凋落の館
新たな仲間、錬金術師エレナを仲間に加えることになったアレク達《漆黒の魔弓》。
人数が増えたことで手狭になった拠点に代わり、新たな拠点を探すためにアレクは懐かしい人と会うことになった。
それはルシアとアレクの家を探す際に、お世話になった不動産屋のディグルである。
直接、ドォールムにあるディグルの不動産を訪れると、40代後半で相変わらず肥満気味のお腹を揺らし、額に滲んだ汗をハンカチで拭っているディグルと再会する。
ルシア・アレクと拠点探しをした時よりも、頭には白髪が増え歳をとったことを感じさせる。
「お久しぶりですアレクさん!活躍は、色々と聞いていますよ!いや〜あの小さかったアレクさんが今や、Bランク冒険者とは……月日が経つのは本当に早いですね」
「お久しぶりですディグルさん……あれから色々とありましたからね。それよりも、あの変わった喋り方は、やめたんですか?」
「あ〜あの喋り方は評判が悪かったので、やめました!それにアレクさんは私のことを知っていますし、こちらの方が話しやすいでしょ?」
「まぁ、確かに喋りやすいですけど……何だか違和感があるんですよね〜」
1番最初に会った時の印象が強く残っており、違和感を拭えないアレクだったが……気にしても仕方ないので違和感を無視して家の相談に入る。
「今回は6人以上で住むことになりそうなので、それなりの大きさの家を探してます。条件としては風呂場あり・錬金術の研究ができる・簡単な鍛冶ができる位でしょうか……あと予算は金貨3,000〜4,000枚くらいで考えてます」
「その条件だと、かなり家が絞られますね……分かりました!また調べてから、分かり次第アレクさんに、お知らせします」
ディグルから、そういう言われて3日ほど待っていると早速、候補の家が3つほどあると知らせを受けてアレク達はディグルの不動産屋へと向かうのであった。
不動産屋を訪れたのはアレク・アマリア・ミカエラ・キア・エレナの5人だった。
用があったカイン以外のメンバーが、家探しに同行し自分達の住むかもしれない家を、実際に確かめようとしていた。
皆のことをディグルに一緒に住むことになるパーティーメンバーだと、説明するとディグルさんはニヤニヤしながらアレクの脇腹を肘で、小突いてくる。
「いや〜アレクさんも隅に置けないですね〜これだけの女性を集めて囲うとは……やはりBランク冒険者となると器が違いますね!」
「えっ?囲う?」
「おっと、すみません。わざわざ言うまでもなかったですね!失礼しました」
ディグルの発言で、初めて外部からアレク達の関係が、どの様に見られているかを知ったアレクは、焦って仲間達に相談する。
「なぁ……皆、俺の恋人みたいな扱いになってるんだけど、大丈夫なのかなぁこれ?」
アレクの問いかけに女性陣が淡々と、答える。
「私は実際どうであれ、余計なちょっかいを出してくる者がいなくなるから問題ないわよ?まぁ……脳筋修道女とか言われてる間は、誰も声を掛けてこないけどね……」
「ぼ、僕は問題ありません!むしろ……い、いえ何でもないです!」
「私は、元々エルフとして身分を隠してますし、詮索されないためにも都合がいいですわ。それに……アレクが、どうしてもと言うなら……こ、恋人のフリをしてあげても良くって……よ?」
「私も身を隠すには、アレクさんと深い関係にある者だと思われれば……不審には思われないでしょう。貴族や有名な冒険者などの名声を得ている者は、色を好む者が多いと城で聞いたこともありますし」
皆、色々な考えがあるようだったが……総合すると問題ないとのことだったので、一緒に住むことは変わらずに話を進めることになった。
「あれ?ミカエラと、そういう噂が立つのは問題あるよな?けど……ミカエラが周囲から女だと思われてる場合は問題ないのか?」
ミカエラの真意を図りかねながら、アレクはディグルに案内され一軒目の家に到着する。
立地は王城に近く大通りに面しており、日当たりも良好で外観は茶色いレンガに覆われている。
内部見学をしたが……風呂場も綺麗で、錬金作業が可能な地下室もあった。
まぁ、鍛冶もできなくもないという感じであったが……1つ問題があったのだ。
「いい家なんだけど……狭いな……」
「狭いわね」
「ろ、6人が住むには、ちょっと……狭いと思います」
「狭いし、緑がほしいですわね」
「私は、この位の大きさの方が落ち着くけど……」
総合的に判断して一軒目は、狭いという理由で除外されることになった。
気を取り直してディグルが案内してくれた2軒目の家は正門近くに位置する大きな家だった。
外観は赤茶色のレンガで覆われており、少し色褪せが目立っている。
「こちらの家は、少し古いですが……大きさは十分だと思いますよ?」
ディグルは、そう言いながら内部見学の案内をしてくれる。
確かに家の中は広く、部屋数も多く風呂場も用意されていた。
しかし、いかんせん建物自体が古く耐久性に不安を感じる家だった。
キアの後に続き廊下を歩いていたアマリアだったが……床が抜けて足を取られていた。
「ちょっと!これは私が重いからじゃないからね!?床が腐ってたからだから!キアは軽すぎて踏み抜かなかっただけだから!」
床の他にも改修が必要な箇所が見られ、もし家を購入したら追加資金が掛かりそうだった。
「大きくて良い家なんだけど……ちょっと古過ぎるかな?」
「この家だけは、絶対に反対だわ!別に私が重くて床が抜けるからじゃないからね!!」
「い、家を直すのに、お金が多く掛かりそう……ですね!」
「ちょっと古いですわね、あと緑が足りませんわ」
「錬金の研究で失敗したら、家が潰れそう……」
耐久性と追加の金銭面が心配という理由から、2軒目も候補から除外されることとなった。
汗だくになりながら、ディグルが最後の家候補に案内してくれる。
3軒目の家はドォールム郊外にあり、広い庭付き2階建の洋館だった。
外観は白を基調としており、レンガも真新しく美しさすら感じさせるほどである。
アレク達が、おおぉぉ!と歓声を上げるほど立派で大きく新しく見える洋館だった。
しかし、アレク達の反応とは裏腹にディグルの表情は強張ったものになっていた。
ディグルを気遣いアレクが、訳を聞こうと声をかける。
「どうしたんですかディグルさん?もし気分が優れないなら、内部見学は後日でも大丈夫ですよ?」
「アレクさん……実はこの家は“凋落の館”として不動産屋の間で恐れられる物件……なんです」
「“凋落の館”ですか?」
「えぇ、その名の通り……この家に住んだ者は大貴族であれ大商人であれ、成功した者が住むと凋落してしまうという、恐ろしい館なんですよ」
それからディグルは、アレク達に実際に“凋落の館”で起きたことを順番に話してくれる。
王家に仕える大貴族が、愛人のために用意した館だったが……子供の霊を見たと愛人の女性が騒ぎ出してから、全ては始まったと言われてる。
霊を見たという愛人の女性は精神を病んでしまい、館の所有者であった大貴族も王家の世代交代の際に、他国と通じているのがバレて粛清された。
その後も、大商人が別荘代わりに館を購入してから商いが上手くいかなくなり失踪。
その後も不幸は止まることなく続き、この館は、いつから凋落の館”と呼ばれるようになっていったそうだ。
その話を聞いたアレク達は当然、嫌そうな顔をしながら洋館を見つめる。
「呪われた洋館は……ちょっとなぁ」
「一応、私達も冒険者として成功してると思うから対象になりそうね」
「こ、怖いのは……嫌です」
「呪われた洋館は嫌ですけど、緑が多いのは嬉しいですわ」
「子供の幽霊……アンデットでしょうか?」
そんなアレク達にディグルが申し訳なさそうに、ここ以外に紹介できる物件がないことを告げる。
「今のところ、アレクさん達の条件を満たす家は、ここだけです。ちなみに評判が悪すぎて元は金貨5,000枚だったのが、今では金貨2,000枚まで値引きされてます」
「それは金貨2,000枚払って人生を棒に振りたいやつなんていませんよね〜」
「えぇ、私もできれば館には近付きたいないと思っています。まだ、家族を路頭に迷わせたくは、ないですからね」
しかし、アレクは手狭な家に困っていたので、今すぐに家を手に入れたいとも考えていた。
呪われていることを除けば、条件にはあっている最高の物件でもある。
そして迷った末に1つの答えにたどり着く。
「ディグルさん、試しに1日だけ“凋落の館”に泊まることはできますか?」
「えええぇぇ!!泊まられるんですか!?何かあっても私は責任なんて取れませんよ!?」
「大丈夫です。何かあってもディグルさんに迷惑を掛けるようなことにはならないようにしますから」
何度も泊まるのを止めるように説得してくるディグルに、アレクは何度も説得を返した。
やがて、アレクの要望にディグルは折れ、館のカギを渡してくれる。
「……分かりました。アレクさんが、そこまで仰るなら館のカギをお渡しします」
そういうとディグルは、懐からカギを取り出しアレクに手渡す。
カギをお渡したディグルは、気を付けて下さいね!と念を押して館の前から去って行った。
アレクは、皆の方に振り返ると改めて館に泊まることを皆に伝える。
「ということで……俺は今日は、あの館に泊まることにする」
「アレク……短い付き合いだったけど、私は楽しかったよ!」
「ぼ、僕はアレクさんと一緒にっ――ンッーンッー!!」
「緑の多いことは幸せなことですわ、頑張って下さいアレク!」
「アレクさんに死なれると困るので……やっぱり考え直しませんか?」
ミカエラはアマリアに口を押さえられ、何かを言おうとしていたが……阻止されていた。
アレクは、2人ほど気に食わない者がいたので、無慈悲な宣告をする。
「ちなみにアマリアとキアには、俺と一緒に館に泊まってもらうからな?」
「はぁ?なんでよー!!なんで私が一緒に泊まらないといけないのよ!?」
「え?私もですの?」
文句を言い続けるアマリアとキョトンとしているキアに、アレクは理由を説明する。
「館にアンデットが出た場合は、対抗できるアマリアがいた方が助かる。あとキアは、俺の意思に従うとか言ってたのに家の条件に、ちゃっかり“緑が多いこと”を付け足そうとしてたから、その罰とエルフの優れた感覚を使って館を調べてもらうためだ」
「ええぇぇぇ、アンデットが出る館とか、嫌すぎるんですけどー!」
「っち!やはりバレてましたわね……仕方ありませんわ、エルフの優れた感覚を見せて差し上げますわ」
こうしてアレク・アマリア・キアは、“凋落の館”に一晩泊まることになり、残されたミカエラとエレナはアレクの家で待機することになったのである。
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泊まる準備・食事・風呂などを済ませたアレク・アマリア・キアは日暮れ前に“凋落の館”へと足を踏み入れる。
明るいうちに館の内部見学を済ませるためにと考えてのことだったが……館内は予想以上に綺麗に清掃されており、アレク達を驚かせる。
扉を開けるとアレクの視界に最初に飛び込んでいたのは、見事なエントランスだった。
綺麗な石の床に真っ赤な絨毯がひかれ、中央奥には2階に続く階段が設置されている。
階段の手すりの部分も、高級そうな作りになっており、過去に大貴族が愛人のために用意したという話も納得できるものだった。
その後も、暖炉が設置されたリビング、立派な魔石使用型の調理器具を有するキッチン、この時代には珍しい設備が整った風呂場など文句のつけようのない館であった。
部屋数も大寝室の他に8つ客室がある豪邸だった。
地下には錬金ができる部屋や、鍛冶ができる部屋に何に使うのか分からない怪しげな部屋まで用意されていた。
一通りの内部見学を終えたアレク達は、リビングで情報共有を行っていた。
「俺の方では特に探知スキルに、引っかかるものはなかったな」
「私の方でもアンデットなどが嫌がる魔法を怪し場所で使ったけど、特に異常はなかった思うわ」
「私の方は、いくつか気になる点がありましたわ。地下室と寝室に妙な空気の流れを感じましたわ。恐らく隠された部屋が存在するものと考えられますわ」
予想外の発見にアレクとアマリアが、驚きの声を上げる。
「おおぉ!こういう館に隠し部屋とか本当にあるんだな〜なんかワクワクするぜ!」
「えぇ!そんなの嫌な予感しかしないじゃん!封印されたアンデットとか、出てこないでしょうね?」
アレクとアマリアは、お互いの顔を見ると対照的な意見を持ったことで、なんともいえない空気を放っていた。
結局、泊まっているうちに両方を調べることになり、3人は揃って地下室に向かうのであった。




