不老不死
エレナが半ホムンクルスであることを知ったアレクは、彼女に自分達の仲間にならないかと、もちかける。
エレナは戸惑いながらも、自分がアレクの仲間になることできないと考え、不安材料になることを挙げていく。
「アレクさん、私の話を聞いていましたか?私は制御不能の化物です……皆さんに、これ以上迷惑をかけるわけには、いきません」
「それについてだけもエレナの話を聞いていて、気付いたことがある……エレナが暴走してしまう原因の1つは、異常増殖した細胞を発散させるためじゃないかな?」
アレクの突然の話にエレナは、耳を疑う。
「暴走の原因が、異常増殖した細胞の発散ですか?」
「あぁ、推測だけど……さっきの話だと自分以外の生物を摂取すると細胞が増殖し体積が増えるって話してただろ?なら生物の摂取を抑えて、定期的に触手を出して余分な細胞を切り離してやれば、いいんじゃないか?」
「それで触手の暴走は抑えられるというんですか?その根拠は?」
「これは例えだけど……人の体をコップに見立ててみると、細胞はコップを満たす水のように考えられる。容量を超えて水を足そうとすればコップの水は、どうなるかな?」
「それは……溢れますけど」
当然の答えをエレナが、アレクに返してくる。
「だろ?これと同じ事がエレナの触手でも言えるんじゃないのかな?」
「それは推測で、根拠にはないないと思いますが?」
エレナはアレクの申し出を否定するために、冷静に自分ことを分析する。
「なら、なんで今のエレナの状態は落ち着いてるんだ?それは、俺達が増えすぎた細胞……触手を処理したからじゃないのか?」
「それは……まだ分からないじゃないですか」
「なら、試してみよう。俺達と一緒なら暴走したとしても何とかできるし」
強引なアレクに、エレナは次の不安要素を話す。
「それに私には意識の混濁が見られます……いつまた自分を見失うか、分かりません」
「それについては、原因は複数考えられるな……精神的な原因は過度なストレスによる自己防衛、肉体的な原因は移植した強化変異体の拒否反応みたいなものかな?」
「ストレス?拒否反応?なんですか?それは……」
段々と混乱してきたエレナに、アレクは自分の前世について話し始める。
一緒にキアにも話を聞いてもらうことにしたが……2人は信じられない表情でアレクを見つめていた。
「――ということで、俺には前世の記憶が残ってるからエレナの状態が少しは分かるんだよ」
「そ、そんな突拍子もない話を信じろと言うんですか?」
「なんだ?信じないのか?それなら、この世界で知られていない人体の構造や器官の役割まで詳しく話せば信じるか?」
エレナはアレクから聞いた話を必死に理解しようとしているようだったが……まだ、その表情には迷いが感じられる。
正直なところ、アレクにも前世の常識を超えるエレナの存在は理解不能なものだった。
しかし、それでもエレナを化物として殺すことが、自分の中で納得できず強引にでも彼女を仲間に引き込もうとしていた。
「キアは俺の話、信じられないか?」
「いえ、信じますわ。エルフは人族の声色や仕草からでも嘘をついているか判断が、できますから」
アレクの話を肯定しながらも、アレクだけに分かるように意味深な目線を送ってくる。
(嘘はついてませんが……全てを正直に話しているわけではありませんわね?けど、アレクのことですから考えがあってのことでしょう?これは借りですわよ?)
(すまんキア!この借りは、そのうちに返す!)
キアとアイコンタクトで会話すると、アレクはエルフに向き直る。
「エレナ……ドミニクさんが君のことを、半ホムンクルスと呼んだ理由も分かる気がする。人の体の細胞は、分裂・再生を繰り返し約6年ほどで全て入れ替わると言われている。しかし、強化変異体を移植したためにエレナは、急激に細胞の入れ替わりを行うことになり、その変化に頭がついていけなかったんだと考えられる」
アレクの説明にエレナは、思い当たることがあるのか黙って頷いていた。
「だけど今のエレナは、完全に変異体として細胞が入れ替わり、安定した状態になっている……錬金によって作られた細胞により構成された存在、それが半ホムンクルスというわけだ」
「では、私は人ではないんですね」
「いや、エレナの半分は紛れもなく人だよ。それか、もしかしたら人よりも進化した存在かもしれない……」
アレクは自分の中にある知識を元に、エレナについて推測を話し続ける。
「本来なら、人の一生分の細胞の再生回数は決まっている。その回数に近づくにつれ、細胞は劣化し体も歳をとる。しかし、エレナの場合は何倍もの速度で細胞の分裂・再生が行われてるはずなのに、歳をとっているような様子はない」
「話が難しくなってきましたね……簡単に説明してもらえますか?」
「つまり簡単に言えば、エレナは不老不死である可能性がある」
「「………………えええぇぇぇ!!!」」
その場にいた全員が、あらん限りの大声を出して驚きを表現する。
「不死というのは、あくまで寿命で死ぬことがないって意味でね?まだ、詳しくは分からないけど……必要な分だけ生物を定期的に摂取して、増えすぎた細胞を処理すれば、長生きできるのは間違いないんじゃないかな?」
「私が……不老不死……それじゃあ本当に……化物じゃないですか」
涙を浮かべて俯くエレナに、アレクは別の考え方を提案する。
「確かにエレナは普通じゃない……この先には俺達が想像できないような、苦痛や孤独が待っているかもしれない。けれど、そんなエレナだからこそ出来ることもあると思うんだ」
アレクは力強くエレナの肩を掴むと、顔を上げたエレナの瞳を見つめる。
「例えばエレナの目的に合わせて新薬の開発とかが、いい例だろう。開発・治験・生産と膨大な時間が必要となることでもエレナなら、知識を蓄えて向かい合うことができる。その他にも世界を見て回り地図を作るとか、長年の冒険を本に残すとか、時間が掛かる環境事業に取り組むとかもありだな!」
「よく、そんなに色々と思いつきますわね」
キラキラと瞳を輝かせるアレクに、思わずキアが突っ込みを入れてくる。
そのキアを見つめると、更にアイデアが浮かんだのかアレクは喋り続ける。
「将来、長命のエルフと手を組んで、新しいことを始めるのもありかもしれないな」
夢を語るアレクに、エレナが戸惑いながら話し掛ける。
「まだアレクさん達の仲間になると、お答えすることはできません。けれど、私は生きていても……いいんでしょうか?」
アレクの話を聞いて、新たな可能性を考え始めてたエレナが、自らの存在について皆に問いかける
「いいんじゃないか?少なくとも俺はエレナに生きてほしいと思ってるし」
そんなアレクの答えに仲間達も、口々に自らの考えをエレナに伝えていく。
「俺は難しい話は分からなかったが、エレナさんが生きる目的があって、やりたいことがあるなら何の問題もないと思うぜ?」
「私はエレナに生きてほしいわ!友人としてエレナには幸せになってほしいもの」
「ぼ、僕も生きてほしいと思ってます!お姉ちゃんの友達なら、尚更です!」
「色々と言いたいことがありますが……人族寄りの方で長くお付き合いできる方がいれば、エルフ族としては助かりますわ!ということで是非、長生きして私達を助けて下さいね!」
アレク達の言葉を、聞き終わるとエレナは張り詰めていた緊張の糸が切れたのか……脱力しながら晴れ晴れとした笑顔を見せていた。
とりあえず話し合いが終わったアレク達は、エレナとアマリアをドミニクの家に置いて、後始末をするために実験体が管理されていた家から離れたところにある地下施設と向かう。
地下施設の実験体達は、ほぼ全てが何かに殺されており生きている魔物は、いなかった。
アレクが1つだけ、気になったのはブラックボアが入っていたと思われる檻が何者かに破壊された形跡があることだった。
(故意的に檻を壊した形跡がある……一体誰が……エレナがやったようには見えないんだが)
アレクはカイン達と使えそうな資料や道具を集めると地下施設に火を放つのであった。
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ベッドで身を起こしながらエレナは、アレクの言葉の意味を何度も考えていた。
この体になったからこそ、自分にしかできないことがある。
考え方、次第で色々な可能性があることを、アレクは伝えようとしてくれていた。
そんな風に考えてくいると、傍にいたアマリアがエレナに話しかけてくる。
「どうしたの?エレナ?もしかして、アレクの言ってたことを考えてるの?」
「うん……なんでアレクさんは、あんなに私を仲間に引き込もうとしたのかな?普通なら不老不死の者なんて化物として扱うか、良くても実験体くらいにしか考えないでしょ?」
「まぁ、アレクは普通の人とは違うとこがあるからなぁ〜前世で色々な可能性が記されたマンガ?とかアニメ?とかいうものを見てきたから大抵のものなら、あまり驚かないって本人は言ってたけど」
アレクが、どんな人なのか分からずに困っているとアマリアが過去の話をしてくれる。
それはアレクとアマリアが初めて出会った頃の話だった。
孤児院で、流行病が原因で多くの子供達が親を失ったことを知ったアレクは、冒険者見習いという立場でありながらも、多くの人々を救うために立ち上がった。
誰も知ることなかった病気の原因を調べ、将来に起こるであろう病気に備えて準備を進め、苦労しながら立場を越えて多くの人達の協力を取り付けた。
そこまで話すとアマリアはジッとエレナのことを見つめる。
「なに?」
「もしかしたら、アレクは自分に似てるからエレナを放っておけなかったのかもね……本人は無自覚かもしれないけど!」
「私とアレクさんが似てる?」
「うん、人のために一生懸命なところとか、1つのことに集中すると周りが見えなくなるところとか似てると思うよ」
アマリアの言葉で少しだけアレクに親近感を覚えたエレナは、アレクの仲間になることを前向きに検討し始めるのだった。
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そしてエレナの暴走から2日後、アレク達は再びドミニクの家に訪れていた。
エレナから仲間になる件の返事をしたいと、言われたからだ。
2日前と同じようにテーブルにつくと、エレナが正直な気持ちも話し始める。
「皆さん、返事が遅れてしまい申し訳ありません……ですので今日は仲間に誘って頂けた件の返事をしようと思います……私を皆さんの仲間に入れて下さい!まだ自分自身のことすら全く分かっていませんが……それでも、皆さんに助けて頂いた、この命を有意義に使いたいんです!」
緊張した様子で頭を下げるエレナは、不安そうに顔を上げてアレク達の様子を窺う。
そんなエレナをアレク達は、笑って迎え入れる。
「あぁ、これから宜しく頼むエレナ!」
「よろしくな!エレナさん!」
「よろしくね!エレナ!」
「よろしく、お、お願いします!」
「よろしく、お願いしますわエレナさん」
エレナも、憑き物が落ちたようにスッキリとした表情で皆に挨拶を返す。
「皆さん、よろしくお願いします!」
こうしてエレナを新たに仲間にくわえることになったアレク達は、エレナに必要品を確認するとドミニクの家から錬金術関係の資料や道具を回収してドォールムに帰還する。
その帰り道でカインがアレクにエレナの扱いと、これからの予定を聞いてくる。
「エレナは戦闘要員としてじゃなく、後方支援として扱うんだろ?とりあえずは、アレクの家に連れていくのか?」
「う〜ん、それなんだけど……うちで俺とキアとエレナで過ごすには少し手狭になると思うんだよなぁ。だから、皆に相談なんだけど……そろそろパーティーメンバーで住む拠点を用意しないか?」
アレクの発言で、最初に話題に食いついたのは意外にもミカエラだった。
「そ、それは僕もアレクさんと一緒に住めるってことですか!?」
「あぁ、ここにいる皆で住む拠点を考えてる」
「そ、それなら僕は賛成です!」
アレクは食い気味でアレクの提案を受け入れたミカエラの頭を撫でながら、他のメンバーの返答を待つ。
次に答えたのはアマリアとエレナとキアだった。
「いいんじゃない?私も教会よりも、アレク達と一緒にいた方が都合が、いいし賛成!」
「私は元々、選択肢がないのでアレクさんに従います」
「私も意見できる立場にないので、アレクの意思に従いますわ」
残ったカインは、少しだけ迷ってアレクの提案に答えた。
「俺は、すまないが……すぐに返事は、できない」
「あぁ、カインは家の都合とかがあるんだっけ?じゃあカインが、いつでも合流できるように拠点を用意しておくよ」
「すまないなアレク……」
半数以上の賛成により、アレク達は新たな拠点を探すことになった。
こうして、アレク達の新生活が始まることになったのである。




