エルフの里 特別依頼
アレク達《漆黒の魔弓》はドルミレ大森林の奥地で、エルフの里 テーネルを発見する。
多少の小競り合いがあったものの、エルフ達と戦うことなく里に入ることを許される。
そして、精霊の詳しい話をしにテーネルの長老であるエドアル・テーネルと出会うこととなった。
そんなエドアルから、アレク達は“頼みたいこと”があると相談を持ちかけられるのであった。
その相談とは、風の精霊が住むとされる聖域から謎の瘴気が流れ出しているというものだった。
50年前から時折、瘴気が発生するようになり原因を突き止めようとしたが……同時期に風の精霊の聖域に向かう森が、凶暴化したトレントに占拠され調査もできないでいる、ということだった。
しかも、その瘴気はエルフに悪影響を及ぼし身体の抵抗力を著しく低下させる効果があり対処に困っているという。
「瘴気に……凶暴化したトレントですか……聞いたことのない話ですね」
「ええ、我々エルフでも瘴気については今話した以上のことは分かっていません。凶暴化したトレントについては、普段は大人しい魔物です。こちらから攻撃を仕掛けなければ、まず襲ってくることはありません。それもあり風の精霊の聖域を自然と守ってくれている存在だったのですが……今回は、それが仇になってしまいました」
エドアルの悲痛な表情から、トレントへの何かしらの想いがあることが窺い知れる。
補足してケレスがトレントの特徴を説明してくれる。
トレントは、体長4,5mほどの木樹型の魔物で枝や根を使って移動・攻撃を仕掛けてくる。
再生の能力を持ち、中途半端な攻撃では意味をなさないほどである。
そこまでケレスがトレントの特徴を説明しているとアレクが質問を挟む。
「ケレスさん、エルフの方達が調査に向かった際に火矢などはトレントに試されたのですか?」
「ああ、トレントの弱点は火だからな……我々も当然、火矢を試したさ。しかし、火矢を使った途端にトレント達が更に凶暴化して手がつけられなくなってしまったのだ」
「なるほど……火矢程度では中途半端な攻撃扱いで役に立たないか。では、瘴気についてはエルフの里に流れてきているんですか?」
ケレスは、エドアルの顔を見て了解を取ると瘴気の被害について話してくれる。
「今のところ、瘴気はエルフの里に至っていない。しかし、50年を掛けて徐々に瘴気の範囲は広がりつつある。あと50年もすれば里を吞み込むほどに瘴気が広がるかもしれない」
「先程、瘴気についてエルフに悪影響を及ぼし身体の抵抗力を著しく低下させる効果がある、という説明でしたが……それは人族にも影響があると思いますか?」
「……はっきりと断言はできないが、人族にも影響はあると考えている」
アレクは、これまでの情報を頭の中で整理しながら、自分達だけで対処できる案件なのか真剣に考える。
謎の瘴気・凶暴化したトレント・状況不明な風の精霊の聖域など不確定な要素が多い依頼だが……いくつかの対処法は考えられる。
あとは仲間達の意見と報酬の交渉が済めば、すぐにでも行動を開始できるとアレクは判断し口を開く。
「では、最後に今回の頼みを引き受けた際の報酬について話しましょう。依頼内容は、聖域への道を切り開くことと瘴気の調査ということで大丈夫ですか?」
ケレスに意思確認をすると、エドアルに確認を取り依頼内容に同意する。
「では、報酬についてですが……本来なら金貨などで支払いを、お願いするところなのですが、エルフの里では金貨の取引は行われていますか?」
「いいや、我々は金貨を用いず自給自足の生活を送っている。できれば他のもので支払いを、お願いしたいのだがアレク殿が希望されるものなどはないだろうか?」
「こちらが望むものですか……」
正直なところ、アレクはエルフに対して報酬を求めても求めなくても、どちらでも良かった。
エルフ側から、頼まれたので報酬の話をしたが……金貨なら十分に持っているし、エルフの里に魅力的な武器や防具があるとも思えなかったからだ。
エルフ達は、生粋の狩人であり、守護長と名乗っていたケレスの装備も観察した限りは特別なものは持っていなかった。
その上で、エルフ達に求めるものがあるとしたら……そう考えたアレクは1つのことを思いつく。
「それでは、こちらから報酬について話したいと思います。まず1つ目は討伐した魔物の素材についての権利、2つ目はエルフの里の滞在許可と滞在する間の拠点と食事、3つ目はエルフについての情報です」
アレクが報酬について伝えると、エドアルとケレスが相談を少しだけすると、すぐにアレクに向き直り回答する。
「1つ目の討伐した魔物の素材についての権利、これは当然のものとして認める。2つ目の滞在許可と拠点と食事、これもエルフの里から依頼を頼むのだから当然用意させてもらう。3つ目のエルフについての情報だが……意味合いが広すぎて答えられない。できれば、詳細な説明を求めたい」
「そうですね……エルフについての情報ですが、できるだけエルフの生活や文化について教えて頂ければ嬉しいですね!もし、歴史に関する書物などもあれば拝見したいです!」
アレクの説明を聞いたエドアル・ケレス・キア・ベラは目を丸くして驚いていた。
エルフ達は最初に自分達の情報と聞いて、種族としての弱点や他のエルフが住む里の場所など、重要な情報のことだと内心、焦っていた。
しかし、アレクの口から語られたのは、エルフ達にとって価値のない情報だった……予想外の方向に話が進み、混乱しそうになりながらもケレスがエルフ達が感じていた疑問をアレクに問う。
「エルフの生活や文化について……そんな情報で、よろしいですか?街にいるエルフに聞けば、いくらでも情報は手に入ると思いますが?」
「いやいや、俺達が色々勝手にエルフの里で聞きまわってたら、何も知らないエルフの人達が不安になるでしょう!だから、長老から許可を貰って長老公認で話を聞きたいんです……ダメですか?」
アレクの真意が読み切れず、戸惑うエルフ達だったが……タダ同然の情報で報酬が済むのであれば、それに越したことはないと判断して報酬として合意した。
こうして、正式にエルフの里から依頼を受けた、アレク達《漆黒の魔弓》はエルフの里に滞在することとなった。
会議室を先に出たアレク達の気配が、部屋から離れていくのを確認すると……エドアルとケレスが話し出す。
「エドアル様、あの者達は本当に信じるに値する者でしょうか?私は、あの者……アレクという青年に計り知れないものを感じるのですが」
「精霊石の結晶に宿る火精霊の力は、本物だったのだ……火精霊の使徒というのも疑いようのない事実だろう。しかし、お前の言う通りエルフ語を完璧に操ることや、こちらの考えを越える提案きたことからも、中々に食えない男かもしれないな」
エルフ語で2人がアレク達のことを話していると、扉の所に待機していたキアとベラが2人の元に跪く。
「これから私とベラは、どのように動くべきでしょうか?」
「キア、ベラ……2人は、これからアレク殿達の世話役として傍につけ。2人とも、その意味は分かるな?」
「「はっ!お任せ下さい」」
ケレスより指示を受けたキア・ベラは、アレク達を追って部屋をでるのであった。
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長老との話を終えたアレク達は、キアとベラの姉妹に案内されて、長老の家の近くにある家に到着する。
そこは、空き家ではなくキアとベラの家だった。
「今日からアレクさん達には、この家で生活してもらいます。こちらは私達の家ですので遠慮なく使って下さいね」
「そうそう!ここは私達が守護の副長に就任した時に、頂いた家だから遠慮なく〜」
「えっ?ミカは、ともかく俺とアレクは別の家の方が良くないか?」
「カインさん、エルフの里には来訪者が今までいなかった為に、お客様が泊まれるような家がないのです」
大きさからすれば、アレク達が全員泊まっても問題なさそうな家だったが……女性の家に泊まることに抵抗があったのか、カインは最後までブツブツと反対していた。
各自に部屋が割り当てられ、その日はキアとベラの家で夕飯を頂くことになった。
しかし、ここからアレク達はエルフと自分達の文化の違いを思い知る。
エルフの食事は、豆や野菜やキノコなどが殆どで、味付けも薄く濃い味になれているアレク達には物足りなく感じるものばかりだった。
野菜サラダ、豆と野菜のスープ、焼いた芋のようなものなどメニューに、少しだけ驚いたがアレクが迷いなく料理に手を出していたので仲間達も、それに続いて食事を続けた。
食事が終わるとアレクが、キアとベラにエルフの食事について質問する。
「エルフは、基本的に野菜や穀物を主食にしているようだが……他の食べ物は食べられないのか?」
その質問にキアが答えようとしていたが……我慢できなくなったのか、大人しくしていベラが元気に話し始める。
「う〜ん、別に食べられないことはないけど〜進んでは食べないかなぁ?私達は、嗅覚も敏感だから獣臭い肉とかは、積極的に食べたいとは思わないよ」
その失礼な態度に、キアが怒り出す。
「ベラっ!アレクさん達に対して失礼でしょ!」
「え〜別にいいじゃん!これから一緒に生活するのに、ずっと固い態度のままだと耳が凝っちゃうよ〜」
「それにしても、節度ってものがあるでしょ!?お客様なのよ?」
わいわいと騒ぎ出したキアとベラの間に、アレクが割って入り仲裁する。
「俺達も、休む時くらいは堅苦しいのは困るので、砕けた態度で接してもらうように頼む」
その言葉を受けてキアが、なんとか折れてくれ話の続きを聞くことができた。
色々なことをキアとベラに質問したが……今ところ簡単に教えてもらえたのはエルフの生態とエルフ語についてだった。
エルフの寿命は長いとされているが、実際には平均寿命は世代が変わるにつれて短くなっているらしい。
キアとベラは双子で75歳ということだったが……人間換算すると15,16歳になるそうだ。
エルフは30歳になると成長が止まり始め、50歳になると完全に姿が安定する。
見た目は16歳ほどに見えるが……その姿が250歳まで続き、そこから徐々に見た目が老けていく。
昔は1000年以上、生きる者も沢山いたらしいが……今では500〜700歳が平均寿命になっている。
ちなみに今日、会った長老は755歳という事実を聞いて、アレク達は驚愕したのであった。
エルフ語については100年前の戦争を、きっかけに共通語がエルフの里にも広がったと聞いた。
キアやベラのように100歳未満のエルフは、共通語を話すことが殆どだそうだ。
上の年代にいくにつれ、エルフ語を使う割合が多くなり、長老はエルフ語しか話せないということだった。
共通語を採用したのは、戦争で他種族と交渉を行う際に、不利にならないようにするためという理由だったらしいが……共通語の方が簡単に覚えられることやエルフ語が世界では通用しないという事実が、急激にエルフ語の話し手を減らした原因になったらしい。
色々な質問をしていたアレクだったが……逆にキアから質問されてしまう。
「それでアレクさん達は、どの様にトレントを討伐するつもりなのですか?エルフの戦士でも討伐できなかったトレントを本当に討伐できるのですか?」
「なんだ?急に態度が挑戦的になったじゃないか?」
「ああ、アレクさん気にしないで!キア姉は自分が勝てなかったトレントに、勝てると思ってるアレクさん達に対抗心を燃やしてるだけだけだから。なにせキア姉は、戦闘が大好きだからね〜」
からかうように話すベラは、難しい話に飽きたようで椅子から立つと背伸びをして体をほぐしていた。
「ちょっと!誰が戦闘狂よ!私はアレクさん達の実力が分からないから心配してるのよ!あのトレントは、尋常じゃない強さをしていたわ……瘴気の影響を抜きにしても、あの再生能力は脅威だわ」
すると、実力を疑われた言葉を聞いたカインが、面倒なことを言い始める。
「じゃあ、そんなに心配なら俺達と模擬戦でもしてみるか?俺は一向に構わんぞ?」
挑戦的な表情でキアを見つめるカイン……2人の間に激しい火花が散ったように見えたが……話は予想外の方向に進み始める。
「では、その模擬戦受けて立つわ!ただし、私と戦うのは貴方よ!アレクさん!!」
「うん?え?俺がやるの?」
模擬戦に興味がなく、適当に話を聞いていたアレクが気の抜けた声で答える。
「狩人である私には分かるわ!アレクさん……貴方も狩人でしょ?なら、狩人同士で決着をつけましょう!」
「え〜狩人同士って、弓で勝負でもするの?」
「いいえ、模擬戦だから剣でお相手するわ!エルフは弓だけでなく剣でも強いことを教えてあげましょう!」
一方的に盛り上がっているキアと、それを面白いことになったと喜んでいるカインとベラ、興味なさそうにしているアレクとアマリア、最後にあわあわしているミカエラと、それぞれの感情が交差する中で騒がしく夜は過ぎていく。




