。それに人がいない時はルイナを見てるから」
「わ、わかってるわよ。ほ、ほらこっちも良くない?これとかも」
よし、ルイナの照れ顔ゲット。これが一番楽しいな。
「ねぇ、ゆう君。これどっちが良いと思う?」
えりはシュマグを二つ持ってきた。片方は黄色と黒色のチェック柄でもう片方は深緑色と黒色のチェック柄だ。
「お前はもう自分の物買おうとしてんのかよ」
「だって私はエレイヤちゃんのお土産決まったもん。で、どっちが良いと思う?」
「う~ん。まぁ深緑の方は迷彩服感あっていいけど、やっぱり黄色の方がえりに合うだろ」
「そうだよね。ありがとゆう君」
「どういたしまして。ヨミはもう決まったか?」
「これどっちも欲しい」
「いやお前のじゃないし。どっちかをエレイヤにあげてどっちかを自分用にしろよ」
「ならこっちをエレイヤお姉ちゃんにあげる」
「よし、これでみんな決まったな」
俺達はエレイヤのお土産を買って店を出た。
「早速巻いてみようっと」
えりは買ったばかりのシュマグを首の周りに巻いた。
「どう⁉カッコいい⁉可愛い⁉似合ってる⁉」
「カッコいいよ」
「可愛いわよ」
「よく似合ってるよ」
「やった~!」
俺とルイナとヨミに褒められてえりは喜んだ。
えりは時々元の世界を思ってか悲しそうな顔をするがみんな優しくしてるし問題なさそうだな。えりがこの世界に来た時はどうなるかと思ったけど。
でも未だに俺達がこの世界に呼ばれた理由がわからない。本当にただ俺が異世界に行きたいと思ったからなのか?あの時俺がマウスを押さなければこの世界に来ることもなかったのだろうか。
「ゆう君、起きてる~」
気づくとえりが顔を覗き込んでいた。
「お、起きてるよ」
俺はえりの額にデコピンをした。
「痛っ!も~、ゆう君力強いんだから」
「ごめんごめん」
俺はえりの額を擦ってあげた。
「っ……」
「そういえばお前肌綺麗になったな。昔はニキビができて最悪とか言ったのに」
「そりゃ私も女子力上がってますから」
「へぇ~」
俺は思わずえりの頬を軽く撫でてしまった。
「ちょ、ちょっとゆう君?」
「あっ、ご、ごめん!」
俺はすぐに手を引いた。ルイナから殺意を感じる。
「ううん、大丈夫。ビックリしただけだから」
「すべすべの頬を触りたいなら私のを触っていいのよ?アルト」
「はいはい。ルイナもごめんな」
俺はルイナの左頬を軽くつねった。するとすぐにルイナは耳を引っ張ってきた。
「痛って!ごめんって!」
「耳を凍らすわよ?」
「悪かったよ。家に帰ったら何でもするから許して」
「ふんっ、それならいいけど」
「ったく、もはやDVだろ」
「それはつまり結婚するってこと⁉」
「それはいつかするよ。とりあえず歩くぞ」
「アルトの何でもする券を手に入れたの嬉しいわね~。アルトの何でもするは本当に無理なこと以外ちゃんとやってくれるから」
「次から訓練以外で暴力振ったら別れるぞ」
「え⁉もう絶対しないわ!ごめんなさい、お耳ちゃん」
ルイナは俺の耳を撫でた。
「ウザいからやめろ」
「うぅ~、もうしないから~。でも私が一番悪いみたいになってるけどアルトも悪いわよ」
「だからちゃんと謝っただろ」
「た、確かに。もう何も言えないわ」
「じゃあ」
俺はルイナと恋人繋ぎをした。
「これで仲直りでこの話は終わり。で良いな?」
ルイナは少し照れたがすぐ笑顔になった。
「えぇ、もちろん」
こうして俺達は再び町を歩き始めた。
アルト「これでルイナの凶暴さは落ち着くはず」
ルイナ「私はか弱い女の子よ。凶暴なわけないじゃない」
アルト「ホントに?ルイナのバーカ」
ルイナ「それくらいじゃ動じないわよ」
アルト「今日すれ違った女の人の顔可愛かったなぐはっ!」
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一ヵ月くらい投稿出来ずにすみません。イルです。
忙しいのとストーリーが思いつかなかったので書けてませんでした。最近後書きで忙しいしか書いてない気がする。これからも書いてそう。
この一ヵ月で大きく生活が変わりましたよね~。コロナ怖い。マスク嫌いだから早く消えてほしいですね~。皆さんもお気をつけて。
今回はヒュドラー討伐をしに近くの町に行きました。次回はホテルで騎士団達との話になります。新キャラを考えるのに、だんだんキャラ性格が少なくなってきて今出ているキャラと被らないようにするのが難しいです。
でも次に新キャラが何人か出たあとは当分新キャラは出なそうです。
ではまた来週~。