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噂と人探し

 薬品が並ぶ地下室で、男は壁に設置された拘束台に手足を縛られていた。

 暗殺者の監視役だった男は、目の前にいる女の正体を知っている。

 邪悪な触手を操り、仲間達を捕らえる強さと異様さも備えた化物……そんな女と現在の自分の状況を考えると、男は絶望的な気持ちになる。


 女は拷問する道具を用意するのでもなく、ジッと男を見つめている。

 栗色の髪をした女は、先程まで漆黒の鎧でなく、私服に錬金用のエプロンをしていた。

 エプロンからは何かの薬品の刺激臭が漂い、男の鼻をつく。

 手を拘束されている男は、鼻を庇うこともできずに臭いでむせていると女が、ようやく喋り始める。


「これから、貴方に尋問を始めます。それと貴方の前に、すでに2人から尋問し情報を得ています。それを踏まえて話を聞いて下さい」


 女は淡々と丁寧に説明を始める。そこには、感情はなく憎悪すら感じられない……しかし、だからこそ男は恐怖した。

 この女は命を奪うことに、何の抵抗も感じていない。

 それが普通であるように振舞っていたからだ。


「まず黙っていると死にますし、嘘をついても死にます。ちなみに死ぬとういうことは簡単に死ねるという意味ではないので誤解しないで下さいね?貴方以外の方も話を聞ける方は、まだいっらっしゃるので素直に話すことをお勧めします」


 そういうと女は、男の口を塞いでいた布を外し質問を開始する。

 男は冷や汗をかきながら、女の質問を聞く。


「では、貴方は誰に雇われた暗殺者ですか?」

「……誰が言うか!クソたれの化物めっ!」

「随分と勇ましい方なんですね……流石は暗殺者ということでしょうか?」


 そう言いながら女は、優しく男の耳元に手を添える。

 男は訳が分からず唖然としていると、耳に違和感を覚え“ヒッ!”と思わず声を上げる。

 恐る恐る耳の方に視線を向けると、細い糸のような触手が、スルスルと耳の中に入っていくのを見てしまう。


「なっ!?何なんだよ!?や、やめろぉぉぉ!俺の中に……入ってくるなぁぁぁ!!」


 耳の奥からガサガサと、頭に直接音が聞こえてくるような感覚に、男は発狂しそうになる。

 拘束されているので抵抗することもできず、背中にゾワゾワした気持ち悪い感覚が走るが、男は歯を食いしばって耐えることしかできない。


 男の手足の先は狂ったように動き回り、手足が自立しているように奇妙な動きを見せる。

 どれ程の間、それが行われていたのか……男は先程の勢いなどなかったように憔悴しょうすいしきっていた。

 涙と鼻水で顔をグチャグチャにして、息を荒くして焦点が合わずに天井だけを見上げていた。


「どうですか?私が最初に、正直に話すことをお勧めした理由が分かったでしょ?まだ尋問を開始してから10分ほどなので、ここからは正直に話してもらえると助かります」


 男はヒューヒューと、おかしな呼吸になりながら先程の拷問から、10分しか経っていないことに戦慄せんりつする。


(こ……こんな拷問……耐えられるわけない!!また体に入られるくらいなら、死んだ方がましだ!!)


 男は潔く死ぬことを選び、自分の舌を噛みきろうとするが……その前に女は、非情な現実を男に突きつける。


「もし、舌を噛んで自殺しようとしても無駄ですからね?すぐに止血して、後は新薬の実験体として長く付き合ってもらうことになりますから」


 思考を読まれ完全に退路を断たれた男は、全ての希望を失い、心を折られてしまう。

 男にできることは、素直に全てを話し……せめて苦痛のない死を待つことだけだった。



 ===============================



 暗殺者の襲撃から時間は過ぎ、夜明け前に尋問を終えたエレナが、リビングへと上がってくる。

 そこには、まだアレクが残っておりエレナのことを待っていたようだった。


「エレナお疲れ様、お茶でも入れるからソファに座って待っててくれよ」

「ありがとうアレク」


 エレナは半ホムンクルスのために、食事を必要としない……生き物の細胞を取り込むことが、唯一必要とされることだが……頻繁に行わなければならない程ではない。

 それでも味覚は存在するため、食事などで幸せを感じることはできるのだ。


 アレクは紅茶を入れて、ソファに座ったエレナの前のテーブルに、そっと置く。

 茶葉の香りが湯気と共に立ち昇り、エレナの手が自然と紅茶に伸びていた。

 アレクの淹れてくれた紅茶を飲みながら、尋問の報告をアレクに伝えてくる。


「――ということで、彼らはカエルレウム共和国の人間に雇われたこと以外は、詳しい内容は知らなかったようですね」

「まぁ、簡単に尻尾を掴ませてくれるはずもないか……この件は冒険者ギルドに一応は報告するかな」

「冒険者ギルドに動いてもらうんですか?」

「動いてもらうというか、報告して相手に圧力をかけるのが目的だね。冒険者ギルド所属のBランク冒険者が、カエルレウム共和国の暗殺者に狙われたという話が広まれば、街で相手も動き辛くなるだろう?」


 エレナは、相手の気持ちになって想像し……不安に感じたことをアレクに問いかけてくる。


「それだと、相手が逃げてしまうのでは?どんな理由で私達を狙ったか分からないけれど……大事になれば、面倒になる前にドォールムを離れようとすると思うんですが?」

「別に目的は相手を捕まえることじゃないから、逃げてくれても良いと思うよ。むしろ、絶対に面倒事だから関わりたくないし。けれど、自分達の身を守るためにも……できれば相手の目的を探ると同時に圧力をかけ、相手が動くのを待つ。だから当分は情報を集めることを優先しよう」


 エレナは、今回のアレクの判断は消極的な選択だと思えたが……敵は国外の者だと考えればアレクが慎重になるのも道理だと、自身の考えを改める。


「それよりエレナ?大丈夫か?無理してないか?」


 心配そうにアレクが、エレナの顔を見つめてくる。


「えぇ、犯罪者相手ですもの大丈夫です。それに師匠も犯罪者には容赦なかったみたいですし、私は私の道を貫くだけですから」


 エレナは半年前、アレク達の仲間になる際に《漆黒の魔弓》の方針について、話し合っていた。

 《漆黒の魔弓》は、冒険者であるが……自らの命が危機に晒された場合は、躊躇ちゅうちょなく命を守るために行動する。


 また、自らの命を守るための情報を得るために、犯罪者などに対しては尋問や拷問なども行うことがある。

 これは強制ではないので、無理な場合はリーダーであるアレクが責任を持って代わりに行うことにしている。


 エレナは、それを了承した上でアレク達の仲間になったのだ。

 それと……アレク個人との約束もあり、エレナは尋問を進んで引き受けていた。

 それは犯罪者の人体を使った、新薬の実験をすることだった。


 普通に考えば倫理的に許されないことだが……エレナ自身の目的のために治験は、必ずといいほど必要なことだった。

 実験しても良いかは、アレクが判断し許可を出した者のみ行うことになっている。

 それに命を奪いにきた者が守られるほど、この世界は優しくない。


 そんなことがありエレナは、アレクから効果的な尋問の手段を教えてもらい、それを元に尋問を行っていた。

 けれど、アレクから教わった尋問方法は、普通の者なら考えられないものが多く、聞いた時はエレナの気分が悪くなるものばかりだった。


 何故そんなにも拷問に詳しいのか?とエレナがアレクに聞くと、アレクは“俺は拷問に詳しいんじゃなくて、印象に残ってるマンガの内容を再現してるだけ”と話していた。

 以前も聞いた、あらゆる可能性が記された書物である“マンガ”にエレナは恐怖するのであった。


 リビングで紅茶を飲みながら、エレナは前から思っていたことを口にする。


「前から思ってましたけど……アレクって犯罪者に容赦ないですよね?過去に何かあったんですか?」

「うん?別に恨みとかはないけど……ルールみたいなものはあるかな?脅されたり、命令されたりして仕方なく命を奪いにきた者には、情けをかけても良いと思ってるよ?」

「では、情けをかけないのは?」

「今回みたいに自らの意思で、殺しにきた者だね。お金を貰って殺しにきたり、自らの欲望のために殺しにくる者には容赦しないし、痛みを与えることにも抵抗はないよ」


 そう話したアレクの考えは、エレナの中にストンと入ってきた気がした。

 その時に、以前アマリアがアレクとエレナは似ていると、言っていたことを思い出す。

 エレナは苦笑いしながら、少しぬるくなった紅茶を喉に流し込むのであった。



 ===============================



 暗殺騒ぎがあった、次の日……アレクとエレナは冒険者ギルドを訪れて、応接室で副ギルドマスターのバルドに昨夜のことを話した。

 最初のうちは話を驚いた様子で聞いていたバルドの表情は、みるみる険しくなっていった。


「うむ、まさかカエルレウム共和国の者がアレク達を狙ってくるとは……いや、しかし狙いが分からんな」

「えぇ、こちらとしても狙いが分からなくて、どう対応しようか困ってるんですよ。ですから、冒険者ギルドの力をお借りしたいんです」


 アレクの提案にバルドは、耳を傾ける。


「冒険者ギルドには噂を流してほしいんです。そうですね……例えば、“カエルレウム共和国の者が《漆黒の魔弓》に暗殺者を差し向け、返り討ちにされた。冒険者ギルドは、真犯人を捕まえるために半年前にドォールム入ってきたカエルレウム共和国の者を血眼になっている!とか」

「そんな大雑把な噂でいいのか?具体的に懸賞金を懸けたとかの方が良くないか?」

「あくまで、噂なので……広まるうちに勝手に内容は変わっていきますよ。それでネズミが慌てて、巣から飛び出してくるのを待とうかと思います」


 バルドは作戦を理解すると、何か用紙に書き応接室から出ていった。

 1分ほどで戻ってくると、アレクに噂を流してきたと告げる。


「えぇ!そんなにすぐ終わるものなんですか!?」

「あぁ、うちには情報屋がいるからな。そいつに用件を伝えれば次の日には街に噂が広まっているぞ?」

「はぁ〜凄いですね情報屋さんは……あぁ、そういえばカエルレウム共和国の者を見抜いた人に、その時の状況やできれば相手の人相なんかも聞きたいんですけど、今はギルドにいますかね?」

「あぁ、構わないぞ!多分、今日はギルドにいたと思うから連れてきてやろう」


 こうして顔が見えない犯人探しが、始まることになった。

 バルドの言う通り、次の日にはドォールム中でアレク達のことが話題になっていた。

 噂も様々なパターンが生まれており、カエルレウム共和国から刺客をアレク達が返り討ちにしてカエルレウム共和国を滅ぼそうとしてる。


 はたまた、カエルレウム共和国の者を冒険者ギルドが総力を挙げて捜索している。

 《漆黒の魔弓》のアレクが、ドォールム中の知り合いに声をかけて、街の隅々まで捜索させているのなど……数えればキリがないほどにドォールムに噂が浸透していた。


 一方、当事者であるアレク達は呑気に拠点で休日を満喫していた。

 暗殺者に狙われているため、進んで外に出る理由もなく皆の好きな料理を用意して食事をしたり、エルフの優れた身体能力を遊びで確かめてみたり、エレナの触手で遊んだりと自由に過ごしていた。


 1週間後アレク達の元に、バルドの使いから連絡が入る。

 どうやら、噂によって情報が勝手に冒険者ギルドに集まり、街で半年前から宿を取っている者や家を借りている者の情報で溢れているらしい。


 バルドが情報を精査していたところ、複数の目撃者から半年前ほどから、見慣れない奴が近所に住み始めたという報告があった。

 しかも、その目撃者達の言っている人相がアレク達が探している者に似ているらしい。

 思わぬところから、有力な情報を得たアレク達は戦闘準備して冒険者ギルドに向かうのであった。





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