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アレクの館のプラム

 新たな拠点を手に入れたアレク達《漆黒の魔弓》一同は、シルキーの紹介を皆にするために館へと集まっていた。

 日中は、必要品の買い出しなどを各自に担当してもらっていたために館にはアレクとシルキーしかいなかったが……今はカイン・アマリア・ミカエラ・キア・エレナと全員が揃っていた。


 リビングに置かれた重厚感がある木製のテーブルにつき、皆がアレクとシルキーが来るのを待っていた。

 部屋の照明は魔石によって明かりが灯り、暖かな光が壁掛けのランプと、元から設置されていたシャンデリアによって照らされている。


「本当に凄い館だよな〜これが金貨2,000枚とは信じられないぜ」

「確かにね〜シルキーのお陰で、建物も部屋も清潔に保たれてたし、凋落ちょうらくの噂があったから、高級な家具も回収されずに残ってからね」


 カインとアマリアが、部屋の調度品を見渡しながら館の破格な価格に改めて驚く。

 館のお金はアレク・カイン・アマリア・ミカエラで金貨500枚ずつ支払い、その他の買い足す家具などは館主としてアレクが負担することになっていた。

 とはいえ……利用できる家具が数多く残されていたこともあり、出費は各自の部屋を好みの部屋にする位のものだったので、少しの出費に抑えられていた。


「僕、シルキーを実際に見るのは初めてです!どんな子なんですか?」

「可愛い黒髪の女の子ですわ。イタズラ好きだけど、アレクを主様と慕っている良い子だと思いますわ」

「シルキー……興味深いですね。本人から詳しい話を聞きたいものです」


 ミカエラは初めて見ることになる、シルキーに期待を膨らませているようで、ワクワクしながら登場を待っていた。

 キアは一度シルキーを見ていることもあり、落ち着いた様子であったが……アレクが皆にシルキーを紹介すると言ってから、少し時間が経っていたので何かあるのかと、考えていた。


 エレナも伝承しか聞いたことのないシルキーに興味を示しており、何か知識を得られないかと考えているようだった。

 談笑しながらアレク達を待っていた仲間達の前に、ゆっくりと扉が開きアレクが現れる。


「おっ、みんな待たせて悪かったな!ちょっとシルキーの準備に手間取ってな」


 扉から姿を現したアレクが、扉の陰に隠れるように立っていたシルキーを、部屋の中に招き入れる。

 皆の前に姿を見せたシルキーは、昨日とは違って着物に髪を纏めて、かんざしをした可愛らしい女の子であった。


 見たこともない衣服をいたシルキーに、おおっ!と皆から歓声が上がる。

 特に女性陣は着物とかんざしに興味を示して、興奮した様子でシルキーを見つめている。

 テーブルの前までシルキーを連れてくると、アレクは皆にシルキーを紹介する。


「この子が、この館の管理をしてくれるシルキーのプラムだ。仲良くしてやってくれ!」

「どうも……主様から紹介頂きました……シルキーのプラムです。皆さん、よろしく……お願いしますっ」


 プラムは、皆に見られることに慣れていないようで、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めうつむいていた。

 その姿は、薄いピンクの着物に白く可憐な梅の花があしらわれていた。

 控えめな黄色の帯に真っ赤な帯紐が、とても映えて見える。


 長く綺麗な黒髪も、白金のかんざしにサファイアのような輝きを放つ、ビー玉ほどの宝石が添えられており、美しく纏められていた。

 まさに大和撫子やまとなでしこと呼ぶに相応しい、控えめながら清らかで美しいたたずまいをしていた。


「随分と可愛らしいシルキーだな!シルキーってのは、こんなに可愛らしいものなのか?」

「す、凄く可愛いですね!これがシルキー……ですか」

「予想以上に可愛いですね!プラムちゃん……うん、可愛い」


 初めてシルキーと会うカイン・ミカエラ・エレナの3人が、自分達の想像とかけ離れたプラムを珍しそうに眺める。


「すっごく可愛くなってるじゃない!?シルキーちゃん……じゃなくてプラムちゃん!」

「えぇ……まさか、これ程にプラムが可愛くなるなんて……どんな魔法を使いましたのアレク?それにプラムが着ているのは?」


 元のプラムの姿を知ってるアマリアとキアの驚きは大きく、席を立ってプラムに近付くと色々な角度から観察していた。


「この衣服は主様の思い描いたものを、私自身に投影した姿になります。この“かんざし”というものは主様に作って頂き、たまわった品になります」


 そのプラムの説明に、アレクは詳しい情報を付け加えておく。


「両方とも前世の世界で俺が住んでいたところの伝統的ものだよ。衣服の方は“着物きもの”と言って、本当は何枚も衣服を重ねるものなんだけど……プラムのは簡略化してあるんだ。ちなみにプラムは、この着物の花……梅の花の別名なんだ」

「梅の花……プラムか〜いい名前ね!何か意味でもあるの?」


 アレクの説明に興味を持ったアマリアが、詳しい説明を求めてくる。


「梅の花には“高潔こうけつ忠実ちゅうじつ忍耐にんたい”という意味の花言葉があるんだ。それに梅の美しさは清廉せいれんと表現されることもあるんだぞ?」

「へぇ〜アレクは花言葉とか意外なことにも詳しいのね。もしかして前世は女の子だったとか?」


 真面目に説明するアレクを、からかうようにアマリアが話していると、かんざしをジッと見つめていたキアがアレクに質問してくる。


「この“かんざし”というのは、どういう仕組みになってますの?どうやって髪を纏めてるか全然、分かりませんわ」

「あぁ、それのやり方は――」


 アマリアを放置して、プラムの後ろに立つと“かんざし”を抜き取り髪を解いて、やり方をレクチャーし始める。

 プラムの髪を纏めて、クルクルと髪をいじりながら“かんざし”を指し、あっという間に決まった髪型にしてしまうアレクに、キアは尊敬の眼差しを向ける。


「アレクは本当に多芸ですわね!もしかして前世では、これが仕事でしたの?」

「いや、違うよ。これは親戚の子供を着飾るを良く手伝わされてね、それで覚えたんだ。だから、プラムにも可愛らしい格好をさせてやりたくなってね」


 優しくプラムの頭に手を置くと、アレクは懐かしそうにプラムの姿を見る。

 プラムも可愛いと言われて満更でもないようで、照れながらもアレクのことを見上げていた。


「でも、この“かんざし”かなり高価な物じゃないんですの?」

「それは、かんざし自体はウルティムで宝石の部分は蒼糸の繭を加工して作ったんだ。高価といえば高価だけど、まだ在庫はあるし問題ないよ」


 その言葉を聞いたアマリアとキアの目が野獣のように鋭く動き、アレクを捉える。

 その眼光を受けたアレクは、しまった!と思いながら目を逸らすが……時すでに遅く2人から、お願いをされてしまう。


「じゃあ、私にも作ってくれるよね?」

「じゃあ、私にも作ってくれますわね?」


 重なるように発された言葉の圧力に、アレクは、“はい”としか言えなくなってしまうのだった。



 ===============================



 本格的に新しい拠点の改修に着手したアレク達は、大きな部分はプラムとアレクとカインが担当し、細かな部分はアマリア・ミカエラが担当して作業を行っていた。

 キアは身軽さを生かして、人が通常では作業できない屋根や屋根裏など高い場所などの手が届きづらい場所でプラムを手伝っていた。


 エレナは触手のコントロールの特訓も兼ねて、狭い場所や専門性の高い地下の錬金施設の改修を進める担当である。

 地下の秘密の部屋に、防音の効果があるのを知ってからは、エレナは錬金の実験を秘密の部屋で行えるように準備していた。


 1週間ほどで改修作業と家具の追加に、細かい必要品の充実を終えて、アレク達の拠点が完成する。

 元々、大貴族が過ごすような場所だったので大体の施設は魔石で稼働できるものであり、全てを直してみると生活しやすい便利な館へと生まれ変わっていた。


 魔石を溜め込んでいたアレクは、遠慮なく魔石をアイテムボックスから放出し、大きなもの以外はプラムに預けることになった。

 プラムも皆との生活に慣れてきたようで、今では皆と仲良く過ごしている。


 今日もアレクとプラムが揃ってキッチンで、料理をしていた。

 最初は料理は自分だけで十分と言い、アレクが料理を作るのを嫌がっていたが……アレクが料理をするのが好きなことを知ってからは、プラムは何も言わなくなった。

 隣で着物のそでを、たすき掛けして料理を作っているプラムに、アレクは前から伝えようと思っていたことを思い出して声を掛ける。


「なぁプラム、そろそろ館も落ち着いてきたことだし、引っ越しパーティーでも開こうと思うんだけど……大丈夫かな?」

「引っ越しパーティーですか主様?具体的なお客様の人数などはお決まりですか?」


 律儀に料理する手を止めて、アレクに向き直ると必要な情報を得ようとプラムは質問してくる。


「えっと、セシリアさん、バルド教官、グラウェさん、ドロシーさん、マーテルさんと一緒に孤児院の子供達も呼んだ方がいいか〜、それと来れるか分からないけど……セロネスさんとディグルさんで大体の20人くらいかな?」

「かなりの大人数ですね……私1人で料理をご用意するのは大変そうですね」

「それなら広い庭もあることだし、バーベキューにするか」


 アレクが聞き慣れない言葉を言い出したので、プラムは不思議そうな顔で聞き直してくる。


「その、ばーべきゅ?とは何ですか?」

「バーベキューは串焼き肉や野菜などを用意して、炭と網を使って素材を焼く食事形式のことだよ。事前に準備しておけば、当日は焼くだけだから楽なはずだ。その分、当日は他のことに時間を割けるからプラムと俺が分担すれば楽に済むと思うよ?」

「ぐぬぬっ……また主様に負担を……」

「気にするなよ、俺が好きでやってることだからさぁ」

「わ、分かりました。では、日程と時間が決まり次第教えて下さい。準備致します」


 こうして、庭でバーベキューをすることになったアレク達は大量の食材を買い込み、準備を進めることになった。

 バーベキューコンロがなかったために、アレクはドラム缶を半分に切ったようなものに、足をつけて急造でコンロを用意した。

 バーベキューへの招待は仲間達任せて、アレクはプラムと共にバーベキューに向けて、大量の食材の下準備を黙々とこなす。



 ===============================



 結局、アレクの思い付きから1週間後にアレク達の館には多くの人達が集まっていた。

 特に元気な集団だったのは、孤児院の子供達である。

 初めて見る大きな館や綺麗な着物を着たシルキーなど珍しいものばかりで皆が、はしゃいでいた。

 また、ご馳走を食べさせてもらえると知ってからは、アレク達が用意している肉などを見て子供らしく興奮している様子だった。


 昼間から館の庭で20人以上の人が集まっている光景は珍しく、特にキア・エレナ・プラムは緊張してるようだった。

 緊張してる3人を気遣ってアレクは、順番に声を掛けていく。


「おいキア、大丈夫か?」


 フードを被ってキョロキョロと周りを見ていたキアに、アレクが声を掛けるとビクッと体を反応させる。


「な、なんだ……アレクですの?驚かせないでほしいですわ」

「悪い悪い!やっぱり、人族が多く集まると緊張するか?」

「えぇ、自分がエルフだと周囲の人が分かったら、どんな反応をされるかと思うと緊張しますわね……」

「今日は、バルド教官とセシリアさん以外の人にキアのことを紹介しようと思ってるんだけど……別の機会にしようか?」


 一瞬だけ弱音を吐きそうになるが、キアは気持ちを切り替えてアレクに返事する。


「いいえ、大丈夫ですわ。エルフ族のためにも、やれることをやらなくては……いけませんから!」

「分かった。俺も精一杯できる援護をするから、あまり気負うなよ?」

「ありがとうですわアレク」


 次にアレクはエレナの元へと向かうと、少しだけ暗い表情をしてるのに気付き、優しく話し掛ける。


「どうしたエレナ?元気がないようだけど?」

「あぁ、アレク……あの子達を見ていたら妹のことを思い出してしまって」


 アレクがエレナの視線の先を見ると、そこには楽しそうに遊ぶ孤児院の子供達がいた。


「あの子達は、ほとんどが流行り病で両親を失った子達だそうだ」

「そう……あの子達も病気で大切な人を失ったのね。ねぇアレク、私がやろうとしている新薬の開発で……あの子達のような子を救うことはできるのかしら?」


 その問いは簡単な問いではなかった……エレナの真意は“あの子達のような子達を救うためには、どれ程の時間と犠牲を要するのか?”という苦悩を表していたからだ。

 アレクもエレナの真意を悟り、真剣にエレナの問いに答える。


「全ての人々を救うことは不可能だろうな……時間・労力・資金にも限りがあるからな。けど、俺達は……やると決めただろ?なら前進するだけだ」

「もしかしたら、救えないかもしれないのに?」

「そりゃ、やってから考えることだろ?それに俺達が救えなくとも、次の世代に引き継げばいいことだ。そうすりゃ、決して無駄なんかにはならないさ」

「楽観的な考えね」

「エレナが悲観的なのかも、しれないぜ?」


 アレクは、そういうと軽くエレナの背中を押して子供達の方に向かわせる。


「俺は、まだ料理の準備があるから、それまで子供達の相手を頼む!元気な子供の相手でもしてれば悩んでる暇なんて感じないさ」

「乱暴なのね……けど、今はアレクの言う通りにしてあげる。ありがとう」


 エレナはアレクに振り返ることなく、遊んでいる子供達の方へ歩いていった。

 アレクは料理を手伝いにバーベキューコンロの前で、串焼きをしているプラムの元に戻る。


「プラム……大丈夫か?」


 必死に串焼きをしていたプラムに、恐る恐るアレクは声を掛ける。


「大丈夫じゃないです!あの子供達は飢えた狼の顔をしてます!もっと肉を焼かないと、お客様をお待たせすることになってしまいます!主様もフラフラしてないで、手伝って下さい!!」

「あ……うん、すまんプラム」


 微妙にプラムに怒られたアレクは、それからバーベキューが始まる前に、必死に串焼きを仕上げるのであった。




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