バーベキューパーティー
新たな拠点で引っ越しパーティーをすることになったアレク達は、お世話になった人や知り合いを呼んでバーベキューを開催する。
アレクの館の庭には昼間から多くの人達が集まり、バーベキューを楽しんでいた。
アレクの乾杯で始まったバーベキューは、孤児院の子供が大いに場を盛り上げてくれた。
楽しそうに食事をする子供達の様子に、大人達は普段の立場など関係なく、その光景を大切なものとして見つめていた。
庭には休憩できるようにベンチや簡単なテーブルが用意されていた。
大人達は、テーブルの置かれたワインや果実水などを飲みながら話していた。
アレクも主催者として招待した人達に挨拶回りをし、新たに仲間に加わったキアとエレナを色々な人に紹介していった。
キアは自身がエルフであることで緊張しながら挨拶していたが……アレクの知り合いは、皆が驚きはするものも決して嫌な感情をあらわにすることはなかった。
それどころか、何か困ったことがあったら相談しなさいと、皆が口を揃えて声を掛けてくれたことが本当に嬉しかったようだ。
エレナは普段と変わらない様子で挨拶をしていたが……薬屋のドロシーと顔を合わせた時には、表情を固くしていた。
後からエレナに聞いた話だが……エレナはドミニク生存を演じるために、何度かドミニクに変装してドロシーと会っていたそうだ。
エレナだけでは、説明しきれない部分をアレクがドロシーに伝えると、ドロシーは大きくため息をつくとエレナを見つめて喋りだした。
「そうかい……あのドミニクが逝っちまったかい……寂しいもんだねぇ。エレナさんと言ったかい?ドミニクは最後まで錬金術師として研究を続けていたかい?」
少しだけ目を瞑り、ドロシーの問いに答える。
「えぇ、ドミニク様は最後まで病気の克服に全てを捧げ、旅立たれました」
「それだけ聞ければ、私は満足だよ!色々な事情があったにせよ、ドミニクが残した弟子だ。エレナちゃんもドミニクに、負けない錬金術師になれるように頑張りな!」
「っ!はい!ドミニク様の弟子として胸を張って名乗れるように、努力致します!」
ドロシーと話したエレナは、何か思うことがあったのか晴れやかな顔をしていた。
一通りの挨拶を終え、料理も一段落してきたのでアレクもワインを片手に自由に動くことにした。
何かあれば声を掛けるように、プラムに接待を任せてアレクは歩き出す。
そんなアレクは逆にミカエラに声を掛けられて、ミカエラと一緒にいた孤児院の院長 マーテルの元へと向かう。
「本日は、お招き頂きありがとうございます。それに孤児院の子供達まで一緒に招待して頂けるなんて……本当に助かります」
「マーテルさん、お久しぶりです。いえいえ、孤児院の子供もアマリアやミカの大切な家族ですから。な?ミカ?」
「はい!アレクさんの配慮には感謝しきれません!」
「あらあら、ミカエラもアレクさんに付いて冒険者になり逞しくなりましたね」
アレクは、マーテルとミカエラの3人で談笑していると用件を思い出し、マーテルに話を振る。
「マーテルさん……最近の孤児院の運営は、いかがですか?」
「アレクさんには隠しても仕方ないので、正直に申しますが……あまり良い状況とは言えませんね」
マーテルによれば、アマリアやミカエラの援助のお陰で運営自体には問題ないが……2人に頼りきりになってしまっている状況を、マーテルさんは良しとしていないようだった。
そんなマーテルさんにアレクは、以前より考えていた提案をする。
「実は将来的に孤児院に薬草の栽培を、お願いしようと考えているのですが……いかがでしょうか?それと、成人になる孤児院の子は外に働きに出る決まりになっていますよね?宜しかったら、うちの館で使用人として何人か雇おうと考えているのですが……それは可能でしょうか?」
「薬草の栽培ですか?難しい栽培などは私達では難しいと思うのですが……それと使用人として雇って頂く件は、むしろ私からお願いしたいくらいです。孤児院出身の者は、あまり良い場所で働けないものですから」
薬草の栽培は今すぐということではなかったので保留して、使用人として働く件についてマーテルから実情を聞くことになった。
孤児院では15歳になると、決まりとして外に働きに出ることになっている。
大抵は稼ぎの良い冒険者を目指して命を落とすか、他の場所で働いても孤児院出身として差別を受けることが多いそうだ。
稀にアマリアの様に、回復魔法に適正のある者は教会などに仕えることができることがあるが……それも一握りである。
そういった状況からも、孤児院の子らが安心して働くことができる場所をマーテルは、ずっと探していたそうだ。
アマリアからも同じ話を聞いていたアレクは、館の使用人や薬草の栽培を仕事として斡旋し、孤児院の環境改善を行おうとしていた。
「今回、孤児院の子供達をバーベキューに呼んだのも実は安心して働ける環境があることを、実際に見てもらおうと思ったからなんです」
「それは良い考えだったと思います。あの子達の笑顔を見れば、一目瞭然ですから」
アレクとマーテルは楽しそうにしている子供達を眺めながら、笑い合うと握手を交わし今後の計画の発展を2人で祈るのであった。
次にアレクが向かったのはセシリアとバルドの元だった。
先程は仲間の紹介だけだったが……今度は、ゆっくりと話すために2人の元に向かう。
すると既にカインが2人の相手をしており、アレクの姿を見つせると慌てた様子で助けを求めてくる。
「あっ!いいとこに!アレクちょっと来てくれ!」
「なんだよカイン……そんなに慌てなくても、ゆっくり話せばいいじゃないか」
「いや、俺じゃセシリアさんを制御できないから!」
そこまで話していると、セシリアが血走った目でアレクに迫ってくる。
「アレクくん!私もアレクくんと一緒に住みたい!ねぇ!いいでしょ!?」
「いや、ダメでしょ。何を言ってるんですかセシリアさんは……」
冷静にアレクは、迫ってきたセシリアを突き放す。
その様子を見ていたバルドは、吹き出しそうになりながら2人のやりとりを聞いていた。
「えぇぇーなんでよー!今更、1人増えても大して変わらないでしょ!?」
「この家に住んでいる仲間は、只でさえ俺と深い関係にあると誤解されてるんですよ?そこにセシリアさんまで加わって、どうするんですか?」
「別に……私は……アレクくんと、深い関係にあると思われても平気よ?むしろ――」
「いいえ、こちらが迷惑なので遠慮します。それに、そんなんじゃ冒険者ギルド受付統括としての立場も悪くなるでしょう?少しは自分の立場を考えて下さい」
ふて腐れるセシリアにアレクが説教していると、バルドが2人の間に入り仲裁してくる。
「まぁまぁ、2人も落ち着けよ。セシリアも折角アレクがパーティーに招待してくれたのに、その態度じゃアレクの顔に泥を塗ることになるぞ?」
「えっ?そんなことは許されないわ!ゴメンねアレクくん……ちょっと混乱してしまって」
「いいえ、俺も言い過ぎました。遊びに来るなら問題ありませんから、暇を見て遊びに来て下さい」
「えぇ!是非、そうさせてもらうわ!」
話が落ち着いてきた所で、バルドが真剣な表情になり、アレクとカインに聞こえるくらいの声の大きさで喋り始める。
「カエルレウム共和国ついてなんだが……どうやら現国王に対して、王女がクーデターを起こしたらしい」
「はっ?クーデターですか?王女が?」
あまりに想像ができない単語がバルドの口から出たので、アレクは目を丸くする。
そんなアレクとは対照的にカインは、当然のように話を聞いていた。
「確かカエルレウム共和国の王女は戦姫と呼ばれている方でしたよね?では、軍を掌握してクーデターを起こしたのでしょうか?」
「あぁ、噂では軍の大半は戦姫につき、腐敗し切った現国王の政権を奪取するために動いているそうだ……政権の奪取も時間の問題だそうだ」
「そうですか……大変なことになりましたね……」
アレクを置いて話を進める2人に、アレクは寂しそうに話しかける。
「カインは、こういう話に詳しいんだな?やっぱり家関係か?」
「まぁ、そんなところだよ。それに戦姫の噂は武芸を嗜む者なら、ドォールムでも誰もが耳にする程だぞ?」
「俺の情報収集不足か……もっと注意して情報収集しないとな」
アレクとカインが反省会をしていると、話には続きがあったらしくバルドが、会話に割り込み話を再開する。
「まだ、これで話は終わりじゃないぞ?これは不確定な情報だが……どうやら、カエルレウム共和国から人が流れてきているらしい……それも一般人でない者がな」
その言葉にアレクとカインは目を細める。
「それは工作員というやつですか?」
「そこまでは分からんが、普通の者ではなさそうだろ?この時期にカエルレウム共和国から流れてきた者だぞ?」
「その情報の出処は?」
珍しくカインから詳しい説明を求め、バルドは問いに答える。
冒険者ギルドにカエルレウム共和国出身の者がいてな……街中で歩く姿を見かけたそうだ。そしてカエルレウム軍で鍛えられた者だけが分かる独特の歩行術を使用していたことから、判断したと言っていたぞ」
「カエルレウム共和国の軍の者か?本当に、この時期にドォールムに何しに来たのか分からないな……」
それからカインは何かを考え込んでいるようで、自分から話すことはなかった。
バルドからは、念のために身辺には気を付けておくように言われ、アレクは皆にも情報を共有することを心のメモに書いておくのであった。
最後になってしまったが……アレクは教会の司祭であるセロネスの元へと向かう。
木の木陰に置かれたベンチに、セロネスはアマリアと共に座っていた。
「セロネスさん、先程は急ぎの挨拶になってしまい申し訳ありませんでした」
「あぁ、アレクくん構いませんよ。たった今アマリアから色々と最近の話を聞いていたところでしたから」
「そう言って頂けると助かります。それにアマリアには、いつも助けられています……これもアマリアを教会から派遣して下さったセロネスさんのお陰です」
「ちょっと!アレクったら、急に褒め出さないでよ!びっくりするから!」
照れくさくなったのかアマリアが、手で顔をパタパタとあおいでいた。
そんなアマリアの様子を笑顔で眺めていたセロネスの表情が急に真剣なものになる。
「アレクくん、カエルレウム共和国についての噂はバルド副ギルドマスターから聞いているかな?」
「えぇ、先程聞きました。何かセロネスさんも気になることでも?」
アレクが聞き直すと、セロネスは難しそうな表情を浮かべて空を見上げる。
そしてポツポツと教会について話し始める。
「私はドォールムの教会の司祭をしているが……アレクくんは教会の司祭の上には、どんな役職があるか知っているかな?」
「司祭の上の役職の人ですか?えっと……」
アレクが答えを思い出そうとしていると、セロネスの隣にいたアマリアが助け舟を出してくれる。
「アレク、司祭様の上の立場となると……教皇様・司教様よ。ちょっと違うけど枢機卿も、いらっしゃるわ」
「アマリアの言う通り教会の頂点にいるのが教皇様です。そして今は教会本部であるカエルレウム共和国に、いらっしゃいます」
(よりによってカエルレウム共和国なのか……それに教会本部ってドォールムじゃなかったのか)
基本的な知識が抜けていたアレクは、セロネスの話の腰を折らないために、黙って話を聞いていた。
「その教会本部で、とある噂が立っているそうなのです。他種族がカエルレウム共和国のクーデターに参加していると……」
「他種族っていうと……あの国なら、獣人とかのことでしょうか?」
「そこまでの詳しい情報は、さすがに教会でも掴みきれていないようです。しかし、クーデターだけがカエルレウム共和国の問題ではないと知ってほしかったのです」
「そうだったんですね……貴重な情報を頂き、ありがとうございます。これからの冒険に役立てたいと思います」
その後パーティーも和やかに進み、アレクは館の主として役割を務め、パーティーは無事に終了した。
しかし、ただの引っ越しパーティーのつもりが、思わぬ情報をもらいアレクは、カエルレウム共和国への警戒を強めることになったのであった。




