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大森林の街 テーネル

 アレク達《漆黒の魔弓》は風の精霊を探しに、王都ドォールムの西に位置するドルミレ大森林を訪れていた。

 その探索の途中に森林の中に神聖な雰囲気を持つ場所を発見する。

 その場所は、大樹が一定の間隔でそびえ立っており、まるで大樹が巨大なドームを形成しているような空間だった。

 幻想的な大樹と清流に満たされた場所に魅せられていたアレク達だったが……火の精霊の助言を受けて、風の精霊が呼んでいると思われる方向に進むことになる。


 徐々に森の景色が変わっていき、岩や木の根が少なくなる。

 やがて、森の中に慣らされた道のようなもの突然アレク達の前に現れた。

 それと同時にアレクの探知スキルに複数の反応があり、森の中を移動して周りを包囲しようとしていた。


 アレクは、敵に悟られないように仲間達に合図を出して、戦闘態勢に移行する。

 しかし、しばらく道を歩いていても仕掛けてくることはなく、こちらの様子を窺っているようであった。


(仕掛けてこないかぁ……こちらを、警戒してるかな?森を駆ける身のこなしから人間じゃないのは明確で、少し魔力が高めな個体が多いな)


 アレクが相手を分析していると、道の先にアレクを待ち受ける反応が3つあるのを探知スキルが捉えた。

 徐々に距離が縮まっていくと待ち受ける人影が、はっきりと見えてくる。

 それは、金髪にエメラルド色をした瞳を持つエルフだった。

 長い髪に長く尖った耳をしており、軽装で鎧などの重いものは一切、身につけていない。

 回避と移動速度重視の装備の狩人だった。

 男1人と女2人で、皆整った美しい顔をしている。

 歩みを進めていたアレク達との距離が10mほどになると、中央の男以外の2人が弓を構え戦闘態勢に入った。


 アレク達も反射的に武器を構え、身を守る態勢に入る。

 両者の間に張り詰めた空気が流れ、一触即発の雰囲気になる。

 そんな空気を破ったのは、エルフの代表と思われる男のエルフだった。


「貴様ら、何者だ!どうやってエルフの結界を抜けて里に入ってきた?」


 その言葉で、自分達がエルフの里に無断で踏み込んだことを悟ったアレクは、一歩前に出て返答する。


「こちらに争う意思はない!我々はウィリデ王国 王都ドォールムの冒険者ギルド所属の冒険者だ!武器を収めて頂きたい」


 アレクが合図を出すと《漆黒の魔弓》は武器を下ろし、争う意思がないことを示す。

 もちろん、これはパフォーマンスで本当の意味で戦闘態勢を解いたわけではなかった。

 前にいる2人の女エルフも、男エルフの指示を受けて弓を下ろしていたが……以前として、アレク達を取り囲んでいる者達からは殺気が放たれていたからだ。


「人族の国の者が、エルフの里に何の用だ?人間とは100年前から交流はないはずだが?」

「勘違いされているようだが……我々はエルフ族に会いにいたわけではない。風の精霊に導かれ、ここまで案内されたのだ」


 風の精霊の名前を聞いた3人のエルフの目が大きく見開かれ、その表情からも驚愕を感じることができる。

 動揺しながも男のエルフが、質問を続けてくる。


「どこで風の精霊の話を聞いたか知らんが、あまり我々エルフを舐めるなよ人族よ!?風の精霊が我々を無視して人族に頼るなど、ありえん!」


 男エルフの言葉からは怒りを感じられ、両者の間に気まずい空気が流れる。


(風の精霊がエルフを無視して、人族に頼るねぇ?ってことは、あまり風の精霊を前に出しての話し合いは、よした方が良さそうだな)


 今の会話からエルフの大体の性格を悟ったアレクは、相手を刺激しないように話し出す。


「先程は風の精霊に導かれて、ここに来たと話だが……それは正確ではないな。少し見せたいものがあるのだか、胸元からネックレスを出してもいいか?」

「正確ではないだと……それにネックレスか……妙な動きをするなよ?ゆっくりと出してみせろ!」

「分かった。だから、早まって攻撃しないでくれよ?」


 そういうと、アレクは胸元から精霊石の結晶を取り出して見せる。

 エルフ達にも見えるように、ネックレスを紐を握って前に突き出して見せながらアレクは、話を続ける。


「我々は、既に火精霊の使徒として行動している!これが、その証拠だ。そして、火の精霊より風の精霊が呼んでいると、教えてもらいエルフの里に辿り着いたのだ」


 エルフ達は目が良いのか、遠くからネックレスを凝視すると、精霊の結晶石に埋め込まれた紅い宝石が燃えるように輝きを放っているのを確認する。

 自然の力に敏感なエルフだからなのか、火の精霊の力が伝わり……先程よりも、こちらの話を聞く態度が落ち着いたものになっていた。


「……どうやら、火精霊の使徒というのは嘘ではないようだな。しかし、人族の言葉を全て信じるわけにはいかない。かと言ってエルフの里の場所を知られてしまった以上、ここまま帰すわけにも――」


 そこまで話をしていると、男のエルフの横にいた女のエルフが何かを男エルフに耳打ちする。

 耳打ちされた男のエルフは、迷った表情をしていたが……やがて方針が決まったのか、アレク達を見つめると回答を伝えてくる。


「精霊達のことについては、私達だけでは判断しきれない案件だ。よって人族の者達をエルフの長老に会わせる。大人しくついてきてもらいたい」

「分かった。そちらの指示に従おう」


 こうして、なんとか戦闘に入らずに済んだアレク達は、3人のエルフに連れられてエルフの里に招かれることになった。



 ===============================



 アレク達は、3人のエルフに案内されエルフの里に足を踏み入れた。

 そして、見慣れない光景に口を開けて里の様子を観察してしまう。

 エルフの家は、大きな木の幹に寄り添うように建てられており、木に合わせて家が存在しているようだった。

 木々の大きさは目測で50〜80mほどで、その木の幹に低い所や高い所と色々な高さに木製の家があり、それらが集まって街を形成している。


 地上から木製通路を上がっていくと家と家を繋ぐ通路も坂道になっており、先に進むにつれ段々と高さが上がっていく。

 気付いた時には、地面から50mほどの高さの通路を歩いていたのでカイン・アマリア・ミカエラは戦々恐々としていた。

 アレクも、“この高さで手すりがなかったから結構、怖かっただろうな……”と考えていると先を歩いていた男のエルフが今更、自己紹介を始めた。


「名乗るのを忘れていたが……私は、エルフの里テーネルの守護長を務めているケレス・テーネルだ。それと私の補佐をしている2人……髪の長い方がキア・テーネルに、髪が短い方が妹のベラ・テーネルだ」


 ケレスに紹介された2人が、歩きながら会釈する。


「こちらこそ、名乗りもせずに失礼した。冒険者チーム 《漆黒の魔弓》のリーダーをしているアレクサンダーだ、アレクと呼んでくれ。赤い髪をしてるのがカイン、青い髪のしているのが姉のアマリアと弟のミカエラだ」


 こちらからも、自己紹介を行い会釈をしておく。

 会話は、それだけで終わり黙々と通路を進んでいたケレス達とアレク達をだったが……アレクは、どうしても気になって質問してみる。


「質問なんだが、キアさんとベラさんが姉妹なのは分かったけれど……ケレスさんは違うのか?」


 家族または親族なのかと思い質問してみるが……ケレスからは、どちらでもない答えが帰ってくる。


「我々は、同じ里に住む者……皆、同じ名前を名乗るのだ。このエルフの里の名は、テーネルという……つまりは、そういうことだ」

「なるほど、俺達はエルフの文化に触れるのは初めてで失礼にあたることを言ったり、したりするかもしれない……もし、そういったことがあったら、教えてほしい。もちろん、できるだけ俺達も気を付けるように心掛ける」


 ケレスは、少しだけ歩くスピードを落とすと、小さな声で“分かった”と呟いていた。

 そんなケレスの様子に、エルフの姉妹は笑いを堪えているようだった。

 改めて、エルフの姉妹を見てみると先程、ケレスに耳打ちをしていた方が、腰まで髪を伸ばしている落ち着いた雰囲気のキアだった。

 妹のベラは、肩までの長さの髪をしており少しだけ髪が跳ねて活発そうな印象だった。


 エルフの姉妹を観察していると、やがてエルフの家の中でも、1番大きな木に寄り添う家に到着する。

 家の中に通されると、一室に案内され“事情説明を長老にしてくるので、ここで待っていてほしい”と言われ部屋で待たされる。

 部屋に待たされている間に、アレク達は作戦会議を始める。


「部屋の扉の前に、見張りとして別のエルフが立たされているが……別に聞かれても問題ないから、そのまま話すぞ?今回は、あくまで風の精霊と聖域を目指す旅だから、できるだけ穏便に話そうと思ってる」

「向こうが仕掛けてきたら?」

「可能なら、できるだけ殺さずに取り押える。無理なら、仕方ないから殺るのを許可する」


 パーティーメンバーは、黙って頷くと静かに武器の確認などをしていた。

 そんなメンバーに、アレクはエルフについて何かしっているか質問する。


「ちなみに皆は、エルフについて知ってることはあるか?」

「う〜ん、俺が聞いたことあるのは長命な種族で、弓が得意ってことくらいかな?」

「私は、エルフは風魔法が得意だと聞いたことあるくらいだわ」

「ぼ、僕もカインさんと、お姉ちゃん同じことしか知りません」


 エルフについて、ギルドや教会で資料を調べていた時は、ほとんど書かれていなかった。

 実際に会ったみて感じたのは、恐ろしく身軽で集団で狩りをするのに慣れているということだった。

 装備や動きからも彼らの特殊性が、一部垣間見えたが……まだまだ分からないことが多いというのが正直なところであった。


 アレク達が、エルフについて感想を言い合っているとドアがノックされ、ケレスが入ってくる。


「お待たせして申し訳ない。長老が、お会いになるそうだ……私が案内するので、ついてきてくれ」

「こちらが急に訪問したのだから、気にしないで下さい。それでは案内をお願いします」


 そうして、アレク達が案内されたのは円卓がある会議室のような場所だった。

 中に入ると扉の両端にキア・ベラが待機しており、彼女達の視線の先には1人の男性がいた。

 円卓の1番、奥に人間でいうと60歳ほどのエルフ男性が座っていた。

 ケレスが、男性の傍に控えると静かに話し出す。


「こちらに、いらっしゃるのがエルフの里テーネルの長老エドアル・テーネル様です」


「私がテーネルの長老をしているエドアル・テーネルです。人族の皆さん……エルフの里に、ようこそ」


 エドアルの優しい笑顔は、全てを包み込む雰囲気を放っており、アレク達の緊張を解きほぐそうとしているようだった。


「テーネル様、お会いできて光栄です。私はウィリデ王国 王都ドォールムの冒険者ギルドに所属している《漆黒の魔弓》のリーダーのアレクサンダーと申します」


 アレクが当然のように挨拶を返すと、ケレスや扉のところに控えていたキア・ベラが驚きの表情を浮かべる。

 同時にアレクの後ろにいた仲間達も、驚いているのが分かった。


(あれ?なんか俺……やらかした?)


 必死に動揺を隠しながら、数少なく発した自らの言葉を思い出し、変な所がなかったか考える。

 しかし、その答えはエドアルから語られることになった。


「驚きました……アレクさんはエルフ語を話すことができるのですね?どこで覚えたのですか?」


(エルフ語?俺がエルフ語を喋ったのか!?……っ!そうか!転生の際に神様からデフォルトでもらった言葉や文字の翻訳機能が発動してるのか!?)


【思考加速】で引き伸ばした時間の中で、アレクは皆が驚いていた原因に辿り着き、そして言い訳を考える。


「以前、ギルドや教会で勉強していた時にエルフ語を学びました。エルフ族の方と話すのは初めてですが……変な言葉の使い方などはありませんか?」

「ええ、非常にお上手です。それどころか、完璧と言っても良いほどですよ」

「それは良かった!勉強しておいた甲斐がありましたね」


 エドアルは、アレクがエルフ語を話せることに大変喜び、2人の距離が一気に縮まったように感じさせた。

 それからは、席に座って話し合いが再開された。


「話はケレスから聞いています。アレクサンダーさんのことはアレクさんと、お呼びすれば良いですか?私のことはエドアルと呼んでくれて構いませんよ?」

「流石に、それは……せめてエドアル様と呼ばせて頂かないとマズイですよね?」


 その後も、エルフ語で会話を続ける2人だったが……周りを置き去りにして会話を続けるわけにもいかず、アレクが通訳をして仲間達にも内容を伝えることにした。

 最初はケレスが、通訳をすることになっていたが……アレクが通訳した方が間違いなく仲間達に説明できるため、最終的にアレクに落ち着いたのであった。


「それではアレクさん、本題に入りますが……本当に風の精霊に呼ばれて、エルフの里に来られたのですか?」

「ええ、正確には私が火精霊の使徒になっておりまして、火の精霊より風の精霊が呼んでいると、教えてもらいエルフの里に辿り着きました」


 アレクは、そう言いながら精霊石の結晶を取り出しエドアルに見せる。

 エドアルは、精霊石の結晶に宿る赤い輝きを確かめると、目をつむり何かを決意してアレク達を見つめ直してくる。


「実はアレクさん達に、お願いしたいことがあるのですが……話だけでも聞いて頂けませんか?」

「何か事情がおありのようですね……お話を伺います」


 こうして、エルフ族と風の精霊とアレク達の物語が始まろうとしていた。



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