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第百十二話 ほろ苦い

 俺はミカヅキにコロ揚げを買ってあげた。


「う~ん、肉がジューシーで美味しいね。君も一口いるか?」


「だからいらないって」


「そうか」


「てかお前結構ファッションセンスあるんだな」


「落ちてたファッション雑誌を真似ただけさ」


「へ~、そういうのが好みなのか」


「別に服に好みなんかない。戦えるか、一般人として見えるかの服さえあればいい」


「じゃあ水着でもいいの?」


「海で戦うのなら水着でも構わないさ」


「なら次戦う時は海にしようぜ」


「なぜわざわざ海にするんだ」


「だってミカヅキの水着が見れるし、それで死んだ時は可愛い子の水着見ながら死ねるからな」


「その可愛い子ってのは僕か?」


「お前しかいねーだろ」


「よく恥ずかしげもなく言えるね」


「相手が恥ずかしがる可能性があるなら俺はなんだって言うよ」


「君はまた別の変態だな」


「そりゃ俺だって男ですから。可愛い子の照れ顔は俺にとって至高のものだからな」


「なんでこんな奴がモテるのか意味がわからないな」


「学校の女子には魔法を教えたり、的になってあげたりしてるからな。俺自身謎だけど俺人気あるんだぞ」


「君は毎日が楽しそうでいいね」


「お前も騎士団に入れば毎日楽しくなるぞ」


「僕は騎士団には入らない。そもそも騎士団の団長を襲った僕を騎士団が入れてくれるはずがないだろう」


「俺が何とか説得して入れさせてみるよ。俺は学校だけでなく騎士団でも人気だからな」


「人気だからと言って君の言葉で全てが思い通りにいくわけじゃない」


「まぁ、お前はいつでも味方にしてやるからな」


「味方には絶対ならないし、なんで上から目線なんだ」


「年下にコロ揚げ奢ってあげて、さらに前は回復させたのになんで上から目線じゃダメなんだ」


「君は僕より弱い。だから上から目線はダメだ」


「でも前は俺が勝ったぞ」


「あれは事情があって負けただけだ。今戦えば君くらい捻り潰せるよ」


「あれって誰かが体を乗っ取ってたんだろ。誰なんだ?」


「秘密だ」


「あっそ。そういえばお前なんでフード被ってるの?顔は可愛いんだし見せればいいのに」


「僕は知らない奴に顔を見られるのは嫌いなんだ」


 それを聞いた瞬間俺はミカヅキのフードを右手で脱がそうとしたが、ミカヅキは瞬時に俺の右腕を握り掴み、睨まれた。


 俺より手は小さいのに凄い握力だな。そして心の冷たいミカヅキだが手は温かい。


「右腕を破壊されたいのか?」


「ごめんなさい。もうしません」


 ミカヅキは振り払うように手を離して、コロ揚げを食べ終わった。そのコロ揚げの包み紙を俺に渡してきた。


「俺はゴミ箱じゃないぞー」


「ゴミ箱と同じようなものさ」


「ということはゴミであるお前は、ゴミ箱である俺の中に入る、つまり俺の仲間になるってことか」


「君は世界一屁理屈が上手いね。君が僕に勝てる唯一の才能だ」


「まさかお前に褒められるとは」


「褒めていない」


「俺にとっては褒め言葉だ。つまりお前は俺を褒めた。だからお前の負けだ!」


「……」


 ミカヅキは静かに路地裏に入っていき、俺は後ろをついて行った。そしてミカヅキはフードを脱いで俺の目の前に来て胸ぐらを掴んできた。


「戦う気はなかったけど今ここで君を殺そうか」


 ミカヅキの目から殺意を感じる。今のが一番イライラしたんだろうな。


「悪いけどチョコのお返しをするまで死ねないからやめてくれない?」


「君がその気にさせたんじゃないか。はぁ~」


 ミカヅキはため息をついて手を離すと俺から離れた。


「ゆっくり話してみたけどやっぱり君とはソリが合わないね」


「そうか?俺は面白いけど」


「僕は疲れただけだ」


 これくらいで疲れたのか、と煽りそうになったが飲み込んだ。


「今日はもう帰るよ。ご馳走様」


「次会う時は金返せよ」


「あの金は君の奢りであって貸したわけじゃない。それに次会う時は戦う時だ」


「えぇ~、何でも奢るから次も今日みたいに食べ歩きしない?」


「僕の気分によればまた食べにくるよ。でも僕の予想だとそんな暇もないくらい戦ってると思うけどね」


「どうかミカヅキの予想が外れますように」


「あぁそういえば、今日はバレンタインだから僕も君のためにチョコを作ってきたんだ」


「えぇ⁉お前が⁉俺に⁉バレンタインだから⁉チョコを⁉」


「鬱陶しい喋り方をするな。ほらっ」


 ミカヅキはポケットから透明な袋に入っている包み紙で包まれたチョコを投げて俺は受け取った。


「毒入ってるんじゃねーだろうな。それか少し経つとこれが爆発するとか」


「さて、どうだろうね。でも僕が君のことを想って一から作ったんだ。有難く思いながら食べなよ」


「ま、まぁ、お前はこんな姑息な手で殺しにこないだろうしちゃんと食べるよ。作ってくれてありがとな」


「……じゃあ次に会う時は本気で殺すから覚悟しときなよ」


「気が変わったらいつでも話しにこいよ」


「ふっ」


 ミカヅキは鼻で笑うと詠唱魔法で浮かび、猛スピードでどこかへ行った。


「あーあ、正直俺も疲れたっと」


 三回もボコされた相手に気を許すのは意識しても体の緊張が解けない。でもやっぱりミカヅキは悪いやつには見えないんだよな。


 16歳とは思えぬ力。しかも結構大人びている。はたして次に会う時は俺は生きて帰れるのか。でも流石にヒュドラー討伐よりは後だよな。


 ヒュドラーを倒して、残りの魔王の幹部も倒して、ミカヅキも倒して仲間にして、魔王を倒す。全員生き残ってハッピーエンドを目指す。それが目標だ。


「よし。まずはこのチョコを食べきることからだ!」


 俺は全力で家に帰り、ルイナに遅くなったことを適当に言い訳して、ルイナとヨミとエレイヤとえりからチョコを貰って一人でチョコを食べた。


 そして恐る恐る食べたミカヅキのチョコはほろ苦い味がしたのだった。





 どうしてだろう。頭の中がアルトのことでいっぱいだ。自然と笑みがこぼれる。


『作ってくれてありがとな』


「チィッ!」


 僕は舌を噛んで無理やり顔を戻した。


 なぜだ。話している時はイライラしているのに。僕は今どういう感情をしているんだ。



 僕は拠点に帰ってきた。廃墟と言ってもいいほどの家に入り、母親の前に跪く。


「お母様、只今帰りました」


「……ミカヅキ、あなた何処に行っていたの?」


「色々な町を歩いていました」


 僕がそう言うと母親は膝を突き、僕に平手打ちをしてきた。


「嘘おっしゃい!私が気づかないと思ったの⁉あなたが甘い匂いをさせて外に出たのを知っているのよ?」


「も、申し訳ありません」


「あなたが誰と会っているかはどうでもいいですが、使命に反することはしていないでしょうね⁉」


「はい、それは問題なく」


「あなたは使命に関すること以外はしてはいけないの。あなたは使命を果たすために生まれてきたの。あなたは我々の希望なのよ」


「はい、よく理解しております」


「……立ちなさい。鍛え直しをするわよ」


「鍛え直し、ですか」


「えぇ、そうよ。Dr.ロスト?」


「ここにおる」


 Dr.ロストは隣の部屋から歩いてきた。


「話しは聞いていた。魔石強化をした魔物を5600体作っておる。不良品じゃが、鍛え直しには十分じゃろう。さぁこちらへ」


「……はい」


 僕は服を着替え、三日月宗近を持って鍛え直し部屋に入っていった。



 それから何時間、何日経っただろうか。僕の血が付いた服はボロボロで、切れ味が悪くなり魔物の血が付いた三日月宗近を持った僕は部屋から出ると膝を突いて息を整えた。すると硬そうなパンが目の前に投げつけられた。


「お疲れ様。お腹が減ったでしょう?お食べなさい」


「ありがとう、ございます」


 僕はパンを手で取り、食べた。


 マズい。あぁ、アルトに奢って貰ったパンは美味しかったな。


「明日、騎士団がヒュドラー様を殺しにくるはずよ。あなたは見ているだけにしなさい。誰とも関わらないように」


「了解しました……」


 僕はその後少しして眠りについた。


 アルトがこっち側だったらどんなに気が楽だっただろうか。

 そんなの絶対に叶わない夢だ。僕は使命のために生まれた運命なのだ。本当の親は知らないし、友情も愛情も知らない。自由も権限も何もない。

 僕にあるのは力と、忠誠心と言う名の恐怖と、本当の親から貰ったミカヅキと言う名前だけだ。


ルイナ「やっぱり私出なかったぁ~」

アルト「でもチョコはルイナのが一番美味しかったぞ」

ルイナ「その感想すらも省かれてるんですけど~!」

えり「そうだよ。私なんて3億個チョコ作ったのに」

アルト「省かれてわかんないからって嘘つくな」


=======

甘すぎるチョコは苦手です。イルです。

甘すぎない程度のチョコが好きですけどあんまりないですね。ですがバレンタインで貰ったチョコは一日で食べました。あんまり体に影響出ないことを祈ります。


今回もアルトとミカヅキが食べ歩きしました。二人はまだ5回しか会ってないのに仲が良いですね~。ミカヅキがアルトに何かを渡すというのは前から書きたかったので良かったです

次回からはヒュドラー討伐編って感じになると思います


ではまた来週~。

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