水の都 アクアエ
ウィリデ王国 王都ドォールムから東の方角に馬車で3週間ほどの距離にカエルレウム共和国 首都アクアエは存在する。
首都アクアエは豊富な地下水を活かした街造りをしており、水の都と呼ばれている。
そして誰も最初に目にするのが、水の薄布と呼ばれる外壁である。
白く塗られた外壁の上から、大量の水が美しく流れ出し壁を覆っている。
白い外壁を色白の女性の肌に例え、その素顔を隠すように流れる水を薄布と例えた詩人がいたことから、その名で呼ばれることになったという。
しかし、水の薄布は美しいだけの外壁ではない。
その水量から外敵を寄せつけない鉄壁の守りとしても、有名な外壁なのだ。
そんな贅沢な守りが実現できているのも、豊富な地下水を有しているアクアエだからこそである。
そんな水の薄布を、夜な夜な攻略しようとしてる者達がいた。
そう、アレク達《漆黒の魔弓》である……アレク達は3週間の馬車旅で首都アクアエと到着していた。
しかし、カエルレウム軍から命を狙われていかもしないアレク達は、正門から堂々と入ることができずにいた。
そして、水の都に不法入国するために“ある作戦”を考えたのであった。
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話は昼間に首都アクアエに到着した直後まで遡る。
正門まで続く街道を少し逸れたところで、馬車を止めたアレク達は話し合いをしていた。
「夜になったら外壁を超えて、首都アクアエに潜入するぞ。それまでは待機で頼む」
「えっ!?あの壁を越えるの?っていうか正門から入ればいいじゃない?」
アマリアが、どんな想像をしたのか分からないが……外壁を見ながら嫌そうな顔で、アレクを見てくる。
そんなアマリアに横からカインが、正門から行かない理由を説明してくる。
「いやいや、正門からは流石にマズイだろ?仮にも俺達はカエルレウム軍から命を狙われてるんだぞ?正門から堂々と行ったら、適当な理由や犯罪をでっち上げられて、拘束されるのがオチだぜ」
「それもそうか、でも馬車の馬はどうするのよ?このまま置いていくの?」
「そりゃ……どうすんだアレク?」
アマリアとカインが、アレクを向けて解決の案を求めてくる。
アレクは馬車をアイテムボックスに収納しながら、2人の問いに答える。
「馬は正門から、エレナと一緒に入ってもらうよ。だから壁を越えるのは、俺・カイン・アマリア・ミカエラ・キアの5人になる」
「えっ?エレナだけ正門からで大丈夫なのか?拘束されたり、しないかな?」
アレクの答えにアマリアが心配そうに、問いかけてくる。
「暗殺者の情報からエレナのことは、相手に知られていないことが判明してる。だから、エレナには冒険者ギルドに用意してもらった偽造のCランクのギルドカードで、正式に正門から入国してもらう」
「ねぇ!今サラッと言ったけど偽造って言わなかった!?」
「言ったけど……何か問題でも?」
当たり前のように答えるアレクに、アマリアは疑問をぶつける。
「ギルドカードって偽造不可じゃなかったの?こんなに簡単に偽造できるものなの??」
「そんな簡単に偽造できたら冒険者ギルドの沽券にかかわるだろ?外部の人間が偽造できなくても冒険者ギルドの人間なら偽造できるってだけだよ」
「冒険者ギルドがカードを偽造って、すごいわよね……それだけガルドさんとバルドさんが本気ってことか」
「そういことだと思うよ。それに1人で外からきた冒険者が正門を通るのに、Cランクじゃないのも変だろ?」
冒険者は高ランクになるほど、門兵に顔を覚えられることになる。
しかし、新米の冒険者であっても門兵が覚えていることもあるので、油断はできないのだ。
そういった理由からもギルドカードの偽造はエレナにとって必要なものと言えた。
「ついでにエレナには、アクアエの冒険者ギルドに手紙を届けてもらう予定だ。ガルドさんからの紹介だから、信用しても大丈夫だと思うけど……念のため顔がバレていないエレナに仲介を頼む」
話を振られたエレナは、アレクの顔を見て頷き、了解の意を示す。
「分かりました。正門を通ってアクアエに入り、冒険者ギルドに手紙を届けます。ついでに宿も確保しておきましょうか?」
「宿についてはエレナの判断に任せる。冒険者ギルドが信用できそうなら紹介してもらい、ダメそうなら別の宿を用意してくれ」
そういうとアレクは、小袋に金貨を入れてエレナに手渡す。
その様子を見ていたミカエラが、アレクに質問する。
「それで僕達は……どうやって外壁を越えるんですか?」
「あぁ、それはな――」
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夜空には所々、雲がかかり地上には影をおとしている。
そんな雲の影に紛れて空中を跳ねる人影が、外壁をグングン昇っていく。
それは、まるで見えない足場があるように空中を駆け上がっていく。
アレクが考えた外壁を越える方法は、キアから教わったスキル【風の束縛】を使って足場を作り、仲間を担いで壁を越えることだった。
本来なら外壁には複数の見張り兵などが配置されるものだが……水の薄布に頼りきっているアクアエでは、外敵の警戒はしても壁を越える者は想定していないため、比較的簡単に壁を越えることができる、とアレクは考えたのだ。
しかし、想定外の問題がアレクを襲うことになる。
同じ事ができるキアとアレクで、分担して仲間を運ぶことになったのだが……体格的にミカエラをキアが、カインとアマリアをアレクが運ぶことになり先にキア達は壁を越えていった。
アレクも【身体強化】を発動し、両肩にカインとアマリアを荷物のように担いで空中を駆け上がっていく。
ちょうど外壁を越える17mほどの高さに達した際に、問題が発生する。
(ひいいぃぃぃぃ!!高いぃぃぃ!)
必死に悲鳴を我慢しながらも、小声で喋りながらアマリアが暴れ出したのだ。
(ちょ!おま!暴れんなアマリアっ!こんなとこで落ちたら普通に死ぬだろ!)
不安定な足場と壁に当たり吹き上がる風で、アレクは体勢を崩しそうになる。
必死に暴れるアマリアを制しながら、なんとかバランスを取ると外壁の上に一旦降り、アマリアに注意する。
(このバカっ!あんなとこで暴れるなよ!危うく落ちるところだったわ!)
(うっ……だって自分の意思に関係なく、空中にいると急に思ったら怖くなって……)
アレクに担がれアマリアは半泣きになり、かなり強い力でアレクの衣服を掴んでくる。
(おい、カインの方は大丈夫か?)
さっきから、返事がないカインが心配になりアレクが声をかける。
(………………)
(カイン?)
(アレク……カインが放心状態になってる)
荷物のように担がれているカインは、力強くアレクの背中の衣服を掴み固まっていた。
(これは早く降りないとカインまで暴れだす可能性があるぞ……)
アレクが外壁を降り始めようとすると、暗闇の中から空中を跳ね上がり、キアが姿を現わす。
(ちょっと!そんな所で何をしてますの!早く降りないと見つかりますわよ!?)
(おぉ!ナイスタイミングだキア!カインを背負って降りてくれるか?)
その後、異変を感じて戻ってきてくれたキアがカインを運び、アレクはアマリアをおんぶして外壁の中へと降りていった。
落ち着いてからカインに話を聞いたが……空中でアマリアが暴れ出した時に、死を覚悟したらしい。
カインは、暫く人に命を握られている恐怖を忘れられそうにないと語っていた。
何とか首都アクアエに不法入国できたアレク達は、マントで身を隠しながらエレナと合流するために、アクアエの冒険者ギルドへと向かう。
通りすがりの人に冒険者ギルドの場所を尋ねると、快く教えてもらえ早々に到着することができた。
冒険者ギルド付近を見渡すと、同じ漆黒のマントを身に付けたエレナを発見し合流する。
エレナから宿を確保したことを聞いたアレク達は、足早に冒険者ギルドを後にするのであった。
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部屋の窓から暖かな光が差し込みアレクは、目を覚ます。
同じ部屋ではカインとミカエラが、まだ寝ており昨日まで長旅の疲れを癒している。
昨晩、外壁を越えて首都アクアエに不法入国したアレク達は、先に首都入りしていたエレナの案内で宿に入ることになった。
首都アクアエまでの旅で疲れが溜まっていたこともあり、昨日は宿に着き部屋に入ってからすぐに泥の様に眠ってしまった。
軽く身支度を整えて宿の食堂に向かうと、既に食堂にいたエレナと出会う。
別に何かを食べているわけではなかったが……何か考え込んでいしている気がしてアレクは、エレナに声をかける。
「おはよう!昨日は、よく眠れたかエレナ?」
「おはようございますアレク、私に睡眠は――、いえ……良く寝れましたよ」
いつもの通りの反応で、答えようとしたエレナだったが……なんとか堪えて普通の返事を返してくる。
「それにしても、どうしたんだ?用もなく食堂にいたわけじゃないんだろ?」
「えぇ、今日の予定をアレクに確認しようと思って待っていました」
「今日の予定かぁ〜観光かな?」
「え?観光ですか?」
予想外の答えが返ってきて、キョトンとしてるエレナにアレクは、小声で続きを話す。
「観光を装いながら、街の偵察と現在のアクアエの状況調査を行う。俺・アマリア・エレナとカイン・ミカエラに班を分けて行動する」
エレナは、1人の名前が出ていないことに気付き、アレクに質問する。
「キアが班に入っていませんが、何かあるんですか?」
「うん、キアには別に頼みたいことがあってね。別行動をしてもらう予定だよ」
そんな話をしていると続々と仲間達も、食堂に集まり先程もエレナが聞いた話を、アレクは皆に伝えるのであった。
朝食を終えたアレク達は、二手に分かれて首都アクアエの調査を開始する。
とはいえ流石に、詳しく調査をすれば怪しまれてしまうので……あくまで旅の途中でアクアエに立ち寄った世情に疎い、冒険者を装うことになる。
昨日は夜の山に紛れ、フード付きのマントで顔を隠していたので気付かなかったが……水の都と呼ばれることはあり、アレク達の目の前には、キラキラと煌めく水面と白く美しい街並みが広がっていた。
湿気に対策なのか、アクアエの家は白く塗られた石造りやレンガ造りのものが多く、それが規則的な街並みを作り出している。
それに加え街全体に蜘蛛の巣のように広がった水路が、大小と複雑に組み合わさり、そこをゴンドラを使って人と物が移動している。
街のいたる所に水路の邪魔にならないようにメガネの型の橋が架かり、その下を悠々とゴンドラが進んでいる。
「水の都と呼ばれるだけはあって、色々と凄いところだなアクアエは……」
無意識に口から漏れていた言葉に、一緒に行動しているアマリアとエレナが同意する。
「えぇ、噂には聞いていたけど……ここまで水が豊かで、人や物資の移動にも利用されているとは思わなかったわ」
「凄く美しい街並みですね……そして、とても涼しげです。見ているだけで癒されますよ」
アレク達は、思わず水上を気持ち良く流れていく幾つものゴンドラを眺めながらボッ〜としてしまう。
そんな様子が、おかしかったのか……見知らぬ人オジサンが話しかけてくる。
「なんだい、あんたら!そんなところでボッ〜として街並みにでも見惚れてたのか?」
「えぇ、初めてアクアエを訪れましたが……本当に美しい街並みですね。見ているだけで癒されますよ」
アレクは、気さくなオジサンに素直にアクアエを見た感想を伝えると大笑いしながら、肩を叩かれてしまう。
「はははっ!そんな風に街を褒めてもらえて、嬉しいねぇ!俺は、この街の生まれでね!街のことを褒めてもらうのが本当に嬉しいのさ」
「なるほど!それなら、この辺りでオススメの場所とかありますか?観光できる場所でも美味しい食事が出るとこでもいいので、教えてほしいんですが」
「それはいいが……アクアエで観光するならゴンドラが必要だぞ?何せ水路が中心の街だから橋が少なくてな……通路で移動してたら日が暮れちまう」
「なら、ゴンドラに乗れる場所を教えて――いや、案内して頂けませんか?手間賃は払いますので」
「そんなら、ちょいと待っててくれるかい?色々と案内してやるよ!」
そう言うとオジサンは、どこかに走っていき数分後にアレク達の目の前に広がる水路からゴンドラに乗って現れる。
「ほら!お客さん早く乗りな!」
そこで漸く先程までの会話が、オジサンの営業トークであったことに気付き、思わず笑ってしまう。
オジサンの見事なトークで、アレクの方から“案内してくれ”という言葉を言ってしまったのだ。
そんなオジサンに敬意を表して、アレク達はゴンドラに乗り、街を案内してもらうことになった。
せめてもの反撃として、料金をオジサンに聞くと銀貨2枚と答えたので金貨1枚を手渡して、“この料金分で色々なことを教えてくれ”と頼むと……一瞬だけ驚いた表情を、浮かべたが、すぐに張り切った笑顔になり“任せときな!お客さん!”と元気よく答えてくれたのであった。




