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シルキーと座敷童子

 新たな拠点を求めていたアレク達は、住んだ者が不幸になるという噂がある、凋落ちょうらくの館で一晩過ごすことになる。

 そして、寝室を調べていたアレク達に得体の知れないものが襲いかかろうとしていた。

 アレクの探知スキルに引っかからずに、ベッドの下から這い出してきた長い黒髪の者は、髪を揺らしながらアレク達に近付いてくる。


 相手に気取られないように、自身の視界に入れていたアレクだったが……すぐに異変に気付く。

 かなりアレク達に近付いているのに、アマリアとキアは黒髪の者に気付いていないようだった。


(2人には見えないのか……あの黒髪の貞◯みたいなやつ。長い黒髪の女性の幽霊とか、まんまホラーの定番じゃん)


 アレクも2人と同様に黒髪の者を見えないフリをしていると、フラフラと近付いてきていた黒髪の者が自分の服のすそを踏んづけて転んだ……ふぎゃ!と小さく声を出して転んだ黒髪の者は、顔面から床にぶつかり動かなくなる。


(これは……罠……じゃないよな?しかも、今確かにふぎゃ!って言ったし)


 アマリアとキアは、引き続き何も見えてないし何も聞こえていない様子だった。

 そんな2人の前で転んだ黒髪の者は、ゆっくりと立ち上がると、衣服についた埃を払うように小さな手をパタパタと動かしていた。

 良く観察すると幼稚園児ほどの身長をしており、黒く長い髪の下に白い洋服が確認できる。


 そして、何事もなかったように声を作ってから、アレク達に向けて喋り始める。


「ふふふっ、私の姿が見えずに怖かろう?スキルで見つけようとしても無駄だぞ?そんな低俗なものが通じるのは下級の者だけだからな!」


 確かに黒髪の幼稚園児が言う通りに、アレクのスキルには目の前の子供の幽霊は、引っかかっていなかった。

 すると、黒髪の幼稚園児は見えていないのをいいことに……アマリアとキアに向かって、あっかんべーをしたり、お尻を叩いて挑発したりしていた。


 しまいには、余程アマリアが嫌いなのか……かなり強めにアマリアのお尻を叩いていた。

 急にお尻を叩かれたアマリアは、びっくりしてヒャ!と声を上げていた。

 流石に、これ以上放置していても得られるものは、ないと判断したアレクは黒髪の幼稚園児の襟首えりくびを掴むと、そのまま持ち上げる。


 黒髪の幼稚園児には驚くほど、重さというものが感じられずアレクは軽々と片手で彼女を持ち上げてしまう。

 急に捕まり持ち上げられた黒髪の幼稚園児は、手足をバタバタと動かし抵抗しながら声を上げていた。


「っ!!なんだぁー!なんで私を人が!?お前には私が見えてるのかぁ!?」

「あぁ、最初の登場から転けてたところも、声を作ってたのも、アマリアの尻を叩いてたのも、しっかり見てたぞ?」

「なぜだぁぁぁ!!私を見るだけでなく、捕まえるなんて……お前、普通の人ではないな!正体を現せぇ!化物めぇ!!」


 段々と黒髪の幼稚園児が、鬱陶うっとうしくなってきたので、アレクは昔に母親にやられたように最終兵器リーサル・ウエポンを発動する。

 かしずいたアレクは、ももの上に黒髪の幼稚園児の腹を乗せ、四つん這いにさせる。


 そして無防備になった黒髪の幼稚園児のお尻に向かって、手を振り下ろす。

 手のスナップを効かせ、スパァン!スパァン!!と容赦なく愛のムチを叩きつける。


「いたぁぁぁい!ちょっと、本当に痛いんですけどぉぉ!!や、やめてぇぇ!」


 その後も、黒髪の幼稚園児が反省するまでお尻ペンペンは続いた。


「ぐすっ……!ご、ごめんなざいぃぃ!!もう、イタズラじまぜんからぁぁ!」


 素直になった黒髪の幼稚園児に、アレクは子供の頃に母親がしたように優しく声をかける。


「いいかい?俺だって、ただ怒っただけじゃないんだよ?君のお尻が痛かったのと同じように俺の手も心も痛かったんだ……だから、もうお互いに痛い思いをしないためにも悪いことはしちゃダメだよ?分かった?」

「ぐすっぐすっ、分かった……」

「じゃあ、お姉ちゃん達にゴメンなさいしようね?」


 アレクが、アマリアとキアの方に視線を向けると異様なものを見る目で、2人ともアレクのことを見つめていた。

 そんな2人の前に突然、黒髪の幼稚園児が現れる。


「っわ!!」

「っ!!」


 アマリアもキアも、気配もなく突如現れた黒髪の幼稚園児に驚いていたが……泣いている様子を見て、アレクが何をしていたのか想像でき、優しい目で目の前の幼女を見つめていた。


「ほらっ、お姉ちゃん達に謝ることがあるんでしょ?」


 アレクが優しく幼女を黒髪の幼稚園児の背中を押してあげると、モジモジしながら幼女が話し出す。


「ぐすっ、イタズラして……ごめんなざいぃ!もう、じまぜんがら許じでぐだざい」


 泣きながら謝った幼女に、アマリアとキアは優しく言葉を返す。


「もう怒ってないから、大丈夫よ?」

「私も怒ってませんわ、良く謝れましたわ」


 そんな幼女の頭をアレクは優しい撫でると、力強い言葉で謝れたことを、褒めてあげた。


「良くちゃんと謝れたな、偉いぞ!俺も今さっきは怒ったりしてゴメンな?許してくれるか?」

「うん……私が悪がっだから……許じます」

「そうか、ありがとうな」


 こうして、凋落ちょうらくの館に取り憑いているとされる、子供の幽霊と出会ったアレク達は、ひとまず話し合いを始めることができるスタートラインに立つのであった。



 ===============================



 黒髪の幼稚園児が泣き止み、落ち着くまで待ったアレク達は、やっと彼女から事情を聞くことができるようになった。


「どうも……私……この家に憑いている……シルキーです」

「シルキー……って確か家事とかを手伝ってくれる妖精だっけ?」


 シルキーに関しての知識がなかったアレクが、黒髪のシルキーに質問する。


「はい……シルキーは長い年月を経て、家に出現する……妖精に近い存在です」

「シルキーは、家の家事を手伝ってくれる反面、気に入らない館主には、嫌がらせなどをすることもあると聞いたことがあるわ。けど、実物を見るのは初めてだわ」


 アマリアも、初めて見るシルキーに興味津々で頭を撫でたり、着ている白いフワフワしたドレスを触ったりしていた。


「今さっきまで、私達には姿が見えなくてアレクだけに見えていたのは理由があるんですの?」


 キアも初めて見るシルキーに興味が尽きないようで少し離れたとこらから、シルキーの様子を窺っていた。


「シルキーは館主以外には姿を隠し、触れられないようにすることができる能力があるので……この方が、私に触れられた理由については分かりません」


 落ち着いてきたシルキーは、不思議なものを見るようにアレクの顔を見つめてくる。

 シルキーと目があったアレクは、先程のシルキーの発言の中で、気になった箇所について質問を続ける。


「さっきシルキーは、自分のことを妖精に近い存在と表現したけど、厳密には何なんだ?」

「厳密に言えば“元精霊”という言うこともできます。身の回りに溢れる精霊が、家を依代として集まり、形を成し意思を持ったものがシルキーと言えるでしょう」

「“元精霊”か!それなら、俺がシルキーを見たり触ったりできるのも納得だ」


 そう言うと、アレクは胸元から精霊石の結晶を取り出してシルキーに見せる。

 それを見たシルキーは、驚きの声を上げた。


「げえぇ!!火の精霊様!風の精霊様まで!!わ、私は何て失礼を!?」


 シルキーは素早く精霊石に、ひれ伏すと石像の様に動かなくなる。

 何事かとアレク達がシルキーの様子をしばらく見守っていると、急にシルキーが顔を上げたアレクことを見つめてくる。


「アクレサンダー様、事情は精霊様達から聞かせて頂きました。何度も私達の生みの親である精霊様を助けて頂いたことに、心からの感謝を申し上げます。それと精霊様よりアクレサンダー様の力になるようにと言付けられました……そこで、お願いなのですか……この館の主人となって頂けないでしょうか?」


 勝手に話が進んで、混乱していると話を聞いていたキアが冷静な突っ込みを入れてくる。


「その前に確認した方が、いいことがあると思いますわ。この館に住むと不幸になるという噂があるんですが……それは本当ですの?」


 言われてみれば重要なことを、キアが指摘してくれたのでサムズアップして感謝を伝えておいた。

 キアの指摘に、シルキーは難しそうな表情を浮かべて詳しい事情を話し始める。


「私はシルキーの中でも、特殊な存在であることは確かです。黒髪のシルキーなどは私しか見たことはありませんし……確かに、この家に住んだ者を幸福にも不幸にもする能力が私にはあります」


 言われてみれば、日本人形のように黒く長い髪は、シルキーのイメージとは違うように感じる。

 白いドレスも白装束の様に見えないこともないし、前髪もぱっつんになっている。


 それからシルキーは自分の能力について、話し出した。

 向上心が強い者や一所懸命に働く者には幸福を運び、欲にまみれ努力を怠る者には不幸を運ぶという珍しい能力がシルキーの話した内容だった。

 その話を聞いてアレクは、聞き覚えのある話だと考えていた。


(あれ?この話、どこかで聞いたことがあるぞ?家に住み憑き……幸福と不幸を運ぶ……妖精……うん?これって座敷童子ざしきわらしじゃないか?)


 改めて考えてみるとシルキーと座敷童子ざしきわらしの共通点も多い。

 共に家に住み憑き、姿を隠すことできる、子供の姿をしており、イタズラ好き、西洋では妖精・日本では妖怪として語られていた。


(そう考えれば、この世界は前世の人々の願いによって生み出された世界なんだから、2つの伝承が混ざって存在していても不思議じゃないのかもな)


 そこまで考えが及ぶと、アレクは自分の中で答えを出しシルキーに答える。


「決めたよ!俺は、この館の主になる!」

「ちょっと!そんな簡単に決めて大丈夫なの?」

「そうですわ!もう、ちょっと慎重に考えてからでも――」

「いや、実はシルキーの能力に心当たりがあるんだ。俺の前世の伝承に――」


 それからアレクは、アマリア・キア・シルキーにアレクの前世の伝承である座敷童子ざしきわらしの話を聞かせた。

 シルキーは最初こそ、アレクの話に驚いていたが……途中からは異世界の話に目をキラキラと輝かせて、話を夢中で聞いていた。


 アレクの話を聞き終わると、アマリアとキアは、アレクがシルキーの特性を理解した上で主になると言っているのだと納得し、アレクの判断に賛成してくれる。


「ということで、これから宜しくなシルキー」

「うぅ……まさか私の事を、こんなにも理解してくれる方が主になってくれるなんて……本当に……嬉しいです。末長く、お仕えさせて頂きます……主様」


 こうして、新たな拠点を得ることになったアレクは次の日には不動産屋のディグルの元を訪れ家を購入することを伝えた。

 怯えたディグルは、何度も本当に家を購入するのかアレクに確認してきたが……アレクの意思は変わらず金貨2,000枚を即金で支払い、購入の手続きを終えたのであった。



 ===============================


 アレクの家で待機していたミカエラとエレナに、凋落ちょうらくの館であったことを説明した次の日から、アレク達の引越しの準備が始まった。

 引越しと言っても、必要品をアレクのアイテムボックスに入れて運ぶだけだったので、それ自体には時間は掛からなかった。

 部屋に置く家具の購入も、かつてアレクが回収業を行っていたときのコネで、色々なものを安く提供してもらい安価で済ませることができた。


 その一方、問題も発生していた……職人に館の古くなっている箇所の改修作業を頼もうと思っていたのだが……凋落ちょうらくの館の噂が思っていたよりも広まっており、職人が怖がって仕事を受けてくれなかったのだ。


 新たな館のリビングで1人、改修作業を自分でやるしかないかと、アレクが悩んでいると黒髪を揺らしながら、シルキーが何処からともなく現れる。


「主様どうされました?何かお困りですか?」

「うおっ!急に出てこられるとビックリするな……えっと、何だっけ?……そうだ!実は改修作業をする職人がいなくてな、困ってるところだったんだよ」

「改修作業ですか?簡単なものなら、材料さえあれば私が行えますが?」

「えっ?本当に?シルキーって、そんなことまでできるの?」

「シルキーは家の管理を主な仕事としておりますから、改修などもこなせますよ」


 心強いシルキーの言葉を受けて、風呂場やエントランスに地下室まで試しに改修してもらうことになった。

 アレクは各場所をシルキーと共に回り、要望を伝えて必要な材料をリストアップしていく。

 シルキーと2人でいてアレクは、疑問に思っていたことを聞いてみる。


「なぁ……シルキーって名前は種族名になるのか?」

「はい、主様。シルキーは種族名になります」

「名前とかないと不便だよな?」

「いえ、この家にシルキーは私だけですから、不都合はないと思います」

「そうかな?あと髪が長いの気にならない?」


 アレクの言葉を受けて、シルキーは自分の髪を手でサラサラと流していた。


「特に考えたことは、ありません」

「服装って変えられるのか?」

「主様が服と呼んでいるものは、私にとっては体の一部なので自由に変えることが可能です」


 そういうとシルキーは、服の色を白から黒にしたり赤にして見せる。


「それって俺の言った通りに服装を変えたりできるのか?」

「えぇ、それも可能です。手を繋いでいれば、主様の思い描いたものを感じ取って、変化させることもできます」

「へぇ〜じゃあ後で、やってみせてくらるか?」

「はい、構いませんが……今、なさらないですか?」

「あぁ、ちょっと用意したいものができたから夕飯の時まで待ってくれるか?」


 そういうとアレクは、最低限使えるようにした地下の鍛冶場へと向かっていた。





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