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アレク達と秘密の部屋

 ランタンに火を灯し、アレク・アマリア・キアの3人は地下室へと降りていく。

 “凋落ちょうらくの館”に泊まることになったアレク達は、キアが地下室と寝室に隠し部屋だと思われる形跡を発見したことで、日が暮れてからも館の調査を進めていた。


 地下室は3つあり、錬金が行える部屋・鍛冶を行える部屋・何に使うのか分からない部屋である。

 そのうち、キアが隠し部屋の形跡をみつけたのは何に使うのか分からない部屋だった。


 アレク達が部屋に入るとキアが微かに風の流れがある場所を指差す。

 それは何の変哲もない壁だった……アレク達が壁に近付きジッと壁を見つめる。

 すると、確かに壁の前だけ違う空気があるように感じる。

 アレクは、ランタンをアマリアに渡すと壁を触り、おかしなところがないか確かめる。


 グッと壁を押し込むと、壁が仕掛け扉がなっており奥の部屋に続く通路が現れた。

 アレク達は顔を合わせて通路を進んでいく、やがて通路の先に木製の扉がポツリと見えてくる。

 少し緊張した様子でアレクが、アマリアとキアには声をかける。


「扉を開けるけど……何があるか分からないから注意してくれ」

「了解っ」

「了解ですわ」


 先頭のアレクがランタンを持ち扉を開けて部屋に入り、次にメイスを持ったアマリアが続く、キアは短剣を腰から取り出して、すぐに行動できるように備えていた。

 探知スキルと【夜目】を発動しながら隠し部屋に入ったアレクの目に最初に飛び込んできたのは三角木馬だった。


(うっ……もしかして、拷問部屋か?大貴族とやらは、普通の貴族じゃなかってことか)


 アマリアとキアは、まだ暗闇に目が慣れていないようで不用意に動かないようにしている。

 詳しい状況を知るためにアレクが周囲を一通り見回ると次第に、この部屋が何なのか理解し始めるとアレクは、2人に声をかける。


「アマリア、キア……この部屋には大したものはないから、とりあえず部屋を出よう」

「ちょっとアレク!この部屋が何なのか、分かったの?分かったなら教えてよ?」

「そうですわ、何が気付いたことがあるなら正直に仰って下さい!」


 何かを誤魔化そうとするアレクに、アマリアとキアが部屋の正体について問い詰める。

 そんな2人の背中を押しながら、何かを隠すように1階までアレクは帰ってきた。

 不満気なアマリアとキアに、気まずい雰囲気を放ちながら、アレクは部屋の正体について教える。


「あれは、個人的な趣味の部屋だったんだ……重要な情報や役立つものもなかったから、詳しくも追及しないであげてほしい。2人が、どうしても知りたいなら説明するけど……聞いても楽しくない内容だから覚悟して聞いてね」

「個人的な趣味?そのためにあの部屋を作ったの?」

「全く話が見えませんわね?それは人族特有の文化ですの?」


 まだ疑問が解消されずにモヤモヤしている2人に、諦めた表情でアレクは語り始める。


「あれは特殊な性癖を持つ者の欲を満たすための部屋だよ……特に痛めつけられることに快感を覚える人が喜ぶ部屋だ」

「はっ?特殊な性癖?」

「痛めつけられることに……快感を覚えるんですの?痛いものは、痛いと思うのですが……人族には特殊な感覚器官があるのですか?」


 アマリアとキアの純粋な眼差しに、何故か罪悪感を覚えて、アレクは考えることを放棄した。

 アレクが部屋の中で見たものは、三角木馬・ムチ・荒縄・大きなロウソク・拘束具・首輪などだった。

 大貴族が隠し部屋まで用意して、道具を集めていたのだから、きっと大貴族の趣味だったのであろう……その証拠に拘束具などは男性のサイズで作られているようだった。


(大貴族様……なんて爆弾を残してくれてるんだよ!ちゃんと証拠品は処分しとけよな!それにしても、そういう趣味のやつは何処の世界にもいるもんなんだな……)


 かつて、変態の国と呼ばれた祖国を想いながらアレクは、ため息を漏らす。

 そしてアレクは仲間に、あの部屋の説明をしなければならなかったことに、何ともいえない恥ずかしさと悔しさを感じて、心の中で泣いたのであった。


 その後、気まずい雰囲気になったアレク達は残る寝室の隠し部屋に向かうことになる。

 何やらアマリアとキアがアレクを見つめながら、コソコソと話しているが……無視することにしてアレクは寝室に歩みを進める。

 この時、アマリアとキアが前世の記憶からアレクは色々な性癖に詳しい人物で、経験豊富なのではないか?と疑われていることを知る由もなかった。


 寝室に辿り着いたアレク達は、キアの感覚に従い風の動きを感じる場所を調べ始める。

 その場所とは、寝台の横にある古いドレッサーである。

 壁の一部として接着してあり、移動させることは不可能そうだった。

 かつて大貴族の愛人が使っていたものだろうか……今では色褪せて、かつての美しさを失っていた。


 3人でドレッサーの周辺を調べていると、アマリアがドレッサーの不審な点に気がつく。

 何度も鏡の位置を確認するとアレクに、気になる点を伝えてくる。


「ねぇアレク?このドレッサーの鏡……すこし傾いてない?」

「鏡が傾いてる?ちょっと見せてくれるか?」


 アマリアの言葉を受けて、アレクとキアが並んでドレッサーの前に立ち、ランタンで2人の姿を照らしながら鏡を見つめる。

 すると確かに、鏡が少しだけ左に傾いていた……何かドレッサーの足に下敷きになってるのかと思いアレクがドレッサーの右の足をランタンで照らす。


 すると、ドレッサーの右足の床に不自然な正方形のスイッチを発見する。

 アレクにスイッチの存在を2人に伝えると、思い切ってドレッサーの右側に体重をかけてみる。

 その瞬間、カチッと何が作動する音が聞こえると、ドレッサーの横の壁に人が1人通れるほどの隙間が実現した。


「行ってみるか……俺が行ってくるから2人は、ここで待機しててくれ」


 何かあった場合に備えて、皆で一緒に行動した際に狭い空間での戦闘は危険だと判断して、アレクは単独行動を提案する。

 しかし、心配性アマリアがアレクの単独行動を許してくれなかった。


「アレクが行くなら、私も一緒に行くわ。単独行動だと何があった時に困るでしょ?」

「なら、私は寝室で待機しておきますわ。アレクとアマリアで様子を見てきて下さい」


 アレクの意思を無視して、アマリアとキアの間で話し合いが済んでしまう。

 仕方なく2人に従うことになり、アレクは先に隙間へと入っていく。

 しかし、すぐに後ろからアマリアに前進するのを止められる。


「ちょっと……待ってくれる?アレク?」

「どうしたアマリア?」

「いや……その……胸と……お尻が……つっかえて……進めない……です」


 アレクが何とか振り返ると、そこには気まずそうに壁に挟まったアマリアが、涙目になりながらアレクを見つめていた。

 仕方なく中からはアレクがアマリアを寝室に向かって押し込み。

 外からはアマリアの手足をキアが、一生懸命に引っ張ることになった。


 余計なことに時間を取られたが……何とかアマリアを壁の隙間から救出することに成功したが……アマリアはショックで落ち込んでいた。

 そんなアマリアを見かねて交代したキアが、何の障害もなく壁の隙間へと入りアレクの後に続く。


 アレクは途中で、キアの舌打ちを聞いた気がしたが……決して振り返ることはなった。

 壁の隙間を3mほど進むと、そこは小さな階段となっていた。

 どうやら、寝室と隣の部屋の間にスペースがあるようで、階段は余裕で降りることができる。


 階段降り、地下の通路と思われる場所を進むと、やがて月明かりが差し込む所へと出る。

 そこは井戸の底のようで、アレク達の上には丸く切り取られた夜空があった。

 井戸の壁に沿って設置されていた梯子を登ると、そこは館の裏手の林に隠れるように存在する井戸だった。


 恐らく館に滞在している時に、襲撃されることを想定した、脱出経路だろうとアレクは考える。

 キアも同じことを考えていたらしく、アレクの顔を見るとボソリと呟く。


「変態貴族でも自分の命を痛めつけられるのは、嫌だったようですわね」

「…………そうですね」


 人族の性癖についてはエルフ族に報告するのだろうか?と真剣に悩み、今後のエルフと人族の関係に影響するようならキアに黙っておいてもらうことも必要かとアレクは考えるのだった。


 正門から館に戻ってきたアレクとキアは、寝室に待たせているアマリアの元に早足で向かっていた。

 流石に夜の呪われた館に女性1人を、置いておくのはアレクでも心配だったからだ。


 寝室に辿り着いたアレクが寝室の扉を、ゆっくりと開けると中から何が迫ってくるのを探知スキルで感じ、回避する。

 扉が開き切ると……そこにはアマリアがメイスを構えながら、こちらに迫っていた。


「うりゃぁぁぁ!このニセモノがぁぁ!」

「うぉ!危なっ!」


 アマリアのメイスを半身をズラし、ギリギリで回避したアレクが興奮した様子のアマリアを落ち着けようと、距離を取って話しかける。


「落ち着けアマリア!俺達はニセモノじゃないぞ!?」

「そうですわ、私達は仲間でしょう!?」


 そこにキアも加わり、アマリアを一緒になだめようとする。


「また、私を騙すつもりでしょ!?この性悪の幽霊がぁぁ!」

「とりあえず、落ち着けって!俺達はアマリアのことを騙したりしない!その証拠に、何が俺達だけに分かる質問をしてくれ!」


 興奮した様子のアマリアは、少しだけ落ち着きを取り戻すと、疑いの視線をアレク達に向けながら質問してくる。


「いいでしょう!では……初めてアレクを孤児院に連れて行った帰り道で、アレクが私に言ってくれた言葉は?」

「よりによって、それかよ……あーでも仕方ないか……えっと、俺1人じゃ無理そうだから協力してくれる?……アマリア、だろ?」


 子供の頃の思い出とはいえ、恥ずかしさで耳が赤く染まっていくのを感じながらアレクはアマリアの質問に答えた。


「そうそう!あの時は、初めてミカが自分から手を握ってくれた記念すべき日だったわね」

「おい!勝手に記憶改変するんじゃねーよ!握手してもらったのは俺がだろーが!」

「……その反応、確かに本物のアレクのようね」

「…………」


 確信を得たアマリアが、メイスを下ろしアレクへの警戒を解く。

 その様子を確認したアレクとキアも警戒を解いて、アマリアに向かって歩き出す。

 寝室に集まったアレク・キア・アマリアは、それぞれに自分が体験したことを話し出す。


 アレクとキアは、壁の隙間を抜けて脱出経路から館の裏手の林の井戸に辿り着き、そこから正門を通って帰ってきたことを説明する。

 アマリアは、その話を聞いて納得したように頷いていた。

 そんなアマリアにアレクが、1人で待ってる間に何があったかを問いかける。


「で、1人で待ってる間に何があったんだよ?騙されたとか言ってたけど……」

「もしかして、私達に変身したアンデットでも出たんですの?」

「いや、姿は見えなかったんだけど……1人で部屋で待ってると突然、扉の方から声が聞こえてきたの」


 アマリアは先程のことを思い出しながら、何があったかを語ってくれた。


「扉の方に意識を向けると、扉の外でアレクとキアが話している声が聞こえてきたの。私は2人が、隠し通路を通って帰ってきたと思ったわ……けど、2人の会話は止まることなくて、私のことを駄肉だとか!乳修道女だとか!悪口を言い始めたの!!」


 アマリアは、思い出して腹が立ってきたのか……プルプルと小刻みに震え、怒りを我慢していた。


「私も我慢できなくなって、勢い良く扉を開けたわ!……けど、扉の外には誰も居なかったの。警戒しながら寝室に戻ると、今度は子供の声が聞こえてきたわ」


(きはははぁ、のろまな牛が引っかかったぁ!今度は捕まえられるかな?)


「誰が牛よぉ!出てこいやーこらぁー!ってやってたらアレク達が帰ってきたのよ」

「それで俺達を疑ってたのか……そうだとしても、突然メイスで殴ろうとするのは、どうなんだ?」

「うっ……!でも、仕方ないじゃない!子供の幽霊だと思ったんだもの」


 しょんぼりするアマリアをキアが慰めていると、不意にアレクが持っていたランタンの火が消える。


「っ!!早くアレク!ランタン付けてよ!」

「流石に急に真っ暗になると何も見えませんわね……」


 焦るアマリアと冷静なキアを、【夜目】で確認しながらアレクは小声で話す。


(きっと、相手が何か仕掛けてこようとしてるんだと思うから、ここは騙されたフリをして相手を油断させよう。俺は【夜目】で、ばっちり見えてるから任せてくれ)


 アレクの言葉を聞いた2人は、適当に警戒をするフリをして見えない周りをキョロキョロと見回していた。

 一方、アレクは探知スキルもフル発動して相手の気配を探ろうと試みる。

 そんなことをしていると何処からともなく、子供の笑い声が聞こえてくる。


「きゃはははぁ!怖いでしょ?でも、貴方達は無事には返さない……想像出来ないほどの恐怖を刻み込んであげるわ」


 アマリアとキアは、大げさにビクッと体を震わせて怯えるフリを続ける。

 アレクも警戒するフリをして、一応ブロードソードを取り出して構えておく。

 何も探知スキルに引っかからずに、アレクが、どうしたものかと考えていると……何かがベッドの下から這い出してくるのを視界の端に捉える。

 アレクは相手に気取られないように自然と視界の中に入るように移動し、相手を観察する。


 そのベッドの下から這い出してきたものは、黒く長い髪揺らしながらアレクに近付いてくるのであった。



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