第百三話 三日月宗近
「あ~、疲れた」
「アルト本気でやりすぎよ」
俺達は体を乾かして町に帰るために歩いて向かっていた。
「あれで本気なわけねーだろ。俺が本気でやったら川吹き飛んでお前らも死んでたぞ」
「あら、アルトの水魔法くらい私なら耐えれますけどねぇ~」
「はいはい、強いでちゅねールイナちゃんはー」
「水魔法じゃなくて氷魔法を使えば良かったかしら」
「水遊びで氷魔法使うとか何言ってんの?」
「あーもううるさいわね!」
ルイナは俺の耳を引っ張ってきた。
「痛いって!ごめんごめん。てか先に煽ってきたのルイナの方だろ?」
「アルトが急に冷めたことを言ったのが悪いのよ」
「悪かったよー」
俺達は町の門から中に入ろうとした。その時、俺はミカヅキらしき気配を感じた。
「これって」
「どうしたの?」
南の方からミカヅキらしき気配を感じる。ミカヅキの気配と共に何か違う気配が混ざってる。二人いるわけでもなさそうだが。
俺に向けてわざと気配を出している。俺を誘っているな。
「ちょっとごめん。先に戻ってて」
「え?ちょ、アルト!どうしたの?」
俺は全力で気配のする方へ飛んで向かった。危険もあるがケルベロスと関係あるかもしれない。
気配がするところに行くと洞窟があった。
「ここは確か、祠があったところか?」
俺は下に降りて洞窟に入った。少し進むと明かりが見えた。走って明かりに向かうと広い場所に出た。そこにはフードを被ったミカヅキの姿もある。
「なんの用?」
俺は質問するがミカヅキは反応しない。
「また最初の悔しさを晴らすために俺を殺す気か?」
そう言ってもミカヅキは変わらず俯いている。
「呼び出したくせに何も言わないのか?帰るぞおい」
俺はミカヅキを熊から逃げるように顔を見ながら後ろに下がった。
「ふふっ、ふははっ、ふっはははははは」
ミカヅキは笑い始めた。いつもと声質が違うな。
「面白いやつだな。ミカヅキが気に掛ける理由も分かる」
「お前は誰だ?」
今の発言と雰囲気と声質でいつものミカヅキじゃないことが分かった。
「はははっ。久しぶりの戦い、楽しませてもらうぞ」
そういうとミカヅキ?は腰に下げていたバリス刀を鞘から抜いた。前のとは違う刀で三日月宗近のような長く細く美しい刀だ。
俺も一心斬絶を抜いて闇と炎の合体魔法を逆流させて飲み込んで合体魔法の魔力を一心斬絶に付与した。するとミカヅキ?は俺の背後に回って刀を振ったが俺はガードした。
「ふむ。まだこの体には馴染まないな」
「あぁそう。じゃあ馴染む前に倒さないとなぁ!」
俺は刀を弾いて腹を蹴った。ミカヅキ?は吹っ飛びそこに合体魔法を撃った。ミカヅキ?はそれを刀で切り裂いて態勢を直すと俺に向かってきた。
それから何度か刀を打ち合ったがレベルは互角、いや俺の方が上だった。いつものミカヅキより弱くなっているな。
「オラァ!」
「ぐっ!」
俺はミカヅキ?の頬を刀の柄で殴った。
「くそっ!なんでだ!」
「早くミカヅキの中から出ていけ」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
ミカヅキ?は怒って俺に向かおうとしたが俺の後ろから氷魔法が飛んできてミカヅキ?に当たり体が氷に包まれた。
「ルイナ!」
「大丈夫アルト⁉」
ルイナとヨミとエレイヤとえりが来た。
「この前のお返し!」
えりは手を銃の形にして雷魔法を撃った。ミカヅキ?に当たると全身に電流が走り氷は砕けてミカヅキ?は前に倒れた。するとミカヅキの体から黒い煙のようなものが出ていった。
「ミカヅキ!」
「アルト⁉危ないわよ!」
俺はミカヅキに近寄って体を仰向けにするとフードが脱げた。俺はミカヅキの頬の傷から垂れていく血を拭った。
「ミカヅキ、大丈夫か?」
「アル、ト……」
ミカヅキは一瞬目を開けたが閉じて力が抜けていった。気絶したか。
「とりあえずここを離れよう」
「その子連れていくの⁉」
「あぁ。ミカヅキは誰かに乗り移られてたみたいだったからな」
俺はミカヅキをお姫様抱っこして洞窟を出た。
ゆう君は優しいな。自分を襲った敵を心配するなんて。
私もゆう君の後をついて行くように洞窟を出ようとすると後ろから何か私の中に入ってきた気がした。
な、何今の。
「おーい。えりっち!置いて行かれるぞ~!」
「あ、うん!」
私達は洞窟を出て少し離れた場所に行った。
俺は近くに魔物がいないことを確認して野原の上にミカヅキを寝かした。
「ルイナ、ミカヅキに回復魔法掛けてあげてくれないか?」
「本当にいいの?この子を回復させて、アルトを信用して」
「あぁ」
「……わかったわ」
ルイナは俺の目を見てミカヅキに回復魔法を掛け始めた。
「回復させちゃうのか⁉今こいつを捕まえれば騎士団殺人鬼について何かわかるかもしれないのに」
「うん。けどミカヅキは誰かに操られてこうなったんだ。捕まえる時はちゃんと戦って捕まえたいんだよ」
少ししてミカヅキの傷の治った。日が沈み始めて周りが暗くなる。
「ありがとうルイナ。それで、自分勝手で悪いんだけどみんな先帰ってもらっててもいい?」
「アルトが言うならそうするわ。みんな行きましょう」
「私はここに残りたい」
「ヨミ。俺が心配なのはわかったけどミカヅキと二人きりにしてほしいんだ」
「わかった。攻撃されたらすぐに逃げてね」
「あぁ。無事に帰ってくるよ」
俺はみんなを説得して町に帰ってもらった。
「いつまで眠ったふりしてんだよ」
「……ふりじゃないさ。半分寝てたからね」
ミカヅキは目を開けた。いつものミカヅキだな。俺は胡坐を掻いた。
「ここに運んで来るまでに半分起きてただろ。会話も聞こえたのか?」
「それより、なんで僕を回復させたんだ。捕まえない理由はわかったけど回復させる理由はないはずだ」
「さっきも言ったけどお前は誰かに操られてそんな怪我したんだから回復させないと可哀そうだろ」
「君は悉くバカだな。敵の僕を心配するなんて」
「けどこれでゆっくり話せるだろ」
「君と何を話すって言うんだ。僕達の目的は話す気はないよ」
「どうせそうだろうと思ったからそういうのを質問する気はない。この刀、特注で作ったのか?綺麗だな」
俺はミカヅキの三日月宗近のような刀を取った。
「まぁね。君用に作ったんだよ」
「それはありがたいね。三日月宗近みたいだなー」
「なんだいそれは」
「俺の故郷にあるこのバリス刀に似た刀の名前だよ」
「じゃあその刀は『三日月宗近』と名付けるよ。僕の名前も入ってるし」
「良い名前だよ。あと前にエスタル城で戦った時もバリス刀だったけど気に入ったの?」
「別に。僕は色んな武器を使えるからね。素材が良ければ武器なんて何でもいいんだよ」
「へ~、じゃあこれくれよ」
「君が盗賊だとは思わなかった」
「お前が冗談がわからないやつだとは思わなかった」
「君は呼吸するように煽ってくるね」
ミカヅキは失笑している。
「いつもルイナと煽り合ってるから癖になってるんだよ」
「彼女のせいにするなんて最低だね」
「ルイナのせいにしてるわけじゃねーよ。ルイナと俺のせい」
「結局彼女のせいにはなるんだね。ルイナ、か」
「ルイナを殺そうとしたらお前を殺すからな。気を付けろよ」
「いつかは騎士団全員殺すから意味ないよ」
「あっそ。でもルイナとえりだけは殺させねーよ。出来れば全員守りたいけどな」
リーザさん以外は。
「そういえばケルベロスを倒したんだね」
「よくご存じで。魔石強化されてたってことはDr.ロストがやったのか?」
「さぁ?どうだろうね。それより随分と早く、犠牲も少なく倒せたんだね。君が何かしたのか?」
「俺の質問には答えずに自分の質問には答えてもらうつもりなのかー?」
「答えるつもりがないなら答えなくていい」
「なんだ。つまんないな」
周りがどんどん暗くなっていく。
「そろそろ、帰らせてもらうよ」
ミカヅキは立ち上がった。俺も立ち上がって三日月宗近をミカヅキに渡した。
「ほらよ」
「どうも。そういえば君の刀も新しくなったようだね」
「誰かさんに壊されたからな。まぁ壊されてなくても貰えたんだけど。名前は『一心斬絶』」
「覚えておくよ。次に戦う時は全力だからね」
ミカヅキは俺を見て笑った。怖いなー。
「俺もそれまでに鍛えておくよ」
「楽しみにしているよ。あぁ、あと……」
「なに?」
「いや、何でもない」
「気になるんだけど」
「悪かったね。じゃ、今日はありがとう」
そう言ってミカヅキは周りの土を吹き飛ばして上に飛ぶと物凄いスピードでどこかへ飛んでいった。
「さてと、魔物が近くに来る前に俺も帰るか」
俺はみんなが待つ町に帰った。
本当は君とちゃんと戦いたかったけどすまない。あのお方の命令だ。次は僕がちゃんと僕として戦おう。その時は僕も楽しめるだろう。
けど最後に言ったほうが良かっただろうか。南本えりかには気を付けておけと。いや、僕の使命に反することだ。余計なことは言わなくていいんだ。僕の使命を果たすために。
『けどミカヅキは誰かに操られてこうなったんだ。捕まえる時はちゃんと戦って捕まえたいんだよ』
「早くアルトと、戦いたいな……」
ルイナ「なんかアルトに悪い噂された気がする」
ヨミ「なんでわかるの?」
ルイナ「愛し合ってるからよ」
ヨミ「アルトお兄ちゃんが帰ってきたら?」
ルイナ「一発殴る」
ヨミ「愛って難しい」
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一週間風邪引いてました。イルです。
熱は37.6度でした。さらに熱が出た日の二日後までしなきゃいけないことがあって絶望でした。けどなんとかなりましたとさ。めでだしめでたし。皆さんも風邪やインフルにはお気をつけて。
今回はミカヅキの体を乗っ取った誰かと戦いました。そしてミカヅキを助けました。アルトとミカヅキの会話を書くのはいつも楽しいです。ですがアルト以外の人とはほとんど話していないのでいつかルイナ達と女同士の会話をさせたいですね。
ではまた来週~。