ドルミレ大森林
〜アレクとルシアが再開する1時間前〜
カインとアマリアが、冒険者ギルドの地下訓練所で休憩していると……珍しく受付のセシリアが地下訓練所に降りてきて、2人に駆け寄ってくる。
「あっ!良かったぁ〜2人がいてくれたわ!カインとアマリア……アレク君に伝言を頼めるかしら?実はね、アレクの師匠のルシアさんが先程、長期の国外依頼から帰ってきたのよ。だから、ルシアさんの件を急いで伝えてもらいたいの」
「おぉ!ルシアさん帰ってきたんだな!じゃあ、早速アレクに教えてやらないと!」
セシリアとカインが、ルシアの帰還に盛り上がっていると、申し訳なさそうにアマリアが話に割って入ってくる。
「えっと、アレクの師匠のルシアさんって、紫髪の美人でスタイルがいいことで有名な魔法士さんだよね?」
「あぁ、凄い美女だぞ?だが……怒らせるとメチャクチャ怖いんだ。今でも、視線だけで冒険者を気絶させたとか、逸話がギルド内で語られるくらいだからな」
「確か……栄光の剣ってAランク冒険者チームに所属してるんだけ?」
「そうそう!アレクは冒険者見習いしてた頃に栄光の剣で、お世話になりながら修行してたって言ってたな」
そんな話でアレクとルシアの関係を語っていると、背後から女性の声が聞こえてくる。
「久しいなカイン、元気にしていたか?」
カイン・アマリア・セシリアが一斉に振り向くと、そこには絶世の美女が立っていた。
紫色の髪はウェーブするように、ふわりと気品ある雰囲気を醸し出しており。
前髪で片目が隠れているが紫色の瞳はまるでサファイヤのように深い色で彼女のミステリアスなイメージを引き立てている。
紺のローブの上からでも、分かるほどに豊満な胸が、ルシアの色香を象徴しているようだった。
「っ!!ルシアさん!お久しぶりです!こちらは元気にやってます」
カインが珍しく緊張して、背筋を伸ばす。
先程の怒ると怖いという言葉が事実なのを身をもって証明していた。
「ああ、それなら良かったぞ。そちらの修道服の女性は、パーティメンバーの方かな?」
アマリアは、ルシアの視線が自分に向けられていることに気付くと急いで、挨拶を始める。
「は、初めまして!私はアレクと、パーティを組んでいるアマリアと申します!アレクには、いつもお世話になってます!!」
「ご丁寧に、どうも。私はアレクの師匠、ルシアだ。現在はAランク冒険者チーム 栄光の剣に所属している」
ルシアとアマリアは、お互いに姿は遠くから見たことがあっても、顔を突き合わせて会ったことがなかったようで丁寧に挨拶していた。
弟のミカエラが、ルシアから装備を譲ってもらっていたことにお礼を言ったりしていたが……アマリアは、間近に見るルシアの美しさに圧倒されているようだった……しかし、共通の話題であるアレクのことについて、話しているうちに打ち解け短期間で普通に話せるようになっていた。
「そういえば、セシリアから軽く聞いたが……もう、Bランクに昇格したそうじゃないか!アレクは、パーティメンバーに恵まれたようで嬉しいよ」
「いえ!うちのリーダーが優秀なお陰です!私達も、アレクに負けないように頑張っていますが……まだまだ頼ってしまうことが多くて、力不足を実感します」
少し落ち込んだ雰囲気を見せるアマリアに、ルシアは優しい言葉を掛ける。
「そうやって、アレクと対等であろうとする姿勢は本当に素晴らしいものだよ。アレクは何でも1人で解決しようとする傾向があるから、頼ることができる仲間がいていれて私も嬉しく思う」
「っ!!……そうですね!早くアレクに。もっと頼ってもらえる仲間になれるように精進します!」
心に染み渡るような優しい言葉を受けて、心の片隅にあった不安が霧散していくのを感じながら、アマリアは明るい表情で微笑んだ。
「話し込んでしまったが、肝心の弟子の姿が見えないんだが……どこに行ってるんだ?」
「はい!アレクなら新技を覚えるためにドゥールムの外壁付近で特訓してるところです!」
「ほう……?新技か、なら脅かすついでに弟子の様子でもみてくるか!」
「それなら、あまり接近しないことをお勧めします。新技が広範囲攻撃で危ないこともありますが……その……アレクの探知能力が、洒落にならないくらいに優秀なので」
「……そうか、なら遠くから見守るとするか!カイン達は、訓練が終わった後に何か予定があるか?なかったら、私の拠点に集まってくれるか?ゆっくり話したいこともあるからな」
こうして、ルシアは冒険者ギルドを後にするとカイン達から聞いたアレク達の特訓場所に向かったのであった。
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再会したアレクとルシアは、ミカエラと合流して拠点へと向かっていた。
ルシアとミカエラは装備を譲ってもらったり、短期間だけであったが魔法の修行を見てもらったこともあり自然に接していた。
アレクも装備品について目に付いたところから、ルシアに質問を受けていたが……すぐに拠点に到着して、話は途中になってしまう。
家の中で待っていたカイン・アマリアとも合流したことで《漆黒の魔弓》が勢揃いした。
拠点に入るとルシアからお茶を頼まれ、慣れた様子で用意するアレクをパーティメンバーが珍しそうに見ながながら、全員がテーブルに着くと話し合いが始まった。
先ずは、アレク達からCランク昇格試験から今までの旅についてルシアに報告し、詳しい話を伝えていく。
話を黙って聞いていたルシアは、研究者としての真剣な表情を見せながらアレク達の話を自分の中で分析しているようだった。
アレク達の報告を聞き終わったルシアは、自分なりに気になった部分をアレク達に、教えてくれる。
「気になった部分は3つ。1つ目は変異種の出現について……これは私達も旅の途中に普段なら出現しない場所に変異種が現れたなどの話を耳し、実際に1体を討伐している。
2つ目はカエルレウム共和国の混乱について……これは近々、大規模な動きが見られると特殊な情報筋から情報をもらえた。しかし、今はカエルレウム共和国に近付かない方が賢明だろう。
3つ目は精霊の存在について……正直、精霊が実在しているとは考えていなかったから素直に驚いている。これは、あくまで個人的な意見だが……アレク達は、精霊達と関わる道を進んだ方が良いんじゃないかと考えてる。偶然とはいえ精霊と巡り会い、助力を得られることなど奇跡に近い……それにアレクは、昔から運が良いから、もしかしたら残りの精霊に会えるかもしれないからな」
ルシアなりに自分の持っている情報とアレク達が持っている情報を、統合分析した結果を教えてくれる。
「それと、これは個人的な見解だが……世界に少しずつ変化が現れ始めてるのかもしれない。100年前の戦争や魔物大発生の時にも、予兆として似たようなことがあったらしい。魔物の変異種の多数出現・大きな戦争や争い・ダンジョンの異常などだ。全てを悲観的に考えることはないが……楽観的にだけ考えていては足元をすくわれるかもしれないからな」
急に話のスケールが、大きくなって現実感がなかったが……災害レベルのことが起きる時は、必ず予兆があるものだとアレクは考えていた。
前世でいう、大地震の前に動物達が騒がしくなることや、津波が押し寄せる前に潮が一気に引くことなど……そういった予兆を見逃さずに行動できるかが、生死を分けるものだということをアレクは知っていた。
それに置き換えれば、ルシアの警告も理解できるものだった。
いざという時に動けるように準備し、最悪な状況を考えて心構えをしておくように教えてくれていたのだ。
「それにしても、師匠……何故その話を俺達を集めて話したんです?それなら、俺だけに話しても変わらないと思うんですが?」
「なに、またこれから依頼でドゥールムを離れるからな……可愛い弟子と、その仲間達に挨拶をしておきたかったのさ」
「またですか!?帰ってきたばかりじゃないですか?」
「今度の依頼は比較的に近場だから、そんなに長期間にならないさ!それに今のドゥールムには我々しかAランク冒険者は、いないからな……忙しいのも仕方ないさ」
「なら、早く俺達がAランクになって師匠達を楽させてあげますよ!」
「ふふふっ、期待しているよ!ぼーや」
それからルシアは、拠点に一泊すると朝早くドゥールムを後にする。
栄光の剣の面々は挨拶する間もなく、次の依頼に出掛けていってしまった。
そしてアレク達もルシアの助言を受けて、風の精霊を探しに旅の支度を、準備し始めるのだった。
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風の精霊と聖域を目指して準備を完了したアレク達は、1週間掛けて王都ドゥールムの西に位置するドルミレ大森林へ向かっていた。
ドルミレ大森林は、魔物が生息する傾斜の激しい森林地帯で豊かな自然に溢れる広大な土地である。
火の精霊から、風の精霊の聖域の正確な方角を訪ねたところ西を示し、真っ直ぐに進んだ結果……ドルミレ大森林に、ぶつかったのだ。
ドルミレ大森林には、大型の魔物も出現するといわれているために、殆ど人の手が加えられていない。
そのため、珍しい薬草などが所々、群生しておりアレクは見慣れない薬草を発見しては【鑑定】で調べ、採取していた。
仲間達も、最初は大型の魔物が出現すると聞いて緊張していたが……大森林に入ってからはブルーウルフやネムリダケにサーペントなどの魔物としか遭遇せずに、気楽な冒険生活を楽しんでいた。
食料も蓄えがあったが……アレクが狩りで獲物を毎日取ってきては料理してくれるし大森林には、いくつもの清流が存在しているので水の補給にも困らない。
開けた場所を見つけては、アイテムボックスから家を出して夜は過ごせるので安心だった。
そして何より美しい光景が、アレク達の冒険心を刺激していた。
大森林で過ごし始めて数日が経った頃、前日に雨が降り、アレク達は高台で夜を明かした。
次の日の早朝……傾斜が激しく寒暖差があるためか、大森林の谷間には濃い霧がまるで雲海のように広がり朝日が昇ると金色の輝きを放ち心を揺さぶる絶景になっていた。
昼日には大森林を進んでいると、見たことのない美しい光沢を放つ羽を持つ鳥達・現代アートのような不思議な形をした植物・色鮮やかなカラフルな花々など目を奪われるほどの光景を目にすることができた。
そして夜には、月の光を浴びて光を灯す花に、それにつられて集まる蛍のように不思議な光を放つ虫などが森の中を彩っていた。
リラックスした状態で冒険を続けて6日目、アレク達は大森林の中に神聖な雰囲気を持つ場所を発見する。
その場所は、大樹が一定の間隔でそびえ立っており、まるで大樹が巨大なドームを形成しているような空間だった。
見上げれば、木々の間から日の光が静かに差し込み、光の柱が天と地を繋いでいる。
大樹はアレク達4人が手を繋いでも、囲いきれないほどの太い幹をしており根元には緑のコケが広がっている。
大森林の小川が合流する場所だからなのか、大樹の下は大半が清流で占められており、所々ある大樹の根元を渡って移動した。
大樹のドームの中ほどに到達した時に、アレクは神聖な雰囲気の正体に気がつく。
それは生物の気配が一切しないのだ……大森林の中で常に聞こえていた風に葉や木々が揺れる音、虫や鳥の声、清流の流れる音さえも感じられずに、まるで時が止まっているような空間がアレク達を包み込んでいた。
そして大樹の隙間から注ぐ木漏れ日だけが、アレク達を優しく照らしている。
仲間達も同様のことを考えていたのか、誰も一言も発せずに大樹に身を寄せ、自然を体で感じていた。
その時……頬を撫でる、そよ風がアレク達の傍を通り過ぎていく。
アレクが言葉を漏らそうとした瞬間……突然、火の精霊から呼び掛けられる。
(風の精霊が、お前達を呼んでいるぞ?風の吹く先に向かって進むのじゃ)
「呼んでる?俺達をか?風の吹く先に……分かった!向かってみよう」
アレクは、たたいま火の精霊から聞いた内容を仲間達に伝えると、先程そよ風が吹いた先に向かって進むのであった。




