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第百四話 帰還

 翌日。


 俺達は白闇の森に研究班が来るので森の前に待っていた。研究班の護衛に何人か来ることになり暇だったので自分で候補した。


「ふぁ~あ、ちょっと眠いな~。戦うんなら早く戦いたい」


「気を抜いて僕の手を煩わせないでね」


「ティナ。そういえばティナとノエル団長がいるんだっけ」


「うん。ノエルと僕がいるから安心してね!」


 ティナは俺の首に手を回して密着してきた。男に密着されて嬉しいのは始めてだな。ルイナは俺を睨んでいる。


「どしたのルイナ。言っておくけどティナは男だからね」


「わかってるわよ~。えぇわかってるわ~。もっちろんわかってるわよ~」


 ルイナの眉間がぴくぴくしている。イライラしてるな。


「ティナ、騎士団の仕事中はノエル団長と言いなさいって言ったでしょ」


「あはは、ごめんごめん」


 ティナは本当に兄なのだろうか。そして本当に男なのだろうか。


 みんなと話していると研究班の人がやってきた。


「アルト先輩!」


「あれ?ミスリア?」


 ミスリアが俺に向かって走ってきていた。そういえばミスリアは研究員だったな。俺の元に来るなりタックル並みに力強く抱き着いてきた。突然過ぎたのかルイナが絶句している。


「生きていて良かったです!」


「バッチリ生きてるよ。あといきなり抱き着いてくるのは恥ずかしいしちょっと痛いからやめてほしいな」


 『あとルイナもいるし』と小声で言うとミスリアはハッとして俺から離れてルイナに謝った。


「ルイナ先輩もえりか先輩もヨミちゃんもエレイヤちゃんも生きていて安心しました」


「ミスリアちゃんも元気そうでなりよりね」


「やっほー、ミスリアちゃん。ミスリアちゃんが言った通りアルト君はティナって呼んでくれたよー」


「やっぱりですか!良かったですねティナさん!」


 ミスリアとティナは両手を繋いて喜びを共有している。そんなに呼び捨てにしてほしかったのかよ。


「ほらケルベロスの死体回収しに行きますよ」


 俺達は研究班を囲んで白闇の森を進んだ。霧があるが昨日と違って色は白いしそこまで濃くない。

 森の主がいなくなったから魔物の気配がない。しばらくすると他の魔物の住処になるだろうが。


「着きました。護衛は辺りを囲って細心の注意を払ってください!」


 俺達、護衛の騎士はノエル団長の命令通りにケルベロスの周りを囲んだ。


 俺は命令を言われてすぐに何も考えずに位置に着いてしまったためルイナと少し離れたところになってしまった。


 細心の注意を払えとは言われたがここ辺り一帯は何の気配もない。暇だな。


 ヨミとエレイヤはティナと話している。ミスリアを見てみると一生懸命自分のすることをやり、自分の出来ることを探している。俺には何をやってるのかわからないけど。


「健気だなぁ」


「好きな人の前では頑張ってるとこ見てほしいものだよ、ゆ~う君」


 ボソッと呟くとえりが俺の隣にやってきた。


「お前ちゃんと位置に着いてろよ」


「周りに魔物の気配ないでしょ?」


「えりもそれくらいはわかるようになったんだな」


「遠くまでは感じ取れないけどねー」


「それは俺もだよ。遠くまで感じとれる人はどんな神経してんだろーな」


「それ悪口?」


「褒め言葉に決まってんだろ。俺もこの森全体の範囲くらいの魔物は感じ取れるようになりたいな」


「ゆう君は強くなってどうするの?男の夢ってやつ?」


「男として強くなるってのは夢だけど今はお前とかルイナを守るためでもあるよ」


「カッコいいね……」


「そりゃどうも」


「あっ!いや今のは!」


「冗談?」


「あぁ、うん、でも半分は本当というかー半分は冗談というかーそのーですね」


「何焦ってんだよっ」


 俺はえりにデコピンした。


「痛っ!もうなに⁉」


「あっはっは。お前は昔から変わってないな」


「ゆう君もね。お返し!」


 俺はえりにデコピンされた。ルイナより力は弱いからあんまり痛くない。逆に魔導士のルイナが力強い意味がわからないが。


「効かないよー」


「じゃあこれはどう?」


 えりは俺の腕を掴むと少しだけ雷魔法の電気が流れてきた。


「痛っ」


「はっはっは。どうだ!私の力を思い知ったか~!」


「こんな微量な電気で思い知らねーよ。貴様の力は帰って見させてもらう。だから元に位置に戻ってろ」


「ラジャー!」


 えりは俺に敬礼すると元の位置に戻っていった。そういえば中学生の頃もこんな感じで話しかけてくれたな。先生に怒られた時は全部俺が庇ってた。傍迷惑だけど嬉しかったし楽しかったな。


 暫くしてケルベロスの軽い調査が終わり風魔法と浮遊道具を使って死体を浮かしながら森を出た。そして死体を大きな荷車に乗せて縛り付け巨大な地竜と繋げた。


「結局何も出なかったわね」


「平和でいいじゃねーか。ミスリアの頑張ってるところも見れたし」


「いえいえ!私なんて何にもしてませんから」


「ならなんでそんなに汗かいてるんだよ」


 俺は腕でミスリアの汗を拭ってあげた。


「あわわ!すみません!私の汗なんかで服を汚してしまい。帰ったら汚れを全部落として洗濯します!さらに新しい服をオーダーメイドでプレゼントします!本当にすみません!」


 ミスリアは何度も頭を下げた。俺そんなに偉くもないし尊敬されるほどの人でもないはずなんだけど。


「しなくていいって。ミスリアは自分を謙遜し過ぎ。ちょっと口付けちゃったけどスポーツドリンク飲むか?」


「ぜ、是非飲ませていただきます!」


 俺はスポーツドリンクのペットボトルをミスリアに渡すと一礼してごくごくと飲んだ。ルイナの目が痛いな。


「っぷは。ありがとうございました」


「もういいのか?」


「はい。とても美味しかったです」


 俺はまだ半分残っているペットボトルを受け取ると俺もわざと少しだけ飲んだ。するとミスリアは顔を赤くしてルイナは魔眼のような目で見てきた。


「ほらルイナもいるか?」


「もちろん!」


 ルイナは一気に笑顔になると奪い取るようにペットボトルを取って飲み始めた。俺が一度口を付けずにルイナに渡しても良かったがそっちの方が喜ぶと思ってわざと口を付けた。ルイナの機嫌も直るしミスリアの恥ずかしがってる顔も見れたし良かった。


「皆さん、お疲れ様でした。そして無事で何よりです。では帰りましょう」


 副団長が来て他の騎士達も来た。俺達は竜車に乗った。ミラス団長がいつも通り手綱を取って座ろうとすると一瞬俺を真面目な顔で見て座った。


 何か嫌われることでもしたっけな。一昨日副団長の隠し事について質問したからか?気にし過ぎか。


「で、なんでミスリアも乗ってるの?」


「えっと、この竜車に乗ってもいいと言われましたので。お邪魔でしたらすぐに降ります!」


「乗ってて大丈夫だよ。一緒に話しながら帰ろう」


「アルト~。家に帰るのが楽しみね~」


 ルイナは自分の物と主張するかのように俺の腕に抱き着いた。


「私も家で一緒にお風呂入るの楽しみ」


「あぁ~うん。まぁヨミは年の割には頑張ったから入ってやるよ」


「なっ⁉俺も頑張ったんだぞ!俺とも入ってくれよ!」


「う~ん。じゃあエレイヤもいいよ」


「ちょっと!私は彼女だし私も頑張ったんだから当たり前のようにいいわよね⁉」


「ダメ」


「なんでよ!なんでよ!」


「わかったわかったから暴れるな~!」


 こうしてケルベロス討伐は終わり、俺達は無事に町に帰ってきたのだった。この三日間で色々と知ったし、悩みも増えた。それは良いことなのか悪いことなのかわからないがいつか全てわかり全てが良くなることを願おう。





「……まさか元の世界の神話がここまで同じだったとは」


 薄っすらと声が聞こえる。この声は元旦の時も聞いた声。そうだルエニさんの声だ。今回は一人だけか?


「肉体、魔力回路共に良好、と」


 目が開けられない。体も動かない。くっそなんでだ!


「君の活躍には期待しているよ。それより、少しマズいことになったからあの子には気を付けてね。君がしっかり見ていれば問題ないはずですが。まぁ君には僕の声は届いてないし、届いていても忘れるから意味ないですけどね」


 マズいことって?あの子って誰だよ!誰を見てればいい⁉ルイナか?ヨミか?エレイヤか?えりか?それともミカヅキ?他には、ミスリアとかか⁉


「では、今はゆっくり体を休めて……」


 待て!待ちやがれ!



「待っ!……て」


 俺はベットの上で眠りから覚め、上半身を起き上がらせ右手を伸ばしながら叫んでいた。


「またか。くそ」


 そして聞こえた声、言った言葉を時間が経つにつれて忘れていく。最後に覚えているのは何かに待ってほしかったことだけ。


「ん~、アルトきゅん。うるさい」


「あ、あぁごめん」


 俺の隣にエレイヤが寝ていた。そういえばケルベロスを眠らせるのを頑張ったご褒美に一緒に寝たんだったな。時計を見ると6時半だった。今日は日曜日だから学校もないし騎士団訓練も今日はない。


「今6時半だけど起きるか?」


「もう少し眠る~。アルトきゅんも一緒に二度寝しようぜー」


「俺はハッキリ起きちまったから寝ないよ」


「つれないなー。じゃ、おやすみ」


「あ、ちょっと待って。さっき夢みたいな感じで誰かの声聞かなかったか?」


「ん~?アルトきゅんと一緒に寝た夢なら見た」


「それ夢じゃなくて現実。はぁ~、声は聞いてない、か」


 次にこういうのがあったなら誰かに待ってもらうことを意識するより声と言葉を覚えるのに集中することを努力しよう。


「30分後に起こすからそれまで昨日までの疲れを少しでも取れよ」


 俺はエレイヤの頭を軽く撫でて、服を着替えて部屋を出た。するとルイナも部屋から出てきて目が合った。


「おはよう。よく眠れたか?」


「えぇ。ヨミちゃんに抱きしめられてたからちょっと暑かったけど」


「自動でベットの中の温度を調節するやつ買えよ」


「そういうのがあるってよく知ってるわね」


「前にシアン先輩とミスリアから聞いた。めっちゃ快適らしいよ」


「そう。でも高いから無理よ」


「ったくケチなんだからなー」


「ケチでいいのよ。ほら朝ご飯作るの手伝って」


「ルイナ様の仰せのままにー」


「ふふっ、何よそれ」


 俺達のいつもの日常がこうしてまた始まった。


ルイナ「私のために口を一回付けるってところすごくウザいんだけど」

アルト「元はと言えばミスリア分のスポドリを近くに置いてないのが悪い」

ルイナ「騎士団のせいにするの⁉」

アルト「なら反応が面白いミスリアが悪い」

ルイナ「ミスリアちゃんのせいにするの⁉」

アルト「なら一人でイラついてるルイナせいぐはぁ!」


=======

11月もあと半分ですね。イルです。

先週風邪を引いてまだ咳が出ます。何か口に含んでる時に咳が出そうになるの辛いです。


今回はケルベロスの死体の回収と家に帰還した話ですね。次回からまた日常な感じの回が続くかなと思います。

実のところ日常的なストーリーを考えるのが一番考えます。区切り区切りのストーリーはずっと思いついているのですが区切りと区切りの間の日常出来事が浮かびません。何もない日はつまらないと思うし何かあり過ぎると急展開になっちゃうし、となって今回のように少しだけストーリーに関する発言や出来事などを書いてます。早く大きな区切りまで書きたいです。


ではまた来週~。

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