救出作戦と お仕置き
エルフの里で暗躍するエルフ至上主義者らを、誘き出し捕らえることに成功したアレクがだったが……予想外の事態が起こり、エルフ至上主義者のリーダーである守護長ケレスの暴走を許してしまう。
追い詰められたケレスは、長老の家にエドアルを人質に立て籠もり、エルフ至上主義者の解放と里からの安全な脱出を要求してくるのであった。
アレク達はエドアルを救出するために、救出作戦の準備を進めていた。
今回の作戦の要となるのは、救出を担当するアレクと、陽動を担当するキアの連携だ。
アレクは【無の歩み】を発動して長老の家に侵入し、ケレスとエドアルがいる2階中央の部屋……執務室の扉の前で待機する。
そして、キアの弓による陽動にタイミングを合わせてケレスに奇襲を仕掛けてエドアルを救出する、これが大まかな作戦内容だった。
しかし、大きな問題も同時にクリアしなければならない……それは弓での攻撃をより正確に行い、ケレスの意識をできるだけ外に向けされなければならないことだった。
そこでアレクは、風の精霊から授かった風精霊の使徒としての力を使うことにする。
風精霊の使徒の効果は、風に対する絶対耐性と風の眷属から協力を得られる力だった。
風の眷属には姿はなく、攻撃も防御もできない、本当に唯の風である。
その代わり風精霊の使徒の目となり耳となり、高い状況把握能力を発揮することができる。
次に問題として挙げられたのが、襲撃のタイミングをどう合わせるかだった……アレクとキア、2人に不測の事態が起きた場合に状況を伝える手段がなかったのだ。
しかし、これはベラが解決の案を提示してくれる。
ベラが付けていた指輪を外すとアレクに手渡してくる。
「これは伝心の指輪と言って、2つ揃って効果を発揮する指輪です。それを装備すれば、短い距離なら念じるだけで会話することができます」
「伝心の指輪……じゃ片方は――」
アレクが言葉を言い終わる前に、キアが答えを教えてくれる。
「もちろん、私が片方の指輪を付けていますわ!」
そう言いながら左手の小指にアレクと同じ指輪をしているのを見せてくれる。
アレクも小指に指輪を装備すると、指輪の効果を試めすために会話しようと念じてみる。
(キア?聞こえるか?)
(えぇ、はっきりと聞こえますわ!これから、アレクが建物の中にいても意思疎通することが簡単にできますわ)
どれくらいの距離が有効範囲なのかと、実験してみると200mほど離れても念話するが可能だった。
ここまで作戦の内容を聞いていたカイン達から、いくつかの質問をされた。
「なぁ、伝心の指輪があるなら、アレクが探知スキルを使ってキアにケレスの場所を教えれば良くないか?風の眷属を使う理由が、分からないんだが?」
「カインそれは違うよ。エルフの里に来てから分かったけど……エルフは感覚が鋭いからなのか……探知スキルの発動を感知できるみたいなんだ」
アレクがキアに目線を送ると、キアは自分の体験したことを話してくれる。
「私達が初めてアレク達と遭遇した時に、何か違和感のようなものを感じてましたの。最初は気のせいだと思って、気にしていませんでしたが……アレクと一緒に冒険している内に探知スキルの発動によるものだと分かりましたわ」
「それじゃあ……」
「えぇ、鋭敏な感覚を持つ種族に対して探知スキルは、逆探知される可能性がありますわ」
それを聞いたカインは、先程のアレクの作戦を再度考え直し、風の眷属を使う意味に納得したようだった。
次に作戦に対しての質問してきたのは、アマリアだった。
「作戦の概要は分かったけど……肝心の陽動の成功率は、どうなの?ケレスの警戒心を外に向けさせられる攻撃でなければ、アレクが突入しても無駄になってしまうでしょ?」
少しキツい言い方になってしまっていたが、冷静に作戦を考えていたアマリアだからこその言葉だった。
「それに関しては、キアが詳細を話してくれるから聞いて欲しい、頼むキア」
「はい、今回の陽動では私の弓スキルの奥の手……【風の道】を使いますわ!」
「【風の道】?聞いたことないスキルね。どういうスキルなの?」
「アマリアが聞いたことがなくて、当然だと思いますわ……この【風の道】は、エルフの中でも使える者が限られるスキルですから。簡単に説明しますと……風の魔法の力を借りて矢の通り道を作り、長距離の場合や遮蔽物が多い場合に、目標までの邪魔な物をすり抜けながら射抜くことができるスキルですわ」
同じ弓使いであるアレクの【雷鳴弓】と対極にある技である【風の道】。
アレクが【雷鳴弓】が攻撃力と貫通力を極めた剛の技であるなら、【風の道】は障害物を躱す柔のための技だった。
「私もエドアル様の執務室内の配置は、覚えていますから……アレクのサポートがあれば必ず作戦も上手くいくはずですわ」
「そんなスキルが扱えるなんて……改めて考えるとキアって、かなり有能よね?」
「あら、今更気が付きましたの?私は戦力としてはエルフの中でも、かなり上位でしてよ?」
「あ〜ほら、ウチにはアレクがいるから色々と感覚が麻痺してるんだよね〜」
「それはアレクと比べれば、見劣りするかもしれませんが……私だって――」
話が違う方向に進み始めたので、アレクが作戦について話を戻す。
「あとは細かい準備が終わり次第、作戦開始となる。時間的に考えても日が暮れる前には、決着をつけなければならない!皆、全力を尽くしてくれ!」
「「了解!」」
こうしてエドアル救出作戦が開始され、アレク達は動き出した。
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守護に包囲されている長老の家の四方にカイン・アマリア・ミカエラ・ベラが待機して、エルフ至上主義者の残党の奇襲を警戒し、正面にはキアが守護の指揮を執っていた。
長老の家の裏手には【無の歩み】を発動して、自らに消臭薬を振りかけているアレクが待機していた。
ベラからの進言もあり、念には念を入れて錬金で作り置きしてあった消臭薬を自らに使用したアレクが作戦開始を念で、キアに伝える。
(こちらは準備完了だ、作戦を開始する)
(了解ですわ、アレク……気を付けて下さいね)
(分かってるさ、そちらも宜しく頼む)
長老の家の裏口から侵入したアレクは、風の眷属に命じて家の中を探らせる。
念入りに調べたが……2階の執務室以外に生物の反応は発見できなかった。
しかし、代わりに2階に上がる階段付近に隠蔽された魔法の反応を見つけることができた。
その他にも簡単な魔法のトラップが仕掛けられていたが……風の眷属により場所を正確に把握しながら先へと進んでいく。
裏口から廊下を進み、素早く階段の下まで移動すると階段中腹から2階に上がる。
階段を上りきったところにある魔法のトラップを回避して、執務室の前まで辿り着いたアレクは、少し緊張しながも部屋の中に風の眷属を送り込む。
執務室の中には布で手足を縛られたエドアルと壁に寄りかかっているケレスがいる。
それと執務室の扉の下に魔法のトラップが仕掛けてあり、無理矢理に突入すれば引っかかっていたところだろう。
そして幸いなことに窓は微妙に開いていており、矢1本ほどの隙間が存在していた。
ケレスの位置と窓からの角度を計算しながら、アレクは伝心の指輪を使用する。
(キア、聞こえるか?)
(はい、聞こえてますわ)
(こちらの状況とケレスの位置を伝えるから、部屋の中を想像しながらきいてくれ)
アレクはキアに、入口に魔法のトラップが仕掛けられていること、エドアルが縛られて動けないこと、ケレスの位置などを伝える。
キアは何も言わずに頭の中に執務室のイメージしているようで静かにアレクの報告を聞いていた。
(大体の事情と想像は、できましたわ!けれど、私の方は問題なく作戦に入れますが……アレクの方の魔法のトラップは、どうするつもりですの?)
(それなら、思い付いたことがあるから作戦に変更は、なしで頼む。あと頼みたいことがあるだが……)
最後の連絡を終えたアレクは、突入の合図となるキアの弓から矢が放たれる瞬間を待つのであった。
アレクからの最後の連絡を受けて、あとは自分の弓での攻撃が全ての始まりになることを意識して、キアの体が微かに震えた。
いつもの魔物との狩りとは違い、今回は自分の矢1つに長老の命が掛かっていると思うと精神的な圧迫感で吐き気がする。
(このまま恐れても状況が良くなるわけではない!しっかりしなさいキア!!)
自身に喝を入れ、背負っていた弓を構える。
矢筒から矢を取り出し、呼吸を整えながら集中力を高めていく。
アレクから渡されていた薬を鏃に塗ると弓に矢を継がえる。
「【風の道】」
見えない風が優しく流れると長老の家の窓へと伸びていく。
実際に見えない分、執務室をできるだけ明確にイメージしながら矢の軌道を描いていく。
スキルを発動し終わると、一呼吸してキアは弓を引き、鏃の先に執務室の窓を捉えながら矢を放つ。
そしてキアの弓から放たれた矢は放物線を描きながら、鋭く窓に向かって飛んでいった。
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ケレスは絶望的な状況に焦りを抑えられずに、執務室の壁に寄りかかりながら、落ち着かない様子で腕組みをしていた。
常にトントンと人差し指を動かし、ケレスの要求に対する答えを待っていた。
(えぇい!遅すぎる!何をしているのだ……キアとベラは!?)
回答がないことに苛立ちを感じながらも、ケレスは自身の行動にも後悔していた。
咄嗟に決定権がある長老を人質にとったことで現在の非常時の決定権はキアとベラに移っていた。
そんな2人が、すぐに交渉することができる態勢を整えられるはずもなく、今現在も守護にも目立った動きは見られていない。
(人質にするのであれば、ベラにしておけば……いいや、私が警戒されていた時点で人質などと言わずに逃亡することを選んでいれば!)
己の行動の全てが間違いだったと考え、先も分からない閉塞感にケレスは頭を抱える。
そんなことを考えていると、そよ風が窓から流れ込んでくるのを感じて、ケレスは俯いていた顔を上げる。
(なんだ……風か……)
そんなことを考えていたケレスだったが……自分の中で何か引っかかるものがあり、窓の方をジッと見つめながら考える。
気のせいだったかと思い、視線を動かそうとした次の瞬間!矢が部屋の中に飛び込んでくる。
予想外の攻撃にギョとして、体が固まるが……長年の狩人の勘で、矢の軌道を瞬時に読み切る。
矢は自分の手前のソファに当たり、自分までは届かない……そう判断する。
一瞬、気が緩んだ瞬間、矢の軌道がソファに当たる前にはポップアップして、まるで自分を狙っているように向かってくる。
(キアか!!)
こんな芸当をできる人物など、エルフの中でもキアしかいないと思いながら、必死に体をよじって矢を回避しようとするケレス。
「っ!!」
ケレスは自分の心臓めがけて飛んできた矢を、辛うじて回避してみせる。
しかし、身をよじった際に脇下から背中に掛けて、かすり傷を負ってしまう。
キアからの第二射を警戒していると、“ドォン!!”と大きな音と共に執務室の壁が細切れになり吹き飛んだ。
飛んできた木片から身を守っていると、何かが物凄い速度でケレスの傍を通り抜けていく。
(今度は何だっ!!魔法による攻撃か!)
混乱しているケレスが、次に目にしたのは美しい翡翠の剣を片手に持ち、空いた片手で長老を担ぎ上げるアレクの姿だった。
「貴様ぁ!どうやってここまで来たぁぁ!」
あまりに混乱したケレスは、無意味な質問をアレクに投げかける。
「普通に裏口から失礼しました。それと長老は、こちらに返してもらいますね?」
ケレスの問いに丁寧に答えたアレクは、自然な動作で窓の方に歩いていく。
アレクに担ぎ上げられた長老を、まるで荷物のように扱い、ケレスが言葉を発する前に窓の外に“ポイッ”と放り投げる。
「な、何を!?」
助けに来たはずの長老を2階から放り投げたアレクは、何事もなかったようにケレスに向き直る。
「これで守るものもなくなったことですし、さっさと終わりにしますか!」
ニコニコしながら、ケレスに近付いていくアレクに、ケレスは素早く剣を取り出し戦闘態勢に入る。
ここまで、追い詰められたことで開き直ったケレスは、せめて最後にアレクを道連れに死のうと覚悟して特攻を仕掛けてくる。
「おおぉぉぉ?」
雄叫びを上げながら突撃したつもりが、体が思うように動かずに、その場にへたり込んでしまう。
訳も分からず混乱しているケレスに、アレクが冷たい笑顔で語りかける。
「あぁ、ようやく麻痺毒が効いてきたみたいですね!本当にキアは優秀な狩人だ。先程あなたが受けた矢には麻痺毒の薬が塗ってあったんですよ……まさか本当に矢を当てるとは思ってなくて正直、驚きました」
へたり込んで動けないケレスに視線を合わせると、アレクは冷たく言い放つ。
「俺を狙ったことは、まぁいいでしょう!あのくらいでは死ぬことはありませんから。けど……同族であるキアを狙ったことは許せませんね〜だから、少しだけお仕置きしますね?」
ケレスの前に立ったアレクは、【威圧】を発動するとケレスに向けて殺気を放つ。
【威圧】によって強化されたアレクの殺気を、真正面から受けたケレスはガクガクと震えながら徐々に目の焦点が虚ろになっていく。
気絶しないギリギリのラインで殺気を放ち続けていたアレクだったが……ケレスが失禁し始めた辺りで一気に殺気を放って気絶させる。
「よし!お仕置き完了っ!」
人知れずアレクから、お仕置きを受けたケレスはキアやベラが執務室に駆けつけた時には、失禁し泡を吹いて倒れていた。
2人が、どんな聞いても何をしたか教えてくれなかったアレクだったが……後から話を聞いたカイン達はケレスがアレクの逆鱗に触れたのだと理解し、苦笑いしていた。




