黒幕?動機?
カエルレウム共和国の関係者と思われる者の目撃情報を受けて、アレク達《漆黒の魔弓》は行動を開始した。
冒険者ギルドでバルドから、詳しい内容を確認するとバルド直轄の冒険者5人を引き連れて、とある家に向かうことになった。
それは大通りから、かなり離れた所に位置する古い民家だった。
家を管理している不動産屋によれば、半年前に商人だと名乗る男が訪れ、ドォールムで商売を始めるために仮の拠点を探していると話したことから、この家を紹介したらしい。
目撃者達にも、見慣れない男の人相を確認したが……やはり、アレク達が探している者と特徴は一致していた。
そして、いよいよ日が沈んでから相手の拠点に乗り込むことになる。
民家の周辺はバルド直轄の冒険者4人に包囲してもらい、残り1人はアレク達と一緒に拠点に乗り込むことになった。
今回は室内での接近戦になる可能性を考慮して、アレク・カイン・キアが突入隊として潜入することになり、アマリア・ミカエラが民家の外で待機している。
エレナ・プラムはアレクの館で留守番をしていた。
バルド直轄の冒険者が、ピッキングで民家の扉を解錠するとアレク達と共に民家に侵入する。
民家の中は少し埃っぽく、人の気配もないようで家の中は静まり返っていた。
アレクは一応、魔法のトラップや待ち伏せを警戒して“風の眷族”を使役し探索を開始する。
リビング……風呂場……1階の部屋……階段……2階の部屋と順番に“風の眷族”によって探索を行ったが、全く魔法のトラップも待ち伏せも発見することはできなかった。
アレクはトラップや待ち伏せがないことを仲間達に伝えると、二手に分かれて民家の中を物色し始める。
アレクとカインは1階を探索し、キアとバルド直轄の冒険者は2階を探索する。
1階にはテーブルの上に埃が乗っており、水場も使用された形跡もない。
カインも大した収穫は、なかったようで残念そうにアレクの顔を見つめてくる。
諦めて2階に向かおうと思っていると、伝心の指輪が発動しキアの声が聞こえてくる。
(アレク聞こえますか?2階で気になるものを発見しましたわ。ちょっと来てくれますか?)
(聞こえてるぞキア。1階には何もなかったから、今からキア達と合流しようかと思ってたところだ。すぐに向かう)
2階上がると1つの部屋の前にキアと冒険者が待っていて、部屋の中に案内される。
部屋の中は、簡単なベッドや机があるだけで大したものは見当たらない。
「キア、何もないように見えるけど……何を見つけたんだ?」
「この部屋に入って、すぐに気付きましたわ。この部屋には血の匂いが染み付いていますの」
キアは、そう話しながら閉めきられた窓際の床に屈んで床を指す。
「ここで誰が襲撃を受けて血を大量に流してますわ。そして、こちらにも血の匂いが残ってますわね」
キアは窓際から立ち上がると、今度は部屋の扉の影に向かって歩き出し、指を指す。
アレクは【夜目】でキアが、指差した場所をジッと観察すると確かに床板が不自然に変色していた。
「ここで何かしらの争いがあったのは、間違いないみたいだな……俺達の暗殺者を依頼したカエルレウム共和国の人間が襲われたのか……それともカエルレウム共和国の人間が他の誰かを襲ったのか……それは分からないが」
アレクが考えながら、他に手掛かりがないか部屋の部屋もキアと見回ってみたが……綺麗に、ここにいた者の痕跡は消し去られていた。
無駄足だったかとアレクが、がっかりしていると階段あたりでキョロキョロしているカインを見かけて声をかける。
「カイン、そっちは何か見つかったか?」
「いや、見つかってないんだけど………なぁアレク、この家って外から見た時には3階に窓がなかったか?」
「3階に窓?う〜ん、そう言われれば窓みたいのがあったような」
アレクは、そこまで話していて漸く、屋根裏部屋の存在に考えが至る。
「カイン、この家には屋根裏部屋があるかもしれない。天井を注意して探して見てくれ」
アレクはキアと冒険者にも、屋根裏に続く階段を探すように指示を出す。
すると、それは血の痕跡があった部屋で発見される。
部屋の天井をよく見ると、何かを引っ掛けられるような金具が設置されていた。
アレクは、部屋に唯一置かれていたベッドを探ってみると、ベッドの下から1m程の大きさをした鉄の棒が出てくる。
棒の先は折れ曲がっており、何に使うかはアレク以外の者も、すぐに理解できた。
アレクは鉄の棒を手に取ると、迷わず天井の金具に引っ掛け下に引く。
すると、天井から折り畳まれた仕掛け階段が現れる。
アレク達は、アイコンタクトをすると階段の先を調べ始める。
アレクが階段を上がりきると、驚いたことに屋根裏は綺麗にされており、人1人なら問題なく生活できるほどに整備されていた。
小さな机に書類などが細かく纏められていたことから、最近まで人がいたことは間違いなさそうだった。
「皆、手分けして何か手掛かりがないか調べよう。特に書類は細かく見てくれ」
それから隅々まで屋根裏を調べていると、バルド直轄の冒険者が何かを見つけたらしく、アレク達に声をかけ一枚の紙をくる。
それを受け取ったアレクが確認すると、アレク達を暗殺する内容が指示されているものだった。
最後まで内容を読み終えたカインが“あっ”と何かに気付き、紙の印がされている箇所に注目する。
「この印……たぶんカエルレウム軍で使われているものだったと思うぜ。以前これと同じ印を見たことがあるから、間違いない」
「カエルレウム軍の印か……それでも、俺達が狙われた理由は不明だな。カエルレウムとの関わりって言ったら、野盗化した兵士を討伐したくらいだろう?」
アレクとカインは心当たりを考えながらも、これといったことは思い出せなかった。
しかし、アレクと書類を読み漁っていて、気になるワードを発見する。
それは報告書や命令書の内容には似合わない“預言”という言葉だった。
証拠になりそうな書類を確保すると、アレク達は足早に民家を後にするのだった。
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カエルレウム共和国の者がいたと思われる民家から帰還したアレクは、すぐに応接室に直行し待機していたギルドマスターのガルドと副ギルドマスターのバルドに報告を行う。
そこで民家の2階で何かしらの争いがあったこと、カエルレウム軍で使われている印を発見したこと、などを順番に話していく。
そこまで黙って話を聞いたガルドが口を開く。
「それだけでは、やはり何故アレクさん達が狙われたかは分かりませんね。他に気付いたことなどありましたか?」
「これは参考になるかは分かりませんが……調べた書類の中に“預言”という言葉が使われていました。何かの符丁なのか、直接的な意味なのかは不明ですが」
「“預言”ですか……カエルレウム共和国は教会の本部がある場所でもあります。教会関係者を示す符丁として使っていても、おかしくないですが……それは憶測に域を出ませんね」
アレクとガルドが意見を交換している間にバルドは部屋を一旦出て、ある書類を手に応接室に戻ってくる。
それはカエルレウム軍の印が使われた書類であった。
「カエルレウム軍の印が使われた書類があったぞ!以前に冒険者ギルドと軍が協力して魔物を討伐した時のものだ」
3人でアレクが押収していた書類と、冒険者ギルドに保管されていた書類の印を見比べる
。
それは間違いなく同じものであった。
「とりあえずは今回の件にカエルレウム軍が関係している可能性が出てきたわけか」
「カエルレウム軍……そういえば、軍のクーデターは成功したんですか?」
バルドはアレクの問いに渋い表情を浮かべて答える。
「それが……どうやら内紛は膠着状態に入ったらしいぞ?何故か軍が動きを止め、王族との話し合いをしているらしい」
「はっ?クーデターを起こしといて、今更話し合いを始めたんですか!?」
「あぁ、あくまで噂程度の話だが……実際に軍の動きは一時的に止まっているそうだ」
アレクは現在、手元にある情報で自分達が取るべき行動は、何が最適なのかを考える。
アレク達を狙う黒幕は?その目的は?そして今、本当にするべきことは何なのか?一通り考えたアレクは、驚くべき言葉を言い放つ。
「仕方ありません。ガルドさん、バルド教官、俺は決めました……カエルレウム共和国に行こうと思います」
「なっ!?本気か!!それは危険過ぎる判断だぞ!アレクくん!」
「そうだぞアレク!危険過ぎる!!」
アレクは冷静に自分の考えを2人に話し始める。
「お二人の意見は当然のものだと思います……ですが、一応俺の考えも聞いてもらっていいですか?」
現在、アレク達を狙っていると思われるのはカエルレウム軍。
仮にカエルレウム軍がクーデターに勝利してしまえば、国を挙げてアレク達が狙われることになる。
けれど、カエルレウム軍がクーデターの最中に態々(わざわざ)アレク達を狙うとは考えにくいし理由もない。そして現在はカエルレウム軍と王族は膠着状態にある。
ならば、あえて危険を覚悟して全ての情報が集まるカエルレウムに飛び込み。
カエルレウムが混乱状態にあるうちに事実を確認して、本当の敵に対処するという作戦をアレクは説明する。
「確かに現状を守っているだけでは、問題が解決しないことも事実です。カエルレウム軍が黒幕だった場合……アレク達は、ずっと命を狙われることになるかもしれません。ですが……」
「兄貴!いやギルドマスター!アレク達を守ってやることはできないのか?」
「バルド……現状では難しいだろうな。今のところ状況証拠ばかりで確実な証拠がないために正式に問題にすることすらできない。黒幕が分からず、黒幕を示す証拠もないでは正直言ってギルドでは動けないのだ」
八方塞がりの現状に頭を悩ませる2人に、アレクは言葉を伝える。
「お二人が俺達のことを、凄く考えて下さって本当に嬉しいです。けれど、もう気付いているはずです……現状を打開するには、あえて敵の腹の中に飛び込まなくてはならないということに」
アレクの覚悟を決めた瞳に見つめられ、2人は事実を受け入れる。
「分かりました……《漆黒の魔弓》のカエルレウム共和国行きを認めます。けれど、決して冒険者ギルドは、あなた達を見捨てません。できるだけの協力はするつもりですから」
「あぁ、兄貴の言う通りだ!アレク達には冒険者ギルドのため、ドォールムのために尽くしてもらっているからな!それに将来有望な冒険者を、こんな所で失うわけにはいかんしな」
こちらまで熱意が伝わってくるような、激励の言葉にアレクは胸が熱くなる。
「はい!俺達も無事に帰ってこれるように全力を尽くします!あと早速なんですが……俺達がドォールムを留守にする間、新しい拠点のことを宜しくお願いましす。拠点にはシルキーがいますが……放火でもされたら、堪りませんから」
「あぁ、了解した。そちらは冒険者ギルドで手配をしておこう」
「ありがとうございます!では、準備が完了し次第カエルレウム共和国に向かいたいと思います」
こうして、アレクと冒険者ギルドとの話し合いは終わり、アレクは仲間達に事情を説明するために一度アレクの館へと戻った。
家で待機していたエレナとプラムを含めた皆に、黒幕がいたと思われる民家でアレク達が見たこと知ったことを説明していく。
その上で先程、冒険者ギルドでガルド達と話し合い、アレクが出した結論を皆に伝える。
その話を聞いていた仲間達は、口々に答えをアレクに返す。
「俺は問題ないぜ?コソコソ隠れて逃げ回るより、ずっといい案だと思うしな!」
「私もアレクに賛成よ。この家に篭って現状が良くなることはないだろうし、それよりも事実を確かめに行った方が問題解決の近道になるでしょう」
「ぼ、僕も行きます!みんなが安心して生活できるようにしたいですから」
「ここで逃げ続ける一生など、エルフの誇りを穢すことになりますわ!その黒幕とやらを見事に屠ってご覧に入れますわ」
そんな中で不安そうにエレナが手を上げる。
「あの〜私は戦闘特化ではないので、館に残った方が良くないでしょうか?ついて行っても皆さんのご迷惑になると思うのですが……」
申し訳なさそうに皆を見渡すエレナに、アレクは冷静な声で答える。
「エレナ……今回に限っては、いつまた暗殺者が館を襲撃するかもしれないことから、館に1人残っては危険だ。それに最悪、館が襲撃されてもプラムだけなら姿を消して、暗殺者をやり過ごすことができる。一応、放火対策は冒険者ギルドにお願いしてあるから、プラムも安心してほしい」
アレクの話を聞いて、群れから離れた獲物を狼が狙っているのを想像してエレナは共にカエルレウム共和国にいくことを覚悟する。
「分かりました!私も皆さんのご迷惑にならないようにお供させてもらいます」
「私は主様の意志に従うだけです……ですが、みすみす館を害されることは絶対にさせません!皆様が帰るべき場所をお守りし、私は皆様のお帰りを心待ちにしております」
アレクは再度、皆を見渡すと力強く言葉を発する。
「では準備が完了し次第、《漆黒の魔弓》はカエルレウム共和国に向けて出発する!今回は人を相手にすることを前提に、準備を進めてくれ!俺達の平穏を害する奴らを、ぶっ飛ばしにいくぞ!!」
「「おう!!」」
こうしてアレク達《漆黒の魔弓》は、カエルレウム共和国に向かうことになったのだった。
しかし、まだ彼らは時代の大きなうねりに巻き込まれることになるなど知る由もなかった。




