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トレント初戦闘

 エルフの里からのトレント討伐の依頼を受けたアレク達《漆黒の魔弓》は、討伐のための準備を進めていた。

 聖域の森への案内としてキアとベラが同行することになり、戦闘に入った際の陣形や攻撃手段などを確認するために昨日、模擬戦を行った地上の訓練所にきていた。

 朝からアレク達とキア達で、お互いの武器や役割を確認していき、連携なども問題なくできるように練習した。


 キア達を加えた陣形では、前衛をアレク・カインが担当し、中衛にキア・アマリアを担当、後衛にベラ・ミカエラの順番で並んでいた。

 キアとベラには、弓で援護をしてもらうことになっていたが……実際、瘴気がエルフ達にどの程度影響を与えるか不明のために待機してもらうことになっていた。


 それに対して、キアは不満そうだったが……アレクが、“今回は一応、俺たちが依頼を受けた形だからキアとベラは、無理しないで俺達を援護してくれ”という言葉に渋々、従ってくれた。

 こうして臨時ではあるが、人族とエルフ族のパーティーが完成し、風の精霊の聖域に向かうことになった。



 ===============================



 エルフの里に到着してから、4日目にトレントが凶暴化している聖域への森に向かい冒険を開始したアレク達は、キア達に案内され大森林を突き進んでいた。

 聖域への森は、エルフの里から2日の距離にあり……大樹が立ち並ぶ景色から、徐々に普通の木々が生い茂る景色に変わっていく。

 次第に足場も平坦なものに変わると、急に濃霧が発生しアレク達の行く手を阻む。


「おい、アレク!この濃霧は不味くないか?一旦、前進するのを中止して様子見を――」


 先頭を歩いていたカインが横にいるアレクに、提案しようと話し掛けたところ、突然背後から魔法が発動する。


「【ウインド障壁・バリア】」


 すると、アレク達の周りに緩やかな風が吹いたと思うと……アレク達がいる一帯の濃霧が晴れていく。

 自然と魔法を発動した張本人に視線が集まり、皆から見つめられたキアがドヤ顔で、平坦な胸を張る。


「どうですか?エルフの魔法にかかれば、濃霧など恐るるに足りません!さぁ!皆さん、進みましょう!」

「あのな〜、キア!いきなり、魔法を発動したりすると周りが驚くだろ……せめて緊急でなければ、一声掛けてくれ」


 リーダーとしてアレクがキアに注意すると……良かれと思ってした事が裏目に出てしまい、ドヤ顔だったキアが、みるみる落ち込んでいき俯いてしまう。


「でも……、濃霧の中でも問題なく進めるのは助かるよ。ありがとう……キア」


 アレクがフォローを入れて、感謝の気持ちを伝えると、たちまちキアの表情が明るくなり“パァー”と花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 そんな様子を見ていたアマリアとベラが、アレクとキアのやりとりについて話していた。


「いや〜姉さんってば、すっかりアレクさんに調教されてますね〜。っていうかアレは、もうアレクさんに惚れてますね〜」

「やっぱり模擬戦の一件が、原因かしらね?そんなにキアは、強い人が好きなの?」

「ずっと、恋人にするから自分よりも強い人が良いって言ってましたから、それもあるかと思いますけど……何よりアレクさんの雰囲気が好きなんじゃないんですかね〜」

「アレクの雰囲気?大人っぽいとかそういうところ?」


 ベラは、静かに頭を横に振るとエルフのことについて語りだす。


「私達エルフは、前の世代から人族は野蛮で欲深い生き物だと言われて育ちました。前の戦争では人族の行動は目に余るものがあったかららしいですけど……だから、最初にアマリアさん達が結界を抜けてエルフの里に侵入してきた時……正直な話、人族がエルフの里に侵略しにきたと考えたほどです」

「………………」

「けど、今は最初に接することができた人族が、アマリアさん達で良かったと思ってます。あなた方は、冷静で賢く優しい方々だ……特にアレクさんは読めないところは、ありますが……エルフに対して好意的です。私達の考え方や文化を積極的に理解しようとしてくれます」

「確かにアレクは、好奇心が強くて興味を持た物や人に積極的に、絡んでいくからね〜。それに異種族であっても差別しようという、考え方自体がないみたい」


 アマリアは、今からベラに言ってもいい事なのかを少しだけ考えると、口を開く。


「本当は、私……エルフを初めて見た時、かなり怖かったの。人族よりも身体能力が高そうだったし、人族のことを見下してるんじゃないかと思ってわ」

「それは……!いえ、否定できませんね……エルフの中でも、身体能力や感覚が優れているエルフこそが、至高の種族だと考えてる者はいます」


「それでね、アレクにエルフのこと怖くないか聞いてみたの……そしたら、“自分よりも優れた能力を持つ者に恐怖を感じるのは仕方のないことだ。異種族なら、なおそれが顕著けんちょになることも理解できる。けど……何も知らないうちから決めつけるのは良くない!色々と相手のことを知った上で、どうするかを決めるよう”言われたわ」

「姉さんは、アレクさんのそういうところを好きになったのかもしれませんね……」

「そうかもね!人族とかエルフとかじゃなく対等な相手として接してくれて、種族の違いも理解しようとしてくれる人だからキアさんもアレクに惹かれたのかな?」


 ベラとアマリアで、仲良く話していると後ろで話を聞いていたミカエラが、思い切った話を振ってくる。


「お、お姉ちゃんはアレクさんのことをどう思ってるの?やっぱり、1人の男性として好きなの?」

「おっ!ミカエラ君、お姉ちゃんに思い切ったことを聞くのね!ほらほら、お姉ちゃん!弟さんが質問してますよ?」


 少し、からかいながらベラがアマリアを問い詰めると、意外と落ち着いた様子で返答してくる。


「好きではあるけど……男性としてではなくて人としてね!それに……アレクに関しては何があっても支えになりたいって、気持ちの方が強いかな?」

「そ、そうなんだ……ふ〜ん……」

「ミカは、好きな子とかいないの?孤児院でも、あまり他の子と接触してなかったみたいだけど?」

「ぼ、僕にそんな子いないよ!」

「そう……もし、そんな子ができたら、すぐにお姉ちゃんに紹介しなさいよね?私が直々にミカに相応しい子か、試してあげるから」


 さも当たり前に、ミカの恋人を試す気でいるアマリアに対して、ベラが物申す。


「人族では、そんなに姉弟で過保護なのが普通なの?エルフでは、そんなことはないのだけれど……」

「い、いえ、たぶんお姉ちゃんが特殊なんだと思います……」

「そうなの……貴方も苦労してるみたいね〜私も少しだけ貴方の苦労が分かる気がするわ」


 種族を超えて姉弟・姉妹の共通の苦労を分かり合えたベラとミカエラは密かに仲を深めるのであった。



 ===============================



 聖域への森に入ったアレク達は、濃霧に包まれながらもキアの助けもあり、順調に歩みを進める。

 やがて、濃霧が晴れてくる頃にはトレントが生息しているエリアに到達した。

 アレクの目の前には、一見ただの木にしか見えない枯れ木が佇んでいる。

 しかし、魔力探知には明確に魔物の反応が存在していた。


 まずは、どの程度の強さなのか調べるために、前衛であるアレクとカインが攻撃を仕掛けることになった。

 アレクはラグトゥスソードを装備し、カインは様子見をするために直槍“銀羽”を装備するとトレントに攻撃を仕掛ける。


「1番槍は、俺がもらうぜアレク!はっ!!」


 カインが【身体強化】を済ませると早速、瞬槍で突進力とスピードの上乗せされた1撃を放つ。

 “ゔゔおぉぉぉ!”と低音の呻き声を上げて、枯れ木が激しく暴れだす。

 体長5mほどの枯れ木が、埋まっていた根元が触手のようにウネウネと地面から這いずり出してくる。


 先程カインが1撃を放った箇所は、直径10㎝ほどの穴が開き、枯れ木の幹をえぐっていた。

 しかし、えぐられた箇所がに細かい繊維が集まっていき、すぐに再生してしまっていた。

 その様子を観察していたカインに向かって、トレントは木の枝をまるでムチのように振り回し遠心力の乗った鋭い攻撃を連続して放ってくる。


「いいぜ!!相手になってやる!」


 真正面からトレントの攻撃を凌ぐことを決めたカインは、直槍“銀羽”を両手で構えると腰を落として迎撃態勢に入る。

 トレントの放つムチの嵐を、冷静に見切りカインを狙ってくる枝を、高速の突きで撃ち落としていく。


「うおぉぉぉぉ!!」


 叫びを上げながら、次々に休むことなく枝を撃ち落とし、トレントの連続攻撃を全て凌いで見せる。

 再生能力があるために撃ち落とした枝は、順々に再生していたが……枝自体に、そこまでの強度はなくカインの槍でも簡単に破壊できることが分かった。


 カインも連続攻撃を凌いだことで、少しだけ気を緩めた瞬間!いつ間にかカインの足首にトレントの根っこが絡みつき“グイッ”とひっぱってくる。


「ちっ!!」


 気付いた時は、すでに遅く……カインが槍で根っこを断ち切る前に一気に足を引っ張られ体勢を崩してしまう。

 足払いをされる形で仰向けに倒れたカインに再生した枝が、またしてもムチの嵐が襲いかかる。

 手甲を前で構え、ガードの体勢を取りダメージを覚悟して乗り切ろうとした、その時!翡翠ひすい色の閃光がきらめき、カインの足に絡んだ根っことムチのように迫ってきた連続攻撃を切り裂く。


「様子見だって言ってるのに、熱くなりすぎだぞ!もっと、落ち着きってものを持ってくれよ」


 カインの前には、いつ間にかラグトゥスソードを両手で構えたアレクが立っていた。


「次は俺が相手になるぜ、枯れ木さん」


 カインに合図を出して、後退させるとトレントと向き合い堂々と美しい翡翠ひすい色の剣を構えたと思うと、姿が消える。

 次の瞬間には翡翠ひすい色の斬ち筋が横一閃に煌めき、トレントの太い幹を上下に両断する。


 両断され“ドシッン!”と大きな声を立てて地面に転がったトレントの先には振り返って、こちらを見えいるアレクがいた。

 まだトレントが生きているかもしれないと考えているようだったが……トレントが動き出すことは二度となかった。

 そんな光景をキアとベラは、口を開けて唖然と見つめていた。


 戦闘が終了すると、カインがアレクに駆け寄り、油断していたことを謝っていた。

 アマリアとミカエラも何事もなかったようにアレク元に集まり、今の戦闘でのトレントの再生力や攻撃について話し合っていた。

 そんなアレク達の様子を“ぼっ〜”と放心状態で眺めていたキアとベラが、突然大きな声を出してアレクに詰め寄ってくる。


「ちょ、ちょっと!!アレクっ!今の攻撃どうなってるのよ!?いきなりアレクが、消えたと思ったら緑の閃光が走って、そしたらトレントが両断されてて――」

「そ、そうですよ!?あんな動きが人族に……いえ、エルフであってもできるなんて聞いたことありませんよ!!」


 慌てた様子の2人を、なんとか落ち着けるとアレクは簡単に今の動きを説明する。


「今の動きは、【身体強化・極】+縮地という移動法を組み合わせたもので、訓練次第で時間を掛ければ誰でも習得できる。武器と攻撃に関しては、俺の剣に【付与】+【雷魔法】+【風魔法】+【剣術】を発動させ、縮地と同様に体のエネルギーを螺旋状に一点に集めて放つ必殺技“一閃”を使ったんだよ」


 自らのスキルと技術を、誰でも訓練すればできるようになる!という淡々と説明するアレクの顔を見つめながら、キアとベラが感想を漏らす。


「とりあえず、アレクが私と模擬戦してた時は全然本気じゃなかったことは良く分かった!」

「今の短い時間の中に、どれだけのスキルと純粋な技術による攻撃が繰り出されていたかと考えたら、私は頭が痛くなってきました」


 アレクの話を聞いて、分からないことを認め開き直ったキアと、真剣にスキルと技術について考えているベラ……普段と真逆な様子に、これが本来の2人の性格なんだろうなぁ〜と思いながらアレクはトレントとの初戦闘を無事に終えたのだった。






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