拠点と錬金術師
本編で書くと邪魔なので、こちらに
貨幣の種類と日本円換算を
書いておきます。
鉄貨 1枚 → 10円
銅貨 1枚 → 100円
銀貨 1枚 → 1,000円
金貨 1枚 → 10,000円
大金貨 1枚 → 100,000円
白金貨 1枚 → 1,000,000円
金額設定などは、雑な所がありますので
ご了承下さい。
冒険者ギルドで登録を終えた次の日
ルシアとアレクは冒険者ギルドから
紹介してもらった不動産屋に拠点となる
候補の家を案内してもらっていた。
「師匠、いつ間に拠点の手配とかしてたんですか?」
「うん?昨日、ぼーやが冒険者の説明を
受けてる間に拠点を紹介してくれる人の
手配を頼んでおいたのだよ」
(褒めてもいいのだぞ?みたいなドヤ顔で
師匠が見てくるので一応、褒めておく)
「さすが、師匠は出来る女性ですね。
弟子として鼻が高いですよ!」
(微妙に師匠を下にみた言い方をしたが
本人は気付いていないので大丈夫だろう)
現在は、大通りを少し外れた裏通りで
紹介人のディグルさんとルシアとアレクが
並んで歩いていた。
不動産屋のディグルさんは
40代くらいの男性で肥満気味の憎めない
感じの人だった。
「あの〜ギルドから紹介して頂きました。
ディグルと申します。本日は、あの〜
よろしく、お願いします。はい」
最初の挨拶からインパクトが強い人で
話しやすい雰囲気をしていた。
今日は、ネコ被りモードではない師匠が
条件をディグルさんに確認していた。
「住むのは2人で家は、そこまで大きく
なくていいが錬金や作業できる部屋が
別であるのが良いな」
「なるほど〜作業部屋が複数とある家が
ご希望ですね〜はい」
「それと風呂場ありでキッチンは
こだわりとかないし最低限でいいからな」
「風呂場ですね〜はい、あとは〜
キッチンは最低限でいいと〜」
(良く、この2人会話が成立するよなぁ
師匠がマイペースなのかディグルさんが
図太いのか分からんが俺の出番はないな)
拠点の条件を満たした場所があったのか
アレクの前を2人が、どんどん歩いていく。
暫く歩いていると目的地に着いた
ようで1つの家の前に3人は立っていた。
「条件に合いそうな家ですと〜はい
こちらなんて、どうでしょう?」
「外観は……隠れ家っぽくて私は好きだぞ」
師匠が、とりあえず気に入ったようで
ニコニコしていた。
「はい〜中へどうぞ」
ディグルさんが家の中に案内してくれる。
「元々は画家の方と〜その家族が住んで
いたのですが〜大きな家に引っ越されたので
こちらが売りに出されましたね〜はい」
建物自体は2階建てで地下が1階ある家だった
部屋数も、意外と多く小さいながら風呂場も
用意されており。条件にも合っている。
(問題は、値段だよな?いくらだよ……)
自分が払う訳ではないのに生きた心地が
しない。
「よし、ここで決めるとしよう」
軽い返事で決定してしまう師匠。
「師匠!さすがにお値段を確認してから
決めましょうよ!!」
慌てて師匠を制止する。
「む?そういうものか?私はいくらでも
構わないが?」
(ダメだ……この人……金銭感覚が崩壊してる)
「ディグルさん、この家のお値段を教えて下さい!」師匠との会話をぶった切りディグルさんへ話を振る。
「はい〜こちらの物件は、白金貨20枚に
なります〜はい」
(日本円で2,000万円とか、やっぱり
大金じゃないか……師匠そんなことを
簡単に決めすぎだよ!)
アレクが、お金の件で1人ハラハラと
していると師匠が背を向けて何かを
している。
「では、これで」
ポンッと小袋をディグルさんに手渡す師匠。
「え?これは……!はい、確認させて頂きます!」
即金で払ってもらえると思っていなかったのか
ディグルさんが手渡された小袋の中身を見る
と慌てた様子で白金貨の枚数を数え始める。
(ディグルさん、口調が普通になってますよ?っていうか、あれはキャラだったのかよ!)
ディグルさんは、白金貨を数え終わると
笑顔になり待っていたルシアとアレクに
一礼すると家の鍵を懐から
取り出してルシアに手渡した。
「白金貨は、間違いなく確認致しました。
こちらが家の鍵になります。もし家財道具で
必要なものがあればご相談下さい。可能な
ものであれば、手配させて頂きます」
できる商人は、チャンスを逃すことなく
そこから更に利益を上げるというが正に
ディグルさんも同様にできる商人だったようだ。
師匠は、そんなことは気にするようすもなく
ベッドやらソファなど必要なものを
追加で手配を頼んでいた。
ディグルさんがニコニコしながら
家を去った後、残された俺と師匠は
分担して拠点の整備に当たることになる。
「ぼーやは、拠点の掃除をしておいてくれ。
私は食器やら必要な生活用品を揃えくる」
「分かりました。師匠、一緒に掃除道具も
買ってきてもらえると助かります。家にある物だけでは大変そうなので」
それから、1日をかけて掃除と家具の配置を
変えたりバタバタと過ごした。
新しい拠点は、1階はリビングとトイレや
風呂などの共有スペースとして使い、
2階は個室にベッドなどの家具を置いた。
地下室は、師匠が錬金の実験室として
使用することになった。
拠点の管理は、弟子であるアレクが行い
師匠はリビングのソファでくつろぎながら
「私は何もしないぞ?師匠だからな?」と
大人気ないことを言っていた。
元々、養ってもらっているようなものだから
不満はないが……師匠のことが色んな意味で
心配になる。
数日間は、拠点の整理や王都内の散策をして
必要なものや情報を集めていた。
武器屋、魔道具屋、装飾店、衣服屋、
酒場、薬屋、教会、様々な場所を訪れ
王都の生活様式についても知れた。
王都は、中世ヨーロッパのような街並みだが
魔法……正確には魔道具により独自の文化を
築いている。水道なども魔道具で1日10ℓ
くらいなら水が出るし下水道も整備されている。
魔道具で火が起せるコンロの様な物もある。
こちらは一般家庭では珍しくキッチンでは
釜を使っていることが多いようだ。
風呂場では、師匠が小屋で使っていた
シャワーが存在していただけだったが
貴族などの裕福な家庭では湯船なども
用意し魔道具で湯を張るらしい。
拠点には、シャワーしかないので
いつか自分お金で湯船を買いたいものだ。
あと地下室では師匠の驚くべき秘密について
知らされることになった。
拠点を手に入れて3日のことだった。
地下室でアイテムボックスから道具を
取り出していくルシアと、それを言われた
場所に運んでいくアレク。2人で作業して時
に
アレクは気になっていた事を質問した。
「師匠、前から気になってたんですが……
【錬金】のスキルって錬金術師の職業専用スキルじゃないんですね。意外ですけど」
すると師匠は、それを否定した。
「いや、【錬金】は錬金術師の専用スキル
だぞ?勉強不足だな、ぼーや」と言われてしまう。
「はっ?でも、師匠は魔法士ですから
それだと、ここの錬金道具とか使いこなせないのでは?」
2人の会話が、全然噛み合わないことで
微妙な空気が流れる。
何か閃いたように師匠が答えを出した。
「あ!そういえば、ぼーやには言ってなかったか?私は、魔法士と錬金術師のマルチジョブ使いなのだよ!」
「はっ?なんですか?!それ!!どんだけ
多彩な才能を持ってるんですか?!」
いつもの師匠の突然の爆弾投下に目眩がする。
「いや〜でも、マルチジョブは大変なんだぞ?
2つの職業を修めるのは
時間的にも労力的にも効率が悪いからな」
師匠の説明によるとマルチジョブは
1万人に1人くらいはいるらしい。
けれど、組み合わせが悪かったり
職業を2つ分、極めることは
難しいので大抵の人は1つに絞っている為
マルチジョブ持ちは、普通の人と大差ない
との事だった。
「はぁ〜、どうりで錬金の道具が多い訳ですね。納得しました……」
疲れたように声に元気がなくなっていく。
(師匠が、凄すぎて自分のことが矮小に
思えてくるよ本当……)
そんな、こちらの様子を知ってか。師匠は
元気に声を掛けてくる。
「まぁ、師匠が大したことないよりは
いいだろう?ぼーやにも錬金を教えてやるから元気を出すことだ」
こうして衝撃の事実を知らされ師匠との
新生活がスタートしたのである。